森の湖の奥で、大きな木にもたれかかりながら、マルセルは目を閉じた。そんな彼を心配してか、チュピがしきりに周囲を飛び回っている。
「お腹・・・すいたな。」
誰にともなく独りごち、目を開くと木漏れ日が虹色に輝いた。
「チュピ・・・僕、どうしちゃったのかなあ?」
最近、しきりに空腹感を覚える。しかしそれは、普通の空腹感ではなかった。『空腹』ではない。『空腹感』のみなのだ。食べたくて仕方がない。だが、空腹な訳ではない。
マルセルが最初に相談した時、ランディは、ハハ。と笑った。
成長期だからな、と笑った。
お前は元々食が細いから、丁度いいんじゃないのか?とも言った。
だが、違うのだ。ランディには分かってないんだ、とマルセルは思った。
『食欲』じゃない。『空腹感』なんだ。
妙な空腹感が身体を支配し、『それを食す』という欲求を満たすよう要求している。だが、マルセルはそれを『食べたくはなかった』。
「ランディは、分かってないんだ・・・」
マルセルは呟いた。
成長期だからとか、食が細いから丁度いいだとか、そんな言葉で片づけられるような事ではない。
身体が欲しているもの。
それは、チェリーパイだとか、ケーキだとか、シュークリームだとか、そんな類の物とは違うのだから。
だが、それが何か、ハッキリと分かっている訳ではなかった。ただ漠然と、いや、もしくは鮮明に、それが今まで食してきた何物とも違う、という事だけを認識していた。
だから、マルセル自身にも分からなかった。何故、身体が欲しているのに、こんなにもそれを食したくないのか。
あるいは、分かっていたのかもしれない。分かっていながら、気づかないふりをしていたのかもしれない。
だが恐らく、自分がいつかはそれを食すだろう、とマルセルは思った。
それは、予感だった。