<アスファルトの上に暮らす僕たちの昼と夜>

第2話 「無意味な関係」




       AM7:30、タイマーオフし忘れたケータイのアラームで

      目が覚めた。オレはゴキブリのようにベッドから這い出し、

      ボケた面にパンツ一枚というダサい格好で冷蔵庫を開けると

      ミネラルウォーターをペットボトルごとラッパのみした。

      (休みなのに、条件反射だな・・・。)

       大あくびを一発かましながら気だるそうにベッドに腰掛け、

      もうひとつのシーツの膨らみを揺すぶった。

      「朝めし、食べに行く?」

      「う〜〜〜ん・・・。ん?」

       女が目を覚ました。アラームには無反応だったようだ。

      「も少し・・・も少し寝る・・・。」

       女は再びシーツにくるまった。

      オレは少し目が覚めたせいか、妙に静まった空気を退屈に

      思った。もう一度寝ようかとも思ったが、なにをするでもなくし
 
      ばらくボーっとしていた。やがて、なんとなく女の体に手をや

      ってみた。女は最初、少し鬱陶しく思ったみたいだが、その

      うち”なるよう”になり、結局これが目覚ましとなった。昨日の夕

      方から数えると、6ラウンド目だった。

      
      
       外に出ると、朝のすがすがしい光は、二人には少しまぶし

      かった。休日のせいか、住宅街にはシーンとした空気が流れ
  
      る。女は思いっきり伸びをしながらあくびをして

      「お腹すいた。」

      そう主張した。オレもそう思っていたので、まず腹ごしらえに近

      くの喫茶店で、モーニングセットを食べることにした。目に止ま

      った小さな喫茶店に入り、そして、トースト、ゆで卵、コーヒー

      のセットを注文する。運ばれてきたコーヒーをすすって、女はま

      だ半分寝た目で言った。

      「これからどうする?」

      「う〜〜〜ん・・・。映画は?」

       オレはトースト片手に答えた。

      「映画?・・・・・そーねー・・・・・あ、一つ観たいのある。ほら、

       あのブルース・ウィリスの・・・。」

      「ああ、あれな・・・。」

      「ブルース・ウィリスってさあ、ハゲだけどかっこいいよね。」
      
       そう言えば、女はブルース・ウィリスがけっこう好きなのだ。その

      くせ映画のタイトルは覚えていなかったりする。

      「オレがハゲたらどうなるかな?」

       唐突にバカな質問をしてみた。

      「・・・・・ダサいんじゃない?日本人だから。」

       大マジな辛口の返しをかました。一瞬の沈黙の間に、女は

      何気なく手を挙げてこう言った。

      「コーヒー、おかわり下さい。」

       女のコーヒーカップは、すでに空っぽになっていた。

      

       電車で、少し離れた繁華街まで出ることにした。駅を出ると

      そこはうっとうしいほどの人ごみで、楽しいという感覚もなくなる

      ほどだ。そんな中、テーマパークの最上階にある映画館に足

      を運ぶ。公開されてしばらく経っているせいか、中は以外と空

      いていて、真ん中の席を確保できた。

      「この映画けっこう観たかったのよ。」
 
       いざ始まると、ずいぶんつまらなさそうに観ている。終いには

      映画そっちのけで、オレの股間をさわってきた。

      (ブルース・ウィリスが好きなんじゃなかったのか?)

       そう思いつつ、オレも女の股を触り返す。結局、映画館を出

      てから、近くのホテルで再びすることになった。

      「どうせ、これと言ってする事もないし。いいんじゃない?」

       女は笑って言う。大体いつものノリだった。


       部屋に入ってどれくらい時間が経ったか。何ラウンドか終了

      した後、天井を見つめた格好でベッドの上に寝そべった二人

      は、独特の脱力感に襲われていた。オレはのどの渇きを感じ、

      ベッドから立ち上がり、冷蔵庫からポカリを取り出した。

      「あたしも・・・。」

       女がだるそうに言った。

      「あのさぁ・・・、途中まで覚えてるんだけど、何回ぐらいした?」

       オレは低俗な質問をしてみた。

      「昨日から数えて・・・、二桁はいってるんじゃない?」

       女はポカリを一口飲むと、平然とそう答えた。

      「私も質問。」

       オレがトイレに行こうと立ち上がったときだった。

      「なに?」

      「おとこって・・・、出せる回数限られてるってホント?」


       ホテルを出てから夜になるにつれて、二人のテンションは

      落ち着いたものになってきた。今のオレには繁華街のネオン

      が気だるい。二人ともしっとりした趣で、ショッピング街をぶら

      ついたり、ゲーセンで無意味にプリクラを撮ったりしてみた。

      きっとこのプリクラのように、今のテンションは中途半端なのだ

      ろう。夕食はどこで済ますか・・・考えるのも面倒くさくなって

      「ファミレスにする?」なんて適当な答えにもただ頷いてみた

      りする。女はテンションを上げようと努力している。しかし、オレ

      は上がったフリをするだけだ。「今度いつ会える?」そんな質

      問にも「さぁ・・・わかんねぇ。」そう言って、オレははぐらかす。

     

       二人の時間の終わりはいつも、駅を降りて別々の路線へ乗

      り換えするときである。電車内ではほとんど会話はない。たぶ

      んお互い、明日からの今日とは違う日常のことを考えていたの

      だろう。オレも女もあかの他人であり、それぞれの生活に干渉

      することが不可能である。そうであるが故に、自由でいられる。

      しかし、同時に寂しくもある・・・。いつか女がそう言っていたの

      を覚えている。そんな女をいとおしく思うときがある。電車を降り
 
      た後の、別れる最後のセリフも決まっていた。

      「またな。」

      「またね。」

       いつもならこれで終わりだが・・・。歩き出そうとしたとき、女は

      思い出したように言った。

      「そうそう、彼女とうまくいってる?」

       オレは苦虫を噛んだような気分になり、絶句した。そして、

      フゥ〜っと一息ついた後、気だるそうに一言返した。

      「君こそ彼氏にばれないようにな・・・。」

       女はとても割り切った声で、
 
      「バレた時はわたしと付き合ってくれるんでしょ。」

       オレのまぶたに焼きつくような笑みを残して、女は人ごみに

      消えていった。駅の時計は、PM9:40を指していた。
 
      

      

      <第2話 完>

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