長い1週間(4)
「おい、今なんて言った!?」
「・・・」
コナンは今にも掴みかからんというような剣幕で哀に詰め寄った。
「薬のデータは手に入ったんだろう?データさえあれば解毒剤は作れるって言ったじゃないか?」
「・・・」
哀は沈黙を守ったままであった、そんな態度にいらついたのかコナンはこぶしを大きく振り上げた。
「・・私のことが憎いのかしら?まあ当然よね・・殴りたければ好きにすればいいわ・・」
ようやく口を開いた哀であったがまるで他人事のような冷静な口調であった。
「くっ・・そっ・・・」
コナンか振り上げたこぶしを壁に叩きつけた、そんなコナンの一挙一動を哀は黙ってずっと見続けていた。
「すまん、少し一人にしてくれ・・気持ちを整理したいんだ・・」
コナンはそう言って博士の家から出て行った、コナン去った後で哀は呆然と立ち尽くしていた。
なんとか組織を壊滅させ無事薬のデータを入手した哀であったが完璧を期してつくったはずの解毒剤にはとんでもない欠点があった。
『幼児化したマウスに解毒剤を投与したら全てもとの姿に戻ったわ・・ただし死体としてね・・』
解毒剤は完成したと哀に聞かされ喜びいさんで現れたコナンの表情は一瞬にして凍りついた。
『解毒剤自体は完璧よ・・ただし副作用のせいで元に戻った実験体は全て・・』
追い討ちをかけるように哀は言葉をつなぐ、
『残念だけど私ができることはもうないわ・・つまりもう元の体には戻れないってことよ、わかったかしら工藤君?』
落胆、憤り、そして絶望・・そんなコナンの表情を垣間見た哀は自己嫌悪に陥っていた。
はっきりいって哀はさほど元の体に未練があるわけでもない、工藤新一の体に戻りことを切望しているコナンとは違うのである。
解毒剤の開発も全てはコナンのためのものであった、そして自分が今まで生きてきたのも全て解毒剤開発のためと自分自身に言い聞かせてきたのである。
しかしその望みは絶たれてしまい、なりよりも解毒剤が完成しなかったこと・・このまま灰原哀と江戸川コナンであり続けることに安堵している
自分がいることが大きな罪悪感を残した。そう、工藤新一に戻ればそこには蘭がいるのである。
決して自分のものになることはない存在を手に入れることができるチャンスが巡って来た、否定しても次々とその声が湧きあがってくるのであった。
「私って最低ね・・」
そう呟くと哀は地下室から出て行った。
夜になって博士が新一はどこいったか知らないかと尋ねてきた、まだ蘭の家に帰ってきてなくて蘭が心配して電話してきたというのだ。
原因は痛いほどのわかっている哀は心配なったので探してみることにした。
「せっかく哀君が解毒剤を作っている最中なのにのう・・もうすぐで元の体に戻れるんだからおとなしくしていればよいのに
困ったヤツじゃのう・・」
悪意はない博士の発言であるが今の哀にとっては痛烈な言葉であった。
「じゃあ、ちょっと彼を探してくるわ・・」
「これ、別に哀君がいくことはなかろうて・・そのうち戻ってくるじゃろ・・」
「いえ・・これは私の責任です。私がなんとかしないと・・」
哀のただならぬ様子にさすがの博士も気がついた。
「責任って・・もしかして解毒剤が・・・?」
「ええ、そうよ・・解毒剤は完成しないわ・・つまり工藤君は元の体にはもどれないってことよ・・」
「そ、そんな・・・」
「今日そのことを彼に伝えたの・・よほどショックが大きかったみたいね・・」
「・・・」
どんな言葉をかけてあげればいいのか博士にはわからなかった。
「・・じゃあ、探してくるわ・・」
「わしも探すの手伝おうかのう・・?」
「いや、いいわ・・私の責任だって言ったでしょ?それにどこにいるか検討はついているわ・・」
「わかった・・新一のことは頼んじゃぞ・・」
博士がそういうと哀はどこか悲しげな表情を浮かべ外に出て行った。
哀は外に出ると数歩進んだかと思うとすぐまた門をくぐった、そこは工藤邸であった。
しかし明かりがついているわけでもなくいつものようにひっそりとしていて人の気配は全くしなかった。
「おかしいわね・・たぶんここだと思ったんだけど・・」
そう呟いて玄関まで来た時に鍵を貸してもらうのを忘れたことに気がついた。
「何やってるのかしら私・・我ながら間抜けね・・」
もしコナンがいたとしてインターホン鳴らしても出てはこないだろうなと思いつつノブを回してみた。
するとガチャと音を立ててドアが開いたのである。
「あらあら、無用心ね・・」
そう呟くと哀はそのまま家に上がりこんだ、それと同時に哀は自分の勘が正しかったことを確信したのである。
「靴があるわ・・だけど人気がないわね・・」
そのまま階段を上がり新一の部屋を覗いてみることにした。
「工藤君!いるの?」
試しにドアの前で声をかけたが返事はなかった、仕方がないのでドアを開けて部屋の中に入ってみる。
部屋の中は真っ暗であった、明かりのスイッチを探して暗闇の中を進むと何かに足を躓いたらしくバランスを崩してそのまま倒れてしまった。
「キャッ・・なんでこの部屋こんなに散らばっているのかしら・・」
幸い倒れた先はベッドの上だったのでたいしたことはなかった、そのベッドから突然声がした。
「痛た、誰だよ全く・・なんだ、灰原か・・」
「『なんだ、灰原か』じゃないでしょ?いるなら返事ぐらいすればいいじゃない・・それとも私の顔なんて見たくもないってとこかしら?」
そういいながらようやく明かりのスイッチを探し当てた哀は電気をつけた。
「いや、いつの間にかに寝てたみたい・・アハハハ・・」
コナンの乾いた笑い声が部屋の中に響いた。
「あらそう・・で、あなたこれからどうするつもりなのかしら?」
「どうするって言われてもなあ・・元に戻れない以上この格好で生活していくしかないだろ・・」
妙にサバサバとした口調で語った。
「それだけ?」
「それだけって・・オメー何が言いたいんだ?」
「いいかしら?元に戻れないってことは今までの工藤新一としての生きていたものを全て捨てるってことよ?名探偵としての功績、両親そして・・」
彼女もね・・と哀は心の中で呟いた。
「まあ、そういうことになるな・・でもコナンとして手に入れたものもあるしな、そこらへんはポジティブに考えていくしかないだろ・・」
心の整理がついたせいかコナンはもう現実を淡々と受け入れていたがそんなコナンの態度に哀はどうも心が静まらなかった。
「あ〜ら〜さすが名探偵さんね、事件さえあればどんな格好になってもかまわないのかしら?」
さっきから哀がさかんに挑発するような言葉を投げかけてくるのにコナンは戸惑った。
「オメーなんか様子がおかしいぞ、どうしたんだ?」
「おかしい?私がおかしいですって?別に私は普通よ、あなたと違って私は別に元に戻れなくても全然かまわないのよ・・
ショックで寝込んでいたあなたと一緒にしないでくれない?」
ここまで言われるとさすがにコナンも腹が立った。
「おい!さっきから黙って聞いていれば・・元はといえばオメーが・・」
「そう、私のせいよね・・私があなたの人生をめちゃくちゃにしたのよ・・」
いつのまにかに哀の目には涙が浮かんでいた。
「灰原・・・」
「やめて!そんな目で見ないで・・私は、私は・・あなたの憎むべき犯罪者の仲間なのよ・・
あなたは探偵・・私達は組織を倒すために手を組んだだけ・・そうでしょう!?」
「薬のことなら気にするな、無理やり作らされてたんだろう?それにオメーだって組織の被害者の一人じゃねーか・・」
「私がこうなったのは自業自得よ・・でもあなたは・・」
「俺がこうなったのは別にオメーのせいじゃねーよ、あの薬がなかったら俺は殺されていたしな・・」
トロピカルアイランドでの一件を思い出しながら応えた。
「でも、私は解毒剤を作れなかったわ・・データさえあれば作れるって期待させるようなことを言っておいて・・」
「まあ、正直言ってさすがにショックだったよ・・でも戻れないものは仕方がないだろう・・蘭のこととか考えるとつらいけどな・・
それに俺もオメーの姉ちゃんを救ってやれなかったしなあ・・」
ボソボソっと呟くようにコナンは言葉をつないだ。
「お願いだから、やめて!私に・・私にそんなに言葉かけないで!じゃないと私は・・あなたのこと・・」
あきらめることができないわ・・そんな優しい言葉をかけられたら私は・・
あなたの方がよっぽどショックは大きいだろうに・・・なんで、なんであなたは・・・そこまで強くなれるのかしら・・
「オメーまさかどっか行くつもりだったんじゃないだろうな?」
「えっ・・・」
まるで自分の心の内を見透かすかのようにコナンの言葉に思わず反応してしまう。
「やっぱ図星だったようだな・・さっきからわざと俺を怒らせるようなことばっか言って喧嘩して
出て行くふんぎりを付けたかったってなことか・・?」
「何でもお見通しってわけね・・」
「まあオメーとの付き合いも結構長いからな・・しかしどっか行くあてでもあったのか?」
「そんなのあなたには関係ないことだわ・・」
一転して元の口調に戻って哀は冷たく応えた。
「関係ないわけないだろう、仲間だろ俺達は?」
「仲間・・・か・・でもそれは無理よ、仲間じゃあ満足しない私がいるもの・・
あなたと一緒にいれば私はそれ以上のものを求めてしまうわ・・でもそんなことは許されるはず無いものね・・」
「灰原・・オメー何が言いたいんだ?」
そんなコナンの反応に思わずため息をつく哀であった。
「わかったわ、あなたにもわかるように説明してあげるわ・・」
意を決して哀は全てを話すことにした、話す以上はここに留まるつもりはなかったがここから去るにはいいきっかけだと思うことにした。
(さようなら、工藤君・・)
「私はあなたのことが・・」
そこまで言いかけたとき突然空から大きな声が降ってきた・・・
「おい、宮野!起きろっての!」
「!?」
気がつくとそこはベッドの中であった、ドア越しにコナンの声が響いている。
「腹減ったんだけどなんか朝飯ないのか?」
「え、あ・・夢?」
宮野志保の体であることに気がつくと安堵すると共にコナンの声にさっき見た夢が重なって不安がよぎる。
(ちゃんと元に戻ってくれるといいんだけど・・)
「おーい、宮野〜!」
「はいはい、わかったわよ・・今起きるわ・・」
それにしてもあんな夢見るなんて・・・嫌な夢・・それとも私の病気もいよいよ重症になったってきたってことかしら・・?
あとがき
夢落ちです(笑)こんな話を書いてみたかったなあという感じで・・・
全く関係ないわけではないんですけどね。それにしてもコナン優しいねえ、
こんな彼なら安心して哀ちゃんをまかせられます(笑)