そのとき、何故だか。
ああ、やっぱりきたかと思ってしまった。
何故だろう。
予感めいたものが、あったとでも言うのだろうか。
それとも。
それとも…
====テイクウ、ヒコウ。====
どうして、こいつは泣き出しそうなんだろうかとか。
試合に負けたときにも、こういう顔しとけば殊勝なのにだとか。
たった四ヶ月差だけど、学年ひとつ違うというのは、こういう時に現れるんだろうなだとか。
加具山は、そんな事ばかり考えようとしていた。
目の前にある顔は、恐怖よりは同情ばかり煽ったし、優勢なのははるかに自分の方だったのにも関わらず、加具山にはそこから先に行動することが出来なかった。
すべきなのは、拒絶。
殴るか、突き飛ばすか。
はたまた、冷たく言い放つか。
どれでも良い。
どれでも良いから、意思表示をしなくてはならなかったのだ。
それも今すぐに。
また、後でという逃げ口上など口にせず。
さっさと言ってしまえば、それはまるで、幻のように消えてしまうはずなのに。
「か…ぐやま…さん…」
名前を呼ぶ。
その声が、掠れている。
あんなに、自信に溢れていた瞳が、ゆらゆらと見たこともない感情で揺れている。
はるかかなたで。
同じ場所に立っていてさえ、遠かったその存在が。
跪いて、縋り。
許しを乞う。
本当は。
本当は。
そんなことをするなと、怒鳴りつけてやれば良いことなど、加具山には理解している。
ただ一言でも、目が覚めるだろうことも、知っている。
それが出来る人間のはずだ。
榛名は。
きっと、言ってしまえば。
どれほど頭が悪く見えても、そのくらいは理解できる人間だということを知っている。
それなのに、どうして。
なにもできないのだろうと。
揺らぐ瞳に映った、自分の姿を見つけた瞬間に、絶望的になった。
「好きで好きで好きで好きで。もうどうしたら良いのかわかんねぇよ」
「だって、ほんとに好きなんですよ?」
「疑う余地だって、ないほどに」
「愛してるって言えば、わかってもらえますか?」
「他に、どういえばいいんだよ。俺は、アンタが欲しくてたまらないんだ」
「触れて。犯して、喰らいたい」
「ねぇ、好きだよ。好きです。好きなんだ」
「加具山さん加具山さん加具山さん加具山さん加具山さん加具山さん加具山さん」
「こんなに好きで好きで好きで…俺は」
「キガクルイソウ」
熱意と執念と好意と嫌悪と殺意と、情欲と。
ありとあらゆる感情が。
加具山へと降り注ぐ。
けれど榛名は、それ以上近づいてさえこない。
もうあと少しで。
触れてしまえるその場所で。
だから。
もう、だって。
仕方ないだろうと。
「俺は…」
「…!言わないでください」
「言わなきゃ伝わんねぇだろ」
「だって」
「なんでお前、諦めてんだよ」
「…加具山…さん…?」
「お前、ほんと馬鹿だな」
だって。
「俺が、お前のこと好きじゃないなんて、どうして思うんだよ」
言葉より先に、左腕が伸びて。
加具山は、心臓のあたりに、榛名の熱を感じた。
思ったよりも熱くて。
子供みたいだと、薄く笑ってみる。
「加具山さん、好きって言って」
「…好き」
「あー、やべぇ。すげぇ、嬉しい」
「ばーか」
恐る恐る触れる指が、あちこちとさまよいながら。
それでもまだ、加具山へと縋りつく。
「きっと、幸せにはしてやれないけど」
「良いっすよ。だって俺、加具山さんには悪いけど。俺だけは、すっげー幸せだから」
堕ちてきた訳ではなく。
高く飛び上がろうとしたわけでもなく。
その場所へ。
その景色へ。
ただ、それだけのことなのに。
それは、とても難しかった。
「好きだよ、榛名」
「俺は、もっとずっと。好きです」
互いの言葉に、笑い出しながら。
そうして。
そうして。
どこだよ、ここ(笑)
ということで、そうしてその後。
することは一つでございますな。
七万ヒットありがとうございました。
リクエストしてくださった方、ありがとうございました。
ひっそりと、お持ち帰りOKでございます。
初めて、加具山さんが好きって言いましたよ。
もう言うことはなさそうな気がしますよ(笑)
榛名は、やっぱり。
頭の弱い子です。ごめんなさいですよ。