長い1週間(2)
朝目覚ましの時計の音と共に志保は浅い眠りから覚めた、昨晩コナンのせいで熟睡されているところを
叩き起こされたため家に帰ったあとで寝ようとしてもなかなか寝つけなかったのである。
眠い目をこすりながらベッドから起きあがるといつものように自分の机の上に置いてある眼鏡を見る。
その眼鏡は黒縁であり、志保がかけるにしてはサイズが合わないものであった。もちろん志保は別に目が悪いわけではないので
眼鏡をかける必要はない、これはかってコナンが使っていた眼鏡であった。元々この眼鏡は博士の発明品の一つであったので
コナンが新一に戻るときにもう必要なくなったからと言って返したのであった。その博士の元に返された眼鏡を志保が
博士から譲りうけたという形になっていた。
もっとも志保がどういうつもりでこの眼鏡を欲しがったかは志保のみぞ知るということであるが・・・
志保はベッドから出ると机の側まで行き眼鏡を手に取った、そして眼鏡をかけてみた。
眼鏡の度は入っていないので志保がかけたところで別段どうということはないのであるが
今までつらいことや悲しいことがあった時などはよくこの眼鏡をかけていた。
志保はこの眼鏡をかけただけで不思議と元気付けられるような気がするのである。
「工藤君、大丈夫かしら・・」
もし工藤君が解毒剤の副作用で死んだりしたら・・などと考えるといてもたってもいられない気分になってしまう。
そんな自分自身に驚きつつも志保は新一の無事を願うしかなかった。
志保は眼鏡をはずすと朝食を食べるために部屋を出た。
朝食といっても博士がいないこともありトーストとコーヒーだけで軽く済ませるつもりであった。
新聞を取ってきて新聞を読みながらトーストをかじっているとスポーツ欄に目がとまった、
去年の覇者東京スピリッツ3連敗と大きく書いてあり次の試合は現在連勝中のビック大阪とであるとも書いてあった。
あまりサッカーに興味のある志保ではなかったがこの記事を見るとクスリと笑いこう呟いた。
「まさか私のせいじゃないわよね・・」
朝食を手早く済ませると志保は制服に着替えて家を出た。
玄関を出ると新一の家の前に蘭がいることに気がついた、どうやら新一を起こすために来たようであった。
蘭は何度もインターホンを押して呼んでいるがもちろん新一が出て来れるはずもない。
志保はおもいっきり顔をしかめると蘭のところまで歩いて行った。
「おはよう、蘭さん。どうかしたのかしら?」
志保はそ知らぬ顔で蘭に話し掛けた。
「あら志保さん、おはよう。新一がなかなか起きてこないのよ・・」
「工藤君なら昨日電話があって、なんでも事件だとかでしばらく学校休むって言ってたわよ・・」
「えっ、本当?まったくあの推理オタクはしょうもないわね・・
昨日、抱えている事件はほぼ解決したからしばらくゆっくりできるって言ってたのに・・」
「ふ〜ん、じゃあ昨日はデートだったわけね・・」
志保は昨日朝早く新一が出かけて行ったことを思い出した。
(まったく、具合が悪いなら家でおとなしく寝ていればいいのに・・ただデートから帰ってきてからお酒を一本も空けたことよね。
もしかして昨日何かあったのかしら?でも彼女には特に変わった様子はないし・・)
「そんなデートなんかじゃないわよ・・あ!もうそろそろ学校に行かないとまずいわ、志保さん急ぎましょう!」
蘭に言われて携帯を見ると確かにそろそろ行かないと遅刻しそうな時間になっていた。
「ええ、確かにそろそろ学校に行った方がいいわね・・」
そう言うと二人は歩き出したがふと志保は振りかえり工藤邸の丁度新一の部屋のあたりを見ると小さい声でこうつぶやいた。
「今日ぐらいはゆっくり寝かせてあげるわ・・」
前を歩いていた蘭から「早くしないと本当に遅れるわよ・・」と声を掛けられるとふと我にかえり再び歩きだした。
学校に着くとGW明けということもありどこかに遊びに行ったなどということで盛り上がっていた。
元々志保はお世辞にも社交的な性格であるとは言い難いのでクラスで親しく話す人物といえば蘭と新一ぐらいのものであったが
何故か志保の周りには男子がよく集まって来るのと蘭と話していると他の女子も志保の席の周りに集まって来たりして
結構クラスになじんできていた。今日は新一がいないこともあり志保の周りにはいつもより男子が多かった。
その男子達が口々に志保をデートに誘おうと色々と話掛けてくるが普段なら適当に相手をしてかわす志保であったが
この時はとても彼らの相手をしている気がせずに昼頃に調子が悪いと言って早退することにした。
家に帰ると鞄を置いてすぐに隣に向かいインターホンを鳴らす・・・
・・・反応がない・・
仕方がないので2度3度とインターホンを鳴らすが全く反応がなかった。
まさか・・・と一瞬最悪の出来事が頭の中によぎったが少し遅れて扉が開いた。
「なんだ、しつこくインターホン鳴らすから誰かと思ったら宮野かよ・・」
寝間着姿のままのコナンが現れた。
「あら、蘭さんじゃなくて残念そうね。彼女なら朝早くあなたを呼びにきてたわよ・・」
元気なコナンの姿にとりあえず一安心した志保であったが相変わらずのコナンの傍若無人ぶりには閉口した。
(まったく、人にいらぬ心配かけさせておいて・・・)
「あん?蘭が・・いつ?」
「今朝来てたじゃない・・何度もインターホン鳴らしてたはずよ・・」
今朝のやりとりを思い出しながら志保は続けた。
「あなたもしかして・・今までずっと寝てたの?」
「ああ、そうだよ。今オメーに起こされたんだけど・・」
そうコナンが答えると志保はため息をもらした。
「あなたねえ・・私は昨日あなたにたたき起こされたせいでろくに眠れなかった中で学校に行ってたのよ。
その間あなたはずっと寝てたってわけなのね?本当にいいご身分ねえ・・」
志保がせいいっぱいの皮肉を込めてこう漏らした。
「しゃーねだろ、最近ろくに寝てなかったから疲れがたまってたんだよ。それにこの身体じゃあ何もできやしねーだろ?」
「まあ確かにそうだけど・・」
(あなたにことを心配していた私の身にもなって欲しいわ・・)
口には出さなかったがそう思わざるをえない志保であった。
「そんなことよりのこれからどうするんだよ?これからしばらく博士の家で暮らさなきゃならないんだろ?」
「そうね、蘭さんがまた訪ねてくる前に博士の家に行った方がよさそう・・それじゃあさっさと着替えてきて、私は先に帰っているから・・」
そう言うと志保は工藤邸を後にした。
志保が帰った後コナンは自分の服を何着分かを取りに行った。
「え〜と、これとこれを持って行けばいいかな・・」
そう言って荷物をまとめると博士の家に向かった。
「お〜い、宮野!荷物持ってきたぞ。とりあえずこれどこにおけばいいんだ?」
コナンが玄関のドアを開けながら叫ぶと2階から志保が降りてきた。
「そこらへんに適当に置いておいてちょうだい・・」
既に制服から着替えた志保が答える。
「わかったよ、俺はどこで寝ればいいんだ?空いている部屋とかあるのか?」
「さあ?そこらへんのソファで寝てれば?」
冷たく志保はそう言ったがコナンも負けじと言い返す。
「バーロー、オメーだって居候だろうが。何で俺だけソファで寝なきゃいけないんだよ!」
「あら、男の子なんでしょ?それぐらい我慢したらどうなのかしら?」
「はいはい、わかったからどこがいいか教えてくれ、他にも色々とやることがあんだからよ・・」
こんなことで言い合いをしていてもしょうがないのでコナンはさっさと話を進めることにした。
「クスッ、2階に行けば空いてる部屋はいくらでもあるわ、適当に選んで使ったら?」
笑いながら志保がそう言うとコナンは2階に向かおうとした。
「ああ、そうだ・・変声機と眼鏡かしてくれよ。とりあえず蘭に新一の声で電話しなきゃいけないし、眼鏡も一応変装用に必要だしな・・」
「眼鏡ならどこにあるかわかるわ。でも変声機はどこにあるかわからないから博士に聞かないと・・」
「・・・博士に連絡とれないんだよなあ・・?」
「ええ、まったく・・出かけて行ったきり何も連絡よこさないなんて・・まるで誰かさんみたいね・・」
後半の部分はコナンに聞こえるかどうかの小声でつぶやいた。
「あん?何か言ったか?まあとにかく眼鏡だけでもかしてくれよ・・」
「ええ、じゃあ持ってくるからちょっと待っててね・・」
「どこにあるんだ?俺もついてくよ、もしかしたら側に変声機がおいてあるかもしれないしな・・」
そう言ってコナンは志保について行こうとするが・・
「ダメよ!」
突然志保が鋭い声を上げてコナンを制止した、何事かと思ってコナンが志保の顔を見つめる。
「あなた、レディの部屋をあさる気かしら?さすが、名探偵ともなると好奇心が旺盛のようね・・」
「なんだ、オメーの部屋にあるのか。あさるだなんて別にそんなつもりで言ったんじゃないって・・」
慌ててコナンが弁解する。
「まあ、そういうわけだからちょっと待っててね。今持ってくるから・・」
そう言うと志保は自分の部屋に急いだ。
「まったく・・こんなところに眼鏡が飾ってあるだなんて絶対に見せられないわ・・」
自分の部屋でそう呟くと志保は眼鏡を取って部屋を出て行った。
「はい、これ・・」と言って志保が眼鏡を渡すとコナンは早速眼鏡をかけてみた。
「サンキュー・・ああ、でも変声機がないのは弱ったなあ・・これじゃ蘭に電話することもできないし・・」
「一応今朝私が言っておいたわよ。どうせ1週間かそこらぐらいならいいじゃない?いつものことで済まされるわよ・・」
「おいおい、俺だって最近はちゃんと学校に行ってるんだぜ・・」
そりゃないぜという表情でコナンは異議を唱えた。
「それより今しなきゃいけないことは・・」
志保はそう言うと携帯電話を取り出した。
「ん?オメー誰に電話するんだ?博士か?」
「バカね、博士には連絡が取れないっていったでしょ・・蘭さんに決っているじゃない・・」
「蘭に?俺のことは今朝話したって言ってなかったか?」
「“あなた”のことはまだ言ってないわよ・・」
コナンが博士の家にいることを一応蘭にも知らせておく必要があった。
「もしもし蘭さん・・実は今日博士から連絡があってコナン君が少しの間日本に帰ってくるから博士の家に泊めてあげるようにって言われたの。
なんでも1週間ぐらい日本にいるらしいわ・・えっ何、哀ちゃん?ああ、妹のことね・・別に妹はこっちに来る予定はないけど・・
それで今丁度コナン君が来たところなのよ、コナン君に代わるわね・・」
そう言うと志保は携帯をコナンに渡した。
「もしもし、蘭姉ちゃん?うん、僕博士の家に泊まることになったから。大丈夫だよ、宮野が・・いや、宮野のお姉ちゃんがいるから・・
わかった、今度蘭姉ちゃんとこにも行くよ。じゃあね、ばいばい〜」
コナンは電話を切ると思わずため息をもらした。
「さてと、これで一応やるべきことはやったな・・あとは早く元に戻るのを願うのみだな・・」
「じゃあ買い物にでも行ってくれないかしら?今晩の夕飯の材料がないのよね・・」
すかさず志保が用事を押し付けた。
「おい、なんで俺が買い物なんかしに行かなきゃなんねーんだよ!」
「あら、居候なんだから少しは働いたらどうなのかしら?それに、どうせ暇なんでしょ?」
志保にそう言われるとコナンはしぶしぶ納得して買い物に出かけて行った。
「クスッ、まあそれなりに楽しめそうじゃない・・」
コナンが出て行ったあと志保は笑みを浮かべながらつぶやいた。
あとがき
ようやく中編を書き上げることができました。さすがにそこそこ長い続き物となると結構書くのが大変です。
そのため一ヶ月近くかかってしまいました、すいません。それより問題なのが1週間のうちまだ一日しか経ってないってこと・・
あと一回で終わるのかなあ?(笑)後編はもっと時間がかかりそう・・・がんばらなきゃ(ぉ