(べ・・・別に深い意味なんかないのよ!そうよ、絶対にそうなんだってば!)
 トリスは、ベッドの上で頭を抱えながら、百面相をしていた。とりあえず一人きりだったので、どうという事もないが、他人が見ればあやしい事しきりである。
(だいたい!ネスがそんな事、思ってるはずなんかないんだし!)
「・・・兄弟子だもん」
 ぎゅうっと手のひらを握り締める。爪の後が残る程の力で握り締めたので、じわりと痛んだ。
「トリスさん、だいじょうぶですの〜?」
「ひゃわっ!」
「きゃぁ!なんですの、なんですの〜っ!」
「あ・・・ああ、モナティか。なんでもないの、あはははは・・・」
「はぁ・・・そうですの?あ、そうですの!おかげんはどうですの?もう具合は悪くありませんですの?」
「え、ええ・・・うん。もうへいき。ごめんね、心配かけちゃったかなぁ」
 安心させるように笑うと、モナティが顔をくしゅりとさせて鼻をすすった。
「にゅ〜・・・しんぱいしましたの〜きゅうにトリスさんがたおれるから、モナティすっごくすっごくびっくりしちゃいましたの〜にゅく〜〜」
「本当に、ごめんね。あたしはもう平気だから、皆にそう伝えてきてくれるかな」
「はいですの!あ、まだ起きてはいけませんのぉ!」
 起き上がろうとしたトリスを、モナティが無理矢理ベットに押し戻した。
「でも、出発遅らせちゃったし・・・」
「いいんですのぉ!」
「いや、よくはないんだけど・・・」
「出発は明日になりましたの。ですからぁ、トリスさんはゆっくり寝ていてほしいんですのぉ。マスターも、言ってましたの。トリスさんは疲れてるんですの!だから、すこうしでも休むんですの!」
「あ・・・う、うん」
 よくわからないモナティの迫力に圧されて、トリスはつい頷いてしまった。
 解ってもらえたと判断したらしいモナティは、嬉しそうに笑顔を向けて、部屋を出ていった。
 モナティの居なくなった部屋で、暫くぼんやりしていたトリスは、嘆息した。ベッドのサイドデーブルに水差しが用意されていたので、おもむろに水を喉に流し込んだ。乾いていたらしい喉が潤い、混乱した頭の中の整理が出来るようになった。



 そもそも、彼女の兄弟子が言い出した事が問題だったのだ。
 エルゴの王の後継者、誓約者ハヤトとその仲間たちの力を借りて、メルギトスを封印する事が出来た。召喚されてきた者ではない大悪魔を送還することは出来なかったけれど一応世界の危機は去り、戦乱は回避された。
 メルギトスの、不吉な予言めいた言葉は気にかかる事ではあったけれど・・・
 そうして戦いが終わって、二重誓約で召喚してしまったモナティを、マスターのもとに無事に帰す事もできた。戦乱の処理もあり、順風とは言えないがこれから先のことを考えようとした矢先・・・
 船で帰るサイジェントのメンバーを見送りに行った先で、別れを惜しんで少し出発の時間まで話をしていた時、その爆弾発言があった。
「今日から、僕が君の役目を引き継いでトリスの護衛獣になろう」
 それはもう穏やかな笑顔で。
 何故か納得する人々と、笑顔の兄弟子に、トリスの頭の容量はすっかりオーバーしてしまったらしい。
「たっぷり時間をかけて再教育させてもらうとするか」
「あ・・・う・・・」
「そういうわけだ。覚悟をきめてもらうぞ、ご主人様?」
 そこまで言われたとたんに、ばったりと気を失ってしまったのだった。
(ネスのばかぁ〜)
 思い出して、トリスの頬が染まる。
 そういう意味ではないのだと思っても、年頃の女の子にとっては、あまりにもな発言である。だいたい、周囲の人間に誤解を与えかねない。
(ハヤトやアメルってば、なんで納得してんのよう)
 きっと聞いた人間は、そういう意味にとってしまうかもしれない。
(でも・・・でもネスは・・・別にきっとそういうんじゃなくて・・・あたしの事・・・妹弟子以上になんか思ってないもの)
 護衛獣のいない召喚師にならない為に、ネスティがあんな事を言い出したのだと、トリスは思っていた。結局、お目つけ役としての立場で、そう言っているのだと。
「わかってても、落ち込むよねぇ〜」
「何がわかってるんだ?」
「・・・ひゃ!ネネネネネネネスぅ〜?」
「なんて声を出してるんだ・・・」
「あ・・・あううう・・・」
 ベッド脇にあるスツールに、現在トリスの悩みの元凶である兄弟子が腰掛けた。
「モナティから、君が目を覚ましたと聞いたから、様子を見にきたんだが・・・あんまりよくないようだな」
「え?あ、ううん。全然大丈夫!もう問題なし!」
「無理はしなくていい・・・」
 ネスティの手が、優しくトリスの髪を撫でた。その昔してくれたのと同じ行為に、トリスは胸の奥がほのぼのと暖かくなる。
「疲れていたんだろう?もう終わったんだ、これからはあまり無理をしなくてもいいんだ・・・ご主人様」
 にっこり。
 にっこり。
 トリスはまた目眩を覚えた。
 どうやら、悪夢はまだ続いていたらしい。折角あれは夢だったのだと思いこみたかったのに。
「・・・うううう」
「どうしたんだ?どこか痛むのか?」
「・・・・ネスの馬鹿ぁ〜!」
 ぼろぼろとトリスは、大粒の涙をこぼして泣き出した。一度堰を切ってしまうと、涙は容易に止まらない。
「ばかばかばかばかぁ〜」
 兄弟子のお株を奪う、馬鹿の大安売りである。
 泣かれてしまった方はといえば、これはもうしばらくは放っておくしかない有様に、困惑した表情を浮かべていた。



 ところで、散々鳴き喚いた後というのは、やや気恥ずかしいものだ。
 それも、原因が目の前にいるのだから。
「さて、心配してきた人間に向かって、馬鹿呼ばわりするには、何か理由があるんだろうな」
 けれど原因の方は、容赦がなかった。
「だって・・・」
「だって?」
「だって・・・だって、ネスが・・・ネスが、ご主人様なんて言うからっ!」
「・・・それだけか?」
「それだけって・・・」
「僕は君の護衛獣なんだから、当然だろう」
 じわりと、トリスの瞳に涙が滲む。
「ご、護衛獣になって欲しいなんて言ってない!」
「・・・・・・嫌なのか?」
「嫌とかそういうんじゃなくて」
「僕じゃ、嫌なのか?」
 ネスティの声が低くなった。冷たく、堅い声。
 びくりと脅えたように、トリスが身をすくめると、ネスティは苦笑した。
「・・・ずいぶんと嫌われているんだな。僕は」
「ちがっ!」
 ばっと顔を上げたトリスと、ネスティの視線が絡んだ。
「ちが・・うの・・・違うよ・・・あたし、あたしが・・・ネスを嫌いになんかなるはずない・・・」
「トリス・・・」
「名前・・・名前呼んで欲しいの・・・」
 ぎゅうっと、トリスはネスティに抱きついた。胸に押し付けた頬に、鼓動が響く。
「あたし・・・ネスが護衛獣だなんて嫌だよ・・・そうしたら・・・きっと今より・・・遠くなっちゃう・・・」
「トリス・・・馬鹿だな、君は」
 優しく、ネスティの手のひらが、トリスの背を撫でた。そして、そっと額に口づける。
「ネス・・・?」
「普通、わかるだろう。ああ言ったら・・・まぁ仕方ないか。君のその鈍感さで、今までライバルらしいライバルも現れなかったんだからな」
「ええと、あの・・・」
「アメルも言っていただろう?ずっと一緒って事だ。護衛獣という形が、一番てっとり早いと思ったんだが・・・護衛獣なら、悪い虫にも容赦なく対応しても問題ないだろうし。なにより、誰の邪魔も入らずに二人だけでいられるだろう?」
 とんでもないことをさらりと言われて、トリスはとっさには言葉が出なかった。
「ネスティ?あのね・・・あたし・・・」
「そうだな、先に言っておくべきだった」
「ちょっと・・・混乱しちゃってるんだけど・・・」
「愛してる・・・トリス・・・」
「いったい何が・・・って・・・えええええぇっ!」
「君を、他の誰にも渡したくはないし、君を護るのは僕だけでいい・・・」
「えっと!あの!ちょっと・・・えええ〜!」




 そして、またもやトリスは思考が止まりかけた。



 ただし今回は、兄弟子から護衛獣をへて「恋人」にクラスチェンジしたがっている人物がそばにいたので、うっかり気をを失う事もできなかったが。




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・・・リンカールートのネスEDって、ネスがなんだかやたらと強気でびっくりしました。
本編は乙女くさいじゃないですか、ネス兄さん(笑)トリスの方が男前に見えますもの。
ああしかし、カユイ話ですんません(笑)
カユイ話は大好きです。読むのも書くのも。
どうでもいいんですが、ラウル師範はもはやバスク家の事は諦めているのかしらんと思ったり思わなかったり。




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