Lucifer
- ルシファー -
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やっと捕らえる事ができた。紺青の瞳、私だけを見つめる、深い瞳。さらりと凪がれる、明るい栗の髪色。これらは私の為だけに存在し、これから風は、私の為だけに吹くであろう。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

私が私邸の晩餐に誘いを掛ける時いつも、彼の者は満面に花を咲かせるように笑った。私は何故かその笑顔を直視する事ができなかった。

それは、私には眩しすぎた。

実際、その者の笑顔を眩しいと思う事が、最近では頻繁にあった。およそ光の守護聖であるこの私が、直視できない程眩しい光。

それは、私を苛立たせた。

光の守護聖としての、生まれついての象徴なのだろうか、誇りが私を、そして彼の者を許さなかった。彼の者を憎み、疎ましく思った。

それは、私を惑わせた。

彼の者に感情を露にぶつけた。自分の忠実な部下である炎の守護聖が、彼の者を庇うのも私を苛立たせた。だが、彼の者は笑顔を絶やさなかった。優しさと憂いを帯びた瞳で、それでもより一層の笑顔を私に向けた。

それは、私を見透かしていた。

闇を司る守護聖もまた、私の心を見透かすように笑った。それを疎うのは、私のエゴだと。私の傲慢だと。

全ての力は、過ぎれば毒となり、人を滅ぼす。だが、人よりより誇り高く、気高く生きる事を高慢というのなら、私は何の為に生きているのだろうか。私の司る力とは、何なのだ?

彼の者は照れたように笑って言った。私を苛立たせ、惑わせたそれは、私の心を見透かしているように、元気づけるように笑った。そして、言った。

「ジュリアス様。」

一言だけ、私の名前を呼んだ。

それだけで充分だった。この者は私を心から慕い、理解している。と、そう思った。それから私は、光の守護聖の誇りを取り戻した。

それは、私を救った。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

オスカーとランディの事は知っていた。直接本人に問いただした訳でも、誰かからそのような事を聞いた訳でもなかった。だが、恐らく。全ての守護聖は気づいていたであろう。

・・・あるいは、ルヴァを除いて。

私は、風を手に掴みたかった。オスカーに向けられる笑顔が、たまらなく厭だった。別に張り合っていた訳でもないが、私はランディの笑顔を見ていたくて、よく私邸に招いた。見ているだけで、満足だった。

そしてその時は・・・その時は必ずオスカーが一緒であった。別にランディ1人を呼んだところで支障がある訳でもない、が、何故か私にはできなかった。オスカーを通して彼の者と付き合うのが、私の慣習であったからだ。

「オスカー様は」

ランディは言った。

珍しく私が直接声をかけた時、いつもの笑顔の後に、少しはにかんだような色をその紺青の瞳に浮かべ、ランディは言った。

「オスカー様は、いらっしゃるんですか?」

別に彼の者に他意があった訳ではない。それを私は、充分すぎる程理解していた。別に私と2人になる事を避けている訳ではない。いつも私の家での晩餐にはオスカーが共に出席していた、ただそれだけの事だ。

私の慣習となっている事が、この者にとってもまた、慣習となっているだけの事だ。

だが、それが余計に私の心を苛立たせた。無意識のうちにさえ、この者に自分の名前を呼ばせるオスカー。無意識のうちにさえ、あれの名を呼ぶ、ランディ。あれの存在を確かめる、ランディ。

それは、私を狂わせた。

最初は、オスカーをはずす気はなかった。あの者の存在は実際、有り難かった。この者と直接向かい合わずにすむのが、有り難かった。

この者と直接向かい会ってしまった時、私はどういう行動に出るのか、自分に多少の畏怖感を感じていた。

それは、とうとう私を壊してしまった。

「ああ」

と私は言った。

「ああ」とだけ。

その言葉を聞いた途端、ランディの顔に笑みが広がった。

この者は気づいているのだろうか。その名前を呼ぶとき、自分がどのような表情をしているのか。その名前を聞いた時、どのような表情をしているのか。

私は、これを壊すだろう。

それが壊れても、私が壊れても、オスカーにだけは渡したくはない、いいや、それが他の守護聖だったとしてもだ。

私は、それを壊す決心をした。

あるいはルシファーのように、私の『誇り』は『傲慢』という大罪に変わるであろう。それでも構わぬ。あれを壊す事を考えるだけで、私の心は満たされるのだ。

オスカーの執務室へ行き、私は静かに至急の用を申しつけた。オスカーは何一つ疑う事なく、いつもの忠実な部下を演じてみせた。

これでこの者は、二度と風に触れる事はないであろう。任務から戻った時は既に、ここに風は吹いてはいないのだから・・・。

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