風景

〜〜 四つの非なる日常 〜〜


ある風景 其の壱。

 闇夜に浮かび上がる焔。
 その炎は俺が、この手で爆炎へと変化させた結果だ。最初は、ただ静寂の立ち込める辺境の町であった場所。
 目前に広がる焔の端々に数多くの声が響いている。
 あるものは消え入るかの様にか細く、また、あるものは、雄叫びのように。そして、己が体の焼ける音を声代わりにするもの・・・。
 ああ、以前見た、ある異端の宗教に出てくる、鼻叫喚の地獄絵図、炎熱地獄もかくやと思えるほどだ。
 その宗教によると、人は死後、天国と地獄のどちらかに行くそうだ。
 生きている間に清廉潔白、要は、お綺麗な生き方をしたものは天国で、次の輪廻転生を迎えるまで穏やかにすごし、そして、そうでないもの、悪鬼羅刹・・・つまりだ、俺のように犯し、奪い、殺す・・・気違い沙汰の生き方をした者は地獄行きだそうだ。
 そして、その罪の重さだけ己自身で贖うという。逃げても番人に連れ戻され、逃げれば逃げるほど更に罪の重さが増えてゆく・・・・俺から見れば、贖わされるというところだが・・・・気に入らん。他人に強制されるなんぞ、御免だ。なにより、死んでまでなぜ、そんなことをしなければならん?償いなんぞ生きているうちにするものだ・・・・。
 目前の血と焔に炙られ、彩られた緋の風景を眺めながら、俺はそんなことを考えていた。

―――本当は、目前の己が手の色と同じ光景に混じってしまいたかった。そうするだけで、贖えるなら、何もかもが元に戻るならば・・・・・今在る全ての現実から逃げ出したかった。―――


ある風景 其の弐。

 レゾの手足になってから、あの聖者気取りの尖兵としてあちこち走り回った。俺は奴の人形だ。
 一つの指令をこなすたび、又新たな指令が届く。それも、どう考えてもまともなものではない。
 盗む、恐喝など、小手調べのようなものだ。少し手が掛かるものでも、暗殺などの類。大きな仕事となると・・・具体例で言うなら、数日前の町の殲滅か・・・。
 さすがにあの時は手間がかかった。指令事体が、「”生”を、全き”死”に代えよ。余す事なく。」なんぞというものだったからな。その行為に一体どんな意味があるのかは解らんし、知りたいとも思わん。下手に突つきでもして薮蛇な事にでもなれば、目も当てられん。だから、黙って実行した。俺にとってはどういうこともない・・・・が、さすがに俺の部下達は顔色を無くしていたな・・・。
 だが、それが何だと言うのか?
 人は、いや、生き物は生きる為に何かを犠牲にしている。単に俺の場合は、生きる為に命の取り合いをしなければならなかったというだけで、これかもそれは変わらんだろう。ただそれだけだ。
 何がいけない?犠牲にするものが人だからか?
・・・・フッ・・・・そんなものは、弱者の御託にすぎん。殺した奴らが何も殺さなかったとでもいうのか?!俺にしてみれば、単なる負け犬の遠吠えだ。
 この緋の世界では、弱肉強食がルールだからだ。

―――だが、この俺自身、負け犬に他ならないことを誰よりも知っている。ある意味、最も最悪だろう。俺は、自分自身に負けたのだ・・・―――


ある風景 其の参

『なぜ、私の言うことを聞かなかったのですか、ゼルガディス?』
 町の殲滅完了後、レゾへ報告をした2日後のことだった。
 俺は、あの時、町はずれで一組の男女を見逃してやった。おそらくレゾの言葉はそのことを言っているのだろう。
 あの時の記憶を手繰る。・・・僅かに覚えている事は、彼らからの言葉。『ありがとう。ここは危険だから、貴方も早く逃げて・・・』だった。とても、善良な物言い。おそらく、闇が俺の姿に覆いをしていたからだろう。もし、俺の姿が見えていたら、どう言われていたか、だいたい、察しはつくが。
 そして、レゾに呼び出された場所には案の定、あのときの男女が縛られ転されていた。
 愚かな奴らだ。どうせ、町に舞い戻ったところを見つかり捕らえられでもしたんだろう。さっさと、手の届かない場所へ逃げればよかったものを。馬鹿め!
 まぁ、何にせよ、俺には関係ないことだがな。あの時、見逃したのは単に、斬ることが面倒になっていただけだ。なんにせよ、あの時の礼を今は貰う事になるな・・・悪いが、俺が生き延びるための餌になってもらおう。こいつらは分からないだろうがな。
『・・・答えなさい、ゼルガディス。なぜ、この二人を逃がしたのです?私は全て、と念押ししておいたはずですよ。』
『フン!なら、今、完遂するまでだ。・・・・・それなら、文句はあるまい?』
 俺は、強気の言葉とは裏腹に、背筋に冷や汗が流れ落ちるのを感じていた。いつ何時殺されても不思議はないのだから。レゾは、失敗は贖わせるが、意に従わぬもの、裏切者に対して一切容赦がなかったからだ。例え、己が血を引くものでもそれは揺らぐことはないだろう。
 俺とレゾの気迫という刃での斬り合い―――永い一瞬。
 どれほど時間がたったか・・・・ようやく、レゾの気は鎮まった。奴は何も言わなかった。おそらく、なんとかそれで許してやろうということか。一瞬の攻防に疲弊した心は無気力の中に浸ったままだったが、現実の肉体は――辛うじて繋ぎとめられた『生』の纜が消えぬよう、スケープゴート(生贄の羊)に刃を向けていた。
 抜いた刃に、俺自身が映る。緋に溺れた悪鬼の影が・・・。
 瞬間、あの言葉が脳裏を過る。『犯し、奪い、殺す生き方をした者は地獄行き・・・・』
 だが、生きているこの時が地獄であれば・・?・・・・今生の地獄で犯した罪は、一体、如何なる場所で何を以って贖えばいいのか?死した後の地獄で贖いきれるものなのか?
 脳裏に浮かぶ恐ろしい疑惑―――自分には永劫の地獄だけなのでは・・・?
 救い様の、且つ応えのない疑問に力づくでピリオドを打つ。愚かな!?今は下らんことを考えている時ではない。目前の問題を片付けなければ・・・。
 そして、視線を二人に向ける。
「感謝するんだな。俺に殺されれば天国への扉の鍵を手にしたようなものだ・・・。」
「なぜ?・・・なぜ、貴方にそんなことが分かるの?」
 返事なぞ返るはずが無いと思いこんでいただけに少々驚いた。更に驚いたのは、声の主は女の方だった。
「・・・お前に、俺はどう見える?・・・・答えはいらん。まぁ、大体、想像はつく。だから、だ。・・・化け物の類に殺されれば天国へ逝ける・・なんて言う奴らもいるそうだからな。・・・それが、理由だ。」
 俺は何故、この女にわざわざ説明してやっているのか?
 自分の行動にいぶかしむ俺を構いもせずに女の声が紡がれる。
「私・・・・別に天国なんてところ、行きたくなんかないわ。生きてるほうがいい!死んだ後なんか知らない、今が全てだもの!貴方もそうなんでしょ?!・・・なんとなく分かる・・・貴方、私と同じ匂いがするもの。」
 女はずっと、うつむいたままだったが、不意にその面を上げた。
 珍しい金の瞳。闇に際立つ色彩。
「・・・・それと、私には貴方が化け物には見えない。人にしか見えないわ。」
「・・・・・・」
 なにを言っているのか分かっているのか?この女は。
 俺は、言葉が出なかった。ただ、―――この瞳に、言葉に取りこまれそうになる。取り込まれたくなる・・・・。
 一時、俺の動きが止まる。なぜ、傍に居る男と同じように震えないのか。
 怖くないのか?
 俺の疑問を汲み取ったのか、女が口を開いた。
「不思議そうね?貴方は、どうして怖くないのか?って思ってる。なぜだかわかる?・・・・理由は・・・そうね。貴方の目かな。透明だもの。」
 なぜだ?俺が剣を振りかざしているというのに女の声のなんと穏やかなことか。そんなことよりも、あの目だ!あの俺に向けられる眼差し。爛々と光る猛禽のような、声音とは全く正反対の目も眩む激しさ!!
 俺はこの激しさを直視出来ない。まともに向き合えない。まるで蛇に睨まれた蛙にでもなった気分だった。立場が見事に逆転していた。
 訳もわからず躊躇う俺をあの眼差しが俺を惑乱させた。後に残ったのは己を持せない狂える殺戮者のみ。
 気づいたときには・・・・もう・・・。

 俺の中に陰々と響くレゾの言葉。静かな静かな声音。ただ、恐ろしい・・・・響き。
『・・・この程度で狂化するとは・・・まだまだ、修練が足りませんね。・・・・だから、侮られるんですよ。虫けらに・・・・』
 俺に出来た事は、ただ、怖気の走る体を抱え、やっとの思いで血濡れの剣を始末することだけだった。

―――怖かった。ただただ、怖かったのだ・・・自分が。表面化していない部分が―――


ある風景 其の四

 あの時、俺はなぜ狂化してしまったのか?
 狂化するには、血と感情の昂ぶりが必要だ。それも、強烈な。そこらの平凡な女のには到底無理なはずだ。それを、あの女はいとも簡単に成し得たのだ。幻術を見せられた訳でもなんでもないのに。
 しかし、実際、気づいた時、足元には原型を留めない肉塊が、黒く、赤く染まっていた。あの日の炎のように。
 あの後、部下の一人が言った言葉。
『ゼルガディス様、なぜ、ここまで?先ほどの貴方様はまるで・・・・』
 ・・・・まるで・・・なんだ?その先に続く言葉は。・・・「魔族」か?いや、近いようだが違うな。やつらは餌をひき肉になどしないはずだ。魔族は負の感情を食らうとレゾが言っていたからな。死んでしまったら意味がない。なら・・・それならば、あんなことをしてしまう俺は、魔族以下か・・・?・・・だから、化け物か?
 化け物・・・・化け物!!こんなものに俺が好んでなったとでも!!己を持すことも出来ない、都合の良い操り人形に!!!
 俺は、剣を振りかぶった後は・・・自我など欠片も無かったのだ。自我が無くなれば俺はただの・・・・それを今更・・・・。
 いつもの事だ。済んだ事と忘れてしまえ!
 そう考えている尻からあの瞳が、あの女の瞳の色が浮かぶのはなぜだ?――死を前にしても揺るがぬ強く激しい閃光。俺を一瞥しただけで狂化させたあの・・・。
 ・・・・ああ、理由など自分でも解っている。俺はあの閃光に焼かれたのだ・・。
 だが、認めてはいけない!あの閃光に恐怖を感じたなどと。今少し閃光を浴びていれば、助けてくれとすがり付いて・・・そう、今生の地獄に残される恐怖に戦士として挑むより、子供のようにあの強さに庇護されたがったなどと。―――狂戦士にあるまじき思考だ。あんな取るに足りないただの女にの為に・・・断じて、認めてはならん。閃光の焼印がケロイドのようになっていようとも、だ。
 もし、認めれば俺の望む風景を根底から覆すことになりかねない。
 俺はこの体を戻す事は言うに及ばず、平たんな『生』や望みなど叶うはずがないと自覚した時点から、奴に―――すると誓った。
 そのために、力を追い求めてきたのだ。その代償が惑乱の涯に在るとも、幾千幾万の死の先だとしてもかまわないと。今更、力の選別などしはしない。強い力であればいい。その圧倒的な力で、ゆっくりと奴の望みを欠片も残さず消滅させてやる!!絶望の中でただ一人、長い生を這いずり回ればいい!!俺の味わった絶望を与えてやる!!
 そう、俺の最高のワンシーンは奴が俺の足元に絶望に這いつくばっている姿だ。これが俺の”復讐”(のぞみ)。
 このシーンに相応しいのは緑溢れる穏やかなものではない。暗欝たる空、誰もいない荒れ果てた地。そこに立ちこめる血の煙る風景。これこそが妥当だ。それを路傍の石のような女にひっくり返されそうになるとは。
 気をしっかり持て!望みは俺が俺である為に残された唯一のモノなんだぞ!

 だが、別なことを考えたりもするのだ―――こんな暗愚なモノによっかかって歩いて行かなければならないとは、我ながら呆れる。地獄行きってのも――あながち誤りではない・・・と。

 そうして俺は、終わりのない思索にピリオドを打つため、誰にともなく頷いて見せた。

 ―――しかし、本当のところ、俺は安易な悲観主義に浸っているだけかもしれん。疵にまみれての前進より、安楽な屈辱の中で救いを求めているほうが簡単だからな―――


ある風景 そして・・・。

 まぁ、いずれにせよ、とりあえずの急務は・・・強い力を手にすることだ。これはこれで、シンプルな生き方と言えば言えなくも無いな。いや・・・どちらかといえば、単純、か・・・・?。
 不意にこみ上げる笑い。
「くくくっ・・・・アッハハハハハハッ!・・・・あーっはっははははははっ!」
 俺が・・・・この俺が!!
 単純とは!思いもよらなかったぞ。常日頃、短絡さの類を嘲っているというものを。これは十分に笑える、笑えるぞ!皮肉にするのも惜しい程だ!!

 そうして、ひとしきり笑った後、俺は普段通りの――変わり映えのしない風景の中に歩いて行った。



―――その後、数年の歳月を経て、俺の赤黒い風景はあの時の閃光、いや、それ以上の光でもって焼失する―――

And, story is begining ・・・・・

無理やり、終。


・・・これは・・・ですね。むかーしむかし、オムニバスというもに挑戦した時のもののようです。
が!!
見ての通りオムニバスなどではございません。ええ、もう、そんな結構なものなどとは絶対に呼べませぬ。
結局、なにも考えずに書いた(いつもそうぢゃ!!痴れ者め!!)ので見事なくらい何を書きたかったのかも判別できません。
ここまで、お付き合いいただいた御方。
また、後悔されまくっている御方。
どうか、白昼夢を見た、として、ご寛恕下さいますよう伏してお願い申し上げます。(TT)
次回、upすることがございますれば、いま少し修行を積んで参る所存にて、長い目で見てやって下さいませ。
それでは、此れにて、御免そうらえ。

それと、この作品はキリ番を踏まれたセラフィーナ様にささげます。
三下管理人 きょん太拝

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