夢No.23

少年時代


  どこまでも広く、高く、青い空。
  呆れる程に白い入道雲。
  緑に輝く、一面のトウモロコシ畑。
  セミ達の鳴き声が景色に吸い込まれてゆく。
  これは、そんなある暑い、夏の日の物語。

  背の高いトウモロコシ畑の中を駆け抜けていく子供が2人。
  おいかけっこでもしているのでしょうか。
  さわさわと風に揺れるトウモロコシの葉がささやき合っています。
  ハハハ。きゃはははは。
  聞こえてくるのは、まだ幼い男の子と女の子の笑い声。

  「いてっ」
  短い叫び。少年は腕を押さえ、そこからにじみ出る血を眺めています。
  どうやら、トウモロコシの鋭い葉の縁で、腕をかすめ切ってしまったよう。
  そこへ息を切らせ、少女が現れました。
  はぁはぁっ、ふぅーっ。
  息を整え、傷を眺めたままの少年に問いかけます。
  「ね、だいじょうぶ?」
  返事はありません。
  草の葉で腕を切った驚きが、徐々に痒みの交じった痛みに変わり、
  少年は、それを下唇を薄く噛みしめながら我慢していたのです。
  きっと、この少女の前では涙を見せたくないんでしょうね。

  「きず、みせて」
  少しお姉さんぶって、少女が言いました。
  無言で少年は、怪我をした腕を差し出します。
  すると、少女は傷口に顔を近づけ・・・
  ペロリ
  素早くその腕の傷を舐めたのです。
  そのまま上目遣いで少年を見つめる少女。

  時が止まったかのような一瞬。
  (これは二人だけの秘密よ)
  少女のいたずらっぽい目が、そんな風にきらきらしています。
  風が吹き抜け、トウモロコシの葉たちがざわざわと騒ぎました。
  その後の静寂に、少年の鼓動だけがどくんどくんとこだまします。

  「おまじない」
  少女は、はにかみながら笑いました。
  「もう、いたくない?」
  腕の傷のことをすっかり忘れていた少年は、
  そのひとことで、痛がゆい疼きを腕に覚えました。
  しかし、少女に対してはこくんと小さく頷いただけで、
  その顔もまともに見られずに、もじもじしていたのです。
  そんな少年に気付き、少女もまた照れくさそうな顔で言いました。
  「ね、あなたいま、どきどきしてるでしょ?
   なんだかあたしにも、そのどきどき、うつっちゃった。
   ・・・へんなのっ」
  はにかみながらも、ぷいっと首をそむけると、
  ぱっと身を翻し、少女はその場から走り去ってゆきました。

  髪がたなびき、スカートの裾がふうわりとふくらむその後ろ姿は、
  少年の脳裏にスローモーションのように写り、焼き付くのでした。
  ・・・セミ達の声が遠くから聞こえてくるようで、
  たくさんのアブラゼミに交じったミンミンゼミやツクツクボウシ、
  それに少し気の早いヒグラシの声までもが、
  どこか遠い、別の世界から聞こえてくるように、遠く響きます。
  少年は少女の舐めた腕の傷をじいっとみつめると、
  少し思いつめた顔で、おずおずと自分の顔を近づけ、
  そっとそこを舐めました。

  顔を上げ、少女を追いかけて走り出す少年は、
  いつもの元気な男の子でした。
  背の高いトウモロコシ畑を駆け抜けると、
  ぱあっと視界がひらけゆきます。
  道沿いには向日葵が、列になって大輪の花を咲かせ、
  その顔を太陽に向けながら、誇らしげに背伸びをしているのでした。
  まぶしそうに腕をかかげ、
  同じように太陽を見上げる少年が、すこし輝いて見えました。

  「おーい」
  少年が叫ぶと、遠くから風に乗って少女の笑い声が届きます。
  そちらへ向かい、少年は日射しの下をどこまでも駆けていきました。

  夏はまだ始まったばかりで、終わりが来るなんて思いもよらない。
  そんな少年少女を見守る向日葵は、そっと風に揺られています。



   甘酸っぱい。
   こんな原体験、してみたかった。

   夢で見た時はTVでも見ているかのようで、
   男の子も女の子も自分ではなかったし、
   ちゃんと(?)ナレーションもついてたんだよね。
   ナレーターの女の人、知ってる声だったんだけど、誰だろ?

   それにしても、こういう夢ってあんまり見ない(苦笑)
   覚えてる夢に限って、クラいのは何故でしょう。ちぇ。


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