屈託ない笑顔を向ける少女が、頑なに他者を拒んでいた事を、きっと誰も信じないだろう。
愛想笑いで、適当な関心しか示そうとしなかった事など、おそらくは。
無言と乱暴さの拒絶は、1年もせずに治まった。だがそれから数年の、拒絶の期間の方がよほど問題だったろう。そしてきっと、まるで自分を見ているようだったから、ネスティ・バスクはどうしようもない苛立ちでしか、少女に向かいあえなかった。
お互いトゲだらけだったから、きっと義父などはそれが一番の悩みどころだったのではないだろうかと、ネスティは思った。
傷付けられる前に、相手を傷つける事しかできない。
未熟で幼い、全く幼稚だったのだけれど、お互いがそうする事しか知らなかった。
誰からも関心を示されず、愛情も満足に与えられず、身を守る術など持たず、自分自身にさえ信用と置けない。一体どうして、それで相手を気遣うことなどできたろう。
それでも、歳月はそのトゲを少しは和らげ、頑なな殻からも破れていった。
お互いの手が暖かいことも、誰よりも他に、安堵できる相手がお互いと保護者以外にはいない事も、滴が岩を穿つように緩やかに歳月が教えていた。
ぱたりと、ネスティは読みさしの本を閉じた。
すでに陽も落ちて、窓から差し込む明かりだけでは心もとなくなっている。ゆるゆると立ち上がり、机のランプに火と灯す。ぼんやりとそれは周囲を照らし、淡い陰影を落とした。
そうして、さてと思う。
不詳の妹弟子は、宿題を片付けているだろうかと。
明日をも知れぬ旅の中だというのに、宿題を出す兄弟子に、ぶちぶちと文句を言いながらも、妹弟子は結局は3度に1度の割合で従う。
素直に従わないのは、昔からなので慣れてはいるが、やはり小言は多くなる。またこれも、言わないと言わないで、なんとなく居心地も悪いからどうしようもない。
些細な口喧嘩の後だったため、半日程避けていたが、なんとか言い訳を見つけてネスティは妹弟子の部屋へ様子を見に行く事にした。
派閥の中での事なら、さほど言い訳がましい事など考えなかったのだが、いかんせんこう人が多いと別に尋ねられもしたい事をつい考えてしまう。
ひょっとしたら、自分がすねて篭っている間に逃げ出している事も考えられた。
そう思ってぐずぐずしているうちに、本当に逃げられてしまうかもしれないので、ネスティはため息ひとつおとして、灯したばかりのランプの明かりと消そうと手を延ばした。
コツン。
ゴンゴン。
その、なんとも奇妙な扉を叩く音は、聞き間違えようもない程耳に馴染んだもので、ネスティはランプに伸ばした手をはたと止めた。
いきなり部屋を開ける癖を持つ妹弟子は、ほんの少し気が咎める事があった時だけ、こうして奇妙な気の抜けるようなノックをする。
ふっとネスティの口元が緩む。
こうして、中途半端に控えめなノックの後、数を5つ数えてから言うのだ。扉の向こうで妹弟子は。すねて怒ったような口調で。・・・それから、ほんの少しだけ甘えたように。
それから、ネスティは軽く叱って部屋に招きいれる。
だからネスティは、習慣のままに行動する事にした。いつか、出来なくなるのかもしれない不安を、ぎゅっと右手で握りつぶして。
純粋に憎しみであった強い感情が、庇護欲に変わって、独占欲になる。
愛しいと思う。
やはりまだ、狂おしい程の憎しみが燻っているように感じても。
純粋さのかけらもない想いであると承知して尚、青年は身を焦がすほどに熱望していた。
夜など明けなくて良い。
永遠に目隠しされたまま、ぬるま湯のような愛情で縛り続けたい。
恐らくその秘密は暴かれ、それもそう遠くない未来に、夜は明けてしまう事はわかっていても。
それでもその事によって、互いを縛るそれは、より一層絡み合っていくのではないのかとも。
「ねぇ、ネス。・・・入ってもいい?」
一体、だれが真実など望むのだろうか・・・・・
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ひ、久しぶりに書いたらなんだかネス兄さんがエラい事に(苦笑)暗いんだか、様子がおかしいのだか。
でも、うちのネス兄さんは、だいたいこんな感じだったかしらと思ってみたりして。