「あ、ネスティだ」
 ミニスの言葉で、トリスもそちらを向く。視線の先には、町中を歩く姿も珍しい、ネスティがいた。
 その表情が、一瞬にして曇ったのは、ミニスの隣にいるトリスを視界に収めてからだ。
「・・・驚いてるんじゃないの?ネスティ」
 わかりにくいけどと、ミニスが言う。
「うう、どっちかって言うと、怒る直前っぽいかも〜」
 トリスは、乾いた声で笑ってみた。
「何をしてるんだ。こんな所で・・・」
 近づいてきたネスティは、常の調子で問いかけてきた。ほんの僅かに、視線が冷たい。もちろん、気づいているのはトリスぐらいなものだが。
「買い物の行くつもりなの」
「買い物?」
「そうよ・・・ねぇ、それよりもネスティ?なにか言うことはないの?」
「・・・何を?」
 ふぅ、とミニスはあからさまにため息をついた。それから、ひきつった笑みを浮かべているトリスの、服の裾を摘んで「これよ、これ」と得意そうに言った。
「あ、あはは〜・・・似合う、かな?」
 トリスはやや視線を外しながら、くるりと一応回ってみせた。すると、空気をはらんで、スカートの裾がふわりと膨らむ。
 トリスが着ているのは、いつもの派閥の制服ではない。柔らかな布で作られた、白のサマードレス風のワンピースだ。長めのスカート丈だが、色と布地のおかげで、重くは見えない。一見して、高級素材である事がわかる。
「どうしたんだ、それは」
 明らかに、無駄使いは許さないといった雰囲気のネスティに、トリスは気圧されたが、ミニスはどこ吹く風で、タメあかしをした。
「お母様のお下がりなの。お母様はもう着られないんだけど、あたしじゃ大きいから、トリスにって」
「買い物に行く前に、ファミィさんの所に行ったのよ。派閥とか関係なく、ミニスのお友達って事で呼ばれたんだけど・・・」
 どうやら、化粧っけもなにもないトリスに、プレゼントがしたかったようだ。
「遠慮しようと思ったんだけど、遠慮しきれなくって・・・」
 笑顔が恐いんだもの、とトリスは呟く。
「なるほど・・・そういう訳か」
「トリスも女の子なんだから、着るものには気をつかわないとね」
「でもね、ミニス。こんな格好ばかりだと、動きにくいじゃない?その、ほら・・・今けっこうたてこんでるし」
「いや、ミニスの言う事も一理あるな。そういう格好でもすれば、君だって多少はおしとやかになるんじゃないのか?」
「ううぅっ・・・」
 痛い所を突かれて、トリスは口ごもる。確かにこの格好では、3段の段差を登り4段を降りるのは難しい。ましてや、大股4歩でナイフで横切りなどもっての他だろう。
「・・・魔法攻撃値、低いのに〜」
 アイデンティティーの危機に、トリスはほんの少し涙ぐんだ。
「あ、そうだ」
 落ち込むトリスをよそに、ミニスがぽんと手を打つ。
「折角ネスティに会ったんだもの、買い物二人で行きなさいよ。そうよ、それがいいわ。それじゃ、いってらっしゃい、二人とも」
 そうして、一方的にまくしたてると、ミニスは手を振りながらさかさかとその場から立ち去ってしまった。
「え、ちょっとっ!ミニス?」
「やれやれ、行ってしまったな・・・」
「も〜・・・ネスの都合もあるのに・・・で、大丈夫?時間ある?」
「いったいどこに買い物にいくつもりだったんだ?」
「武器屋さん。そろそろ新しいのが入ってるかなと思ってね。杖とかアクセサリーとか欲しいかなって・・・だからミニスにつき合って貰おうと思ったんだけど」
 上目使いで、ネスティを見上げるトリス。若干おねだりモードに入っているようだ。
「仕方ないな・・・自分の目で確かめるのも必要だし、付いていく事にしよう」
「本当?ありがとう、ネス!助かっっちゃった〜他にも鎧とか槍とか欲しいなって思っててさ〜一人じゃ持ちきれないんだもん」
「・・・・・・増やしただろう?」
「さぁさぁ、行きましょう」
 上機嫌で、トリスはネスティの腕を取って歩きだした。



 さすがに二人で大量に購入する事は不可能だったので、嵩張らず重量のない物を中心に仕入れる事にし、すっかり顔なじみになった店主に、他の品物を取りおいてくれるよう頼んでから店をでると、空が茜色に染まっていた。
「うっわ〜もう、こんな時刻なんだ・・・」
「すっかり長居してしまったな」
「おなかすいた・・・もうご飯出来てるかなぁ」
「・・・・・・他に言う事はないのか、君は?」
「むぅ・・・だって、おなかすいたんだもん」
「やれやれ、どんな格好をしてても、君は君だな」
「悪かったわね。おしとやかじゃなくて」
 むくれるトリスに、ネスティは軽く笑った。
「まぁいいさ。君らしくて、ね」
「誉めてるの・・・?」
「最大級の賛辞だと思うが?」
「むぅ・・・?」
 納得しがたい表情のトリスに、今度は声を上げて、ネスティは笑い出した。
「ミニスには感謝しないとな・・・」
 ひとしきり笑ってから、ネスティは小さく呟いた。もちろん、トリスには聞こえないように。
「もう、先行くからね!」
 散々笑われたトリスは、すっかりむくれ、ネスティに背を向けると、早々に歩き出した。
 勢いよく歩く足元に、ロングスカートの裾が、軽やかに翻った。
 その背を見つめて、ネスティはまた微笑んだ。




「義父さんが見たら、喜ぶかな・・・?」





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