高く澄んだ音が響いている。
 ラケットがボールを弾き返す音が、耳に心地よい。
 原涼香は、立海大付属高校の二年で、女子テニス部の次期部長と目されている。というより、すでに内定ずみで、近々正式な引継ぎがある。
 けれどまず、授業に出なくてはならないので、当然日直などにも当たってしまうわけで。
「すっかり遅くなったじゃないの」
 仕事はきっちりしているので、日誌を丁寧に書いて提出するというわりと適当にしても問題なさそうなことに手間どってしまい、練習時間を少々過ぎてしまった。
 同級生でもありミクスドの不本意ながらパートナーが、伝えているはずもない事は、断定できる。となりのクラスの女テニ部員に言伝を頼んでいるので問題はないはずだが、それでも練習に遅れるという行為自体が、どうにも彼女には耐えられない。
 いくぶん早足に(本人比)なりながら、涼香はコートへと急いでいた。
「……さ…は………さぁ〜ん」
 呼ばれたような気がして、涼香は足を止めた。すでにそこは女テニの部室のそばだ。
 しかし、聞き覚えのない声で、涼香は眉間にしわを寄せる。正確には、普段聞かない声がしたのだ。
「原さんってば!」
「きゃぁっ!」
 思わず声を上げてから、涼香は口元を押さえた。一瞬憎らしいパートナーの顔がちらつく、そんな悲鳴を上げたことを聴かれでもしたら、また何やら言われかねない。
 そして、急に声をかけてきた人物に慌てて視線を移した。若干殺意もこもっていたかもしれない。
 視界に映ったのは、この辺りでは見かけないセーラー型の制服。
 走った後のようだが、それほど息は乱れていない。が、長い髪が寝癖かと疑うほど乱れている。
「いや〜、原さんってば足速いんですねぇ…さすがに、ちょっと、追いつくのが、大変、でした」
「……あなた、赤月…巴…」
「わ〜、覚えていてくれたんですね!あたしってば、結構有名人ですね!」
 涼香の目の前にいたのは、青春学園の一年赤月巴だった。
 思い出すのも忌々しいが、ミクスドの決勝でこてんぱんに負けてしまった。信じられないことに、彼女のサーブを一球も返すことが出来なかったのだ。
 なにせボールが重い。
 ミクスドだというのに、重量級の男子の様だったのだ。何度ラケットを弾き飛ばされたことか。
「…髪、直しなさいよ」
「ふえ?…ああ!すいません!」
 口をついて出たのは、ため息交じりの指摘。このあたりが、涼香の人の良さかもしれない。パートナー相手には容赦しないが。
 巴が慌てた様子で、手櫛で髪を整えている。どうやら彼女の持ち物には、鏡や櫛といった、持ち歩いていてもおかしくはないだろうものは存在していないらしい。
「お〜い、涼香。練習始めちまうぞ〜」
 呼ぶ声に、涼香は渋面を作る。
「あれ〜、切原さんだ。こんにちわ〜」
「げ、猪娘」
「む!げって、なんですか!」
「…そこよりも、その後に引っかかりを感じなさいよ」
 現在、立海大でも赤月巴のあだ名は、猪娘で定着である。もしくは、殺人サーブ女。一時期は原を倒した女というのもあった。言われるだびに屈辱を感じたので、負けた直接原因に向かって、うっぷんを晴らしていた。
「だいたいですね、あたしが猪だというのなら、切原さんなんて…切原さんなんて…なんて…ええと……ええと…般若じゃないですか。そうじゃないなら、大魔神。あれ、大魔神はハマの守護神ですねぇ…」
 なんだか、思考があさっての方向へ行っているらしい。
 その様子を、赤也が爆笑している。
 こんな小娘に惜敗ではなく惨敗しているのかと思うと、少々やりきれない。だから憎みきれずにいるのかもしれないが。
 なにせ、試合直後に涼香を見上げるようにして言ったのは、勝ち誇ったような台詞でも、優越感に満ちた同情の言葉でもなく、「原さんのシャンプー、どこのですか?」だったのだから。
「それで、赤月さんはどうやってここまで来たの?」
 水を向けないと話が先にすすまない。まぁ、他校の生徒がのうのうと入り込めるという状況を改善しないといけないので、どうやって入り込んだのかも聞き出さないといけない。 
 「はい、バスに乗って来ましたよ。でも停留所一つ間違っちゃったので、慌てて降りて猛ダッシュしましたけど」
「…私が悪かったわ。どうやってここに入りこんだの」
「人聞き悪いですねぇ。無断で入ったりなんかしないですよ。幸村さんに入れてもらいました」
「…部長……あなたって人は…」
 簡単に他校の人間を入れてしまう男テニの部長。おっとりとしたその笑顔を思い出し、涼香は頭を抱えた。
「で、お前は何しにきたわけ?部長に入れてもらって」
 涼香の後を、赤也が続ける。こういう所が意外にタイミングが良いので、当人たち(特に涼香)が思っているよりも、周囲からミクスドでの期待が高まる理由だ。
「はい!スパイに来ました」
「は?スパイ?」
 また唐突に何を言い出すのか。
「そうです。不肖赤月、青学の柱として、今後のテニス部の発展を担う身です。なので、王者立海大がどんな練習をしたりしているのかを、探りに来ました」
「…スパイって、もっとこそこそしてるもんじゃねぇの?」
 赤也の突っ込みに、初めて涼香は口には出さないが同意した。
 ナイス、赤也。
「いいえ、こそこそだなんて悪い事みたいじゃないですか!あたしはいつでも、正々堂々と生きていくんです」
「…スパイは堂々としてちゃマズイだろ〜」
「ええ〜そんなことないですよ。幸村さんは、褒めてくれましたよ。あと不動峰の橘さんとか」
 それはつまり、微笑ましがられているのではと、立海大のミクスドペアは口に出さずに同じタイミングで突っ込んでみた。
「それでどうしてスパイが女テニの部室の前にいるんだ」
「ああ!そうでした。コートの場所がわからないんでうろうろしてたら、原さんを見かけたので場所聞こうと思ってたんですよ。そしたら、原さんがものすごい勢いで歩いていっちゃって」
「で、追いついたら部室前ってか…おまえら、おかしいな」
「一緒にしないでもらえるかしら!」
「いて、いてててて!うわ、いて〜マジで死ぬから!」
 涼香が赤也のこめかみを両手の拳で挟む。万力でぎりぎり締める様子に似ていなくもない。
「で、原さん。コートはどこでしょう?」
「すぐそばに決まってるでしょ!」
「あ、ホントだ!原さんに聞こうと思って正解でしたねぇ」
「あんたって子は…」
 脱力。
 他校ながら、こんなのが同じテニス部なのかと思うと、涼香は青学の部員たちに少々同情したくなってきた。
 涼香自身、大概パートナーに恵まれていないと思っていたが、こんなのをペアを組むことを考えたらまだマシなのかもしれないと思いなおす。
「…何をしている、もう練習は始まっているぞ!」
 一喝!
 雷に打たれたように、涼香が振り返った。赤也は瞬間、首をすくめる。
 テニス部副部長のお出ましだった。
 厳しい顔のまま、真田が次の言葉を言おうとしたが、その声と被るようにして大きな声が響く。
「おまえたち…」
「こんにちわ!真田さん!」
 どうやら部員の姿しか見えていなかったらしい。涼香の背後にいた巴の姿に、珍しく真田の表情が変わった。それも一瞬だったが。
「…ああ、赤月か。久しぶりだな」
「はい、ご無沙汰してました」
 問答無用でどなられた二人は、ちょっと拗ねていた。
 …関係者以外立ち入り禁止のところに、その子いるんですけど〜
「今日はどうしたんだ」
「はい、スパイをしにきました!」
 はっきりきっぱり言い切る巴に、涼香も赤也も頭を抱える。
 言うか?普通?…それもあの人相手に。
「……そうか。練習の邪魔にならないように気を付けろ」
「はい!充分気をつけます」
 元気良く返事をする巴に、真田は小さくうなずく。どうやら元気の良い返事に、満足したようだ。
「さすが副部長。いつでも冷静ね」
 原涼香、ほんのちょっぴり乙女モード。
「いや…なんかちょっと間があったような気がすんだけど」
 恐らく赤也の推測どおり、真田弦一郎は部分的に言葉を無視したか、都合の良い方向に翻訳したと思われる。
「さぁ、それでは練習に行きましょう!」
 そう掛け声をかけて巴が颯爽とした足取りで歩き出す。何故か一番先頭だ。
「…いいのかしら、こんな事」
「いいんじゃねぇの?副部長も公認みたいだし」
「…なんだかいやな予感がするのよ」





 その後、赤月巴はたびたびスパイと称して練習に現れるようになり、涼香は頭の痛い思いをすることになる。




「で、おちび〜トモエはどこ〜」
「知らないっすよ」
「なんだ、赤月はいないのか。新作のドリンクを試してもらおうと思ったんだが…なんなら…」
「俺は飲まないっすよ」
「おい、越前…赤月はどうした」
「海堂部長、俺に聞かないでください…」
「なんだよ、サボリか?いけねぇな、いけねぇよ」
「しかし、赤月にだって調子の出ないこともあるだろうし…」
「へぇ、大石。ずいぶん彼女の事、詳しそうだね」
「い、いや!そんなことはないぞ、不二!」
「あれ、なんだ。皆も来てたんだな。ところで赤月は…」
「はいタカさん」
「なんだと!赤月がバニッシュ!?許さないぜ!誘拐犯!!俺の正義のラケットが黙っちゃいな いぜ、バーニング!」



  「わ〜、桜乃ちゃん。男子の方なんだかにぎやかだね」
「ほんと…あれ?そういえば、巴ちゃんは…」
「ん?あ、そういえばなんか、これから探索のスキルを上げに行ってくるとかなんとか言ってたような」
「探索…?」



「…それであんたたち、いつになったら練習始めるんだい」






…すいません(笑)
もうやらないと思います。
S&T2創作でした。巴in立海大。
面倒くさいので(というよりキャラがわからないので)三人しか出せませんでした。
柳生とか柳とか出してみたかったかも。
なので最後の青学メンバー台詞のみご登場です。
時期はいつなんだとかいうのはちょっと曖昧な感じで(苦笑)
青学は引継ぎが終わってますね。
そういえば、手塚の台詞を書いてないなぁ…確かゲームの中で留学するのが10月くらい…
そうなると、立海大の引継ぎが終わってないのは遅すぎるような気もしないでも…
とりあえず、その辺は適当にスルーしてください。
ちなみに巴ちゃんのパートーナーは、王子様で(笑)
他校狙いのときは、いつもリョーマくんと組んでいました…すみません…



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