<アスファルトの上に暮らす僕たちの昼と夜>
第1話「アスファルトに花束を」
平日の朝の街は、休日とは違った顔をしていた。
人ごみである事に変わりはないが、オレにとって少し歩き
やすい気がする。商店街を歩くと、欲しいものに目がくらむ。
ついでに値段にも目がくらむ。給料日までの日数を数えて
暮らしていることにため息をもらす。
(しゃ〜ね〜か・・・。)

ぶらついてばかりもなんかバカらしい。せっかくの無断欠勤
も水の泡だ。季節のせいか妙な肌寒さを感じ、ふと思い立っ
て動物園に足を向けた。人間以外の生き物を見るとホッとす
るかもしれない。
小銭を取り出し、薄っぺらい入場券で動物園のゲートをくぐる。
幼稚園児達の耳を突くはしゃぎ声がこだまする。檻の中の生
き物に目を輝かしている。
(ねえ、見て、レッサーパンダ。すっごくかわいい目をしてる。)
不意に浮かぶ無関係な女の声。あの時はまんざらじゃなか
ったが、終わって見るとつまらない時間に思う。まさか昨夜に
訪れるとは思ってもみなかったが・・・。今のオレのように、きっと
オレの心もプラプラしているのだろう。

(とりあえず、なにもかもどうでもいい・・・。)
怠惰な気持ちしか頭に浮かんでこない。たまによぎる破壊衝動
で狂ったように踊りだしてやろうか。それとも大声でわめき散らして
やろうか。そう思うが、中途半端な理性がいともあっさり引きとめる。
(なんてつまらない人生だろう・・・。)
朝から切りっぱなしのケータイを手にとって、
(ついでに会社も辞めてやろうか。)
辺りを見渡すと、平日の昼間なのにカップルが仲良く歩いている。
幸せそうに。
(あの笑顔はずっと続くのか・・・。オレもあんな時期があったんだ
ろうな。)
(寒いな、オレは寒すぎるぞ!)
なんだか前向きに考えたくなってきた・・・。
動物園の隣にある植物園に入って、コッソリ花を失敬した。
(オレの人生もこの花みたいに咲くといいけど・・・。)
露店のたこ焼きの匂いが一瞬鼻につき、あちこち歩いていることも
あって腹が減ってきた。
(そろそろ帰るか・・・。)
そして、ケータイの電源を入れると、会社に電話した。猛烈な上司
の怒鳴り声にひたすらひれ伏した。
(辞めてやってもいいが・・・でも・・・もう少し我慢しよう。)
オレは帰途につくことにし、持っていた花を無造作に投げ捨てた。
それはアスファルトの上に落ち、次々とやってくる人間の気に止め
られること無く踏みたくられた。まるでオレのように・・・。

<第1話 完>
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