なんで、そんな何でもない顔なんだろう。
ひょっとして。
本当は。
そんなこと、考えたくもないけど。


「…せいぜい良いとこいって、生意気だけどカワイイ後輩ぐらいじゃないの?」


高校で再びバッテリーを組むことになった、中学のクラスメートが、ため息混じりに言った言葉は。
半信半疑どころか。
榛名には、これっぽっちも考えられないことだった。






へぇっと、秋丸の話を加具山が聞いている。
先日、抽選会であった出来事を、秋丸が加具山に話しているのだ。


「お前、よその一年を威圧するなよ…」
「別に、何もしてませんよ」
「こんなのに、トイレで会ったら怖いって」
「あ、ひでぇ。加具山さん」


額をはじかれて、榛名は渋い顔をした。
怒っているというよりも、呆れている顔を加具山はしていた。それから、安堵してもいるような顔だった。


「ケガもさせてないし」
「そういう事じゃないって…まぁ、何もなくてよかったけどさ。で、西浦って一年生ばっかりなんだろ?誰だっけ、榛名がシニアにいたときのキャッチャーがいるんだよな」
「ああ、はい。そうですよ。タカヤって名前の…ええと、確かアベタカヤって言ってましたよ。榛名がタカヤタカヤって言うんで、フルネーム初めて聞きました」
「すんげー、生意気なんすよ」
「…お前よりは、マシな気がするけどな」
「加具山さーん」


春の大会で、金網越しに合ったことを、榛名は思い出す。
シニアで一緒にやった、一つ下のキャッチャー。
別に高校でも一緒にやろうと誘ったこともなかったが、なんとなく同じところを受けるだろうと思っていた。
結局は、一年ばかりの公立校に入ってやっているようだが。
先日会った、そこの投手は。
どう考えても、自分の敵ではないように思えた。
細いし。小さい。
さすがの榛名も、速球を投げられるだけが、すごい投手の条件だとは思ってもいないが。
それでも、あの投手では勝ちあがっていくことさえ難しいだろう。


「ま、榛名は残念だったよな」
「何がっすか?」
「だって、そのタカヤにうちに入って欲しかったんだろ?」
「は?」


加具山が言い出したことに、榛名の目が丸くなった。
あいつは自分と同じところを受けるような気がしただけで、そこまで強く一緒にやりたいとは、足の小指の先ほどぐらいしか思っていなかった。


「違うのか?」
「あー…やっぱり、加具山先輩もそう思いますよねー?」
「学年違うし、学校違うから。前途多難そうだけど、頑張れよ」
「あー、加具山先輩もそう思っちゃってましたかー…」
「榛名?どうしたんだ?」
「…多分、先輩の言葉に衝撃を…いや、ほっといても勝手に復活しますんで。気にしない方向でお願いします」
「…なんだよ、本当に脈なしなのか。…一応可愛くなくても後輩だから、応援しといてやるよ」
「先輩、さらにプレイヤーにダイレクトアタックですから。もうそのあたりで勘弁しといてやってください」
「秋丸。その例え、よくわかんねぇよ」




首を傾げながら、後輩二人の前から加具山が姿を消すと、秋丸はためらいがちに、榛名に声をかけた。同学年のチームメイトとして。
それから、明らかに分の悪い勝負を挑もうとしている勇者に対しての、ささやかながら応援する気持ちを込めて。


「とりあえず、加具山先輩の前では名前出すのやめといた方が良いんじゃないかな。いまさら遅いとは思うんだけどさ。あの顔は、完全に。弟の恋を応援する、姉の顔に近いものがあるから」
「…覚えがあるから、よくわかってる」
「そういや、榛名んち。姉さんいたよな」


榛名は、姉の顔を思い出していた。
年末あたりから、やたらと一人の名前を連発する弟に対して、にやにやと人が悪いとしか思えない顔で、言ったのだ。
(見込みなさそうだけど、あたしはアンタの味方だからね)


「…くそ…なんでこんな」
「まぁ、オマエみたいなのが、下の名前で呼んでるからじゃないのか?」
「だって、あそこ。皆、下の名前だったぞ」
「そんなの、そのチームにいなかったらわからないだろう」
「…じゃぁ、名前で呼べば良いのかよ」
「それは、やめといた方がいいんじゃないかな…」


決意は、その後一時間もしないうちに。
絶叫に近い怒鳴り声で、打ち砕かれるのだけれど。




「加具山さん!直人さんって、呼んで良いっすか!」
「よくねぇよ!」







どこまでいっても、鈍感で罪作りな加具山さんが好きです(笑)
今回は、珍しくというか。初めて加具山さん視点じゃないですが。
書きにくいことこの上なし。