夢No.27
イロトリドリノセカイ
黒い夜の闇に、月は白く光る。
そこへちっぽけな雲が現れる。灰色の雲。
雲はその灰色の体を際限なく膨らませ、世界を包み込む。
僕は灰色の世界に居て、なにもかもが味気ない。
世界が本物の灰のように、風に吹き崩されればいい。
砂を噛むような気持ち。
僕の体も心も、さらさらと風に吹き消されれば、いっそ小気味いいだろう。
灰色の雲に包まれた世界に、灰色の雨が降る。
月も星も空も見えない。1m先だって見えやしない。
濡れたって、寒くもなければ暑くもありゃしないんだ。
雨が止む。と同時に灰色の雲はかき消すように全て消滅する。
それでも世界は灰色のまま。灰色の夜。
しかし、次の瞬間、灰色の夜は灰色の朝になっている。
すでに頭上高くにある太陽は、直視しても眩しくもない灰色で、
なんと手前には、灰色の虹までかかっている。
はん。灰色の虹? 面白くもない。
灰色のグラデーションだけの虹なんて、ぞっとするね。
僕は虹の本来の姿を思い浮かべる。
赤 橙 黄 緑 青 藍 紫
自慢にもならないが、幼い頃からなぜかそれはちゃんと覚えている。
灰色のこの世界の味気なさが強まる。灰色の虹は虹ではなく、灰だ。
本当の虹は、もっとこう、きらめくような彩りで・・・
すると灰色の虹は震えだし、その表面にピキリとひびが入った。
ひびはあっという間に虹全体を広がり、覆い、
次には灰色の欠片がそこからぽろり、ぽろりと崩れ落ちていった。
驚きに目を見張る間に、虹は正常な色と輝きを取り戻していったのだ。
虹だ。
ぽかんと口を開いていた僕は、誰に言うでもなく呟いていた。
虹がきらりと輝くたび、世界に色が戻ってゆく。
そしてすぐに世界は色を取り戻した。以前よりも少し、輝きを増して。
・・・・と思っていたのだが、どうも様子が違う。
確かに世界に色はついている。
でも、なにか違う。なんなのだろう、この違和感は・・・
灰色の世界に色彩が戻った。
でも、なにか違う、どこか違う。
それがなにかはわからないが「違う」と感覚が訴える。
拭いきれない違和感。
その正体は、すぐにわかった。
違うんだ。
色は付いている。でも、その色が違う。
いや、色が違うわけじゃない。
空は青いし、雲は白い、木は茶色で葉は緑。
アスファルト舗装された道は灰色で、太陽は黄色い日射しだ。
駐車禁止の標識は赤いし、僕の影は黒い。
でも、違う。
向こうからひとり、誰かが歩いてくる。
当たり前だが、一歩あるくごとに、こちらへ近付いてくる。
灰色の人。
僕は眉間にしわを寄せて、それをもっとはっきりと見ようとする。
灰色の人。その灰色に、虹色がかぶる。
ぐにゃりぐにゃりと歪みながら、次第に色が統一され落ち着いてくる。
赤い人。
あははは。くだらない。
そうか、これは本当の色じゃない。僕のイメージした色だ。
空は青いし、雲は白い。
知らない人は灰色で、よく見りゃ赤の他人なんだ。
もう一度見てみようと思い振り返るが、赤い人はすでに消えていた。
視線を戻すと、またひとり、誰かがこちらへと歩いてくる。
どうせまた灰色人間で、結局は赤の他人か? 貧困なイメージめ。
灰色の人がこちらへ近付いてくる。
灰色はやはり虹色がかり、その色がぐにゃりと歪み、滲む。
その人が近付くと共に、姿がはっきりと目に映るようになってくる。
ズキリ。
そこには普通の色、通常の配色の人間がひとり居るだけだ。
髪は黒く、肌は肌色、緑のTシャツ、デニムスカートの青。
僕は咄嗟に顔をそらせたかったが、首は石になったように動かなかったし、
視線も釘付けで外しようがなかった。頭はただ、混乱するばかり。
混乱は色になって、僕の周囲の空間をぐにゃりと歪めては抽象化していった。
それでもその人はそのまま近付いて来たし、
僕の側に来ると、にこりと微笑むことすらしたんだ。
虹の色彩。歪んで渦をまく気持ち。
ぎゅっと目をつぶる。
それでも、見えている。
僕はもう、なんだか混乱してわけがわからない。
自分が虹色がかり、ぐにゃりと歪んでしまう感覚。
一瞬で過ぎる筈の時間が、凍ったように動かなくなる。
時間から切り取られた一枚の写真のように、僕の目に映るその人の笑顔。
ぐるぐると渦巻く過去の色彩のイメージ。
赤い唇、照れながら染まる頬、一緒に見た夕焼け、流れる血。
橙色のきんもくせいが香る中、手を繋いで歩いた道。一緒に食べたオレンジ。
黄色い笑い声、揺れるイヤリング、ふりそそぐ日の光、笑顔が発する暖かい波。
緑の草原、可愛いアオガエルを怖がる深緑の瞳。指に小さなエメラルドリング。
青空、青い鳥、青い魚、その青ざめた顔、青い、青い、青い、青い・・・
そうか、僕にとって、この人は・・・
青の・・・・・・他人。
急速に青く染まっていく目の前の微笑み。
青はその人を染めただけでは収まらず、そのまま世界に流れだした。
すべてが青に染まる。
ひとときの青い世界。
そして、僕の心が、その全ての青を吸い込んでゆく。
世界が透明になって、ガラスか水晶のように透き通る。
僕も透明になって、透明な心臓は、かしゃりと割れた。
目を開けると、そこには誰も居ない。
世界は彩りを増したように、きらきらと輝いている。
普段は目に留めないような色も、ほんとはちゃんと主張している。
青い車が、僕のすぐ横を走り抜ける。
乗っていたのは、誰だろう。灰色で見分けがつかなかった。
足元に、金色に光るコインが一枚落ちている。
それを拾おうと思ったが、途中で思いなおし、つま先で蹴る。
ちゃりりん。
コインは道のわきへと逸れて見えなくなった。
空を見上げると、ただ、青く、それでいて透明だった。
視線を下げ、蹴ったコインの転がった先を見る。
オモテ。
僕はそう思ったが、それを確かめようとはしなかった。
タイトルの「イロトリドリノセカイ」は、
ジュディマリ版じゃなくROBOTS版の歌から。
『色とりどりのガラスみたいな涙の美しさ』
というサビしか知らないが、
スローなテンポと男性ボーカルの声が心に残っていた。
その他の歌詞も知りたくなったので、
ネットで検索。すると、こんなサイトが
俺はサビしか知らない歌が多いので、ちょっと便利かも。
色鮮やかな世界で、なに色が好きかなんて、まさに十人十色。
俺について言えば、一番好きな色は黒、その次は青。
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