いつから、君はこんな風に眠っていたのだろう?




「・・・またか・・・」
 いつものように、部屋の中にはトリスの姿はなかった。出されていた課題は、当然手もつけられていないまま、机の上へと放り出されていて、窓が全開のままで、彼女の逃走経路を物語っていた。
「また、本部の外へ出たんじゃ・・・」
 若干の不安をかかえながら、僕は彼女の部屋を後にした。講義をサボっているのだから、せめて課題だけでも提出させなくてはならない。
 本部の建物内にいるのは考えにくかった。
 彼女は・・・ここに居たくないのだろうから。
 とりあえず、中庭から探す事にした。以前、木に登っていた事があったから。
 小さいくせに、身が軽いせいか、高い木にするすると登ってしまうので、一見しては探しにくいのだが。
「トリス!」
 声をかけてみるが、やはり返事はない。
 何ヶ所か調べてみたが、どれも形跡は見られなかった。やはり外へ出たのかと思いつつ、まだ探していない場所に足を向ける事にした。
 ちらりと、視界の端に何かが映りこんだ。
「・・・ト・・リス?」
 それが探していた少女だと認識するのに、数秒を要したのは、彼女があまりにも小さかったからだ。
 トリスは、樹の根元で貝のように小さくうずくまっていた。膝を抱え込んで、まるで自身を抱き締めるように。
 身動き一つしない少女に、僕は背筋が寒くなった。
 恐る恐る近づいて、彼女がただ眠っているのだと解ると、全身の力が抜けて、その場に座り込んだ。
「こんな所で・・・何をのんきに・・・」
 少し乱暴に起こそうとして肩に手をかけ、そして凍りついたように動けなくなった。



 一体いつから、こんな風に眠っていたのだろう。
 それほど大きくない体を、さらに小さく抱え込んで。
 泣きながら眠っていたのは、いつからなのだろう?




 傷つけたいと思っていたのかもしれない。
 同じ苦しみを、味わう事もない彼女を。
 間違いだとわかっていたのに、どうしても許せないと思う心は止められなかった。
 機械のように、冷えた心のままではいられなかったから。




「・・・君のせいじゃない・・・君のせいじゃないんだ」




 腕の中に、少女はいる。
 もうあの頃のように小さくもないし、頼りなげでもなくて、随分と可愛げのない事の言うようになったけれど。
 それでもまだ、彼女は僕の腕の中にいてくれている。
 何もかもを知ってさえ。





>>>いつか見ることの出来る風景(完) 






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