「ん〜・・・」
 前髪をひっぱりながら、鏡の前で唸っているのを発見したアメルは、疑問をその背中にぶつけた。
「どうしたんですか、トリス?」
 答はすぐに返ってきた。
「なんか、ちょっと髪の毛伸びてきたかなぁと思って」
 もともとあまり長くないので、よけい気になるのだろう。こういう事は、本人のほうが煩わしく感じるらしい。アメルなどには、さほど伸びたように思えないのだが。
「このさい、伸ばしてみたら?」
「でも・・・うっとおしくて」
「今だけですよ。伸びてしまえば、そんなに感じないから」
「そんなもんかなぁ?」
 鏡の前で、トリスはむぅっと頬をふくらませている。
「でも似合わないよ、きっと」
「そんなのわかんないじゃないですか」
「けっこうゴワゴワしてて、堅いんだもん。髪の毛も太いし」
「そんな事ないと思うけど・・・」
 髪の毛先をくるくると弄びながら、トリスはため息をつく。指先にからまるそれは、確かに自慢する程のものではない。
「ルウとかモーリンとかアメルみたいに、さらさら〜っとしてればいいんだけどなぁ。ケイナも綺麗だよね〜・・・まぁ、無いものねだりしてもしょうがないけどさ」
「トリスは、伸ばしたことないんですか?一度も」
「うん、ないよ。だいたい伸びかけると切ってる。やっぱり、邪魔だし。脱走するには」
「・・・その為だけ?」
 さすがにアメルも、乾いた笑いしか浮かべられないような事を言うと、トリスは覗きこんでいた手鏡を置いた。
「やっぱり、気になるから切っちゃおう」
「え?・・・まさか、自分で?」
「あはは、さすがにそれはないってば。ちゃんと切ってもらうよ」
「そうなんだ」
 安心してアメルはその場から立ち去る事にした。


「・・・切ってもらうって、そういえば誰に?」


 午後の陽射しの中、テラスで耳元にはさみの音を聴きながら、トリスはまどろんでいた。
「こら、寝るんじゃない。危ないだろう」
「にゅ〜・・・」
「まったく・・・ほら、頭を動かすんじゃない」
「はぁ〜い」
 けれど、小言も子守歌のように聴こえてくるので、やはり船を漕ぎ出してしまう。
「・・・仕方ないな」
 それは昔からの事だったので、トリスの後ろではさみを持った人物は苦笑しながらも、手際よく毛先を揃えていった。
 そして、集団生活なら当然の事、覗いている人間もいるもので・・・
「ネスティさんて、本当に器用ですね。ミモザさん」
「まったくねぇ・・・何でも出来るんだか、出来るようになっちゃったんだか。あの子、繕い物も出来るんだけど、すごいのよ。トリスの服に、刺繍とかまでしちゃうんだから」
「そ・・・それは・・・」
(・・・トリスが、何にも出来なくなるのは仕方ないのかもしれないかなぁ〜)
 幸せそうな2ショットに微笑ましく思いながらも、アメルとしては不安を隠しきれないところだった。



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