■No.05130 『彗星動乱』撮影開始!
GM:星空めてお イラスト:かねこしんや
担当マスター:小川鉄也
このリアクションは選択肢130を選んだ人の内、
一部の方に送られています。
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《前回までのあらすじ》
21世紀最後の巨匠、ヴァルター・リプフェルト
監督がマルチウェブの新番組制作に着手!
その名も『彗星動乱、宇宙が燃える日』
かの名高き歴史上の大事件を背景とした青春群像
映画である。常に野心的な試みを作中に盛り込む事
で知られる監督であるが、本作品最大の特徴はとい
えば作品に関わる俳優およびスタッフのほとんど全
てを一般(つまり素人)から募るという点である、
さらにヒロイン役にはなんと生身の人間ではなくフ
ェイドラを起用する事も話題を呼んでいる。役者の
演技に対するこだわりやCG合成映像を嫌悪するこ
とで知られる監督にしてはあまりに異色な企画であ
るが、その意図に関して監督は黙して語らない。と
もあれ第一回目の撮影は地球のスイスで行われるこ
とになり、仮設スタジオは様々な野望や希望を抱く
老若男女であふれかえっていた。
スイス、リプフェルト監督率いる『彗星動乱』撮
影班の最初のロケ地である。俳優のオーディション
にさきがけて現地ではすでに背景の撮影が開始され
ていた。
「そこ、ちょっと待て、カットだ!」
「は、はい? 何か……」
監督の一言に、初心者ばかりの撮影班スタッフは
緊張を隠せない。
「……遠景の山がな……あの万年雪が邪魔だ。ここ
はサンタ・フェなんだぞ」
「はあ……スイスですから雪はどうにも……」
「邪魔だ! 爆破でもするか……」
「な、なに言ってるんですか! そんなことしたら
雪崩が起こっちゃいますよ!」
「スペクタクル……」
冗談とも本気ともつかぬ監督の口調に周囲のスタ
ッフは青ざめた。これが21世紀最後の巨匠と呼ば
れる男、ヴァルター・リプフェルトである。
@ @ @
「ではまず冒頭、サンタ・フェで主人公達が出会う
シーンから。準備はいいな蒼石、それからラウ」
監督が声をかけた先には今回のオーデイションで
フェリックス・スタイルズの役を射止めた蒼石ユオ
(そうせき・―)とビクトル・サエキ役に選ばれた
クリス・ラウの二人がやや緊張した面持ちでたたず
んでいる。
「ふふ……任せて下さい監督。希望通り主役に選ば
れた以上、必ず期待に応えてみせます」
と役者なんて初挑戦のクセして不敵に微笑んでみ
せる(ちょっとムリしてる)のは蒼石ユオ、ちなみ
に女性だが、美少年と呼んでも一向に差し支えない
独特の中性的な魅力をたたえている。一方のクリス・
ラウは無表情、オーディションの時の演技がウソの
ようだ。そして二人からすこし離れて一人ぽつんと
立っているのは今回のもう一人の主役、マリアを演
じる人工知能・フェイドラ。日常生活の様々な局面
で見かけられる彼女だが、映画の役者をするという
ミスマッチな状況にやはり人々の視線・関心は自然
と集中する。
@ @ @
《サンタ・フェ シーン1》
フェリックス・スタイルズ、サンタ・フェの空港
に降り立つ、しばらく周囲を見回しているがやがて
フェデレーションの制服をきたビクトル・サエキの
姿を認め近づいてゆく。
フェリックス「あの、すみません。あなたはフェデ
レーション・メンバーの方ですよね」
ビクトル「そうだけど君は?」
フェリックス「あ、僕はフェリックス・スタイルズ
17歳です、今日はフェデレーションのメンバー
登録をしにここまでやって来ました。ハイスクー
ルを卒業したら、フェデレーションの一員として
宇宙で働きたいと思っています!」
ビクトル「……そ、そう。いや、俺は面接官じゃな
いんだから、いきなり自己紹介されても困るんだ
けど……。ま、要するに道が分からなくて困って
ると、案内してやるよ」
フェリックス「ありがとうございますっ! いやー
だけど到着してすぐメンバーの人に会えたなんて
ラッキーだなあ。ねえあなたも宇宙で仕事を?
憧れちゃうなあ!」
ビクトル「いや、俺もまだ大気圏外にもロクに出た
ことのない新米さ」
フェリックス「そうですか、お互い宇宙を目指して
頑張りましょう!
ああ、夢みたいだ、これから
僕も人類の未来に貢献するメンバーとして……」
ビクトル「ずいぶんスペースマン、いやフェデレー
ションに入れ込んでるんだな」
フェリックス「そりゃそうですよ! 子供の頃から
宇宙が大好きだったし、フェデレーションの理想
には大いに共感していますからね。あなただって
それでメンバーに入ったんでしょ」
ビクトル「ガキの頃はそうだったかも、ね。どうも
君は少し理想主義に偏りすぎてると見たね。ま、
ここに来る奴は最初は大抵そうなんだけど」
フェリックス「それ、どういう意味ですか」
ビクトル「言葉通りさ。一応先輩として忠告してお
こうかな。理想とか期待は裏切られるのが現実っ
てもんだし、その期待が過剰であるほど傷つく度
合も大きい。傷つくのが嫌なら夢を見るのはほど
ほどにしておきな。ほら着いたぜ、あそこに見え
てるのが受付だ」
フェリックス「え……あ、どうも……」
ビクトル「じゃあな、未来のスペースマン」
ビクトル、ウインクして立ち去る。
フェリックス「ちぇ、なんだいありゃ。のっけから
気分悪いよな、宇宙に憧れて何か悪いのかよ。あ
んな奴もフェデレーションの一員なのかなあ……」
フェリックス、受付へと歩いてゆく。
@ @ @
「よし、ここで一旦カットだ! 次、マリアとフェ
リックスの出会いのシーン行くぞ。フェイドラはス
タンバイできてるか?」
役者を交えた初のカットがとりあえず終了する。
「監督、いかがです彼女、蒼石くんの演技は?」
監督の横にすわる助監督の一人、三条=類=ジャ
ベール(さんじょう=るい=―)が尋ねる。
「まだまだ、だ。まあ素人だから予想通りだがな、
この先撮影を続けて行く内に演技もこなれていくだ
ろう、なんなら後で撮り直せばいい」
「はい」(ま、だけど僕よりは確かに上手だよな)
俳優のオーディションには落ちていたジャベール
は一人心の中でそうつぶやく。
「あれー、フェリックスって最初はエングラムが発
現してないんですよね、困ったなー私はエングラム
持ってるし…」
むこうで脚本を読んでいた蒼石ユオが声をあげる
「カントクー、どうしましょう私のエングラム?あ
とでCG合成で消すとか?」
「エングラムはカメラや写真には写らん。そんな余
計な心配してるヒマがあったら、エングラムを持た
ない人間の演じ方でも考えておけ」
「はあ、エングラムの無い状態ですかあ……、そん
なの急に言われましてもぉ……」
ユオは自信なさげである。
「へっ、いまさら怖じ気づいたのかい。なんなら俺
が代わってやろうか? お嬢ちゃん」
そんなからかうような口調でユオを冷やかすのは
フェリックス役を最終選考までユオと争っていた男
フラニア・ヴェンチュリである。
「ふ……ふん、お生憎様、この主役の座は誰にも渡
しませんよ」
「じゃ、まあ頑張ってきなよ」
片目をつぶってニッと笑ってみせるフラニア。
「よし、次のカットいくぞ!」
@ @ @
《サンタ・フェ シーン2》
フェデレーション施設の正面入口、その前にフェ
リックスとマリアの二人が立っている。
フェリックス「だいたい、君がケンカを撃ってきた
ようなものじゃないか!」
マリア「あなたがぼうっとした顔で道を歩いていた
から、危ないって注意してあげただけじゃない!」
フェリックス「ぼ、僕のどこがぼーっとしてるんだ
よ!」
マリア「顔よ! それと手と足と体!」
フェリックス「全部じゃないか!」
マリア「ともかく! 私の最初の発言に悪意はなか
ったの! わかってくれたっていいじゃない!
なんならコレで証明しましょうか」
マリア、右手のグローブを外しエングラムを露出
させる。それを見たフェリックスは急にうろたえて
自分の両手を背中の後ろに回す。
マリア「遮断するつもりならそれでもいいけど!」
フェリックス「い、いや、その……違う……」
マリア「?」
フェリックス「そ、そんなことどうでもいいじゃな
いか!
僕は宇宙で働きたい、宇宙に行きたいんだ!
エングラムのあるなしなんて関係ない、理想も希
望も捨てるもんか。僕は絶対に宇宙へ行く!
……絶対に!」
マリア、すでにフェリックスに背を向けて歩み去
るところ、しばらくして一度だけ振り返り。
マリア「できるもんならやってみるといいわ」
@ @ @
「OK、ユオもフェイドラも上出来だ」
撮影スタッフの内に小さな歓声があがる。初めて
目にした女優・フェイドラの演技。それは人間が演
じているのと遜色のないリアルさと自然さを備えて
いた。監督と女優に志望してきた者の数名とで教え
込んだ(?)モーショントレースの賜物であった。
「素敵だったわフェイドラ、まるで十年前から女優
やってました、みたいな感じよ。やっぱりあなたは
人間以上に繊細な存在なのよ!」
フェイドラに演技指導をすると張り切っていた少
女、何叶縁(なにかの・ゆかり)はフェイドラのホ
ログラムの腕を取って大げさに感激している、こう
した接し方も演技指導の一環なのだそうな。
「あんな表情(かお)もできたんだ……」
妙に高ぶっているスタッフ連中の輪から少し離れ
て一人、資材の上に頬杖をつきながら撮影の様子を
眺めていた沼澤京子は、さしたる感慨もなさそうな
口調でそうつぶやいた。そして誰にも聞こえないよ
うな声でさらに続けた。
「所詮は作り物なんだけどね……」
@ @ @
《サンタ・フェ シーン3》
シーン2と同様施設前にて
フェリックス「やっと登録終了だ、これで僕も今日
から晴れてフェデレーションの一員なんだなあ」
施設前で腕を組み一人感慨にふけるフェリックスそ
の肩をマイケルがたたく。
マイケル「あ、すいません、そこの人。今から資材
搬入するから、そこ少しあけてもらえませんか?」
フェリックス「えっ、す、すみません、つい建物に
見とれちゃって、その、初めてだったもんで」
マイケル「もしかしてあなた、新メンバーですか?」
フェリックス「はい!
フェリックス・スタイルズ
17歳です、今日メンバー登録を済ませたばかり
の新人ですが、よろしくお願いしますッ!」
マイケル「え?
ああ、やだなぁ、敬礼はやめてく
ださいよ。フェデレーションは軍隊じゃないし、
それに僕、あなたより年下ですよ?」
フェリックス「あ……」
赤面するフェリックス、笑ってマイケルは右手を
差し出し握手を求める。
マイケル「僕はマイケル ……マイケル・ラウルで
す。14歳。よろしくお願いします」
フェリックス「よろしく、マイケル・ラウル……、
ラウル……?
ラウルって、もしかしてあのガン
サー・ラウル博士の?」
マイケル「はい、ガンサーは僕の祖父ですけど」
フェリックス「ええーっ!
あ、あのラウル博士の
お孫さん、ええーっ」
マイケル「そんな、大げさに叫ばれると困っちゃい
ますよ……祖父は祖父、僕は僕ですから。まだ新
米で……あなたと同じですね」
フェリックス「だ、だけど、僕、感激だよ。まさか
加入登録の初日にラウル博士ゆかりの方と会える
なんて」
マイケル「やめてくださいってば。そんなふうに言
われると、恥ずかしいですよ。そこまで祖父を慕
っていただいていることは嬉しいですけど」
フェリックス「それはもう……、僕がこうしてフェ
デレーションに加入したのもラウル博士の理論に
感銘を受けたからなんだ!」
マイケル「じゃあ、僕と一緒です。仲間が増えて、
嬉しいですよ、スタイルズさん」
フェリックス「あ、フェリックスって呼んでよ」
マイケル「はい。じゃあ、フェリックス。どうかよ
ろしくお願いします」
フェリックス「こ、こちらこそ、ええと……マイケ
ル……でいいかな?」
マイケル「もちろん!」
破顔するマイケル。
フェリックスは赤面しっぱなし。
@ @ @
「はーい、お疲れ様でしたあーっ。二人とも名演技
だったよー」
新たなカットを撮り終えたユオと、マイケル役の
桜井・フランシス・寿人(さくらい・―・ひさと)
を、助監督の一人、キッカ・本占地(―・ほんしめ
じ)が笑顔で迎える。
「いやあ、お芝居なんて初めてだから、緊張して何
が何だか」
「そんなことないない! すっごくいい感じだった
よ。この調子でガンバだよ!」
持ち前の明るい口調で寿人を励ますキッカ、そん
なやりとりに撮影現場の空気も自然となごむ、はず
だったのだが。
「確かにアレで役者の経験があるなどと抜かされて
は詐欺よのう」
いきなり致命的なセリフでスタッフの顔色を変え
させたのは撮影班専属のドクター(に、いつの間に
か収まっていた)ヌーリである。俳優達の引きつっ
た表情にもかまわず続ける。
「さても監督殿も酔狂な御仁よな、自ら泥田に乗り
込み、かように揃いも揃った不作の生大根ばかりを
引き抜いてこられるとは」
そう言って、ぎろりと俳優達の顔をねめつける。
みな呆気にとられていたがようやくキッカが自分の
職分を思い出し、ヌーリに向かって、
「ドクター、お言葉ですがここにいる人達は全員、
監督がご自身で選抜されたメンバーなんです。ドク
ター自身のお仕事以外の領域に、素人考えで余計な
口出しはしないで下さい!」
「ほ、言いおるわい。俺はてっきり素人の学芸会か
とばかり思っていたんだがな」
「い、今は素人集団でも、みんなで力を合わせれば
きっと素晴らしい作品を作り出せます!」
「ふん、小娘。教えておいてやるがな、素人の気粉
れで傑作は生まれてきたためしはないぞ」
「じゃあ、わたし達がその第一号です!」
「ふん、さすがは畑から引き抜かれたばかりの大根
どもよ、活きだけはいいようじゃ」
好き勝手に言いたい事を言うとヌーリは仕事道具
の入ったトランクをかついで去って行く。その背中
に向けてキッカが一言。
「なんつーヤな奴っっ!」
「ちょ、ちょっと、ドクター」
慌ててもう一人の助監督、ジャベールがヌーリの
後を追う。
「なんじゃ俺は忙しいのだ、つい今しがたも主題歌
を自分に歌わせろと押し掛けて来た痴れ者が勝手に
スタジオの屋根で歌い出した挙げ句に足を滑らせて
大怪我をしよったところなのだ。まったくこの世は
阿呆だらけなのか」
「……そ、それはまあ、なんとも……。しかしドク
ター、映画の撮影現場は共同作業の場です、そこの
ところをもう少し考慮していただけないかと」
「俺はな、助監督」
ヌーリは振り向いてその血の気が失せた顔を歪ま
せるとこう言い放った。
「俺は、他人から嫌われる事が無上の喜びなのだ」
ジャベール、絶句。
@ @ @
《サンタ・フェ シーン4》
フェデレーション施設内部喫茶室。マリアとその
親友シンディが談笑しているところへビクトルがあ
らわれる。
ビクトル「よう、お二人さん、ご機嫌いかが?」
シンディ「それがその、マリアが全然ご機嫌じゃな
くって……」
マリア「笑いごとじゃないわよ、あたしは今本気で
怒ってんだから」
シンディ「さっきからこの調子でね。ビクトルから
もなんとか言ってあげて」
ビクトル「おやおや、じゃあマリア、この俺直々に
君が荒れてる理由を聞いてあげようじゃないか」
マリア「まあ、大した事じゃないんだけどね、昨日
すごく頭にくる馬鹿な奴とケンカしちゃってさ。
宇宙開発に情熱を捧げるんだー、なんて馬鹿みた
いなこと真顔で口走る男でね、そのくせトロそう
で実際トロくて、でも他人にそれを指摘されると
ムキになって突っかかってきて、本ッ当馬鹿なん
だからああもう!」
シンディ、肩をすくめてビクトルを見やる。
ビクトル「わかったわかった、実はよく分からない
んだけど。要するにいつもみたく頭の悪い憐れな
男がまた君の毒舌にやりこめれれたと」
マリア「なによう! あたしの方がいわば被害者よ
そりゃま、やり込めてやったのは事実だけどね。
あいつ、あの後泣いて帰ってたかもね」
シンディ「結局こうなのよ、何が被害者なんだか」
マリア「何か言った、シンディ」
シンディ「い、いや、あのね。ただそういう理想に
燃えるタイプの人って、一旦挫折するとなかなか
立ち直れないからさ、あんまりいじめちゃダメよ
なんか可哀想」
マリア「ふん、あんな馬鹿、自分の理想の重さに引
きずられて大気圏からさえも離脱できないのがオ
チよ」
ビクトル「フェデレーションの理想の旗の下に集う
若者達も君の前ではかたなしだな。ま、君の意見
には俺もおおむね賛成だがな」
シンディ「二人ともぉ、現役メンバーがそんなこと
言ってていいの。理想に燃えて新しく私達の仲間
になろうとしてくれてる人に失礼じゃない」
ビクトル「誤解しないでくれよシンディ、俺が言っ
てるのは宇宙開発に伴う現実、つまりメリットと
デメリットの両方を知った上で理想を唱えなきゃ
ならないってこと、単に上つらの理論や理想だけ
眺めて宇宙開発、フェデレーション万歳とか叫ば
れちゃ迷惑なのさ。そーいや俺もちょうど
昨日
そんなガキに会ったよ。宇宙に憧れてフェデレー
ションに加入しに来たとか言ってんだけど、どう
にも浮わついてるっていうか、単に垢抜けてない
というか。なんて名前だったかな……確かフェリ
……何とか言ったっけ、ええと」
ビクトルの話の途中でマリアは、飲みかけのコー
ヒーを思いっきり吹き出してしまう。
マリア「フェリックス! そうよフェリックスとか
言ってたわ! そいつよ! 昨日フェデレーショ
ンに加わったお間抜け野郎は」
シンディ「もうー、汚いなあマリア」
マリア「うるさいわね! ああっ、もう名前を思い
出したら余計鮮明に昨日の事が頭に……!」
ビクトル「まあまあ、じゃあマリア、君のご機嫌を
直すために今から俺と映画でも見に行かない?」
マリア「さりげなく本題を切り出したつもりでしょ
うけど、お生憎様。今は男とは口をききたくない
気分なの、たとえあなたでもね」
ビクトル「やれやれ、じゃ、フェリックスの二の舞
は御免なんで俺は退散するよ。シンディ、マリア
のお守りは任せたぜ」
ビクトル、手を振ってその場を去る。
シンディ「ああー、行っちゃった。だめじゃないの
ビクトルにまであたりちらして……」
マリア「うるさいっ、全てはあのフェリックスが悪
い! 今度会ったら……」
シンディ「今度会ったら?」
マリア「えーと、どうしよう?」
シンディ「そろそろ気付いたんじゃない、その人に
少しきつく当たりすぎたんじゃないかって」
マリア「な、何言ってるのよ! そ、そう、あんな
奴、二度と顔も見たくないわ!」
マリア、思わず両手を握りしめテーブルから立ち
あがってこう叫ぶ。
シンディ「やれやれ、自分の非を認めない性格は、
一生治りそうにもないわね……。それにしても、
あたしなら優しくしてあげちゃうけどなー、その
フェリックス君みたいな人が来たら……」
@ @ @
「ああーっ、緊張したー! 映画って疲れるお仕事
だったのねー」
撮影を終えて、シンディ役を演じた何叶縁が大袈
裟にため息をつき、地面にへたり込む。そんな縁を
支えながら例によって助監督のキッカがねぎらいの
言葉をかける、今度はあのヌーリの奴が近くにいな
いことを慎重に確かめながら。
「いやー、なかなかいい味出せてる演技だったよ。
監督もそう思いますよねえ」
そう声をかけたキッカの振り向いた先にはしかし
リプフェルト監督の姿はなかった。
「あれ、監督は」
「撮影の合間にスタッフの面接」
「またかあー、だけどさジャベール、そういうのは
あたし達助監督の仕事だよ、監督の余計な負担は減
らさないと」
「そうなんだけど、監督が自分で採用の判断を下す
と言ってきかないから」
「しょーがないなー、もおー。で、今度はどんな人
が売り込みに来たの?」
「なんでも若手の服飾デザイナーだとか……」
@ @ @
「監督、こんな所におられましたか。ちょっと」
「何だジャベール、話の途中だ」
「それがその……フェイドラの事で……」
「どうした、何かマシントラブルか」
「原因は只今スタッフが調査中ですが、取り敢えず
現場までお願いします」
「わかった、すぐに行く」
これまで比較的スムーズに撮影が進行していたス
タジオは現在ちょっとしたパニック状態であった。
原因はフェイドラ、これまで撮影の無い時はスタッ
フの側でぼおっと待機し、出番がくればおとなしく
『マリア』を演じていたのだが…、何がどう狂った
のか今フェイドラは制御不能状態になっていた。
「どうした助監督、状況を説明しろ」
「ああっ、監督、僕達もうどうしたらいいか、てん
で見当もつかなくて……」
「馬鹿もん!」
泣かんばかりの状態で監督にすがりつこうとする
ジャベールをリプフェルト監督は一喝する。
「なんだその様は! お前達それでも活動屋か!
撮影中のトラブルの一つや二つ起こって当然だろ!
それを一々うろたえ騒ぎおって見苦しいぞ。上の者
が下手に騒げばそれだけ無用の動揺が広がるという
事にも気がまわらんのか! お前ら何年映画やって
るんだ!」
珍しく激高する監督の勢いに押され、今しがたの
監督の問いに対し、映画やり始めたのは昨日からな
んですけど、という至極もっともなツッコミを入れ
られる者はさすがにいなかった。それはそうとして
フェイドラだが……。
「状況は?」
「ハイ、現在の彼女は実にまったく異常な状態でし
て、外部からの指令を遮断し同じ外見とセリフをひ
たすら維持し続けようとするのです」
「何だと?」
フェイドラは映画の冒頭シーン、つまり主人公と
ヒロインが初顔合わせをし、ついで初ゲンカをする
あのお約束なシーン撮影時の衣装でぶつぶつと同じ
セリフをただ繰り返し続けていた。
「……やめさせろ、無理か?」
「ダメです、こちらからのコマンドを全く受け付け
ません、さっきからやってるんですが……」
フェイドラの映像イメージプログラムを管理して
いた北中崎マモルが眼鏡の奥の青い目を少々うるま
せて監督とフェイドラとを見つめる。
「監督ー! トラブルの原因、見つけましたー!」
ふいにスタジオの奥から声があがる、見ればキッ
カが一人の男の襟首をつかんで引きずって来る。
「何だその男は……」
「こいつはですね佐藤晶吾(さとう・しょうご)っ
ていうホログラム操作技師なんですけど、VR制御
室で何かコソコソやってたんで、今とっちめたとこ
ろてなんです」
人々の輪の中に放り込まれたその男、佐藤は顔か
ら血を流しながらひーひー言っている、おそらくは
キッカの特技・EXカラテにやられたのだろう。
「ほう……で、何をした? 正直に言いたまえ」
「ま、待ってくれ監督、オレはただフェイドラの人
格プログラムを『ちょっとお転婆でジャジャ馬だけ
ど本当は寂しがりやで、心を許した相手にはとこと
ん信頼を寄せてしまう』お茶目な性格に書き換えよ
うとしただけなんだ、信じてくれっ!」
「ほほう」
じり……、とスタッフ達の輪が狭まり、佐藤の顔
がひきつる
「待った、オレは本当に無実だ、オレが侵入した時
はもうフェイドラは外部からの入力を受け付けなく
なっていたんだよおおっ!」
「ごまかされるか!」
暴徒と化したスタッフ一同が佐藤に襲いかからん
とした瞬間、監督の鋭い一声が皆を制した。
「待ちたまえ! べつに彼がウソをついているとは
限らない。私がやってみよう」
そう言うと一人で制御卓へと向かう、しかし監督
の手をもってしてもフェイドラが回復する兆しは一
向に現れなかった。今にも監督の八つ当たりの雷が
落ちるのではとハラハラするスタッフ達だったが、
しかし監督の様子は意外に平静だった。ベレー帽に
手をやり、軽く頷いてから呟く。
「なるほど……」
「あの、監督なにか原因がお分かりに?」
「さあな。だが心配はいらんだろう、しばらく放っ
ておけば元どおりになるさ」
「ほ、本当ですか……?」
「まあ……多分な」
説得力が有るのか無いのかさっぱり分からないセ
リフをはくと監督は黙ってパイプに火をつけた。
約1時間後、フェイドラの機能は何事も無かった
かのように回復した。集団リンチをまぬがれた佐藤
が誰よりも胸をなでおろした事は言うまでもない。
@ @ @
《サンタ・フェ シーン5》
フェデレーション施設内部、偶然フェリックスと
マリアが出会う、フェリックスの姿を認めたマリア
露骨に嫌な顔をしてそのまますれ違おうとするが、
フェリックス意を決してマリアの後を追う。
フェリックス「待って、あの、マリア……さん」
マリア「何よ。あたしはあんたなんかと知り合いに
なった覚えはなくってよ」
フェリックス「そういう態度を取られても仕方ない
と思ってる、確かにこの前の事は僕が悪かった。
君に謝りたいとずっと思っていたんだ……」
マリア「そ、そう、でもあたしは別に謝って欲しい
なんて思っちゃいないのよ生憎ね」
フェリックス「これは僕の気持ちの問題なんだ、頼
む許してくれとは言わない、僕の謝意を耳にして
くれるだけでいいんだ、この通り!」
フェリックス、土下座状態。
マリア「ちょっと、あなた、こんな場所で何やって
んのよ、やめてよもう……」
フェリックス「これはけじめなんだ、スペースマン
としての!」
マリア「スペースマンはこの際関係無いでしょ……
やっぱりあなたのそーゆー訳の分からない性格、
好きになれないわ。こっちが疲れちゃう」
フェリックス「もっともな指摘なのかもしれない、
治せるか分からないけど改善してみようと思う」
マリア「あんまり期待できそうもないけど」
フェリックス「頑張るよ僕、だから僕を嫌いになら
ないで欲しいんだ。少なくとも僕は君の事が好き
だから……」
マリア、呆気にとられたような表情、一瞬後赤面
マリア「あ、あなた! さっきから一体ナニ喋って
んのよ、いきなり好きだのなんだのって、どうか
してるんじゃない!」
フェリックスも慌てる。
フェリックス「いや、好きって言ったのはそういう
意味ではなくて、君という人間の人間性に人間と
して人間愛というか、その、なに」
マリア「もーいい、わかった。あなたって人はもう
……とにかくもう謝るのなんのって騒がなくてい
いわよ、あたしも怒る気なんて無いんだから」
フェリックス「じゃあ、この前の事、許してくれる
んだね」
マリア「もういいんだって、あなたって本当おかし
な人ね」
フェリックス「……やっぱり僕の事、嫌な奴だなっ
て思ってるのかい」
マリア「ま、あなたの思想っていうか物の考え方が
ちょっとね 人間性は悪くないんじゃない、そう
いう素直っていうか馬鹿正直なところ嫌いじゃな
いわ」
フェリックス「本当? 嫌いじゃないって事は君も
僕が好きって事だね」
マリア「ナニを口走ってるのよあんたはーっ!」
フェリックスの言葉に赤面したマリア、いきなり
フェリックスを張り倒す。
マリア「もう、信じられないっ! 嫌いの反対だか
ら好きって……、人間関係の微妙な機微をそんな
単純な二元論で割り切れると思い込んでるおめで
たい所、やっぱり大嫌い! ホントあなたって馬
鹿っていうかガキなのね! 付き合ってらんない
今度どこかで会っても絶対に声かけないでよね、
さよなら!」
靴音も高く廊下を去りゆくマリア、残されたフェ
リックスは自分の頬を押さえながら茫然とマリアを
見送る。
フェリックス「僕はそんなつもりじゃ……、もっと
上手く彼女に僕の感情を伝えられたらなあ」
フェリックス、恨めしそうに自分の右手に着けた
『伊達』のエングラム・グローブを見つめる。
@ @ @
「どうもこれはエレガントな画面じゃないぎゃー」
妙な訛りのある英語でぶつくさ愚痴をこぼしてい
るのはカメラ担当の待兼三四郎である。映画の次の
舞台、月面基地のエキストラを撮影しているのだが
…とった映像をモニターした三四郎は頭を抱えた、
月面基地の内部とあれほど説明したにもかかわらず
画面の隅で大道芸をする奴、無意味に脱ぐ奴、格闘
を始める奴など、訳の分からない連中がうようよと
うごめき異常な画像を産み出している。
「エレガントにふるまえない奴はクビだぎゃー!」
とエキストラ役者達に叫ぶ三四郎。
一方こちらはリプフェルト監督、エキストラ撮影
を三四郎や助監督に任せ、しばし休息をとっていた
「次は月面の撮影か……」
「はい、セットの方は昨日徹夜で完成させてありま
す、キャストも選考は済んでおりますし」
大道具担当のアイヴァナ・ファレノプシスが甲斐
甲斐しく応える。
「出来れば月面ロケをやりたかったんだが……」
こころなしか疲れたような監督の声。そのやりと
りを横で聞いていた大道具手伝いの少女、アーリィ
・ニールが余計な事を口走る。
「いっそでっかい爆弾を落として、その跡をクレー
ターに見立てるってのはどーかなー」
「それだ!」
「ダメだーっ!」
大慌てでアーリィの首を絞めるアイヴァナ。
@ @ @
《月面、瀬田物理研究所》
所内、大勢の研究員達が様々なデータの解析や、
各地との通信に忙殺されている
研究員「所長、火星オリンポス基地から緊急通信!
あすなろ二号から送られてきた彗星のデータ解析
を依頼してきています。彗星は太陽系へ向かって
いるとのことです」
瀬田博士「出せ」
モニターに表示されるデータ群、一瞥してその表
情が変化する。
瀬田博士「これは……」
瀬田、コンソールに指を走らせ、いくつかのデー
タを表示する。表情がどんどん険しくなってゆき、
やがて動きをとめ、呟く。
瀬田博士「反物質だ……」
息をのむ研究員達。所内、重苦しい沈黙。
@ @ @
「がーっはっはっ! どうじゃ、わしの名演技は」
月面のシーン撮影終了後も、瀬田博士役を務めた
じいさん、黒屋銀(くろや・ぎん)のテンションは
あがりっぱなしであった。
「いやいや、これで良い冥土の土産話が出来たって
もんよ。何? ワシの出番はもうほとんど無い?
おい監督さん、ワシの入浴シーンでも撮らんか」
じじいは真顔だった。
「……またの機会にな。続けて火星の撮影行くぞ!
ピュリア、用意は出来ているか。君の思ったように
フェイドラを演じて見せろ」
「はい、監督。私、あの子のことなら誰よりも理解
しているって自信がありますから」
そう静かに応えるのは今回のオーディション中で
最難関だったフェイドラ役を見事に射止めた少女、
ピュリア・ウル・リーフである。
@ @ @
《火星、ヒュアキントス計画研究棟》
研究棟内、ヤンボ・ウォロゲムの執務室。部屋に
はヤンボとナディア・ヴァシレフスカヤの二人。
ナディア「ヤンボ、やってくれたわね。私の居ない
間にあんなプロジェクトを認可するなんて」
ヤンボ「おやおや、ご挨拶だな。それより昨日まで
の休暇は楽しんでこれたかい」
ナディア「あなたの計画の意図さえ知らずにすんだ
なら楽しかったと思えたでしょうね。私が反対す
ると知っててバカンスを口実に席を外させるなん
て……」
ヤンボ「ナディア、何をそんなに怒っているんだい。
君は今回の実験の意図を誤解しているのさ」
ナディア「いいえ、理解はしているわ。この実験は
私のフェイドラを兵器におとしめる第一歩よ!」
ヤンボ「少し落ち着き給え、フェイドラを戦闘機運
用のプログラムに組み込むからといって、それが
即、彼女の軍事利用につながるわけじゃないさ。
あくまでも一般の艦艇より軍用機のほうが豊富な
運用データが取れるからというのが……」
ナディア「表向きの大義名分というわけね、御立派
ですこと、自分の娘も同然のあの子を戦争の道具
に仕立てあげて平気なの?」
ヤンボ「そう尖るなよ……、昨夜の君はそんなふう
じゃなかったぜ」
ナディア「生憎だけど仕事とプライベートの区別は
きっちりつける方なの」
ヤンボ「私はもっとプライベートの方で君と語り合
う時間を作りたいね」
ナディア「残念ね、こっちは当分そんな気になれそ
うにないわ、それじゃ」
ナディア退室する。入れ代わるようにしてヤンボ
の秘書ニーナが入って来る。
ヤンボ「聞いての通りだニーナ君」
ニーナ「予想通りナディア博士の賛同は得られませ
んでしたね」
ヤンボ「まあそれはどうとでもなるさ。それより君
は今まで通りナディアの監視を頼む」
ニーナ「はい、博士」
ニーナ、退室。外の廊下で一人になり一言。
ニーナ「ヤンボ、……わるいひと……」
@ @ @
撮影を取材しに来た報道関係者が、撮影現場の近
くに集められていた。何故か野外に記者会見用の席
が設けられている、ただし座っているのは監督では
なく、サングラスにスーツ姿の女性だった。
「えー、本日は私、メル・ファウユウのためにお集
まりいただきまして、誠にありがとうございます。
この度私が『彗星動乱』主題歌を作成する次第とな
りました経緯につきましては……」
「ちょっと待てーっ、誰だあんた」
メルの長口舌をさえぎりジャベール助監督が顔色
を変えて飛んできた。
「これはこれは、助監督に監督。私、このたび監督
の映画の主題歌を制作させていただくメル・ファウ
ユウと申します」
「え? って監督、いつお決めに?」
「知らんぞ」
「今しがた私が決めました」
「つ、つまりあなたが勝手に名乗っているだけ?」
「ま、平たく言えばそうなるかしら。だけどもう今
の記者会見は全宇宙に放送されちゃったしー」
無言でブッ倒れそうになるジャベール。
「……いいだろう、そこまでやる以上は自信が有る
んだな。任せようじゃないか、君に主題歌を」
「How Nice! さっすが監督、器が違う、
じゃあこの場で主題歌を歌ってくれるボーカリスト
も募集しちゃいましょう!」
「待て、そんな人員すら決まってなかったのか?」
「あら私は単に監督の、あらゆるスタッフを一般公
募するというポリシーを尊重しただけですのよ」
平然とそう言い放つメルのその後ろで、今度こそ
ジャベールが本当に泡を吹いて失神していた。
@ @ @
《火星、ナディア博士の私室》
自室の椅子に一人うなだれて腰掛けているナディ
ア。やがてその目の前にフェイドラが実体化する。
ナディア「ねえ、フェイドラ、私今まで何のために
研究を続けてきたんだろう……。私には夢があっ
たわ、単なるサポートマシンではなく、本当の意
味で人類のパートナーになりうる人工知能。人類
が平和な世界を築く手助けができるような……、
それが何で戦争の道具になっちゃったんだろ」
泣き崩れるナディア。その様子を柔和で優しげな
表情で黙って見守るフェイドラ。ややあって再び顔
をあげたナディア、フェイドラに疲れたような笑顔
で微笑みかけ、独白を再開。
ナディア「フェイドラ、よく聞いて、あなたには心
があるの、ヤンボ達は気付いていないし、あなた
自身『心』がなんなのか、まだよく理解できない
かもしれないけど、あなたはただの人工知能では
ないわ、ましてや兵器なんかじゃない。その事を
忘れないで……」
ナディア、やがて机の上に伏せて寝入ってしまう
フェイドラは彼女の様子をしばらく眺めているが、
その像は徐々に輪郭が薄れ消えてゆく。
フェイドラ「オヤスミナサイ、ドクター」
@ @ @
「フェイドラ、こんなにもあなたは創造者に愛され
ていたの? あなたの表情から憂いが消えない理由
は、やっぱりナディア博士を失ってしまったことが
原因なの……?」
撮影終了後、自分の所有するフェイドラに向かっ
て一人そんな問いを投げかけるピュリアだった。
@ @ @
《火星、ヒュアキントス計画研究棟》
エングラムインターフェイスとフェイドラを搭載
した試作戦闘機が繋留されたドック内。数名の研究
員および、ナディア、ヤンボ、ニーナ。
ヤンボ「ナディア、何を馬鹿な事を! なぜ君が試
作戦闘機のパイロットなどに志願する必要が有る」
ナディア「開発主任、いわば産みの親だからこそ全
ての実験を見届ける義務があるの、分かって」
ヤンボ「……私へのあてつけか……?」
ナディア「勘違いしないで、事の経緯と是非はとも
かくとして、フェイドラの今後の成長には私自身
興味があるの」
ヤンボ「しかし、何も試作の第一号機からすべての
機体に搭乗するなんて」
ナディア「心配症ね。私達の娘がそんなに信用でき
ないの? 大丈夫、彼女は完璧よ」
ニーナ「本当にうらやましいですわ、そこまで御自
分のパートナーを信頼できるなんて」
ナディア「少なくとも、彼女は私の友達だからね」
ナディア、ヤンボ達に微笑みかけて試作機のハッ
チを閉じる。操縦席のメインモニターにはフェイド
ラの顔が浮かび上がる、その表情は普段とまったく
変わらない。
ナディア「さあ、行くわよ我が親愛なる娘」
発進直前に、研究員がドックへ駆け込んでくる。
研究員「所長! 大変です、たった今月面の瀬田博
士から緊急連絡が! そ、それによると大質量の
反物質彗星が太陽系に向かいつつあると」
ヤンボ「なんだと?」
にわかに騒然となるドック内部、そんな中フェイ
ドラだけはいつもと変わらない表情でナディア達を
見守っていた。
@ @ @
火星のシーンを撮り終えた時点で、丁度日がおち
た。この撮影で主要シーンの大部分の撮影は終了し
たので、ロケ開始後初の自由時間が皆に与えられた
人里へ降りて町を見物する者、スタジオ内でさっそ
く寝る者、などそれぞれのやり方で休息を楽しみ、
日中の撮影時の殺気立った喧騒が嘘のような静かな
時間がおとずれる。
しかし、平穏とは必ず失われるのが宿命、撮影班
の前にはまたも新たなトラブルが降りかかった、そ
の発端は町へ遊びに行った連中の持ち帰った『タイ
ムズ』紙のトップに書かれた『太陽超新星化! X
dayは4ヶ月後』というおおよそ信じ難い内容の
記事である。最初は三流のタブロイド紙お得意のエ
セ記事かと皆笑って済ませようとしたが、相手は天
下の超大手紙、海王星でも売っている『タイムズ』
である、どうやら冗談事ではないと判明するにつれ、
撮影班にパニックが広がった。
あと4ヶ月で太陽系全滅!
すでに夜中ではあったがスタジオは上を下への大
騒ぎとなった、荷物をまとめだす者、神に祈りを奉
げだす者、突然そこいらの異性に結婚を申し込む者、
なんだかもう無茶苦茶だった。その混乱を鎮めたの
は、やはりリプフェルト監督であった。
「何の騒ぎだ! 明日の撮影に差し障るだろ!」
花柄のパジャマにナイトキャップという凛々しす
ぎる格好でスタッフを一喝する監督に、周囲の者が
慌てて新聞を差し出す。
「太陽系が4ヶ月後に消滅? それが今の我々の撮
影に何の関係がある?」
そう言って(パジャマ姿で)一同をにらみつける
監督、どうやら寝ぼけているワケではないらしい。
「しかし監督。太陽系が滅びたら、映画を見るお客
そのものがいなくなるわけで……」
「それは4ヶ月後の話だろ。安心しろ、我々の撮っ
ている作品はほとんどリアルタイムでマルチウェブ
上に放映されるシステムだ」
(そんな事を心配しとるのはアンタだけやー!)
居合わせた全員が心の中でそう突っ込んだ。
「いや、まてよ、この映画は六ヶ月かけて撮影する
予定だったからな……、いかん、このままでは作品
が完成する前に宇宙が滅びてしまう! おい、貴様
ら何をぼーっとしている、予定変更だ。これから徹
夜で撮影を再開する! 少なくとも地球ロケ予定分
の撮影が終了するまで眠れると思うな!」
「どっしえぇーっ!」
監督を除く全員が悲鳴をあげる、が監督は聞く耳
持っちゃいない。皆もう仕方なくというか、ほとん
どヤケクソ的な異常なハイテンションで準備にとり
かかった。
「ところで、おかみさん」
「な、なんだい監督さん」
撮影班専属の料理人の一人、北里由希子(きたざ
と・ゆきこ)は、突然監督から直接声をかけられ、
驚いて飛び上がった。
「緊急事態だ、済まないが皆に夜食を頼む」
「あ、ああそんな事かい、任せときな」
「今日の昼いただいた、あなたの『おふくろらんち』
大変美味しかった、ただ出来れば今度はあの『ハシ』
とやらを使わなくても食べられる物をお願いしたい
のだが…」
「ははっ、なるほどそうだったね。分かった今度は
とびきり美味くて食べやすいヤツを作っとくから、
心配しないで監督さんは撮影頑張ってよ」
「すまない、おかみさん」
ややあって撮影班の皆に届けられたのは、握りた
ての熱々『おにぎり』であった……。
「何い、配役が足りない?」
さらなるトラブル、ニューヨークでの会談シーン
の役者が確保できていなかったという。宇宙開発機
構側のカミーユ・デュランとタデウス・ポトニャフ
スキの役にはそれぞれキャサリン・ハミルトンと、
ウラジミル・アンドロニコフという適役が立候補し
てきていたのだが。ガンサー・ラウル博士と清水博
士の役には立候補者がいなかった……、ジジイ品薄
状態。仕方なく急遽近くにいただけの高谷健にメイ
ク係の桜葉・K・弥雪がほとんどSFXばりの老人
メイクを施し無理矢理役者に仕立てあげ、一方の清
水博士はといえば名前が同じという目茶苦茶な理由
で清水泰を抜擢するというデタラメぶりだった。
ま、こんなこともあらあな。
@ @ @
《ニューヨーク シーン1》
反物質彗星対策プロジェクトの主導権を巡って、
フェデレーションと宇宙開発機構が折衝を行ってい
る会議室。おもな列席者はフェデレーション代表の
ガンサー・ラウル博士、清水博士。宇宙開発機構の
総長カミーユ・デュランなど。
カミーユ「この度の全宇宙規模のプロジェクトを立
ちあげるに際して、その主導権の所在がいまだに
はっきりしていないという点に問題があると申し
あげているのです」
ガンサー「この際主導権は問題ではないでしょう、
総長。大事なのは太陽系の破滅を回避し、人類を、
“我々”人類を救うことです。そのために必要な
のが主導権争いですか? できる人ができること
をやる。組織や命令系統にとらわれている時間は、
我々には残されていないと考えますが?」
カミーユ「ラウル博士、我々はフェデレーションの
理論を拝聴する為にここに集ったわけではありま
せん、今必要なのは議論ではなく行動です」
清水「アホか。議論をふっかけてんのはそっちだろ
うによ。あんたら開発機構がくだらねえサル山の
ボス争いをやってるから、話がこじれてるんだろ
うがっ」
ガンサー「よしたまえ、清水博士。我々は今手を取
り合う為にこの場に集まったのだ。総長、御理解
いただけませんか、今こそ旧来とは異なる考え方、
異なる方法が必要なのです」
カミーユ「私は特定の組織のためというのではなく
地球、いや人類全体の利益の代弁者としてこの場
に立っているのです、そもそもあの反物質彗星の
軌道を変えるのに必要な資産や……」
清水博士、ぶすっとして吐き捨てる。
清水「軌道変えてどうすんだ」
カミーユ、顔色を変えて清水博士をにらむ。
ガンサー「口をつつしめというのに……、いや総長
どうか気を悪くなさらないでいただきたい。我々
フェデレーションは彗星の軌道の変更という方法
とはことなる視点からこの危機を乗り切ろうと考
えているのです」
カミーユ「馬鹿な、他に一体どのような方策が?」
清水「止めるんだよ。捕獲するんだ、あの巨大なエ
ネルギーの塊をな」
カミーユ「な……、そんな事が」
ガンサー「不可能ではありません。我々の計算では、
ね。無論、実現には互いの協力が必要不可欠なこ
とは言うまでもありませんが」
カミーユ「……」
折衝終了後の会議室、カミーユが一人ソファに体
を沈めている。会議室のドアが開き、開発機構軍の
司令官、タデウス・ポトニャフスキが現れる。
タデウス「総長、折衝お疲れ様です。首尾の方は」
カミーユ「認めたくありませんが、今回は私達の負
けですね、発想のスケールで完敗しました。彼ら
は、あの彗星を前にして何と言ったと思います?
『捕獲』ですよ。あの大質量のエネルギーの塊を
太陽系外へ葬り去る手はないと」
タデウス「彗星の捕獲、ですか……?」
カミーユ「今の開発機構にそんな発想のできる者が
果たしているでしょうか? そして、実現する技
術が? ここは我々が一歩退かざるをえないでし
ょう」
タデウス「しかし……」
カミーユ「むろんこのままでは引き下がりません、
彼らの卓越した理論も科学技術も、所詮は我々の
経済力、生産力がなければ実現しません。立場は
対等なのです。
彗星捕獲後の莫大なエネルギー配分の問題も将
来出て来るでしょう。戦いはこれからです」
カミーユ、凄絶な笑みを浮かべる。
@ @ @
「よし、次のシーンでラストだ、皆頑張れ!」
監督の声に皆疲労の色は隠せないものの笑顔で応
えてみせる、監督の無茶なスケジュールに辟易しな
がらも現場の心はだんだん一つになりつつあった、
そんないいムードをぶち壊すトラブルがまた一つ。
「何? スイス政府が撮影を中止しろと言って来た
って?」
「そ、そうなんです。すぐそこまで外務省の連中が
来てて、中止勧告に従わない場合は強制国外退去処
分も辞さないとかなんとか」
「それでキッカ、お前は黙ってすごすご帰って来た
のか? 何の為の助監督だ! 得意のカラテはどう
した、胸が大きいだけの助監督なんかいらんぞ!」
「無茶言わないでくださいよ、私だって女の子なん
ですよ、大体向こうは武装した兵隊までいたし。と
にかくこれ以上の撮影は危険です、悔しいけど……」
そう言って唇を噛んでうつむくキッカ、悔しいの
は皆同じだ。
「なるほど……国連からの圧力だな。フェデレーシ
ョンの手先は地球から出ていってもらうと、そうい
う了見か。いくらスイスが永世中立でも、無視はで
きん。別にスイスとフェデレーションに特別な友好
関係があるわけでなし」
皆途方に暮れた顔で監督を見る、ややあって監督
は口を開いた。
「いいだろう、地球側がそう言うのなら出て行くま
で、これからは宇宙が我々の舞台だっ!」
監督のこの宣言に、もはやどーにでもしてくれっ
て感じのヤケクソ気味の歓声がいっせいにあがる。
「そうと決まれば脱出準備だ、手の空いてる連中は
急いで大型の旅客機か何かをチャーターしてこい」
「か、監督。地球を出て行くなんて言ったって一体
どうやって……」
「任せておけ、私にアテがある。おら! 今の内に
ラストシーン撮影いくぞ!」
@ @ @
《ニューヨーク 半年後》
フェデレーション、宇宙開発機構の両組織の手に
よってついに完成をみた、彗星捕獲用巨大減速機。
その前にたたずむガンサー、清水両博士。
清水「ついに完成したか、こうして実物を目の前に
すると感慨もひとしおだな」
ガンサー「人類が一丸となった結晶だよ。記念すべ
きモニュメントだ、この減速機は」
清水「人類が一丸にねえ、お前は楽天的すぎるよ」
ガンサー「人は理想を抱き、それに向かって努力す
る、たとえそれが崇高すぎる理想だとしてもだ」
清水「その話は聞き飽きたぞ」
ガンサー「清水、この減速機に名をつけようと思う
んだが。『朝びらき丸』というのはどうだろう」
清水「……相変わらずガキの読む本から足をあらえ
ねぇのか。ルイスのナルニア……だったか?」
ガンサー「そうだ。世界の東の果てを目指す船だよ」
清水「あんたらしい命名だな」
ガンサー「気に入らないか?」
清水「いや……いい名前だ」
施設内、ガンサーの私室。ガンサー電話で談笑中
電話の相手は孫のマイケル。
ガンサー「そうか、サンタ・フェの方も順調に運営
されているか」
マイケル「ええ、今年は新規参入のメンバーも期待
が持てそうです。特に……」
ガンサー「お前が以前から話題にしている青年だな
確かフェリックスとかいう」
マイケル「ええ、この半年間、ずいぶん仲良くして
もらってます。二人で一緒に宇宙へ出ようって」
ガンサー「そうか。頑張るといい。時にマイケル、
弟の方はどうしている?」
マイケル「ええ、無論あのおちびさんも元気ですよ。
さすがに歩けるようになったばかりでは、まだ宇
宙に出るには早すぎますけどね。きっと立派なス
ペースマンになりますよ。なっ、デーモン」
受話器の向こうからマイケルの声と一緒に聞こえ
てくる幼児の無邪気な笑い声。
@ @ @
「よし! 地球でのロケは完了だ! これから我々
は宇宙へ向かうわけだが、その前段階としてまずは
…ヴァンダーベッケンに身を寄せる」
おおーっ、と皆の間から歓声があがる。なるほど
確かにあのVR映画大国ならばリプフェルト監督の
頼みを断るはずはない、監督の言う「アテ」とはこ
のことだったのか、と今更ながらちょっとした感動
を覚える一同であった。
数時間後、超巨大海上都市船ヴァンダーベッケン
の甲板上にリプフェルト監督御一行様数百人を乗せ
たジャンボ旅客機が着陸した。
「グローリアス陛下、無理をきいていただいた事、
感謝します」
「この業界であなたの頼みを断れる人など、いはし
ないでしょう」
親しげに握手を交わす監督とグローリアス一世、
やはり著名な業界人(あるいは変人)同志というこ
とで親しかったわけだ。
「でも監督、ここまではいいとしてこの先どうやっ
て宇宙へ行くんです?」
だれかが当然の疑問を口にする。
「安心しろ、フェデレーションにはかなり貸しがあ
るんだ。確か最近グワイヒアとかいう最新式の戦艦
がロールアウトしたばかりだったろ。そいつに迎え
に来させる」
いい加減驚くのには慣れっこになっていたはずの
スタッフ一同も、この発言には心底ど肝抜かれた。
フェデレーションの最新式戦艦を私用でパシらせて
しまうこのおっさん……、皆はいっせいに心の中で
こう叫んでいた。
(ヴァルター監督! アンタ一体何者だ?)
グローリアス1世が表情をよみとってか、微笑し
ながら言った。
「それは秘密なんだ」
@ @ @
■次回のシナリオプロット
時期:2048年から49年
宇宙:『朝びらき丸』完成、そのレーザー発振基地
でフェリックス、瀬田博士と出会う。なぜか主人公
にマリアとビクトルも同行し、なんだか微妙な人間
関係が続く。そんな中『朝びらき丸』に事故が起こ
りそうになるが主人公達の活躍で事無きを得る、こ
の事件をきっかけに3人の関係は微妙に変化する。
火星:フェイドラの軍事運用もやむなしという空気
の中『ヒュアキントス計画』は進行、ナディアの不
安・不満をよそに実験は順調にすすむが、そうした
中、ナディアだけはフェイドラにそこはかとなく漂
う違和感に気付きはじめる。
地球:宇宙開発機構は『シルマリル』捕獲後のエネ
ルギー配分の利権を手にすべく暗躍を続ける。特に
カミーユは『シルマリル』を手にするためならば戦
争をも辞さない強硬な策に出る、ポトニャフスキは
彼女のそうした態度に危惧を抱きつつも逆らえない。
月面:『朝びらき丸』の事故を防止した功績でガン
サー・ラウル博士直々にねぎらいの言葉をかけられ、
その上休暇をもらってうかれる主人公達と、ポトニ
ャフスキが出会う。
《お知らせ》
次回の主な撮影の舞台は、ヴァンダーベッケン、
グワイヒアの両艦内、および宇宙空間です。映画の
細部のシーンやセリフや設定に関しては引きつづき
プレーヤーの皆さんのアイデアをどんどん取り入れ
ていく予定です、ふるって御応募下さい。
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■重要遭遇者一覧《05130》
○フェリックス役/蒼石ユオ(01288-01)/RA.05130
○ナディア博士役/ライフェン・アトラス(01983-01)
/RA.05130
■関連リアクション及び住所リスト一覧
《05120》
○プロジェクト「アガスティア」リーダー/バレン
シア・フォレスター(0938-02)/RA.05120
《05140》
○グワイヒア艦長代理/坂堂巽(01318-01)/RA.05140
○グワイヒアPC名簿作成予定。PCプロフィール、
宛て名カード、200円切手同封で/
鈴明蘭(00233-01)/RA.05140
○ビアンキ代表発見者/コオ・フレデリック(06263-01)
/RA.05140
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