赤ずきんチャチャ 後伝       - チャチャの場合 -   小鳥のさえずりが気持ちのいい朝。私はいつもよりちょっとだけ早起きをした。   「ん〜っ、今日もいい朝だ〜」   今日は私の16歳の誕生日。物心ついた頃から生活をしてきた、このセラヴィ先  生の小屋で迎える最後の朝。なぜなら、王家の娘は16歳の誕生日に即位をする。  その日がとうとう来てしまった。正直に言えば私はこの日がくるのが怖かった、で  きることなら来てほしくなかった。壁には今日のために用意された、トリコロール  カラーの鮮やかな見覚えのある懐かしい服が掛けられている。そう、マジカルプリ  ンセス。   かつて私はマジカルクイーン・ジョアン1世の力を借りて大魔王を倒した。その  時の姿がこのマジカルプリンセスだった。当時はなにも考えず、ジョアン1世の力  と姿を借りているものだと信じていたが、16歳の自分があのときの生き写しにな  るなんて想像したこともなかった。まさかあの衣装が、即位の時に身につける神聖  な衣装だったなんて・・・   「なんか、あの頃が懐かしくなって来ちゃったな・・・」   目を閉じると、当時の思い出がよみがえってくる。いろんなことがあったっけ・  ・・フランケンちゃんやきゅーちゃん、ランランにカンカン、ミラードやカ・ザン  ダン等の手強い大魔王の手下、そしてドアールちゃんやモスキーちゃん、かぐやこ  ちゃん他うらら学園のみんな。今頃どうしているのかな。   「もうあの頃には戻れないのよね・・・」   自分で思い出しつつ寂しくなってしまった。今日の即位式を迎えてしまうと、私  もこの家にはいられない。正式なプリンセスとして城に戻らなくてはいけないから。  リーヤはおじいさんと一緒にお城の衛兵として仕えるから会おうと思えば会えるけ  ど、他のみんなとはなかなか会えなくなってしまう。   「そういえば、今日みんなも式に来てくれるんだっけ。久しぶりにみんなに会え  るのはうれしいかな・・・」   しぃねちゃんはお鈴ちゃんと、やっこちゃんはピッケル君と、それぞれお付き合  いがあるようだけど、マリンちゃんは知らない間に海に帰ってしまったとか・・・  今日は来てくれるのかちょっと心配。   「チャチャ、なにをさっきから独り言いってるのよ?」   「あ、どろしーちゃん。おはようございます」   「今日は起きるの早かったのね。まぁ、記念すべき即位式の日に寝坊なんかした  ら王家の恥になっちゃうもんねぇ」   どろしーちゃんの言葉は私にはとても重かった。マジカルプリンセスの衣装が私  を再び憂鬱にさせてしまったことにきっと気づいていない。   「どろしーちゃん・・・」   「どうしたのよチャチャ、なんか元気ないわね。何かあるなら話しなさいよ、聞  いてあげるから」   「あのね、私本当は即位なんてしたくない。お城にも行きたくないの。ずっとこ  の小屋でセラヴィ先生やみんなと一緒にずっとずっと暮らしていきたいの。楽しか  ったあの頃のままでいたかった・・・」   私は思わず涙があふれて泣き崩れてしまった。どろしーちゃんは私の頭にそっと  手をおくと、胸の中で泣かせてくれた。   「チャチャ、人はみんな楽しかった時に思いをよせ、いつまでもそこに居続けた  いと思うわ。でもね、それじゃダメなのよ、前に進まなければ、人はずっと進歩し  ないわ。楽しかった時を思い出にして、前に進むことで人は成長するのよ。チャチ  ャにとって、今日は大きな一歩を踏み出す大切な日なんだから、いつまでもそんな  泣き顔してないでいつもの笑顔に戻りなさい」 そう言うとどろしーちゃんは、私  にそっとキスをした。びっくりしてる私の顔を見て、くすっと笑っていた。   「そうだよね、いつまでも思い出にしがみついてちゃいけないんだよね。それは  わかってるつもり。でもわかってるんだけどダメなの。あのマジカルプリンセスの  衣装を見たら、昨日の決意も揺らいじゃって・・・」   私にとってマジカルプリンセスの衣装は一番大変だったけど楽しかった最高の思  い出とともに記憶の中に記録されたページの一つだった。それが今こうして目の前  に存在していると、思い出にしていたはずの記憶が一気にあふれ出て、懐かしさで  いっぱいになってしまった。   「しっかりしなさい、お城に入るからと言っても、みんながいなくなるわけじゃ  ないじゃない。会おうと思えば会えるんだから、もっと楽に受け止めないと・・・  ね?」   どろしーちゃんの言葉にはものすごい説得力があった。やっぱり私にとって一番  の人生の先輩。心細いときは頼りになる。 「ありがとう、どろしーちゃん・・・」   私はこのときほどどろしーちゃんがそばにいてくれてよかったと感じたことはな  かった。やっぱりこういう悩みごとは同じ女性の方がわかってくれる。きっとセラ  ヴィ先生だったらこんな優しくは接してくれなかっただろうな。   私はどろしーちゃんの胸の中で泣き続けていた。今日で最後かと思うと、別れた  くない思いも重なってしまいいつまでも涙が止まらない。   「ほら、いつまで泣いてるのよ?私の服が涙でぐしょ濡れじゃないの!」   どろしーちゃんは私の顎の下に手を入れるとぐいっと持ち上げた。そして小さく  笑った。   「なぁにその顔、涙と鼻水でべしょべしょじゃないの。いつまでもそんな顔して  たら、せっかくの晴れ舞台が台無しよ?ほら、さっさと顔を洗ってらっしゃい」   そう言うとどろしーちゃんはいきなり私の胸を触った。   「きゃあっ!」   「身体ばかり大人になって、中身が子供のままじゃダメよ。中身もちゃんと成長  しなくちゃ。ね?」   これがきっと、どろしーちゃん流の私への励ましの言葉なんだろうと思うと、胸  を触られた恥ずかしさよりも、その心遣いに思わず顔が赤くなってしまう。   「あっ、私、洗面所行ってくる。こんな泣き顔、セラヴィ先生に見られたくない  もん」   そう言って私は部屋を飛び出た。   「おや、チャチャにしては珍しい」   「あ、セラヴィ先生。おはようございます」   洗面所を出ようとしたところでセラヴィ先生に出会ってしまった。泣いてたこと  を気づかれなければいいけど・・・   「チャチャ、いよいよ今日になってしまいましたね。今日からまた、新しい道の  りが始まります。新たな気持ちでしっかりとプリンセスとしての行動をしてくださ  いね」   セラヴィ先生の口調はいつもと同じだった。でも、すれ違いざまに目のあたりが  光ったように見えた。   「セラヴィ先生・・・」   「泣きたくなったら、いつでも戻ってきなさい」   セラヴィ先生は、そう言うと洗面所の扉を閉めてしまった。   「チャチャ、そろそろ支度しないと間に合わないわよ。それともなに?まだ気持  ちの踏ん切りが付かないの?」   「うぅん、違うのどろしーちゃん。まさかもう一度、この衣装を身にまとうこと  ができるなんてって思ってたの。気持ちの整理はもう付いたから大丈夫。心配しな  いで☆」   私は精一杯の微笑みをどろしーちゃんに贈った。どろしーちゃんもやっと安心し  てくれたのか、ウインクで応えてくれた。   「さ、手伝ってあげるから急いで支度しないと。」   ドロシーちゃんに手伝ってもらいながら、トリコロールカラーの衣装に袖を通し  た。新しくも懐かしいとっても不思議な感じ。今思うと、このスカートの丈はとて  も恥ずかしい。   「ねぇどろしーちゃん、このスカートってこんなに短かったんだっけ?なんかと  っても恥ずかしいんだけど・・・」   ちょっと派手なアクションでもしたら、すぐに見られてしまいそうなくらいに短  いスカートを意識するようになったのは、きっと私もそういう年齢に成長した証拠  かな?   「なに言ってんのよ、昔はその姿であれだけ派手にアクションしてたくせに・・・  大丈夫よ、今までだって一度も見えたことなかったんだから」   長いスカートに慣れきっていた私に、このスカートはよけいに短く感じるのかも  しれない。脚がとっても涼しい、というか、寒いくらい。   「さ、これで大丈夫ね。そろそろ出発の時間よ。」   「うんっ。ありがとうどろしーちゃん」   ちょうどその時、セラヴィ先生が入ってきた。普段と違って、王族親衛隊の鎧を  まとったセラヴィ先生はとってもかっこよかった。   「チャチャ、あなたを国王様・王妃様の待つ城まで安全に届けるのが私の今日の  仕事です。さぁ、参りましょうプリンセス。」   「セラヴィ先生、よろしくお願いします。」   私はセラヴィ先生とドロシーちゃんに付き添われて、懐かしい小屋を後にした。                          fin  あとがき   というわけで、かなり前から暖めていた、チャチャが正式に王家の一員として即  位する時の心境を描いた作品です。書くにあたって実はいろいろと悩みました。と  いうのも、私自身「赤ずきんチャチャ」という作品とのつきあいがTV化されるよ  りも前からなので、王家の娘というアニメ版の設定を使った話を書くのに結構悩ま  されたんです。ですが、原作版のチャチャでその後の話を書くとした場合、実はな  にも浮かんでこないんです(笑) だって、あのままずっといきそうで、精神的な部  分で成長しそうな雰囲気が全然ないと思うんです。 まぁ、こういうのって、人そ  れぞれですから私の考えを押しつける気はないです。 逆に言えば、アニメ版のチ  ャチャが必ずしも即位するという保証もないわけですからね。(なぜなら、チャチ  ャの両親は石化している間は歳を取っていなかったので、チャチャが即位する頃に  なっても、まだまだ元気だという可能性が…)   さて、みなさんの心の中に創られているチャチャワールドでは、みんなどんな将  来を迎えるのでしょうね。もし、いろいろな御意見ありましたら、ぜひ月野に教え  てくださいね。月野も、みなさんの考えてるチャチャワールドを知りたいのです。   それでは、またどこかでお会いしましょう。                                 月野玲亜子☆