長い1週間(1)

 

午前3時頃、志保は携帯の着信音により突然現実の世界に引き戻された。

普段は寝る前にはマナーモードにしておくのであるが、この日はたまたまそのままにしていたため、

こんな時間に起こされるはめになったのである。

志保が自分の迂闊さを呪いながら仕方なく携帯を手に取ると新一からの電話であった。

「はい、もしもし、何なの?こんな時間に・・」

「ちょっと今から俺の家に来てくれ!」

丁度寝始めてから2時間後というような時だったので志保の声は不機嫌そのものというような感じであったが

新一のそのような事情を一切無視した返答に志保はさすがにあきれはてた。

「あなたねえ、何考えているの?こんな時間に人をたたき起こしておいて・・だいたい女性をこんな時間に一人暮しの

男の家に呼び出すなんて、私あなたの奥さんじゃないのよ!」

「あ、悪い、起こしちゃったみたいだな・・でもこっちは緊急事態なんだよ、頼むから来てくれ!」

志保は新一の声がどうもおかしいことに気がついたが、悪いと言いながらも来いと言い張る新一のその事情とやらの方が気になった。

「だから何なのよ?」

「コ、コナンに戻っちまったんだよ!」

「・・・!!」

ここに至ってようやくさっきの妙な違和感の正体が明らかになった、コナンの声だったからである。

志保通話を終了すると新一の家へ急いだ。

 

「さてと、とりあえず宮野が来る前に着替えぐらいしとくか・・」

なんとか志保を呼び出すことに成功したコナンはそう呟くと洋服ダンスを探すことにした。

今来ているのは新一の時に来ていた寝間着であり当然ダボダボの状態である。

「やれやれ、これでこの服のお世話になるのは3回目かよ・・」

一人で愚痴をこぼしながら子供服を引っ張り出していると玄関のチャイムが鳴った、志保が来たのであろう。

「あちゃあ〜、アイツ早いなあ・・・こっちはまだ服も着ていないのに・・」

急いで服を着ると志保を迎えに玄関まで走った。

「おぅ、待たせて悪かったな・・」

こんな時間に呼び出しておいて今更待たしたもなにもないが、そう言ってコナンは玄関の鍵を開けた。

ガチャと玄関のドアが開くとそこには寝間着姿に白衣を羽織った志保がいた。

よっぽど慌てて出てきたのか特徴的なウェーブのかかった髪は乱れたままであった。

「あ、ああ、工藤君ね・・」

一瞬いつもの視線上に新一がいないので思わず周りを見渡してしまった志保であったがすぐに気がついて視線を落としてコナンを見つめた。

「本当に、元に戻っちゃったのね・・」

元の姿などと言われるのは新一としては心外であったが志保としてまさしく元の姿に戻ったというような感じであった。

無論コナンとしてもそんなことをああだこうだ言っている場合ではなかったのでそのことには特に触れなかった。

「まあ、ともかく中に入ってくれよ・・」

そう言って志保を居間まで案内すると早速本題にはいった。

「なあ、これはどういう事なんだ?」

「そんなこと突然聞かれたってわからないわよ・・」

当然のことであったが、あいにくコナンとしては他に頼る人がいないのである。

「コナンに戻っちまったってことはあの解毒剤が不完全だったことか?」

「そうね、その可能性はあるけど・・ただ・・」

「・・お前は幼児化していないんだよな・・」

「そうなのよね、それが問題ね・・」

「個人差の問題でじきに私も幼児化するかもしれないけど・・ねえ、ところであなた何か心当たりはないの?」

志保としては解毒剤の調合はほぼ完璧にできたはずであったのでどうも腑に落ちないものがあった。

「幼児化した原因ねえ・・特に思い当たらないけどなあ・・」

「あなた最近風邪引いていたわよね?」

新一がつい数日前の誕生日の時に風邪気味であったことを志保は蘭から聞いていた。

「うん?ああ、そうだけど・・」

「何か変なものを摂取しなかった?」

「変なものって言ってもなあ・・う〜ん・・」

そう言われてコナンが考えている最中、志保が周りを見渡してみるとふとなんかの瓶が床に転がっていることに気がついた。

気になって立ち上がりにその瓶を拾ってみると・・・

「ねえ、これ何・・?」

「ああ、酒の空瓶だけど・・どうかしたの・・・あっ!」

突然コナンが大きな声を上げた。どうやらその原因とも言えるものが目の前に転がっていたからである。

「これ、いつ飲んだのかしら?確かこの前来たときはなかったはずだけど・・」

「昨日・・かな?」

「これ一本全部?風邪気味の体で?」

志保はあきれながら尋ねる。コナンは事実なので否定することができずにただうなずくしかなかった。

「あなた、私が解毒剤渡すときに言ったことを覚えているのかしら?」

(いい工藤君?おそらくこの薬で完全に元に戻れると思うわ・・ただし一つ注意点があるからよ〜く聞きなさいね。

たとえこの薬で元に戻ったとしてもしばらく間は身体がまだ不安定な状態にあるはずよ、だからあまり身体に負担をかけるような

ことはなるべく慎みなさい。これははっきり言って命に関わるような問題なのよ、わかったわね?)

志保は完成した解毒剤を新一に渡すときにこう注意したのである。

「いや、その・・俺が悪かったよ、今度からは気をつけるからさあ・・だから早く解毒剤くれよ・・」

その言葉とは裏腹に全く反省のはの字も見えない態度であったが志保とすればもっと重大な問題があったので

そのことには特に触れなかった。その重大な問題を志保がおもむろに切り出す・・

「残念だけど、解毒剤を渡すことはできないわ。いいかしら、工藤君?解毒剤とは言ってもあれは普通の人が飲むには危険な代物よ、

そう簡単に投与するわけにはいかないわ、しばらく様子を見るべきだわ・・」

最大の問題は志保は幼児化していないという点であった、つまり一時的に幼児化しただけでしばらくすれば元に戻る可能性が

ないわけではないのである。もしそうなら今解毒剤を投与するのは危険であるというのが志保の意見であった。

「しばらくって、どれくらいだよ?」

「そうね・・1週間ぐらい様子を見てみた方がよさそうね・・」

当然のごとく1週間もこのままでいるのかとコナンは文句を言ったが志保に「元はといえばあなたが悪いんでしょ?」と言われてしまい

しぶしぶながら言うことに従うしかなかった。

もっとも解毒剤を持っているのは志保である以上いずれにしろコナンの意見が通ることはないのであるが・・・

「はぁ〜1週間もこの姿かよ・・ったくついてないなあ・・」

「そんなに落胆しなくても・・以前みたいに1年近くもこの姿ってわけじゃないのよ・・」

志保はそう言ってコナンを慰めると意地の悪い笑顔を浮かべてこう続けた。

「それに・・1週間もたたない内に状態が悪化してぽっくりと死んじゃうかもしれないし・・」

「おいおい、こんなときに悪い冗談はよせよ・・」

志保の言葉にコナンは真っ青になった。

「あら、あながち冗談ってわけでもないのよ・・そういうことになる可能性が0ってわけでもないし・・

まあこれを期に私が言ったことを肝に銘じておくことね・・」

「はいはい、わかりましたよ・・死んだりしたらしゃれになんねえからなあ・・」

そうコナンが呟くと志保はさっきとは少し違う不思議な笑いを浮かべながらこう言った。

「安心して、あなたにもしものことがあれば私もあとを追ってあげるから・・」

もともとあまり感情を表にだすことが多くない志保であったがこの時もまるで他人事のように淡々とこの言葉を口にした。

一方コナンであるがいつもなら「バーロ、縁起でもないこと言ってるんじゃねーよ」などと軽く志保をたしなめるぐらいの言葉が即座に出てくるのであるが

このときは本気とも冗談ともつかない志保の言葉に戸惑いながらしばらく志保の顔を凝視していた。

「おい、何言ってんだよ、宮野・・」

ふと我に返ったコナンは自分自身の態度に戸惑いながらもかろうじてそう声をかけた。

「じゃあ、私はそろそろ帰るわね、明日学校あるし・・明日また話合いましょうね・・」

志保は何事もなかったようにそう言うと帰ろうとしたのでコナンもそれ以上は触れずにおくことにした、現在もっと切実な問題を抱えているからである。

「ちょっと帰る前にいいか?俺これからどうすればいいんだよ?」

「あら、家の中でのんびりしていればいいじゃない?いい休養になるんじゃないかしら?」

などと志保は無責任なことを言うが、学校を休んでいたりすれば蘭が心配して訪ねてくることは必至であり

この姿のままでは自分の家に居ることはできないことは明白であった。

「確かにまた蘭さんのところにお世話になるってのも考え物ね、いつ元に戻るかわからないし・・

しょうがないわね、博士の家にしばらく泊めてもらうしかないんじゃないかしら?」

「う〜ん、そうだなあ・・でも博士って確かまだ帰って来ていないんじゃ・・?」

「ええ、そうよ・・まったく、こういう肝心な時にいないんだから・・・まあ今更居候が一人増えた所で問題はないでしょうけど・・」

苦虫をかみつぶしたような表情で志保はつぶやいた。

「まあ他に行く所もないからな、しょうがねえかあ・・俺が博士の家にいることを蘭にはどう説明するんだ?」

「そうね・・1週間ほど日本に帰って来たとでも言っておくことにするわ・・」

そう言うと志保は詳しいことはまた明日と言い残してさっさと家に戻っていった。

志保が玄関まで見送ったあとコナンはしばらく玄関で立ちつくしていた、志保のさっきの言葉が気になっていたからである。

(アイツ一体何考えているんだ?物騒なこと言いやがって・・でもアイツは妙なところで責任感が強いからな、

確かに俺がもし解毒剤の副作用かなんかで死んだりしたら責任感じてってなことも・・でもそれだけじゃないような気もするんだよなあ・・)

しばらく気になって考えていたが答えはみつかるはずもなく、睡魔も襲ってきたこともあり寝ることにした。

この時もしかしたらコナンはある可能性について気がついて、その可能性を無意識のうちに否定していただけかもしれない。

志保の新一に対する想いについて・・・

 

続く

 

あとがき

強引に新一をコナンに戻してしまいました(笑)まあ志保×コナンな話は一回やってみたかったんですけどね、

一応前中後編の3部構成にする予定です。それにしても今回の「安心して・・」って台詞の時の志保の表情を表すがのが難しかったです。

てか全然駄目駄目です。でも僕の文章力じゃあこんなものが限界です、すいません。もっとうまく書けるようになりたいものだ・・