夢No.33
アプラクサスの卵
わたし、あなたのこと、好きだったわ。
ただ、側に居るだけで良かったの。
あなたの笑顔が暖かくて、
時間がね、
ゆるゆると、穏やかで、甘かったの。
「あ。これが幸せなんだ」
って思ったわ。
あなたの声も、手も、唇も、
全てが、
とっても、とても、甘かった。
あなたが、わたしのこと、
好きだって言ってくれた時にね、
わたし、
あなたが、わたしの世界を壊してくれたと思ったの。
わたしの目の前で、
卵が割れるように、新しい世界が開けた気がしたの。
でね、インプリンティング、だっけ?
雛が生まれてすぐに目にしたものを、親と思っちゃうのって。
ああいう刷り込みみたいに、
わたしには、あなたしか見えなくなっちゃったんだなって、思う。
そんなことを言うと、
あなたが面白そうに、
「じゃあ、ボクはキミの保護者なの?」
なんて、いたずらっぽく、笑いながら、
それでも、わたしの頭を、優しく、
優しく撫でてくれたこと、わたし、忘れないよ。
そして、
あなたがいつか、わたしに薦めて、
貸してくれた本に出てきた、
あの、鳥のカミサマの話。
ほら、あの卵の話、覚えてるでしょ?
卵は世界で、
鳥は生まれる為には……
新しい世界へ出てゆく為には、
旧い世界を壊さなきゃいけない。
それは一つの戦いなんだ。
って。
……わたし、
その時にね、とても嬉しかったの。
私が言った卵の話、覚えていてくれていたんだなって。
わたしは、あなたが私の卵を割ってくれたと思っていたけれど、
「キミは自分の力で生まれてきたんだよ」って、
そう、あなたに言って貰えたような気がしていたの。
でも、違ったのね。
あなたが壊したかったのは、今の世界。
わたしと、あなたの、世界だったのね。
そういえば、
「思い込みが激しい」って、
いつもあなたに、からかわれてたっけ。
それから程なくだったわ、
わたしの心を破って、あなたは飛んでいってしまった。
幸せって、そんなに長くは続かないものなのね。
ああ、
わたし、
あなたにとって、
卵の殻みたいなものだったのかなぁ……。
もう、ばらばらで、粉々になっちゃった。
だからね、
わたしも、やっぱり、
あなたという卵に、いつまでも籠もって、
捕らえられてちゃダメだなって。
あなたに包まれるの、あたたかくて、とても好きだったけれど、
でも、あなたがいないのに、
ずっと、ずっと、
孵化しない、思い出の卵を暖めていても、仕方がないもの。
だから、決めたの。
今日、雛祭りでしょ。
それって、女の子の祝日だけれど、
卵から孵った雛たちの、お祭りの日なのかもしれないよ。
生まれ変わるには、ちょうどいい日だと思わない?
そう、女の子はみんな、
自分の世界を、自分で孵さなきゃいけないの。
だって、本当に世界を創れるのは、
生むことが出来るのは、女の子だけだもの。
男の子は世界を壊すけれど、
でも、きっと、壊した後の世界だって、
自分で生むことなんて、できやしないの。
わたしの好きだった、あなたも、
これから好きになる、誰かだって、
きっと、誰かの卵の中でしか、生きられないの。
だから、わたし、
もう、こんなふうに、
あなたに、出しもしない手紙を書いたりも、しないの。
でもね、
……わたし、ほんとうに、
ほんとうに、あなたのこと、好きだったんだよ。
「アプラクサスの卵」は、
ヘルマン・ヘッセ「デミアン」の一節。
鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。
卵は世界だ。
生まれようと欲するものは、
一つの世界を破壊しなければならない。
鳥は神にむかって飛ぶ。
神の名はアプラクサス。
うん。素敵。
「デミアン」は、またいつか読みたいな。
……でも、彼女に薦めたり貸したりするような本じゃないよね。
そんなことするヤツは、ちょっと性格悪そう(苦笑)
えーと、
女性視点の夢だとさ、
それが、自分の投影なのか、
それとも、自分の理想の女性像だったりするのかな?
なんて思ったりもするものの、
なんか、
自分の夢に出てくる女性は、
みんな、少し、どこかしら病んでるのかなぁ、
なんて思うと、
それが、理想像であれ、投影であれ、
ちょっと困っちゃう(苦笑)
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