■NO.06120「送る人たち」
 GM:星空めてお 担当マスター:竹本柑太

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の方に送られています。
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《あらすじ》
 プレステル公国所属の海上都市船ヴァンダーベッ
ケンは、モザンビーク海峡において宇宙開発機構軍
側のミサイル巡洋艦ブートロス・ガリからの攻撃を
受けていたが、フェデレーションメンバー等が所有
する航空機による攻撃と、本国に残っている大臣や
火星にいたワーキンググループらの外交手腕により、
その難を逃れることが出来た。


 宇宙往還機を含む各種航空機のための空港が甲板
上に存在する海上都市船ヴァンダーベッケンは、現
在、南極海域を目指して航行中だった。あと、一週
間するかしないで南極海域には到達する予定だ。
 今日までに大勢の人々がヴァンダーベッケンから
離れている。プレステル公国とは直接関係のない者
たちや避難する市民である。この間に宇宙開発機構
軍からの妨害は一切なかった。これはフェデレーシ
ョンメンバーが発揮した外交手腕の成果である。
 大勢の市民が去ったことで、ヴァンダーベッケン
は都市としての生気を失うのではないかと危惧する
者もいたが、実際にはそうならなかった。戦争難民
の多くがこの都市に身を寄せて来ているのだ。中に
は自分が望む研究を行ないたいがために乗船する者
もいた。

 王立第一空港ロビーには、簡単な入国審査を終え
たばかりの人々と、その出迎えで賑わっていた。
「そろそろ出てきてもいいと思うんですけど」
 離発着予定時刻ボードと自分の腕に填まっている
腕時計と見比べながら、張・麗は同行してきた仲間
のミスト・ルシオーネと因幡弥生にそうぼやいた。
 彼女たちはフェデレーションコンタクトによって
承認されたプロジェクト<ザムザ>のメンバーとし
て、プロジェクトリーダーと仲間たちを出迎えるべ
く、王立空港の第1ロビーを訪れているのである。
「もしかして行き違いかしら? やっぱり、名前を
書いたボードを持って、待ち構えていた方が良かっ
たのかなあ。今から書こうか?」
 ミストの提案に弥生はゆっくりと左右に首を振る。
「お互いの顔はわかっているはずですから、よろし
いのでは。何にせよ、到着自体が聞いていた時間よ
りもだいぶ遅れていますものね。それに……」
 弥生の視線がロビーの中央部を占領している巨大
VRホログラムへ向けられた。そのモニターには、
一時間前に到着した往還機の姿が映されている。往
還機はどこか損傷しているらしく、妙な白い煙を吹
き出していた。映像は切り替わり、リポーターらし
き女性が詳しい事情を説明し始めているのだが、空
港のロビーという性質上、弥生たちのいるところま
で音声は届かない。どうしても音声を聞きたければ
ホビットのチャンネルを合わせれば済むだけのこと
なのだが、その前に彼女たちの待人の姿を見つける
ことが出来た。
「……あ、あの人たちじゃないかしら?」
 向こうも彼女たちに気づいたらしく、互いに人並
みを躱しつつ近づき、そして握手を交わす。待人た
ちはそれぞれ、レモン・ライムとニイヤ・ドッペル
ゲンガーと名乗った。
 挨拶を終えた後、レモンは往還機の到着が遅れた
事情を掻摘んで説明する。
「実は〜、機構軍からの妨害がありましたの〜。操
縦者の人の腕が確かだったから良かったものの〜、
ひとつ間違えば〜、今頃レモンちゃんたち海の藻屑
になってたわね〜、きっと」
 再び往還機の映像に切り替わったVRホロを睨み
ながら、ニイヤは言う。
「その妨害してきた奴ら、そのうち名前をきっちり
調べあげて、たっぷりと仕返ししてやらねば……」
 冗談だか本気だか判らないことを呟くニイヤ。
 張・麗は、最重要人物の姿がまだ見えないことに
ようやく気づき、ニイヤとレモンに訊ねてみる。
 2人は互いに顔を見合わせると、ニイヤが少し言
いにくそうにその理由を語り始めた。

 その頃、顔の半分が焼けただれている女性、元岡
形の入国審査は続いていた。傷痕を残すことなく傷
を治せる時代だ。なんらかの理由があると思われて
も仕方がない。そんな強烈な風貌は、係官の無用の
興味を強く引いてしまい、たいていの場合は簡単に
終わる入国審査を長引かせいてた。
「――では最後に、よければ入国目的をおうかがい
たいのですが?」
「目的? 知りたいの? いいわ、教えてあげるわ
よ。簡単に説明すると……、こうよ」
 女性は前世紀以前から存在していたであろう、現
在も比較的ポピュラーなある動作をして見せてやる
のだった。
     @     @     @
 不本意ながら王立ジュニアスクールの教師となっ
た花島田・チャーリーは、タコ焼き屋のカウンター
に座っていた。ここは教え子の一人、ファムティア・
ロスの家なのである。店内には常連客の都筑蘭子と、
一般客の響伊那。そしてチャーリーの教え子、青山
小夜子もいた。タコ焼きを一皿食べ終えたチャーリ
ーは本題に入る。
「実は、明日は撮影所へ社会見学に行くのですが、
ファムさんは出てきてもらえるんでしょうか? 前
回来られなかったんで、確認しようかと」
「まいずわ!」
 部屋へ逃げようとするファムティア。しかし、ブ
ラッドはファムティアの丸衿を掴んで叱る。
「それは初耳だぞ、ファム。黙っていたな?」
「だって、明日は屋台を出すんでしょう? 私だっ
て手伝いたかったもん」
「いい話ね。非人道的な兵器がまかり通っている世
の中なのに、まだまだ捨てたもんじゃあないわ」
 と、妙な関心の仕方をしている蘭子。
 一方、小夜子はファムティアをこう説得する。
「あかんてファムちゃん。映画撮影なんて、そうそ
う見られるもんとちゃうんやから、行こ行こ」
 そして、響伊那はちょっとした野望を抱いていた。
「映画かあ、いきなり頼んでも出してもらえるかな
あ。よし、明日頼んでみよう!」
 そんな周囲とは無関係に、ブラッドはファムティ
アに授業へ出るよう言聞かせている。チャーリーは、
常識のある人だなあ、と感心しつつ見守っていたが、
ブラッドはもっと根本的な部分で非常識だというこ
とを忘れているチャーリーだった。
 なぜなら書類上とはいえ、ブラッドはファムティ
アと結婚しているのだから。
     @     @     @
「やはり、アナ・ビジョン技能者を連れてくるべき
だったぜ……」
 観光客がめっきり減った王立航空宇宙博物館。ア
シュフォード・龍は、世界初の大量旅客シャトルの
“サンタマリア”号のレプリカを見上げていた。
 そこへ大航海時代の船長のような格好をした青年
ガイドが、満面の笑みを浮かべて近づいてくる。
「ガイドの入用はありませんか?」
「いや、オレは観光客なんかじゃあない」
 ガイドの青年は、どう見ても少年であろうアシュ
フォードの姿をあらためてよく見る。顔に残る傷と
漂う雰囲気が、彼を呑気な観光客などには見せては
いなかった。ガイドは第一印象を見誤ったが、ある
ことに気づく。
「ははぁん、理解しましたぞ。探していますね」
「黙っていろ。それ以上、口を開くなオッサン」
 アシュフォードの口振りは脅しに近いものであっ
たが、ガイドは怯むことなく堂々と滑舌よくしゃべ
りつづける。それも、ガイド特有の芝居めいたオー
バーアクションで手振りをつけながら。
「この私、アリステア・アルは知っている。これら
のレプリカが実は……だということをっ!! 伊達に
私は、毎日毎日観光客の相手をしていたわけではな
いのですっ!!」
 ガイド/アリステアが本気であるということを理
解したアシュフォードは、とりあえず態度を変えて
みる。
「ならば話は早い。オレたちに力を貸してくれ。万
が一の時に備えて……しておかねばならねぇ。これ
は空の果てにいる連中からの要請でもある」
 アリステアは目の前の若者に対し、腕のエングラ
ムを突き出す。
「当然でしょう。この私とて結晶体を持つ身。微力
ながら喜んで協力いたしましょう」
「頼むから、そのオーバーアクションは止めてくん
ねぇか。目立って目立って仕方がねぇよ」
 この日以降、アシュフォードとアリステアを含む
数十名の若者たちが、宇宙船のレプリカに対し何か
の作業を続けている姿が見られるようになった。グ
ローリアス王からの許可は得ているとのことだが、
外部の人間にその理由を語られることは一切なかっ
た。
     @     @     @
 この日、航空要員として働いているヴェルネー・
フォルパルトとグリューネ・樹村は、自前の航空機
を飛ばし、哨戒飛行を兼ねてソナーブイの散布を行
っていた。任務中、ヴェルネーはグリューネと無線
機で言葉を交わしている。
『それにしても大丈夫なのかねぇ、聞いた話だと、
南半球連合と米海軍の機動部隊が合流したらしいっ
て話なのに、こっちの武装といったら自前の装備だ
けだものなあ』
「少なくともこれで対潜警戒は大丈夫ですぞ。ブイ
の動向は全て船に伝わるようなってますから」
 こんな調子でしゃべるヴェルネーだが、れっきと
した若い女性である。
『いやいや、自分でソナーを撒いておいてなんだが、
敵を早期発見してもどうにもならない気がするんだ
がなあ。マトは大きいわ武装はないわで……』
 それも一理ある話だなぁ、とヴェルネーが思って
いると、突然グリューネが叫ぶ。
『何かが向かって来ているみたいだぞ!』
「わたしのレーダーには映ってない。見間違いでは
ないのかな?」
『俺の機体に付けたレーダーは、範囲が広いんだっ
てばよ!』
 そうこうしている内にもヴェルネーのレーダーに
も機影が映った。やがて肉眼でも捉えられるように
なる。
「あ、本当。往還機ですな。けど、この辺に着陸出
来るような場所ってあったかな?」
 ヴェルネーがそう言う間に、往還機は確実に水平
線へ近づいてゆく。
『ない。……いやある。ヴァンダーベッケンだ! 
あれはきっとヴァンダーベッケンを目指して降下し
ていたんだぜ、きっと!』
 そう言われたヴェルネーは、直ぐに無線で確認を
取ると、この日、L5コロニーのワーキンググルー
プから各種現行プロジェクトのための機材が送られ
てくることになっていたらしい。グリューネの指摘
は正しかったのである。
 やがて往還機は着水する。凄まじい勢いで高い水
柱と水蒸気が立ち昇った。グリューネは往還機の落
下とその位置をヴァンダーベッケンに報告。直ぐに
水中工作艇と高速艇が、墜落現場へ差し向けられた
のである。
     @     @     @
 高速艇には数名のフェデレーションメンバーが同
行している。すでに機体番号から目的の往還機であ
ることが確認されていた。甲板の上ではクフィル・
カノウ、大舘淳一、そしてジオビネッタ・デ・ヴィ
オネットらが、往還機の浮上を待ち受けていた。
 清水沢音の声が、誰かのホビットから響く。
『作業終了しました。まもなく浮上します』
 そして数秒後、海面が不自然に盛り上がったかと
思うと、巨大な浮きを無数に付けられた往還機がそ
の姿を現わす。耐熱パネルはボロボロで、船体には
何らかの攻撃を受けた跡がはっきりと残っていた。
 クフィルはこの往還機が、無人機であることに気
づく。
「――とりあえずは無人機で良かったのかな? 有
人機だったら、とんでもないことになっているはず
だろうから……」
 クフィルの言葉を受けて大舘老人は言う。
「本当じゃのお。もし、有人機でこれだけ派手に耐
熱パネルが剥がれていては、誰も生きてはおらんだ
ろうて」
 そして、ジォビネッタは冷静にこの現状を分析し
始めた。
「しかし、これは派手にやられたものだな。旅客シ
ャトルへ再三の攻撃と同様に機構軍の仕業だろう。
これだけやれば大気圏は通過できまいと考えて見送
ったのか、それともこの状態であえて通すことが我
々への脅しにつながると考えてのことなのか……」
 クフィルたちは、往還機の内部に溜まっていた海
水が排出されるのを待ってから乗り込んだ。熱と海
水にやられているであろうAI制御の操縦室はいま
さら覗く意味はないため、そのまま往還機内部の大
半を占める貨物室へ向かう。
 無数のコンテナが並ぶ貨物室の内部は、大舘老人
が指摘した通り、高熱でやられていた。シンプルな
構造の貨物室の壁に接続されている液晶式表示板が
割れて真っ黒になっている。耐熱仕様が前提である
にもかかわらずだ。よくも無事に大気圏を通過出来
たものだ。
 クフィルとジォビネッタを始めとする『アナ・ビ
ジョン』技能保持者たちは、コンテナ内部を確認す
る作業に集中する。高熱によって中身がつぶれてい
るコンテナが全体の3割ほどあったが、この状態で
辿り着いた割には上等だったといえるだろう。ちな
みにコンテナの中身だが、予告通りに各プロジェク
トの希望していた実験機材や医薬品でその大半が占
められていた。一方、大舘老人たちは熱で歪んだ往
還機の貨物用ハッチをこじ開け、中身の確認が終わ
っているコンテナを、遅れて到着した貨物船に搬入
する作業を続けていた。
 未確認のコンテナがほとんどなくなった頃、ここ
にきてクフィルはとんでもない物が入っているコン
テナを発見してしまった。その中身自体は実験機材
のハードケースで満載なのだが、さらにその中身は
様々な銃器と弾丸が入っていたのだ。クフィルは周
囲の者に手伝ってもらい、コンテナを開ける。そし
て中身を、呼び寄せた大舘老人とジォビネッタに見
せた。
「これは巧妙なというか、古くさいというか……。
どの道、アナ・ビジョンで見つかるだろうに」
「それは向こうもわかっているはずだ。ワーキング
グループ側で気を利かせてくれたのだろう。なぜな
ら、このアタシが頼んでいないのだから」
 ヴァンダーベッケンにおいて最も軍事色の強いジ
ォビネッタが言うのだから、発言に説得力がある。
「で、どうします? これ」
 本気で困惑しているクフィル。大量の銃器をヴァ
ンダーベッケンに持ち込んだなどということが、非
武装主義者のグローリアス王に知れれば、自分たち
を含めたフェデレーションメンバー全体が失望され
るのは想像に易しかったからである。
 ジォビネッタは直ぐに提案を出す。
「アタシ個人としては持ち帰りたいところだが……
やはり、このままシャトルと一緒に沈めてしまおう。
陛下にお預けするという手もあるが、下手に反感を
買って信頼を失いたくはない」
「うむ。もったいないが、それがいいじゃろう」
 こうして銃器と弾薬が満載されたコンテナは往還
機と共に、このまま海へと沈められることが決定し
た。
     @     @     @
 無人往還機の件が一段落ついた後、高速艇と共に
ヴァンダーベッケンへ戻ってきた沢音は、同じ水中
工作艇操縦仲間の鰯炉帆積に声をかけられる。
「いたぞ」
「何がです?」
 帰還したばかりということで少し疲れていた沢音
は、ついぶっきらぼうな返事をしてしまう。だが、
帆積は特に気にするでもなく淡々と話し始める。
「シーラカンスだ。清水、お前が言っていたシーラ
カンスの群れを作業中に見たぞ」
「本当ですかあ? 当然、映像とか記録してますよ
ねえ?」
「ん、まあな。だが……」
「じゃあ、見せて下さいよ。見せて見せて」
 急に疲れが消し飛んだかのように、帆積の袖を引
っ張りまくる沢音。
 普段は無表情な帆積の額に、少しだけシワが寄っ
た。どうやら困っているようだ。そして、帆積は沢
音に言うべきことを告げる。
「それがな、写っていないんだ。……本当だぞ。と
にかくシーラカンスはいるぞ。それも群れでだ」
 それだけ言うと帆積は通路をスタスタと歩き去っ
てしまった。
「撮ったけれど、写ってない。……ということはあ
れも幻影なのかぁ」
     @     @     @
 王立総合研究所第1下層の旧セブン・デイズ・シ
ステムの実験室では、数週間前に突如発生した植物
の幻影を調査するため、同実験室の主任の同行のも
と大勢の人々が集まっていた。今や植物の幻影は、
この実験室以外の場所でも数ヵ所で発生しているの
だが、まだ法則性は見つかっていない。
 当初、実験室に出現した植物の幻影はクリエイタ
ーたちがいたマジックミラーの内側の部屋だけに繁
殖していたのだが、今や仕切られていた壁とは無関
係に繁殖範囲を広げ、森林の一部を丸々切り抜いて
持ち込んだようになっているからである。
「あきれたわ。あの落葉樹の幻影、天井を突き抜け
ていますわね。上の階層に到達していたりして」
 皆己・S・クレーラーは、室内に発生している非
常識で馬鹿げた光景を見て面白がっている。
 メイド服を着ている女性、紅流星は誰に言うても
なく、こう洩らす。
「見た感じ第四紀の森林、……のようですね」
「あんた、この手の植物に詳しいのかい?」
 スキンヘッドの男、ジェイソン・タカムラに訊ね
られるが、流星はその風貌を見て思わず萎縮してし
まう。
「あ、いえ。いま大学の図書館とつなげているホビ
ットを見てそう思っただけなんです。本当はわたく
しの知識じゃあないんです。ごめんなさい、ごめん
なさい」
「いや、別に責めたつもりはないんだが……」
 軽い精神的ショックを感じているジェイソン。
 吉野涼子は掛けている眼鏡に手を添えながら、ち
ょっとした疑問を口にする。
「これって、このまま放っておくと最終的には船全
体に広がっちゃうのかしら? 不規則に点在してい
るようだけど」
「今のところは大丈夫だろう。繁殖範囲の拡大はな
いようだからな。それにしても、幻影を見ているだ
けではどうにもならんなあ。モニター記録を見ても
何もわからぬし。手がかりは例のメイド猫だけか」
「悪いけれど、それは違うわ」
 そう言ったのは、数日前に月のガス・グリソム市
から地球へ下りてきたばかりの祀里花だ。よくぞ無
事にたどりつけたものだ。
「原因はランバージャックよ。あなたの言うメイド
猫、祀猫は核融合炉を暴走させたランバージャック
を止めようとして接触した娘で、直接的には何の関
係もないのよ」
 里花はランバージャックの行動原因を調べようと、
この事故が発生した実験室を訪れていたのだが、と
っかかりを見つけられないでいる。
「それは失礼した。考えを改めるとしよう」
 反省するジェイソンに三神住梨緒は訊ねる。
「あなた、セブン・テイズ・システムのモニター記
録を見たと言ったわよね?」
「ああ。だが、見ても何も判らぬぞ。胎児が出来上
がり、少ししたところでフラッシュしておしまいだ
ったからな」
 梨緒は人差し指を立てて周囲に訴える。
「そう。その胎児よ。胎児は一体どこへ消えてしま
ったの?」
 これまで実験室の管理者として立ち合っていただ
けの主任が、意見を述べる。
「これまでの通例から考えれば、実験が停止した時
点で情報は崩壊して無に戻る。―――だが、あの時
は停止時の現象自体が通常と異なっていた上、我々
は胎児が崩壊する場面を実際に見たわけではない」
     @     @     @
 同じ頃、ヴァンダーベッケンの動力部のひとつで
は、ちょっとした騒ぎが発生していた。先日と同様
にヴァンダーベッケンに隠された秘密を探ろうと動
力部をうろうろしていた天撃川恵と凱騎京介たちと、
点検の見回りを続けていたカナ・デキルと天ヶ瀬匠
生たち整備員らが遭遇したのだ。彼女らの遭遇によ
り、無意味な言い合いの声が動力部に響いたのだが、
結局は、それらの声を聞いて駆けつけたキョウカ・
ライスシャワーが仲裁に入り、騒ぎは収束したのだ。
ちなみに水原奈乃や森ノ宮さつきは、それぞれ別の
場所でエングラム技能やホビットで船の秘密を探ろ
うとしていたが、技能の力量不足やアクセスの優先
権の問題で失敗している。
 恵たちの捨て台詞が響く中、カナたちはキョウカ
にお礼を言う。
「助かったわ、ホントに」
「わたしも彼女たちの気持ちは分からなくもないの
だけど、秩序を乱してまで知る必要はないもの。時
が来れば分かることでしょうし」
「そうなのよ! そこんとこを連中は分かってない
のよね」
 ウンウンとうなずいているカナの肩を、匠生が突
く。
「点検終わったことを報告しなくていいのかい?」
「あっ、そうだった!」
 一定場所に固定されている整備員用の無線機を目
指して駆け出すカナ。ホビットを使えば済みそうな
ことだが、この船には妙に古くさくて非効率的な部
分が残っているらしく、通常の報告は船内に点在す
る無線機を通じて行なわれているのだ。
 カナの姿が物陰に隠れたその時、カナの呆れてい
るかのような叫び声が響き渡る。匠生たちが駆け付
けると、無線機の周囲に落葉樹が数本生えていた。
エングラムを持たない整備員にこれを見ることが出
来ず、例の幻影であるということは直ぐに判明した。
整備員たちは直ぐに上に報告すべきという意見をあ
げるが、カナはその意見を思い止まらせる。
「ちょっと待って。アタシ、エングラムを接触させ
てみるわ。整備員として、動力部に支障をきたすか
もしれないこの幻影を調査する義務があるもの」
「それはいいんだけれと、そいつは少し危険じゃあ
ないのかねぇ?」
「幻影はクリエイター技能の産物であるという仮説
があるわ。だとすれば、情報流入過多で精神崩壊を
起こす危険性があるのよ」
 匠生とキョウカは心配するが、あらかじめカナは
ある対策を講じていた。
「じゃーん。というわけで、情報流入を制御するエ
ングラム技能<名称不明>を転写してみましたっ」
「なるほどぉ、それならヤバイ事態は避けられる」
「さあて、ひとつ頑張ってみようかなーっと!」
(とはいえ、まだちっとも試してないからなあ。ち
ょっとドキドキものなのよね……)
 カナが落葉樹の幻影に手をのばす。だが、特に反
応はない。手も通り抜ける。接触は失敗だ。
 だがその時、樹の上から鳩が舞い降りてカナのエ
ングラムに止まった。だが、感触はない。
 この鳩は幻影なのである。反射的に意識を鳩に向
けたカナは、鳩の爪の感触を得る。そして、単純で
断片的な意味付けのしようのないイメージが、連続
で繰り返されてカナの頭に届いた。
 濃い緑色。澄んだ青色。豊かな黄土色。透明感の
ある灰掛かった白色。輝かしい藍色。毒々しい赤色。
重い灰色。―――そして、閃光と闇。
 我に返ったカナに対し、キョウコはホビットの映
像を眺めながら幻影について語る。
「マーサだわ」
「えっ?」
「尾のパターンを検索したら、すぐにヒットしたわ。
図鑑によると、絶滅種のリョコウバトみたい。しか
も、ワシントンの博物館に展示されている最後のリ
ョコウバト“マーサ”にそっくり」
 その時、ホビットから唐突に女性の声が発せられ
る。
『ラウル、ラウル。どこにいるの……』
「げっ、なんだぁこの音声。気持ちわりぃ。せっか
くの図鑑との接続、切れちまったじゃねえかよ」
 キョウカのホビットを気持ち悪そうに覗き込む匠
生。映像はすでにブラックアウトしている。
 カナは未だ離れない鳩を見つめながらこう言う。
「いいわ、とりあえず確認は出来たから。とりあえ
ず、きみの名前はマーサということで」
 そうカナが言うと、鳩は手から離れて舞い上がる。
そして、整備員たちの真上を飛び回りはじめた。そ
れは、付けられた名前に満足しているかのようだっ
た。
     @     @     @
 未来予測のためのエングラム技能<タイムトレー
スムービー>を作り上げるために活動するプロジェ
クト<アガスティア>のメンバーたちは、王立総合
研究所の丸々一室を実験室を与えられていた。
 この実験室、フェデレーションから承諾を受けて
いる分、設備は充実している。そして何より<アガ
スティア>はセブン・デイズ・システムの研究デー
タを引き継いていた。
 プロジェクトリーダーのバレンシア・フォレスタ
ーはメンバーに対し、各自それぞれの手法で研究さ
せた。そしてそれら結果を元にして<タイムトレー
スムービー>を作り出そうとしているが成果はない。
 現状を危惧するプロジェクトリーダーのバレンシ
ア・フォレスターは、メンバーを集めて緊急ミーテ
ィングを行なう。
「私たち、それぞれいろんなやり方で<タイムトレ
ースムービー>を作り上げようとしてきたけれど、
成果があがらない以上、アガスティアとセブン・デ
イズ・システムが補完しあえる関係というのは、ど
ういう意味なのかを考え直す必要があるみたいね。
自力で技能開発をすることは可能だとは思うけど、
どうもセブン・デイズ・システムの成果に<タイム
トレースムービー>完成への手がかりがあると思う
のよね……」
 重い空気の中、大虎斑源八は思わずぼやく。
「私たちはそれなりの成果を見いだしているのに、
一体、何を間違えているのだろうか?」
 実験成果を呟き始める閂貞瑠。
「<アナ・ビジョン>と<サイバーアクセス>の融
合による情報の単純符号化。情報圧縮システムとし
ての『file-sol』の活用、ただし現時点での解凍法
は不明。情報量を制御するための<名称不明>技能
活用……」
「ついでに言えば、ランバージャックを活用するこ
との非効率性と、未来予測におけるネット上の情報
の無意味さが判明」
 江陽隆旭は貞瑠の呟きを、こう補足した。
「あとは<アナ・ビジョン>の判別能力の強化も忘
れないでね」
 と付け加える王珠鈴。
「全て正しくて、何かが欠けているだけかもしれな
いな……」
 自分を含めた周囲を励ますべく、ゲオルグ・オス
マイヤーはそう言うのだが、根拠なんてものはどこ
にもなかった。メンバーたちも同様のことを考えて
いるらしく、実験室内の空気に変化はなかった。
 その時、突然、実験室の扉が乱暴に開かれる。
「ここや、間違いないっ!」
 全員の視線は、声の響いてきた扉へ向けられる。
そこにはポニーテールの女性が堂々と立っていた。
 バレンシアに軽く頭を下げたその女性は、<アガ
スティア>のメンバーをざっと見た後、貞瑠の真前
に立ってにやりと笑う。
「あんたやな? ―――ふうん、黒い髪に青い目や
なんてちょっとええやん。スカした感じはするけど、
まあ合格やね」
 そう言って貞瑠に手を差し出した。
「だ、誰だ君は? いきなり人を値踏みするなんて
失礼じゃないか」
 そう言いつつも、女性に合格と言われたことがま
んざらでもない貞瑠は、思わず差し出された手を握
ってしまう。
「まだ分からへんのお? あたし小石川虎美は、あ
んたのネイバーのひとりや」
 そして、虎美は一歩下がって貞瑠の仲間たちに改
めて挨拶をする。
「あたし、小石川虎美です。ネイバーの人がいるっ
てことで、お手伝いさせてもらいに来ましたあ。ど
ないやろ」
 貞瑠を含めて未だ面食らっているメンバーを代表
してバレンシアは言う。
「ま、いいんじゃあないの。何にしても活性率が上
がるってことは便利なことだしね」
     @     @     @
 植物状態に陥っているクリエイター技能保持者が
収容されている王立総合病院に、彼女たちを治療し
ようと、脳外科医のカイゼル・本郷が訪れた。無論、
自らの執刀で彼女らの意識を取り戻してやることが
目的である。しかし、カイゼルは自分のホビットに
転送されてきたカルテを見て愕然させられてしまう。
大脳の損傷を除去することで植物状態からの回復を
目指していたのだが、いずれの脳にも除去すべき傷
はなかったのである。腕に自信のあったカイゼルも、
これでは諦めざるを得ない。
 また、リンドウとエディート・リンドナーはそれ
ぞれ、クリエイター技能保持者たちとエングラムを
通じた精神交流や感情刺激の送信を行おうと試みて
いたのだが、実行に至る以前の問題で失敗に終わっ
ている。これまでクリエイターたちの手に残ってい
たエングラムが消失してしまったからだ。それは、
エングラムを通じて行う精神的なアプローチが、不
可能になったことを意味していた。
 しかし、それでもクリエイター技能保持者たちの
元を訪れる者たちがいた。グウィネス・スポールと
青木小夜子だ。2人はとにかく励ますことが意識の
回復へつながるのだと考えて訪れている。だが、そ
の献身的な行為による成果は、全く何も見えてこな
い。
     @     @     @
 ハーベイ・フォーンセットとその養女の羊・さよ
り菜・リンネルシュタイン、そしてルーファ・ブル
ーの3名は、王立総合研究所の一室を自分たちの研
究所として借りている。目的はセブン・デイズ・シ
ステムの事故原因の調査とクリエイター技能保持者
たちの意識回復である。
 ハーベイたちが事故の検証を続けているというこ
とを耳にした主任は、彼らの研究室を訪れる。そし
て、彼の考える事故の原因を語り聞かす。
「―――私が原因として推測するのは、時間同調だ。
通常ならタイミングさえ誤らねば問題のない作業の
瞬間に限界を越える負荷が加わったのだろう。そう
でなければ、あんな状態に陥ることなどはない」「
なるほど。目一杯空気の詰った風船の中へ、更に空
気を吹き込んだようなものか。それも一瞬で大量に」
 と、主任の説明を理解するハーベイ。
 さより菜は、短冊に質問を凝縮した短文を書き、
それを主任に見せる。
『なぜかしら ランバージャックは うごかない』
 主任は質問の意図を理解した。
「ランバージャックは興味を持たないことにいちい
ち反応しない。だからこそ<クリエイター>は可能
だったのだ」
 更にルーファが訊ねる。
「私はエングラムインターフェイスと同調しても何
も得るものがなかったのですが、主任さんはどうお
考えですか?」
「君はクリエイターたちの精神がインターフェイス
内にとり残されていると考えているようだが、それ
は大きな思い違いだ」
「では訊くが、彼女たちの精神は今どこにあるとい
うのだね?」
 基本方針を否定されたハーベイがあらためて訊ね
ると、主任は一瞬ためらった後に語り始める。
「今は機械で生かされているに過ぎない彼ら自身の
体の中だよ。エングラムが消えてしまった状態にお
いて、まだあるといえるならばの話だが……」
     @     @     @
 プロジェクト<ザムザ>とは、エングラムによる
身体への干渉が可能かどうかを探るプロジェクトで
ある。そして、もし可能であるならば、何ができて
何ができないのかを追求することまでがプロジェク
トに含まれている。
 現在、<ザムザ>のプロジェクトメンバーたちは
<細胞系/因幡弥生、ニイヤ・ドッペルゲンガー、
今岡形>と<内分泌系/ミスト・ルシオーネ、レモ
ン・ライム、張・麗>の2つのチームに別れ、最初
の壁を越えるべく、L5コロニーのワーキンググル
ープから送られてきた物資の中に含まれていた医療
用マイクロマシンを<サイバーアクセス>でコント
ロールする実験を続けていた。形は、サイバーアク
セス技能を発展させることこそが、エングラムによ
る身体へのアクセスの鍵だと確信しているのである。
「ほんとは有機ナノマシンが良かったんだけどなあ。
ナノマシンが身体に及ぼす影響とか知りたかったの
よねえ。さすがのフェデレーションも取り扱ってな
かったみたいね」
 細胞系チームの形がそうぼやくと、同じ細胞系チ
ームの弥生が前向きなことを言う。
「でも、練習には丁度いいですよ。これが満足に制
御出来ないようじゃあ、ナノマシンなんて制御でき
るはずないもの」
 細胞系チームではあるが、現状ではやることのな
いニイヤは、長い銀髪の毛先を指でもてあそびなが
ら意見を出す。
「とはいえ、どこかから調達してもらわないと実験
が進みませんね。確か木星辺りのプロジェクトチー
ムが使っているのでは? 分けてもらうよう要請し
てみてはいかがです」
 ニイヤの意見を聞いた形は、分泌系チームへ視線
を送ると、一旦沈黙した後、チーム全体の現状を分
析する。
「―――そうねえ。あとは分泌系チームのために、
有効なデータを持っていそうなチームを探さなきゃ。
細胞系はこのまま技能を高めればなんとかなりそう
な気はするけれど、内分泌系はちょっと難しい部分
があるかもね。ともかく、まずはナノマシンを入手
した後、研究と制御を続けて技能を高め続けること
かしら?」
     @     @     @
 ヴァンダーベッケンが南極海域に到達して数日経
ったこの日、船全体が緊迫感で覆われていた。航空
要員たちが連日散布していたソナーブイについに反
応が出たのだ。これまでの教訓もあって、すでに市
民に対しては船体下層区域の居住区へ避難するよう
勧告が出されている。
 普段はブリッジにいないグローリアス・ビクトリ
アヌス1世もさすがに姿を見せ、妙に余裕のある表
情で椅子に腰を降ろしている。
 そんなグローリアスの様子が気になる船長は、思
い切って確認してみる。
「陛下、私の船にまた何かやらかしましたな?」
 グローリアスはデータカードを指で挟んで取り出
すと、無邪気な笑みを船長に向ける。
「まあね。でも、なにをしたのかは秘密なんだ」
 優雅な動作で椅子から離れたグローリアスは、手
にするカードを管制コンピューターのパネルに差し
込むと、何やら口頭で命令を伝え始めた。
 船長がそれを聞き取ろうとした時、レーダー手の
声が、グローリアスの声をかき消した。
「―――巡行ミサイル来ます!」
「回避、間に合うか!」
「絶対無理です!」
 ブリッジにいる全員が衝撃に備えるが、その衝撃
は全く伝わって来ない。レーダー手はすぐに報告を
入れる。
「巡行ミサイル、当船へ直撃せず。なぜか逸れてし
まいました!」
 船長が疑問を口にする前に、グローリアスは笑み
を浮かべながら説明する。
「この間のこともあるからね、光学迷彩やジャミン
グで迷走させてみたんだ。間に合ってよかったよ」
 そう言ってグローリアスはコンピューターへの命
令を再開する。
 船長は一安心するのだが、そこへグローリアスに
こう付け加えられる。
「―――あ、そうそう。数発が限界だよ。向こうも
対策を練ってくるはずたからね」
 この後、数発の巡行ミサイルはヴァンダーベッケ
ンの巨体に命中することはなかった。
 しかし、グローリアスの指摘通り、南半球連合側
は巡行ミサイルの誘導設定を変え、戦闘爆撃機をヴ
ァンダーベッケンへ差し向ける。プレステル側の航
空要員たちは、爆撃機の接近を阻止しようと少ない
装備で立ちはだかるのだが、ミサイルは次々と着弾
し、爆撃機から投下されるポッドの大半も命中した。
何にしてもヴァンダーベッケンという的は大き過ぎ
るのだ。
 その結果、甲板部分に直撃したミサイルからは非
致死性のガスが吹き出し、ヴァンダーベッケンから
は無数の煙が立ち昇り始めだ。幸いなことは、既に
市民や難民の大半は下層区域に避難し、船体も気密
モードへ移行しているということだった。だが、問
題なのは主に滑走路へ落下したポッドである。ポッ
ドの中身は、即乾性の特殊凝固剤と無意味な形状の
固形物。ポッドは炸裂して内容物をぶちまけること
で、滑走路をでこぼこにし、待機していた航空機や
往還機までも固めて使用出来なくするという効果が
あった。
 凝固剤は酸もアルカリも受け付けず、バーナーの
炎にも燃えずただ有害な煙を発し、ドリルビットは
滑ってしまいろくに削り取ることもできない。特殊
な薬品でないと溶かせないのだろう。
 これが実に効果的で、この日これから宇宙を目指
して飛び立たとうとしていた人々を足止めしたので
ある。
     @     @     @
 王立航空宇宙史公園に展示されている往還機など
のレプリカの整備を続けていたアシュフォードとア
リステアたちだったが、滑走路の使用が出来なくな
っていると知り落胆していた。
「ちっ、結局は無駄骨に終わっちまうのか。特にコ
イツなんて、完璧以上に整備してやったのによお」
 大量旅客シャトル“サンタマリア”の前でしゃが
み込んでいるアシュフォードたち。そこへ、彼らと
同様にこれまでレプリカの整備を手伝っていたイナ・
マスタがスーツを着た女性を連れてやって来た。「
アシュフォードさーん、紹介したい人がいるんです
けどー。アルバさんっていうんですよー」
 アルバは軽い会釈で挨拶をすると、さっそく本題
に入った。
「イナから聞いて来たんですけれど、ここのレプリ
カって本物と同様に飛ぶんですってね。だったら、
これ飛ばせます?」
「ああ、どれもこれも飛ばせるぜ。俺たちゃ、ちっ
とばかり熱を入れすぎて本物の現役当時よか、性能
がアップしているくらいだせ」
 アリステアは急に立ち上がり、アルバに訴える。
落胆している最中であるため、やや控えめなアクシ
ョンになってはいるが。
「そう、我々はこの日のために動いていた! この
公園にある内部構造も実物同様のレプリカをダミー
として飛ばし、機構軍を混乱させることで、宇宙へ
向かう人々が確実に大気圏を抜け出せるように!」
「オッサン、話がくどいぜえ」
「ふうん。だったら、人を乗せても大丈夫よね? 
現役型の機体だと、撃墜される可能性が高いから、
こういったレトロな機体がいいのよ。そうそう、私
の目的を言っていなかったわね? 私の目的もあな
たたちと同じで、宇宙へ出ることを希望する人々を
送り出すことなのよ」
 未だしゃがんでいるアシュフォードは言う。
「そりゃあ、いいことだしよお、人を乗せんのも保
障してやるけどな。で、一体どうやって打ち上げる?
 打ち上げ台を建てるはずの滑走路はまともに使え
ねえとかいう話だぜ」
「そうねえ……」
 アルバが腕を組んで考え込んでいると、優しげな
声が博物館の方から届く。
「心配いらないよ」
 それぞれが声のした方を向くと、そこにはグロー
リアス王の姿があった。
     @     @     @
 ブリッジ。船体各所に被害が出ているというのに、
グローリアスの口数がない。これに気付いた船長は、
振り返って様子をうかがう。
「陛下、……陛下?」
 自然な笑みを浮かべているだけで、返事はない。
「陛下、失礼いたしますぜ」
 不審に思った船長は、グローリアスの体に触れよ
うとすると、手は通過してしまった。
「―――はあっ! これはホログラム!」
 船長はグローリアスが、いつのまにか居なくなっ
ていることにようやく気づいたのだった。
     @     @     @
 その頃、水中工作艇に乗るリーゼ・ジグルト・ラ
ングナールは、ありったけの防潜ネットでヴァンダ
ーベッケンの周囲を覆うべく、同じく水中工作艇に
乗る者たちと共に作業を続けている。当然、海上都
市を覆い切るほど防潜ネットがあるはずもなく、気
休め程度にしかなりそうもない。始めから判ってい
たことではあるが、リーゼたちは開きっぱなしの無
線で愚痴をこぼしている。
『―――何か他に対策とかしておいた方がいいんじ
ゃあないのかねぇ?』
『これじゃあ、ネットに触れる方が難易度高いよ』
「大体、この程度のネットでどうこうしようとする
よりも、船内の汚泥を周囲に撒いた方が煙幕にもな
って、効果があると皆さん思いません?」
『…………』
 それまで誰かしらが声を出していたのだが、リー
ゼの発言により、一瞬静寂が訪れた。そして、甲斐
武人が女言葉で恐る恐る突っ込みを入れる。
『確かに効果があるかもしれないけれど、そりゃあ
まずいわよ』
「汚泥なら、自然に還りますわ」
『そういう問題じゃあなくてねぇ―――』
 武人の言葉が途切れる。
 リーゼはその理由を理解している。リーゼと武人
を含めたこの場にいる全ての者たちは、ヴァンダー
ベッケン目掛けて複数の魚雷が同時発射されたこと
に気付いたからだ。
 南半球連合側から発射された魚雷たちは、水中で
作業を続けていた者たちが具体的な反応を見せる前
に着弾していた。案の定、ネットに引っ掛かったの
は1発だけで、残りは全てヴァンダーベッケンの横
腹を破損させていた。しかし、莫大な容積率を誇り、
複合構造を持つヴァンダーベッケンにとって、この
程度の破損は蚊が刺した程度のダメージだ。
 一方、水中工作艇に乗る者たちの中で魚雷に巻き
込まれた者はなく、当然武人も多少水流に揉まれた
程度で無事だった。
 武人の無線機に仲間の声が響いている。その内容
からは特に誰も負傷していないようだった。更に状
況を確認しようと前方を映すモニターと耐水ガラス
から外を見比べたその時、武人は耐水ガラスの向こ
う側にだけ魚の群れを見た。
「あら、シーラカンスの群れ。……でも幻影よね。
シーラカンスが南極の海なんかを泳いでいるはずが
ないもの」
『何をブツブツ言ってらっしゃるの? 前方から何
か迫っていますわよ』
 リーゼにそう急かされ、改めて前を向くと、複数
の大きく長い機影が見えた。
「何なのあれ?」
『わかりませんわ。ともかく、あのアームで破損箇
所をこじ開けてどうにかしようという腹なのでしょ
う』
「アタイらの機体じゃあ、歯は立ちそうもないわ。
接近戦に持ち込めても勝てないわ、多分」
 黒い巨大イカのようなフォルムに長くて大きなア
ームを持つ、米海軍所属の水中突撃艇だった。
 水中工作艇乗りたちが躊躇している間にも、数艇
の水中突撃艇が船体の破損箇所を目指して突っ込ん
で行くが、どうすることもできなかった。水中突撃
艇は、自らが放った魚雷が空けた穴の端をアームで
がっしり掴むと、そのまま力任せに穴を広げ、機体
の頭を突入させている。搭乗している兵士を船内へ
と送り込むためにだ。
     @     @     @
 その頃、船体下層区域では整備員たちが騒いでい
た。南半球連合軍の魚雷によって破損した部分が何
ヵ所もあるのにかかわらず、コンピューターが隔壁
を開けてくれないのだ。それも、ずいぶん手前の隔
壁からだ。整備員たちが何度要求しても返って来る
答えは同じだった。
『現在、SDSが最優先システムとして作動中。命
令は却下されました』
     @     @     @
 水中突撃艇からヴァンダーベッケン内に突入した
米海軍の特殊部隊員は、動力部を目指して通路を進
んでいる。ヴァンダーベッケン攻略の瞬間を撮影し
ようとカメラを持って同行しているミラー・マフィ
ンは、なんとなく嫌な予感がしていた。
 何の前触れもなく周囲の空間が一変する。何でも
ない通路であったはずなのに、壁や配管が全て霜と
氷に覆われたのである。
「馬鹿な、幻覚だ! プレステルお得意のVRか何
かに決まっている!」
 部隊の士気を下げぬよう、指揮官は叫んでみるが
効果はない。なぜなら、彼らは全員ホログラムを瞬
時に解析して無効化する機能を持つAIゴーグルを
装備しているにもかかわらず、霜と氷がはっきりと
見えるのだから。さらに決定的なのが、壁を触れば
冷たい感触とグローブに霜が貼りついて剥がれる感
触もあるからだ。そもそも吐く息が水に溶いた片栗
粉のように白い。疑いの余地はなかった。
「マフィン、映像記録は撮っていたな、よこせ!」
 大尉はミラーからカメラを奪うと、巻き戻して空
間が変化する瞬間を見る。するとやはりフィルムに
は変化の瞬間がきっちり映っていた。
「大尉、カメラを返してもらえませんか。私はあな
たの部下じゃあありませんので、艇へ戻らせていた
だきますよ。何か嫌な予感がしますからね」
「ああ、戻るがいい。臆病者め!」
 カメラを返してもらったミラーは、すぐに来た道
を辿り、突入艇へと戻ることにした。危機を感じて
戻ることにしたミラーは実に良い判断をしていたこ
とを数10分後に知る。そして、大尉は数分後、自
分の判断が正しくも完璧に間違っていたことを思い
知ることになる。
 この後大尉たちは、怪異的事態に遭遇し続ける。
炎の海、底無しの沼、砂漠の世界、などなど。その
中で何人もの脱落者を次々と出し、最後に残った大
尉も高所から墜落する“幻覚”を見てショック状態
へ陥り、戦闘意欲を完全に喪失した。……幻覚。そ
う、すべて幻覚なのである。すべてはグローリアス
王が組み上げたSDSという名の防衛システムの仕
業だった。
 SDS……つまりセブン・デイズ・システムの技
術遺産である。
 こうして、水中突撃艇でヴァンダーベッケン内に
侵入した米海軍特殊部隊員たちは、全員何らかの失
態をさらしながら整備員に発見され、捉えられるこ
とになるのである。
     @     @     @
 すでに往還機サンタマリアレプリカには、宇宙へ
出ることを希望する戦争難民たちのほとんどが搭乗
を完了している。
「さて、そろそろ撮影を観に行くよ。ではアルバく
ん、イナくん、君たちはシャトルに同行するんだっ
たね。道中よろしく頼むよ」
「はい。任せてください」
「飛ばされるだけなんですよー。―――イタッ!」
 余計なことを言うイナ・マスタは、アルバに背中
をつねられてしまった。
「ところで王様よう、俺らに発射の合図を任せてく
れんのは構わないけれどよう、ここにある機体、ド
ームからどうやって出して、どこから合図を出せば
いいんだい?」
 近衛兵たちはアシュフォードを睨むが、当人はま
ったく気にする様子はないし、言われたグローリア
スも気にしてはいない。
「ああ、まだ言ってなかったね。ここにある機体の
管制塔、実は航空宇宙史博物館がそうなんだ。とい
うことで、この公園ドーム自体が発射場になってい
るんだ―――」そして、グローリアスはホビットを
取出し、モニターを2、3回触れると公園全体の木
々や芝生、そして飛行予定のないレプリカ機がゆっ
くりと沈んで行く。「―――あとは、博物館、もと
い管制室へ全員が入ったのを確認したら、天井のド
ームを最大で開けてほしい。そうすれば、ここは立
派なステーションだ。ただ、足元に残っている芝生
が土ごと焼けてしまうことは少しもったいなく思う
けどね」
 そうグローリアスが説明している間に、引っ込ん
だ部分を全て足場が覆った。おそらくは耐熱性なの
だろう。
 こうしてグローリアス王は、近衛隊が手配したリ
ムジンに乗り込み、航空宇宙史公園から去った。後
は、地球軌道上にいるグワイヒアの許可を得て、ダ
ミーを含めた往還機を送り出すだけだ。
     @     @     @
 上層構造を流れていた非致死性ガスは、すでに南
極の冷たい風にかき消されているようだった。効果
がないと判断され、敵からの攻撃は滑走路に対する
凝固剤の投下が中心に切り替わっているのだ。フェ
デレーションメンバーを主とする航空要員たちは、
撃墜されないよう爆撃機を牽制するが、滑走路の大
半は、凝固剤で汚されていた。
 グローリアスの乗ったリムジンは凝固剤を躱しつ
つ、『彗星動乱』の撮影現場へ無事到着していた。
 マッチ箱を等寸拡大したような特設のスタジオの
入口の前には、ガスを警戒して防毒マスクで顔を覆
った映画スタッフが数名、寒そうながらも緊張して
立っている。
 そこから少し離れた格納庫の中には、アハメイ・
耶摩覇が操縦する“ワンダー・ネレイド”号が、映
画撮影チームのために待機していた。
 リムジンから降りたグローリアスは、彼らに会釈
をすると、必要以上に丁寧な対応を受けてスタジオ
内部に通された。
「―――ウェブを見ろ。生中継の真っ最中だ!」
「ねえ見た見た? あたし映っちゃった!」
「リンダ? そこにいるの?」
「ええい、ちょろちょろするな―――」
 《彗星動乱》の生中継のはずなのに、いきなりリ
プフェルト監督の怒鳴り声が響いている。
「このスペクタルを撮らずに逃げられるか!」
 監督は手にしているホビットと助監督にそう怒鳴
った後、グローリアスにも気づかず、ホビットを放
り投げて撮影に集中してしまう。
 映画スタッフの誘導のために訪れている大谷和美
は、宙を舞うホビットを受取ると話し掛け始める。
「何百人かの難民がいますから。……収容能力はあ
りますよね?」
『3隻…………船体………ントできま………』
 和美が相手に対して冷静に状況を説明している。
グローリアスには、周囲の黄色い声がうるさくて相
手の声はよく聞き取れない。おそらくは、その相手
がグワイヒアの通信士か何かだろうと、グローリア
スはその会話から理解し、和美の方へ歩みを進める
と、だんだん相手の声も聞き取れるようになって行
く。
「よかった! もう乗り込み始めているんです」
『……っと待ってください。ヴァン……ベッケン。
そこにどなたか責任者の方はいらっしゃらないんで
すか?』
 和美は周囲を見回している。そして、グローリア
スと目が合うと、嬉しそうに駆け寄って来てホビッ
トを彼に差し出した。
(確かに私は責任者といえば責任者だね、ウン)
 そう思いつつ、グローリアスは笑みを浮かべてホ
ビットを受け取ると、とりあえず話し掛けてみる。
「私でよければ。グローリアスだが」
『王様!』通信士であろう女性の声が裏返る。『え
ーっと、わたしに考えがあります。打ち上げを少し
待って下さい』
 沈黙するホビット。グワイヒア側で何かしている
らしい。
「何の話だい? やはり往還機の件なのかい?」
 グローリアスは和美にそう訊ねると、和美はうな
ずいて返事をした。その間に暗号化された通信文が
ホビットへ届く。グローリアスはその暗号文をホビ
ット自身に解析させると、通信士の提案が表示され
た。
《往還機を打ち上げるのは結構なんですが、ただそ
れだけでは機構軍から狙い撃ちされてしまいます。
できれば、そちらからダミーとして無人機を打ち上
げていただけないでしょうか》
「名案だね。実はこちらも同様のことを考えていた。
あんまりのんびりしてもいられない。敵の攻撃はな
かなか本気でね。宇宙港の機能が死なないうちにや
ってみよう」
 グワイヒアとの交信はここで終わる。
「あのう、確か滑走路はがたがたでもう使えなくな
っていると思ったんですけど?」
 首を傾げる和美にグローリアスは笑みを浮かべて
こう答える。
「いや、そうなんだけど実はそうじゃあないんだ。
ちょっとした秘密があってね」
     @     @     @
 それからほどなくして、王立航空宇宙史公園から
数機のロケットが飛び立って行く。エネルギヤ、サ
ターンV、アリアン、H−2、ソユーズなどなど。
それらの中で唯一、有人機なのはサンタマリアを載
せただけだった。
 歴史上、おそらくもっとも機体密度の高い同時発
射だっただろう。実は発射時、街に対しての隔壁だ
ったドームの壁の内側は、熱と炎で渦巻いていた。
ウォータースクリーンの発する水蒸気ももうもうた
るものだ。
 管制塔として機能していた博物館も耐熱構造でな
ければ消滅していたはずである。
 打ち上げ後、アシュフォードは脱力してこうぼや
いた。
「やれやれ。南極まで来てこんなクソ暑い思いをす
るたあ、予想もしなかったぜぇ……」
     @     @     @
「みなさんの乗るシャトルは向うに見える格納庫で
待機してまーす」
 綾崎未有の示す格納庫を目指して映画撮影チーム
と彼らの誘導担当者たちが全力で駆けている。そう
しなければ死ぬからだ。実に簡単な理由であった。
 戦況は映画撮影後を合わせたかのように、激しさ
増し始めている。レプリカを折り混ぜた有人往還機
の打ち上げ成功が、宇宙開発機構軍に火をつけてし
まったのだ。さらなる打ち上げの阻止を狙うべく、
一旦は納まった非致死性ガスの攻撃が爆撃という形
で再開し、装甲強化スーツにロケットベルトを装着
した機動空挺部隊が宙を舞い、鉛弾を吐き出してい
るのだ。本当に早く走らねば死にかねない。
 が、重い機材を抱えている撮影チームの足は速か
った。彼らは普段からリプフェルト監督に鍛えられ
ているのかもしれない。むしろ遅くて危険なのは、
誘導担当者たちという有様だった。
「ハア、ハア……誘導しに来たはずなのに、一緒に
走るハメになるとはなあ」
 ラム酒のビン持って全力ダッシュをしているカル
ロ・山家・メンデスがそうぼやくと、彼と同じく撮
影チームの誘導に参加していたバスドルバル・マー
ベスがすかさず突っ込む。
「……映画撮影をツマミに呑んでいたバチだよ、そ
りゃあ。陛下に頼んでリムジンにでも乗せてもらっ
たらどうだ」
「……そりゃ、ナイスなアイデアだあ」
 息切れ切れの状態で、カルロがリムジンの方を見
てみると、ひとりの機動空挺員がリムジンにいるグ
ローリアスに気づいて降下していた。
「やばいぜ、王様が狙われてる!」
 危険であるにもかかわらず、カルロとマーベスは
足を止めるが、既にグローリアスは空挺員に銃を突
きつけられた状態で、リムジンの外へ出てきてしま
っていた。なお近衛兵は何も出来ない状態でいる。
 2人は何も考えずに、グローリアスを救出すべく
改めて駆け出す。その時である。急にグローリアス
が、カルロとマーベスの方を指差して、空挺員に2
人を発見させたのだ。
「げえっ!」
「なんてことをっ!」
 当然、空挺員の銃は丸腰の2人に向けられてしま
う。その時である、うまく相手の気を逸らせたグロ
ーリアスは、リムジン内にいる近衛兵から何か小さ
な物を受取ると、それを相手のゴーグルに押しつけ
た。すると空挺員は顔を押さえて取り乱し始めた。
グローリアスはすかさず相手の腕を取り、前へ押し
倒して頭部を踏み付けにした。その後はリムジンの
中から2名の近衛兵が飛び出し、特殊な手錠のよう
なもので空挺員を拘束してしまった。
 空挺員をそのまま置き去りにしてリムジンに乗り
込んだグローディアスは、カルロとマーベスに近づ
けて、車に乗るよう促す。そして、グローリアスは
対面に座る2人に頭を下げた。
「すまなかったね。君たちを囮にしてしまって」
「いいですけれど、あの時、何をしたんです?」
 マーベスはグローリアスが空挺員に何を押しつけ
たのか知りたかった。
「ライターだよ。少しばかり火力の激しいライター
で電子ゴーグルの視界を潰してやったんだ」

 同じ頃、往還機を目指して甲板を懸命に走るリプ
フェルト監督にも危機が迫っていた。滞空中の特殊
空挺部隊員たちが持つ銃が彼を狙っているのだ。
 だが、当人はそれに全く気づいていない。あまつ
さえ、走りながら女優に演技指導なんかをしている
のである。そして、空挺員たちが引金に掛かる指に
力を込められようとしていた時、リプフェルトの手
にしている何かの機材から一瞬だけ光が洩れると、
その直後から、空挺員たちの様子がおかしくなって
しまう。ロケットの噴射調節バランスが狂ったのか、
あらぬ方向へ旋回しだしてしまったのだ。
 空挺員たちは必死で制御しようとするがどうにも
ならない。ある者は滑走路に頭を擦りながらもなお
滑り続け、ある者は凄い勢いで回転しながら南極の
海へ墜落した。いずれの空挺員も何らかの形で戦闘
不能となり、リプフェルト監督は命の危機であった
ことを知ることなく、その危機を逃れていた。
     @     @     @
 往還機ワンダー・ネレイド号には、命からがらで
駆け込んだ映画撮影チームとその機材が満載となっ
ている。文字通りの満載状態だ。
 この往還機の所有者であるアハメイ・耶摩覇は、
船内無線のマイクをガッシリ握り、発進前のトーク
で乗客の心を和まそうとしていた。
「全員のってますかあ? かなり無茶してるから、
お宇宙(そら)へ出る前にアンコがでちゃうかもし
れない人がいるかもしれないけれど、そこはガマン
ガマンでお願いね☆ だって、お掃除面倒だもの」
「アハメイちゃん、アカンて。不安にさせることゆ
ーたらあ。でも、これからどーやって離陸すんのや
ろ? 滑走路、デッコボコのガッタガタやのに。根
性で行くんかなあ?」
 そう突っ込んだのは、アハメイの相方のファビウ
ス・ロッソだ。でも結局、彼もアハメイと同様なこ
とを言っていた。
 この直後、グローリアス王からアハメイに指示が
与えられる。滑走路のことは気にせず、とにかく格
納庫から出てくれとのことだ。
 指示通り出てみるのだが、視界に入る滑走路は凝
固剤でデコボコのままだ。さらにグローリアスから
滑走路を走れという指示が入る。とにかくアハメイ
は言われるままに走らせた。彼女とファビウスは衝
撃と振動を覚悟するのだが、全くそんな感触は伝わ
って来ない。往還機の車輪は全て正常な滑走路を捉
えているようなのだ。
 不思議に思ったアハメイはそのことをグローリア
スに訊ねると、こんな返事が戻ってきた。
『ヴァンダーベッケンを構成する構造体同士の間隔
を広げたんだ。そうすることで、緊急時用の隠し滑
走路が出てくるからね』
 アハメイは滑走路が正常であるということの有り
難みを感じながら、ワンダー・ネレイド号をヴァン
ダーベッケンから離陸させた。その後、無事に大気
圏を抜けたワンダー・ネレイド号は、グワイヒアと
のランデブーに成功するのである。
     @     @     @
 ミラー・マフィンの乗ってきた、この水中突撃艇
を指揮する少佐は無駄に腹を立てていた。
「遅い! いや、遅いのは構わない。問題はなぜ連
中から報告が入らないのかだ!」
「帰るに帰れない状況になっているんだと思います
けどね」
 唯一帰還したミラーがそう説明すると、少佐は沸
騰したポットのように激昂する。
「臆病風に吹かれた分際で、我らを侮辱するな! 
通信士、他の艇の部隊がどうなっているか確認を取
れ!」
 その時である、シーラカンスが壁を抜けて出現し、
少佐の背後を通り、そしてまた壁の中に消えてしま
ったのを目撃する。ミラーは周囲を見回すと、他の
者たちも見てしまったらしく、口をパクパクさせて
いる。
 その直後に、艇の床底から植物が芽吹き、急速に
成長して艇内をシダ植物が覆い尽くしてしまった。
混乱する艇内。無線からも混乱の声が伝わって来る。
どうやら他の水中突撃艇でも同様の事件が発生して
いるようだ。艇の中で最も混乱してしまっている少
佐は、無線マイクをひったくると、機構軍全体に向
けてこう叫んだ。
「エ、エングラム兵器だ! プレステルはエングラ
ム兵器を使っているぞ!」
 このひと言が宇宙開発機構軍側に恐慌を広め、数
分もしないうちに攻撃の中止を促した。
 その原因となったこの水中突撃艇は慌ててヴァン
ダーベッケンから離れるのだが、それで幻影が消え
てしまった為に<プレステルはエングラム兵器を所
持している>という誤解を事実として裏付ける結果
となった。
     @     @     @
「――そうか、苦労をかけるね。もうしばらくは堪
えていてもらえないかな」
 執務室においてVR映話を使用した通信を行なっ
ているグローリアス。相手はプレステル公国本国に
残っている大臣の1人である。上半身のみをグロー
リアスに見せている大臣は辛そうに返答する。
『はあ、様々な手を打ってはいるのですが、いかん
せんひねくれた皮肉屋が多くて……』
 皮肉屋というのは、宇宙開発機構軍側から流され
ている情報を全面的に信用し、大臣らの行なう政策
にことごとく否定的な反応をする人々の総称だ。そ
んな人々のおかげでプレステル公国本国は、政情不
安が高まりつつあったのだ。
 グローリアスはかぶりを振ってみせる。
「いや、そういうものなんだよ。こちらが善かれと
思ってしていることも、なかなか額面どおりには伝
わらないものなのさ。だからといって、捨て鉢にな
ってはいけないよ。立場が違えば、我々だって……
そうなる可能性は十分にあるのだからね」
『それは理解しています。ですが陛下、いかんせん
我々では限界があるのですよ』
「分かった。これから国へ戻ろう。ただ、戻るとな
ると機構軍側も網を張ってくるだろうから、時間が
掛かることは覚悟してほしい」
 そう呟くグローリアス王の表情は、普段めったに
見せない真剣なものになっていた。
            (TO BE CONTINUED!!)
───────────────────────
■重要遭遇者一覧《06120》
《06120》
○プロジェクト「ザムザ」リーダー/今岡形(0064
2-01)/RA.06120
○プロジェクト「アガスティア」リーダー/バレン
シア・フォレスター(00938-02)/RA.06120

《06130》
○俳優、ヤンボ博士役/アナテマ・キューレー(012
07-01)/RA.06130
○俳優、マイケル役/桜井・フランシス・寿人(004
80-01)/RA06130

《06131》
○メイキング番組制作、臨時責任者/アン・エルス
(01449-01)/RA.06131
○映画主題歌オーディション主宰/メル・ファウユ
ウ(00360-01)/RA.06131

《06140》
○ダミー船打ち上げをヴァンダーベッケンと交渉/
水樹涼音(06191-01)/RA.06140

《06141》
○ジャッカル捕獲作戦発案者/愛美・ユニシオール
(06038-01)/RA.06141
○ヴァレリヤにオーボエを渡した青年。愛称はテッ
タ/哲太・ダキシオス・神楽坂(06226-01)/RA.061
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