「ねぇ、トリス?」
「ん〜?」
ミニスが、不可解といった顔でトリスを見ている。見られている方は、何がどうしてそんな顔をされるのか解らず、首を傾げていた。
「なぁに、ミニス。あたしがどうかしたの?」
しばらく考えこんでから、ミニスはトリスが今手に持っているカップを指さした。
「それ・・・」
「ミニスもなんか飲む?何がいい?」
「なんなの?」
「・・・なんで、紅茶ストレートでしか飲まないのに、コーヒーはミルクが入るのよ」
「は?」
言われた事の意味がわからず、トリスはとうてい妙齢の女性とは思えない声を上げてしまった。
「だからトリスってば、ミルクは入れても砂糖は入れないのよ。紅茶にはミルクすら入れないの」
「・・・そりゃ、好みの問題だからなぁ」
本人に明確な答えがもらえなかったミニスは、リビングでくつろいでいたレナードを捕まえて、話しを聞いてもらう事にしたらしい。レナードは、煙草の煙をくゆらせながら、少女の相手をしている。
「そうなんだけど・・・うーん、レナードはコーヒーには砂糖入れないでしょ?」
「ま、俺様はな」
「紅茶には入れる?」
「俺様は紅茶党じゃねぇからなぁ・・・でも、入れないと思うな・・・コーラならチープに甘くてもいいが、甘さを楽しむもんじゃねぇだろ?コーヒーも紅茶も」
「うん。紅茶は、甘くして味わうのもあるみたいなんだけど、あんまりコーヒーはないわよね」
「まぁ、そうだな」
「基本的には、砂糖なんか入れないで飲んでるのに、なんでミルクは入れるのかって事よ」
「カフェオレってのもあるから、そのつもりなんじゃないのかねぇ・・・はなから言ったが、だから好みの問題なんだろうさ」
「紅茶にミルク入れたら怒るのに?」
「たいした事じゃねぇさ、多分な」
むぅと、ミニスは考え込むように腕をくんだ。
紅茶にはミルクも砂糖もなしで、入れると紅茶の味がどうこういう人間が、コーヒーにはミルクを入れる。だからといって、トリスが紅茶党ではないのは、普段のトリスのカップの中身が黒い液体で満たされている事から、はっきりしている。
ブラックコーヒーよりも、カフェオレが好きだということなのか・・・
「どうせ、あの兄弟子様関係だと思うぜ。俺様はよ」
「ネスティ・・・?」
レナードは、おかしそうに口の端で笑った。
「ネスティの奴が普段何飲んでるか、お前さん知ってるか?ま、捜査の基本は、情報集めだな。頑張れよ、お嬢ちゃん」
「・・・またあたしの事、子供扱いしてるでしょ」
とりあえず、ミニスはネスティの飲物調査をする事にした。
調査は特に難航する事はなかった。
いつもはネスティが何を飲んでいるかまで気をつけていなかっただけで、飲物を口にしている姿を目撃した事がなかったわけではないからだ。
そして、カップの中身は黒かった。
「・・・ネスティ、それってコーヒー?」
「それ以外の、なんに見えるんだ?」
疑わしそうな視線のミニスに、ネスティは怪訝な顔をした。
ただ、ネスティのカップの中にあった液体は、確かにミニスが疑わしそうな視線を向けて当然のような物だった。
真っ黒い、インクを溶かしたような色の液体。
とうてい、コーヒー色という範囲を越えていて、全く飲物の色のような気がしない。
ミニスははっとする。
「あのね、ネスティ・・・やっぱりそれって、旅に出る前から飲んでるのよね?」
「ああ、そうだが・・・それがどうかしたのか?」
「・・・けっこう昔から・・・?」
「一体、なんだって言うんだ?」
「・・・トリスにいれてあげるコーヒーって、やっぱりそれなの・・・?」
「それが、どうしたって言うんだ?」
「そうなの・・・あ〜・・・うん、もういわ。ありがとう・・・」
くらくらする頭を抱えながら去っていくミニスを、ネスティは困惑したような顔で見送った。
「つまり、トリスの中でのコーヒーって、あの泥水の事なんだわ。だから、ミルクなしじゃ飲めないのよ!」
(きっと、ネスティが飲んでるのを真似して、一緒に飲みたかったんだろうけど・・・)
「あんなの、ミルク入れたって飲めないわよ。普通」
あの謎の黒い液体を思い出して、ミニスは胸自棄してしまった。
「そういえば、ミニスなんだか変な事言ってたけど・・なんだったのかしらね」
あの泥水の制作者はネスティではない。
一応、ミルクを足して飲ませたのはネスティだ。が、彼は自分でコーヒーを入れた事はまずない。
なぜなら彼の妹弟子が、彼のために大量に用意しておくからだ。恐らく、妹弟子が彼のために唯一してあげられる事として。
鍋いっぱいのそれは、温めなおすたびに、どんどん煮詰まっていく・・・
そうして、ネスティにしか飲める代物でしかなくなっていくのだ。
「ネスも、これだけは誉めてくれるんだよね」
割れ鍋に閉じ蓋・・・(涙)
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