また、内輪ネタです。
というより、バーミステリと付けた時点で、内輪ネタにしかなり得ません。
困ったものです。
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「バーミステリ・ポップVSテクノ編」
キュ、キュ、グラスを磨く音が、暗闇に吸い込まれていく。
僕は、バーが開店する前の、この静かな時間が大好きだ。
昨日の夢の残滓を漂わせつつ、今日の夢を飲み込もうとしている。
目を閉じれば、グラスを磨く音に、もういない客の、これから来る客の声が重なる。
バーが開店する前は、そんな時間なのだ。
あの日、僕はいつも通りに、グラスを磨いていた。
開店5分前、準備はもうできていて、キュ、キュという音が耳に心地よい。
ポップ、ポップ、
そう、ポップ、ポップという音が・・・。
ちょ、ちょっと、待った、何だこの音は、曇りもなく磨き上げられたグラスを、しげしげと見つめていると、ドアが開く音が聞こえた。
「へー、ポップな店じゃん。もう開店してる?」
顔を上げると、二十歳前後の若者が、店に入ってくるところだった。
「違うって、若者じゃなくて、ポップな若者でしょーが。ところで、店あいてる?」
ちょっと待ってくれ、僕、今、何か声に出して喋ったか。
「あの、お客さん、どうして私の考えていることが判ったんですか」
と、僕が聞くと、
「それぐらい、当たり前じゃん、だって俺ポップだぜ」
と、そのポップな若者は、何を当たり前なことをと言う顔で答えた。
「それより、入っても良い?」
重ねて聞かれて、僕はやっと気がつき、席を勧めた。
いま思えば、あの時、まだ開店していないと答えていれば・・・
ポップな若者が席に着いてから、どれくらいたっただろうか。
延々と続く、ポップ講義を僕は聞いていた。
そして僕にも、ポップというものが分かり始めてきていた。
つまり、ポップとは、目の前にいるこの若者が体現しているものなのだ。
「そうですね、やっぱポップが一番ですよね」
と、ボーッとした頭で言おうとしたときだった。
「えーやっぱ、テクノでしょ」
新しい声が、店の中にこだました。
えっ、ポップな若者以外に客はいないはずなのに、僕は声の主を捜した。
そして、見た!!
いまひとりの若者が、アンダーグラウンド、もとい、地面の下から現れるのを。
床に傷一つ付けずにあらわれた、テクノな若者は、ポップな若者と対峙した。
僕は、まるで怯えきった子供のように、声一つたてることが出来なかった。
「テクノでしょ」
テクノな若者の口から発せられた声は、物理的力さえ持ちポップな若者に襲いかかった。
「ポップでしょ」
しかし、ポップな若者の声が、それを迎え撃つ。
ピキ、ピキ、パリーン。
ぶつかり合った声の衝撃波で、店中のグラスが割れていった。
「テクノでしょ」
「ポップでしょ」
バリーン、今度は、観葉植物の鉢が。
「テクノったら、テクノ」
「ポップったら、ポップ」
パリーン、電球が。
ボトルが、イスが、机が、次々と壊れていった。
最初は、声にならない悲鳴を上げていた僕だったが、この頃になると、もう諦めていた。
これ以上、事態は悪くなり得ない、そう思っていたのだ。
あのときは、まだ、若かったのだ。
ポップVSテクノの戦いは、膠着していた。
お互い、必殺の一撃を放つも相手に防がれてしまうのだ。
そして、膠着した戦いにじれたのだろう、テクノな若者が叫んだ。
「こうなったら、最後の手段だ。テクノロボ、発進」
その叫びと共に、地面が裂け、巨大な何かがあらわれた。
ゆれる地面に、足を取られながらも、ポップな若者も叫んだ。
「くそー、そっちがその気なら、こっちもだ。いでよ、ポップ大魔神」
店の天井を突き抜け、巨大な足が降ってくる。
かたやテクノロボ、かたやポップ大魔神、二体の巨大な存在は、東京の町並みを破壊しながら、満月の明かりの中に消えていった。
その戦いがどうなったかは、僕は知らない。
ニュースによれば、東京を破壊した謎の物体は、東京湾に消えていったそうだ。
きっと、今なお人知れず戦いは続いているのだろう。
そして僕は今、夕日の中、店の跡地に立っている。
胸に付けた<☆和泉☆>というネームプレートが沈みゆく、太陽の光を反射している。
いつもなら、仕込みも終わり、グラスを磨いている頃だ。
あの日のように・・・
バーミステリ・ポップVSテクノ編 終わり
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