夢No.22

煙のように


  公園のベンチで、煙草に火をつける。
  一息深く吸い、溜めて吐き出す。
  ふうぅっ
  すると、煙と共に魂が出た。ふわり、ぷかり。

  おや。これはどうしたことだろう。
  宙をくるりとまわりながら、自分の体を見上げてみる。
  なぜだか世界が逆さまに見えるのだ。空が下に、地が上に。
  なんとしたことか、体はうまそうに煙草を吸い続けている。
  逆さまにぶらさがっている抜け殻のくせに、
  実に満足げな表情で煙草をふかしているので、少し妬ましい。

  いや、しかしこちらは今や自由の身。
  抜け殻を羨ましがっても詮無いこと。
  さて、これからどうするか。
  考える間も、吸い込まれるように、ゆっくり空へと落ちていく。
  そのまま空へと沈み込み、雲に到着する。ふわふわ、ふかふか。
  ああ、なんだか心地よい。
  まずは一休み。

  目が覚めると、ふわふらと、飛び上がる。
  上を、地上を目指して、ふわり、ふらり。
  逆さまに飛んでゆく旅客機の、ジェット気流の隙間を縫って、上へ上へ。
  ぐんぐんと地表が頭上に迫る。
  ぶらさがったまま、歩いている人々が見える。

  公園へ行くと、同じベンチに自分の抜け殻が逆さに座っていて、
  うまそうに煙草を吸っている。
  ずっとああして煙草を吸っていたのだろうか? 実に満足そうな表情で。
  鳩の群が逆さのまま地上から舞い下がる。抜けた羽がひらひらと昇ってゆく。
  噴水の水がキラキラと吹き降りては、反放物線を描き水面へと舞い上がる。
  浮かび上がる虹の弧までが逆さまなのだ。

  抜け殻は、まわりを漂うこちらには全然気が付かずに、
  ただただ無心に、煙草を吸い続けている。
  実にうまそうに、満足そうに。

  見ていてやはり、それが妬ましくなった。
  一度だけ体に戻り、一服してからまた抜け出せばよい。
  そう思い、抜け殻に重なってはみたが、ただそれを通り抜けるのみ。
  何度試してみても結局、体に戻ることは出来なかった。
  その間にも体はうまそうに煙草を吸い続けている。満ち足りた顔で。

  ぐるぐると体の周囲を回り、その顔の周りを回る。
  ああ、満足そうな抜け殻が妬ましい。
  抜け殻の吐き出す煙を攪拌しながら。宙を漂う。

  その煙が目に染みたのか、抜け殻は、
  少し涙目になりながらベンチから立ち上がり、
  くしゃみを一つした。

  そして、陽気な鼻歌なぞ唄いながら、
  その場を悠々と立ち去った。
  馬鹿な奴だ。
  自分が地上から空に向かってぶら下がっていることも、
  自分が抜け殻でからっぽであることにも、気付かないままで。


  それ以来、彼には会っていない。



   臍の緒切って今まで、一度も煙草を吸ったことはない。
   別に吸ってみたいとも、全然思わないんだけどね。
   煙草吸うくらいなら、マリファナでも吸ってみたいよ。


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