「そういえば、不思議なことがあってね」
 眠る前に、トリスとアメルは話をする事が多くなった。暖かいミルクをカップに注いで、夜着の上に肩かけを羽織ながら、とりとめのない話をする。
 それはアメルが天使だったからだとか、そういう事ではなくて、大切な友人だったからだ。アメルにとっても、経験する事さえ少なかった、大事な時間だったからだろう。
 他の仲間とする面白い話や、真面目な話ではなく、もっとずっとなんでもない事。
 トリスがくすくすと笑うのを、アメルは不思議そうに首をかしげながら見つめる。
「あのね、随分昔なんだけど・・・夜眠れなかったり、怖い夢を見たりして目が覚めちゃったりすると、何故だか絶対にネスが来てくれるの」
「ネスティさんが?」
「うん。そりゃぁたまには、泣き出したりしてたけど、でもね、それだっていつも泣いてたわけじゃないのよ。ネスの事、呼んだりした事なんかなかったはずなの。なのに、そういう時ほど、絶対にネスが部屋のドアを開けたの。でね、こう眉間にしわ寄せて怒るの」
「ふふ・・・いつまでも、起きているんじゃないって言われるんでしょ?」
「あはは、アメルうまいね〜」
 声まねをするアメルに、トリスはおかしそうに笑った。
「あたしも、おじいさんに言われた事あります」
「おじいさんに?」
「うん。トリスと同じで、怖い夢をみて起きちゃうと、その後眠れなくって・・・でも、ベッドから出られないんですよね」
「そうそう、そうなのよ。だから、シーツに潜っちゃったりするんだ」
「それでじーっとして、でもよけい目が冴えて・・・どうしたらわからなくなる・・・そうするとね、おじいさんが言うの。いつまでも起きていると、朝起きられないぞって。どうしてわかっちゃうんだろうっと、いつもびっくりするんだけど、でも何だか嬉しくなって・・・」
「不思議だよね〜あんなに怖かったのに、全然怖くなくなっちゃうの。別に慰めてもくれてないのにね」
「ふふ、本当」
 二人の側には、小さな明かりがぽつんとあるだけ。そっと開かれる二人だけのパーティは、いつもその小さな明かりだけ。
 でも、不思議と暗くはなかった。
 そして今日は、ふわふわと心地よく輝いていた。
「おじいさんは、寝るまで一緒にいてくれた?」
「ええ」
「そっか・・・ネスはさぁ、いつもすぐいなくなるんだよね。説教して」
「あらら」
「でも、そういう日はたいてい朝起こしにきてくれて・・・あ!」
 思い出をたぐりよせながら、トリスはむぅとむくれたような顔をする。
「あれからだなぁ、朝一人で起きられなくなったの。それまでちゃんと自分で起きてたんだから」
「・・・ネスティさん、怒りますよ」
「だから、内緒の話」
「そうですね」
 カップのミルクが無くなると、二人のささやかなパーティは終了した。
 小さな明かりは二つにわかれて、お互いの部屋まで、足元を照らす。
「おやすみなさい」
「おやすみ、アメル」


 アメルは、部屋の扉の前でちょっと笑った。
 きっとトリスは、あの後テラスに行ってしまうだろう事を知っていたから。そして、心配症の兄弟子に小言を言われるのだ。
 そして、明日も寝坊して・・・朝のまどろみを楽しむのだろう。
 部屋に入って、ベッドに腰掛けると、アメルは明かりをそうっと消した。


 テラスに向かいながら、トリスはちょっとおかしそうに笑う。
 アメルにも内緒にしていた事を思い出して。
 眠れない夜に現れる兄弟子は、いつも小言を言っていて、言い終わるとすぐに部屋を出ていった。そうして、トリスが出ていった扉を見つめていると、また戻ってきたのだ。それから、思い出したように・・・トリスの頭を撫でてくれた。
 いつもいつも、一度部屋を出てしまって、それから思い出して戻ってくる。
「あれも、不思議だよねぇ」
「何が不思議だって?」
「わっ!ネス」
「大きな声を出すな、夜中なんだぞ」
「あはは・・・ごめん」
 謝るトリスを見下ろしているのは、彼女の兄弟子。その眉間には、やっぱりしわが刻まれている。
 だから、トリスはくすくすと笑った。
「何がおかしいんだ?」
「んーん、なんでもないよ」
 今夜もきっと、兄弟子のお説教を聞かされるのを、トリスはすこうしだけ嬉しくおもっただけだから




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