「ごめんね・・・リューグ」
 やっぱり、謝りやがった・・・
 てめぇのせいじゃないだろうが。
「あたし、約束したのに・・・」
 あのメガネじゃねぇが、本当に馬鹿だな。
「守れなかったよ・・・」



 なぁ、アメル・・・
 おまえ、これで満足なのか?



 今日も、大樹に寄り添うようにしてうたたねしているトリスを見つけて、リューグは一瞬天を仰いだ。
 たいがいここにいる事が多いので、探しだすのに苦労する事はない。少女の兄弟子が語った脱走話では、そうとうにてこずらされた事もあったようだから、行き場所の決まっている今、多少目を離しても心配する事もないのだが。
「いくらなんでも、無防備過ぎだ・・・」
 人目のあまりない場所という事もあるので、危険も少ないと言えば少ない。ひょっとすると、リインバウムで一番安全な場所かもしれない。
 なにより、大樹に姿を変えたのは、豊穣の天使アルミネの魂のかけらから生まれたアメルで、正直リューグは、彼女の中にやや理解しがたい、外見からはけして窺いしれないなにかが存在したような気がしていたのだ。
 おそらく、彼女を護る為に姿を変えたのだろうから、対象の少女が側にいるのなら、確かに安全だろう。
 しかし、安心したように眠るトリスの姿に、リューグの中で、納得しがたい塊が存在する。
 その正体を無理に見ないようにして、リューグはトリスの体をそっと抱きかかえた。
 起こさないように、そっと。
 すっかりその行為にも慣れてしまって、それもまた、リューグの中にある塊を、大きくしていたのだが。
 いくら危険がないと言っても、やはり森の中で放置しているわけにもいかない。丈夫さだけが取り柄のようだった少女も、いくぶん痩せてしまったから、風邪などひきこまれでもしたら、寝覚めが悪い。
 今まで傍らにいた兄弟子を押し退けて(ついでにひっついていた護衛獣やら抜け目のない連中やらも)トリスの側という場所を奪いとったのだから、一応体調にも気を配ってやらなくてはいけなかった。以前の彼なら考えられない事だったが、なにせトリス自身が全く頓着しないので、リューグが気にかけていないとどうしようもない。なんとなく、彼女の兄弟子の苦労をかいま見た気持ちになってみたりする、リューグだった。


 大樹の側に、小屋はあった。
 護人になると決めたトリスとトリスを護ると決めたリューグが、二人だけで住んでいる小屋は、小屋というには大きかったが、家と呼ぶには殺風景だった。
 ただ二人で暮らすには、充分な広さもあったし、たまにある来客にも対応できたので、住まいとしては十分だったろう。
 鍛えている体には、少女の体重などさほど過重でもなかったようで、持ち上げた時を同じに、リューグはそっとトリスの体をベッドに横たえた。
 トリスは起きる事もなく、すやすやと眠っている。
 異性と同居していて、この安心ぶりというのも問題なのだが、リューグ自身実はトリスとの男女の仲を進めたいという気持ちが希薄だったため、それほど重要事ではなかった。
 いっそ、周囲の人間の方が、やきもきしてたかもしれない。
 おそらく、アメルが目覚めるかトリスが信じられなくなった時まで、状態維持のままではないかとリューグは考えていた。
 トリスは、アメルが目覚めると信じている。
 信じる事で、ようやく笑顔を見せ始めた。
 だからリューグは、それを逃避だと思いたくはなかったのだ。きっとトリスには、笑っている方が辛いのだから。





 泣きながらあやまり続けるコイツを、俺はどうにも出来ないのだと思い知らされて、初めて嫌いになりかけたんだぞ。アメル?
 仕方ないけどな。
 あの時俺は側にいなくて、護る事ができたのはアメルだけなんだからよ。
 はっ・・・みっともねぇ。
 バカみてぇだろ?嫉妬してんだぜ。
 でも、今そばにいるのは俺なんだから、俺がトリスを護るさ。誰でもない、俺がだ。
 決めたんだ・・・




「ねぇ、リューグ。星って手が届かない程遠くで光ってるんだって」
「はっ、それがなんだよ」
「でもね、ほら・・・ここにあるでしょ?」






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