完全に、内輪ネタです。
分かる人にしか、分かりません、すいません。
前のページに戻る
「バーミステリクラブ」
やけに軋むドアを開けると、酒とタバコとあきらめの混じった空気が俺を迎えた。
薄暗い明かりの中で、バーテンだけがスポットライトでも浴びているかの様に、浮かび上がって見えた。
しかし、バーテンは役者ではない。
バーテンが浴びるのは、拍手ではなく、酒気と破れた夢なのだ。
カウンターに腰を下ろすと、バーテンは滑るように近づき、注文を取っていく。
客は酒を飲み、金と夢を捨てていく。
バーが薄暗いのは、捨てられた夢を隠すためなのだ。
注文を取りに来たバーテンは、胸に<☆和泉☆>というネームプレートをつけていた。
変わっているなと聞くとオーナーの意志ですと言う言葉が返ってきた。
ちょっと同情していると、
「大丈夫です。ちゃんと最後には良いことあるはずですから。だいいちぼくだって、そんなに嫌だって訳ではないですから」
という返事が来た。
その、底抜けに明るいあきらめの言葉を聞いているうちに、俺は胸の中にわだかまっていた物を吐き出していた。
「ちょっと聞いてますか、だいたいねー1年生がパー券売らなきゃならないなんてヘンじゃないですか。」
と俺が、正当な主張をしていると。
「お客さんもう分かりましたから」
とバーテンは答えた。
「何が分かったって言うんです。何が。僕だって分からないのに」
全く知ったかぶりをする奴は困る。
「すいません。そうですね、分からないですね」
と言うので、公平な俺は、
「いや、分かってることもあります。今時、ダンパなんて言って券が捌けるわけ無いって事です」
と言ってやると、納得したらしく話題を変えてきた。
「・・・あの、お客さん看板なんですけど」
これだ、ちゃんと聞いていなかったのがすぐ分かる。
「看板ーーーいや、僕がやらされたのは、ポスターで看板じゃないです。ちゃんと聞いていて下さいよ」
と俺が言うと,
「あはははは・・・」
バーテンの奴は涙まで流して、笑っていやがる。
「何がおかしいんですか、お金はなくなるし、楽しくないし、おかしいことなんか一つもないですよ」
と至極もっともなことを言うと、反省したらしく
「はい、聞きます。もう気の済むまでどうぞ」
と謝ってきた。そういう率直な態度は評価されるべき物なのである。
「そういってくれるの、あなただけですよ。サークルの人だってひどいんですよ。面白がって聞いているだけで、無責任なことしか言わないんですから」
「それでね・・・・・・それから・・・・・・だから・・・・・・・・・・・・」
店を出ると、夜の闇は、朝焼けにつながる淡い紫に変わっていた。
振り返って看板を見ると「バーミステリクラブ」とあった。
この店の暗闇の中には、俺の捨てた夢が漂っているのだろう。
もう再び見ることもないだろう看板を、もう一度だけ見返し、俺は駅へと向かった。
始発は、朝靄の中から現れた。
朝靄に濡れた襟を立てながら俺は思った。
今日は新座だ、がんばろう。
終わり
前のページに戻る