放課後の教室には、まだ生徒が残っている。これから掃除なので、当然だ。その、少々騒々しい中、伊波飛鳥と一之瀬伽月が額をつき合わせている。
 そこに、近づく人影が。
「なんや、二人で…さては、デートの相談やな!」
「あはは、コウちゃん違うよ」
「……」
「うわ!イナミンが睨んどる」
「はぁ?アスカがなんでコウちゃんを睨むんだよ」
「カズはんは、ほんまに罪なお人や…」
「えー!なんでだよー!」
 人懐っこい御神は、すっかり天照館になじんでしまっている。伽月と飛鳥と一緒にいる事が多いせいもあって、短期間のうちにトリオ漫才として認知されてしまったようだ。特に、誰も狙っているわけではないのだが、いつの間にやらボケと突っ込みで会話が進むのだ。
「で、お二人で何の相談やったんや?」
「別に相談って事でもないんだけどさー…あ、なんならコウちゃんも一緒に行く?」
「は?」
 晃は思わず、聞き返す。
 ついでに空気が凍ったのにも気付いた。場の空気を読めない割りに、さっしの良い男。
「うん、そうしよう!」
「いや、あの…カズはん?」
「せっかくだしさ、思い出作りってことでさ。それじゃアスカ、また後でね。ちゃんと、コウちゃん連れてくるんだぞ」
 人の話を聞かない伽月が、晃の戸惑いに気付くわけもなく、ばたばたと教室から出ていってしまう。
「…あー…行ってもうた……」
 ぎりりりり…
 視線に擬音が付くのはおかしいのだが、晃にははっきりと聞こえてきた。
「いやー…すまんかったな、悪気は無かったんやけど。そりゃもう、ほんまに!」
「別に構わないよ。…伽月もそう言ってたし」
 にこり。
 それは、穏やかな微笑み。
 とても、射殺しそうな視線を向けていた男とは思えない。
「それじゃ、御神くん。後で部屋に迎えに行くから」
「嫌やなー、イナミン。御神くんやなんて」
「ああ、御神くん。俺、ちょっと用事があるから先に帰るよ」
 にこやかに、ほがらかに。
 それはもう、底が知れない微笑。



「…おお、なんやすごい星やなぁ」
「だろ?…ええと、なんだっけ…うーん……ほら、なんたら流星群とか言うのが観られるんだよ」
「なんたら流星群って…カズはん」
「うーん…なんだっけ、アスカ?」
「さぁ…なんか色々種類があるみたいだけど…俺、こっちはあんまり詳しくないから」
「まぁ、いいか。別になんだって」
「そやな」
 しばらく、三人で星空を見上げる。
 夕飯後、恐ろしいまでの笑顔で迎えにきた飛鳥に、晃はあっさりと寮を抜け出し事を提唱された。門限も決まっているし、一応夕食後に出かけるのにも許可はいるはずだが、どうやら伊波飛鳥エセ優等生は、別に気にも留めていないようだ。
 そして、抜け出してきた先は、藍碧台。
「で、そのなんたら流星群を見に来るゆう相談やったんか?」
「それはついで」
「ついで?」
「うん、ついでに見られるから見ようかって。でも、確かに星は見にきたんだけどね」
「なんのこっちゃ」
 いつになく判りづらい伽月の言葉に、晃は首を傾げる。
「御神くんには、内緒だよ」
「…イナミン…すまんかった……堪忍やから、もう君はやめて」
「あははは、なんでいきなり君付けなんだよー」
「これには深い訳があるんや…語るも涙聞くも涙…」
「語らなくても泣けるよね」
「あかん…イナミン本気や…」
 見上げる星空は、深い黒。濃い藍色にも見える。瞬く星々の間を、いくつもの星が流れていく。
「さてと、それじゃ帰ろっか」
「そうやな。…ほんま、誘ってくれて良かったわ」
「田舎の星空は最高だろ?」
「イナミン、さらっと嫌味やなぁ〜まぁ、ええわ。一人でぼおっと見とるより、楽しかったしな」
「…そうだね、俺も…楽しかった」
「アスカと二人で見ててもね」
「途中から絶対、手合わせになるし」
「…あかんがな……ほんま…色気のない……」
「手合わせも楽しいぞー」
「…カズはんだけやがな」
「…初めて、晃と意見があった」
 こっそり出てきたのと同じに、こっそり寮へと戻る。
 楽しいから、鼻歌だって飛び出す気持ちを、ぐっとこらえる。
 明かりの乏しい天照郷の夜道は確かに暗いけれど、月明かりと瞬く星が、僅かな街灯を助けてくれる。
「ねぇ、アスカ」
「ん?」
「来年は詩月も一緒に来られると良いな」
「…大丈夫だよ、きっと来られる」
「そうだよね」
「大丈夫だよ」
 少しだけ、きっと気を回しているつもりの晃が、先を歩いている。小さな声での囁きも、この静けさなら聞こえているのかもしれない。
 それでも晃は、混ざってこない。
「そういえば、古文のレポート明日までだったけど…二人とも終わったのか?」
 爆弾投下。
 ほんの少しだけ漂った、ふたりだけの薄い膜を振り払う。それは、聞こえないつもりで歩く、晃へのほんの少しだけ飛鳥からの感謝の気持ちで。
「…アスカー…」
「だと思った、はいこれ」
「うわ!さすが、アスカ。サンキュー!」
「…なんや、それ。めっちゃヘコむわ。当然ワイの分はあらへんと…」
「がんばれ、晃」
「あかんがなー!」



 流れる星に、願いもかけず。





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