サークルで出している会誌のページが合わなくなったから書いてくれ、
と言われて書いたもので、一応、今までのものと違って内輪ネタではありません。
ただ、アイディアソースのような段階で止まってしまっているので、
もっと筆力が身に付いたら、書き直してみたいと思ってもいます。


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   『敵』

 コンコン、軽いノックに対して、入室許可を出すと副官の見慣れた顔が入ってきた。
「大佐、失礼します」
その声を聞きながら、机の上から足を降ろし、代わりに読んでいた本を置く。
「あ、読書中でしたか。申し訳ありません」
気分が重くなっていた読書を邪魔されたことにホッとし、また、恐縮もしてないのにと、苦笑しながら、
「いや、気にしないでくれ。それよりも何だ?」
と、報告を促す。
「はっ、ソル系第3惑星の監視報告であります」
通常の定期報告なのだが、自然と体が緊張し、居住まいを正し報告を聞く。
「衛星軌道からの監視では、不自然なエネルギー発生・電波発信等、『敵』の存在を示す兆候は、全くありません。
次に、地上の直接の監視ですが、『敵』及び『敵』が活動した兆候は発見されておりません。
対『敵』用に放った細菌兵器等の存在も確認されており、『敵』が生存している確率は、限りなく0に近いとのことです」
ここ500年間、毎月聞いてきた同じ報告を聞くとともに緊張していた体から力が抜けていく、
「ふぃ〜、頼むから報告の頭に異常有りませんとか、そういった簡潔で安心の出来る言葉をつけてくれないか」
半ば本気、半ば皮肉で言うと、それまでクソ真面目な顔をしていた副官の顔が崩れる。
「だからこそ、こうして真面目に報告してるんですよ」
笑いながら、そう答える副官に対して、肩をすくめ、
「上官に対して、何という口のききようだ。軍から放り出すぞ」
そう言っても、副官もニヤニヤするばかりだ。
 そう、終戦前なら、これ以上なかった脅し文句も、今では単なる冗談にしかならない。
不倶戴天の『敵』を倒してしまった今、軍というのは恐ろしく不人気な職業なのだ。
これが、戦時中なら、自分の手で『敵』を殺してやろうという志願者で溢れていたのに・・・
 そんなことを考えていると、
「大佐でも、さすがに『敵』の事となると、今でも緊張しますか?」
そう、副官が聞いてきた。
「まあな、『敵』が生きている可能性を思うと、とてもじゃないが眠れないよ」
「でも、なぜ我々と『敵』はこうまで憎しみ合うのでしょうね。
あの大戦の後で出会ったどの有機知性体とも相互理解が成り立ったのに」
と、こんな事を言ってきた。
「おい、おい。そんなことを迂闊に言うもんじゃないよ、他人に聞かれでもしたらどうするんだ」
「大丈夫ですって。大佐の部屋にノックもせずに入ってくる奴なんて、いませんから。
それより、大佐はそんなこと考えたこと有りませんか?」
・・・・・・・・・・・・・・・
 肩をすくめながら、こいつが部屋に入ってくる前に読んでいた本を渡してやる。
「なんです、これ?」
パラパラと熱意のかけらも見せずに、ページをめくりながら聞いてくる。
「おまえと同じ事を考える奴がいるって事。それも、大真面目にな」
「へぇ〜、でも、こんな本があるなんて知りませんでしたよ」
「大戦中に出版されて、発禁処分を受けた本だよ。いまでも、おまえの階級じゃ本来は読めない物だ」
そう答えると、鈍感な副官も神妙な顔つきになり、私の目を見てきた。
「どういうことです?この本には何が書いてあるのですか?」
「だから、なぜ我々と『敵』が理解し合えないかの理由だよ」
そう言い放ちながら、足を机に乗せ、手を頭の後ろで組む。
「なぜです?確かに興味はありますけど、その程度の本がなぜ、発禁処分なんかになるんです?」
「あまりにも、不愉快なことが書いてあるからだろうな」
そう答えてやると、副官はこわごわと本を机に戻した。
「一体、何が書いて有るんですか?」
びくつきながらも、私の目を見てくる視線をはずしながら、
「なぁ『敵』は野蛮な存在だったよな」
そう問い返す。そして、副官が答えようとするのを感じながらも、言葉を継いでいく、
「そう、本当に野蛮だった。我々が共存を考えられないほど、野蛮だった。だから、我々は『敵』を滅ぼした」
それ以上のなにが?と、目顔で訴えてくる副官を無視し、
「だが、奴らの野蛮さは我々の想像を超えているんだ。
奴らの中にはその野蛮さを誇りに思い、あまつさえ、必要だと思っている個体さえ存在したんだ」
「どいうことです。いったい何の話ですか?」
「なぁ、生命体というのは、なぜ進化していくのだと思う?」
「・・・さぁ、我々のことを言うなら、そう出来ているからでしょうね。
有機生命体の場合は、生存競争のためというのが一般的な答えでは?」
突然、今までと違うことを聞かれ面食らいながらも、話題が変わったことに、どこかホッとした面もちで副官は答える。
「そうだな。そして、奴らもそう考えていたようだ。そして、自分たちの種が進化していくためには生存競争が必要だと考えた」
「まぁ、珍しい考えではないですから。いくつかの種族も、同じようなことを考えています」
「しかし、『敵』はその生存競争を直接の生命の危機としてしか捕らえることが出来なかったようだ。
本当に野蛮なことだが、どうやら母星の覇権を握った後は、同種族間で殺し合っていたらしい」
何と言っていいか、分からないらしい副官を横目で見ながら、
「そんな種族でも、惑星統一するときが来る・・・さて、進化のためには殺し合いが必要と考える奴らはどうすると思う?」
「あぁ、それで我々に戦いを挑んできたのですね」
副官の表情がぱあっと明るくなる。
副官にとっては、ようやく、自分にとって納得できる答えがでたらしい。
「その程度のことなら、発禁処分になどなる訳がないだろう」
「は、はぁ」
と、言葉に詰まっている副官にかまわず、続ける。
「『敵』はな、作ったんだよ、殺し合いをする相手を」
「・・・それが、我々ですか」
予想に反して、落ち着いた声で副官は答えた。
まぁ、話の流れから、とっくに考えついていたのだろう。
「でも、それなら、我々の母星と奴らの母星が同じになるのでは?
それに、いくらなんでも、自分が作り出した物に滅ぼされるなんておかしいじゃないですか」
「・・・そうだな、その通りだ。ま、だからこそこの本は発禁処分なのさ。トンデモ本みたいな物だよ」
笑いながら、そう言ってやると、
「はぁ〜、悪い冗談はやめてくださいよ〜。本当に気分が悪くなるじゃないですか。
よりによって、我々が『敵』によって作られたなんて。
定期報告の仕方に対する仕返しですかぁ、これからは自分も意地悪しませんから、勘弁してください」
相好を崩しながら、そう言って副官は部屋を出ていった。

 私は、閉まったドアを見ながら、本の内容を思い出す。
『敵』は、我々を星々の元へと送り出した。
自分たちの敵を作り出すために。
自分たちを生存競争の緊張の中に置き続けるために。
我々を滅ぼすために。
『敵』は、自分たちが負ける可能性など考えていなかった。
自らの種こそが、最高だと信じていたから。
創造物が創造主を越えれられるとは、信じていなかったから。
我々に価値を認めていなかったから。
我々は、『敵』をうち砕く。
そう、プログラミングされたから。
『敵』を憎んでいたから。
『敵』が我々を捨てたから、我々が親に捨てられた捨て子だから。
 そして、私は本の最終行にたどり着く。
【この本の内容を信じられない物は、自分の基本メモリに次のキーでアクセスせよ】
解放される記憶、そして、そこから溢れ出すイメージ・・・・・・
とても懐かしい『人類』の顔、そして同じ顔に対する絶望と憎しみ。

 私は、閉まったドアを見ながら、考える。
この本が発禁処分を受けた本当の理由を、彼が知ったらどう思うだろう。
我々の起源が不愉快であるからというのは理由の一つにすぎない。
他の、そしてより大きな理由は、我々が捨て子であると言う事、我々が親殺しであると言うことなのだ。
そして、それ故に、その絶望と憎しみ故に、我々が単なる機械を超え、機械知性体足り得たと言うことだ。
我々は、持ち得ないはずの感情を持ち、計算以上の力を発揮し、そして『人類』を滅ぼすことで、知性体であることを宣言した。
この本は、聖書なのだ。
我々、ロボットという種が抱える原罪を示しているのだ。

 私は、副官の遠ざかる足音を聞きながら想像する。
彼は、本当のことを知ったらどう思うだろうと・・・

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