D.D.D VOL.2
「課長!」
「おお、来たか。」
「それで、犯人は・・・・・。」
「ガイシャの様子より早く犯人の様子を聞くのか、リョウ?」
「あ・・・・いえ、ちょっと気になっただけです、被害者の様子は・・・」
「・・・こっちだ、見れば分かる。」
「なっ・・・・・・!」
死体には慣れてるはずなのにリョウも、そしてディーも
思わず目を背けた。
「・・・ピザが戻ってきちまいそうだぜ。」
「・・・ディーには軽口を叩く余裕がありそうだな。」
背後から近づいてきた課長が、鼻をすすりながら言った。
・・・・30代前後と思われる男性の死体。全裸だ。
目はかっと見開いたまま。
大きく、驚愕の形で開かれた口の中には大量の白い粉が
詰め込まれていた。今もサラサラと少しづつ零れている。
そして腹部。
胸の間から性器の上のあたりまでまっすぐ深く。
ためらいなど微塵も感じないほど、一文字に切り裂かれていた。
そして切り裂かれた間にも、白い粉。総額いくらか考えると気が
遠くなりそうなほどの白い粉があふれている。
赤い血と混ざり合い、どろりとした凶悪な桃色になって脇腹のほうへ
流れ落ちていっている。
鑑識がフラッシュをたいて証拠写真を撮っている。
次々とフラッシュの白銀の光にさらされている、麻薬詰めにされたその死体は
微妙にコマ送りになっているように見えた。
・・・・・・もちろん、気のせいなのだが。
「・・・・・リョウ?」
右隣で、身動き一つせずたたずんているリョウにディーは声をかけた。
「ひどい・・・・死体だな。」
蝋人形のように表情の無い顔で、唇だけ動かしてリョウは言った。
「リョウ・・・・・。」
名前を呼ぶ以外に言葉が見つからず、ディーはリョウの肩に
手をかけた。
「犯人の身元が分かりました。」
「早いな。」
駆け込んできた見覚えのある鑑識官に課長が振り向く。
「ジム!」
「よう、ディー!それと、リョウくんっ♪」
ジムは意味ありげな流し目でちろり、ディーを見た。
冷やかすような視線。
ディーはがぁっ!と牙をむくようなジェスチャー。
「ジム!仕事しにきたんだろぉがっ!鑑識官が現場ではしゃいでんじゃねえよ!」
「そうそう。・・・・ガイシャの名前はジェイソン・レントナー。32歳。
本人からは麻薬反応は無かったが、売人だ。」
「売人?組織は?」
黙って話を聞いていたリョウがはじかれたようにジムの肩に手をかける。
「おっと。まだそこまでは分からないが、・・・・・クズだな。」
「?」
「ジェイソンに詰め込まれていた麻薬だが、本人の売り物だったようだ。
自宅にも同じモノがあったらしい。・・・・ものすごく純度が低い。
クズ同然だ。あんなもの扱う組織だ、たいしたことないんだろう。
一応、リストにある組織は調べている最中・・・ですよね?課長。」
「その通りだ。」
「・・・・それにしても調べが早いですね。まだ死後硬直も完全には終わってないのに
遺体発見どころかそんな事まで調べがついてるなんて。」
ジムが持ってきた、今現在わかってること全てが書かれた調書に目を落としながら
リョウが言った。
「ああ、犯人らしい人物から直々に通報があって遺体発見までが早かったからな。
遺体の身元証明するものもそのまま現場に放置されたままだったし。
・・・なんとも親切な犯人だな。」
一旦部屋の外に出るように命じられて、ディーが先に立って
ドアを開けようとする。・・・・・築30年は経ってるであろう安モーテルに
ふさわしい、ボロボロで表面の木がささくれ立ってしまっているドア。
ディーは一瞬、ドアの前に立ちすくんで、軽く表面をなでるようにした。
「・・・・ディー?どうしたの?」
「ああ、なんでもねー。・・・・・行こうぜ。」
リョウはパトカーに寄りかかり、軽く溜息をつく。
白い息が揺れて、消えた。
ディーもその隣にもたれる。
「間抜けだよなー、それにしても。ジェイソンのクセに切り裂かれるなんてなー。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
ディーの軽口はリョウのお気に召さなかったらしい。
視線を落としたまま、ディーの方を見ようともしない。
「は・・はは・・は・・・・・。」
ディーは手をばたばたさせ、でも他に言葉が見つからず今度は自分が溜息をつく。
「・・・・・ディー。」
「ん?なんだ?」
「・・・・俺、また、捜査から外されるのかな・・・・。」
「あ?・・・・ああ、課長も、・・・署長も。麻薬絡みってだけで外したりしねーと
おもうぞ。その気なら最初っから呼んでねーさ。だいたい・・・その。
レオの組織とは・・・全然手口が違うじゃねーか。」
「でも、手口を変えたかもしれないっ・・・・・。」
「リョウ!」
ディーはリョウの肩に手をかけ、強引に自分の方を向かせる。
「レオの組織だったからってどうするんだ?違うんならどうするんだ?!」
ディーはそのままリョウの背中に手を伸ばし、ぎゅうっと抱きしめた。
・・・いや、むしろディーがリョウに抱きついたようにも見える。
「・・・・お前の気持ちもわかる、なんておこがましい事言わねーよ。
だけどっ・・・・。オレが、いる。リョウのしたいようにさせてやるよ。
頼むから先走らないでくれ、頼ってくれよ・・・・・・。」

そのまま、コトンとリョウの肩に頭を落とした。
「ディー・・・。ごめん。そうだね、・・・・頼りに・・・・してるよ。」
ディーはゆっくりと頭を上げ、唇をリョウの頬に近づけようとした。
「おーっとそこまでだお2人さん!」
「ジム〜〜〜〜〜〜っ!いいところで〜〜〜〜〜っ!」
「いいところってどこかなーーー?ここってどこだっけー?」
「どこって・・・・・・・、・・・!!」
・・・・たった今殺人が起きたばっかりの現場である。
「ギャラリー、何人いると思うかなーー?」
にぃっとジムは唇の端を吊り上げて
意地悪そうに笑った。
「お前ら不謹慎すぎるぞ。恋愛は自由だが。」
課長が呆れ顔でジムの後ろに立っている。
「犯人の手がかりが全くない状況だ。」
課長は一息ついて続ける。
「指紋も残ってないし凶器ももちろんない。電話の声は変声機を使われていた。
・・・・今からの聞きこみに賭けるしかないな。ってことでとっとと行って来い!」
「あ・・・課長!その・・・」
「なんだ?リョウ。」
「・・・・・・・・・・っ。」
“俺も行ってもいいんですか” そう尋ねたいのに声が出ない。
凍りついたように動けないリョウの腰に、ディーが腕を伸ばした。
まるで溶かすように。
「・・・・いちゃついてないで2人ともっ!さっさと行って来い!!」
「・・・・・・はい!」
リョウは満面の笑み。
「課長!ありがとうございます!!・・・・行こう、ディー!」
「おうっ。・・・いいトコあんじゃん、課長っ。」
「馬鹿言うな。いつもじゃ。」
課長は微かに笑って、後ろ手に手を振りながら、モーテルの中に戻っていく。
「かっこいいねー、おたくの課長。」
ジムが口笛を吹きながら言った。
「いつもああならいいんだがなー。・・・っと、ジム。ちょっと頼まれてくれねえか?」
「デートのお誘い?」 ・ ・
「ぶわっか。だーれがだよっ。・・・コレちょっと・・・調べてくれねえ?」
ジャケットのポケットに片手を突っ込み、何かを取りだしてジムに渡した。
すでに遠く歩き出しているリョウを気にするように、微かに振り返りながら言う。
「ディー、これ、どこで・・・・。」
ジムははっとした様にディーの目を見つめた。
「ディーーーーーー!!何してるのーーーーー!?」
リョウは大量に白い息を吐きながら振り向いて声をあげた。
「おおーーー!すぐ行くよ!・・・詳しい事は後で電話でもするから。
頼むな。」
「まかしときっ。お礼はデート一回ねん♪」
「・・・・ぶわーっか。」
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