長い1週間(6)
「あら、あなた達・・」
てっきり蘭が来たものだと思っていたので意外な人物の訪問に驚いた。
「こんにちは〜」
歩美、光彦、元太の元気な挨拶がとんできた。
「吉田さん、円谷君、小嶋君、久しぶりね・・どうしたの?」
以前は頻繁に博士の家を訪ねてきた3人であったが哀とコナンがいなくなり、また最近になってようやく発明が認められ始めた博士が忙しくなって
家を空けることが多くなったためしばらく遊びに来ることがなかったのであった。
「コナン君が帰ってきたってホント?」
「ええ、今家にいるけど・・・何で知っているわけ?」
「蘭お姉さんから聞いたの!今コナン君が博士の家にいるって・・」
「あらそうなの・・丁度よかったわ、実は今レモンパイ作ったのよ。みんな食べていく?」
「はーい!」
元気よく応えるとドタドタと中に入っていった。
「あの・・宮野さん・・」
「何かしら、円谷君?」
まだ玄関に残っていた光彦が遠慮がちに声をかけてきた。
「灰原さんは帰ってきたりしていませんよね?」
「ええ、そうだけど・・」
「じゃあ、その・・帰ってきたりする予定とかってないんでしょうか・・?」
「今のところはないみたいよ・・」
「・・・そうですか・・」
哀に淡い恋心を募らせていた光彦はそう聞かされるとがっかりとうなだれた。
そんな光彦を見て気の毒に思えたが、さりとてもう二度と会えないなどと言えるはずもない。
「ほら、早く食べに行かないとなくなっちゃうわ・・お姉さんのレモンパイおいしいわよ?」
「あ、はい・・ごちそうになります・・」
部屋に入るとパイは既に半分以上なくなっていた、大方元太が食べ散らかしたのであろう。
「じゃあちょっと紅茶でも入れてくるわね・・」
「あ、志保お姉さん。このレモンパイとってもおいしーよ!光彦君も早く食べなよ!」
部屋に入ってきた二人を見てモグモグと食べながら歩美がしゃべった。
「あ、宮野・・宮野のお姉ちゃん、僕にもちょーだい・・」
途中で慌てて言い直してなんとか取りつくろったコナンを見て志保はクスリと笑った。
「はいはい、わかったわよ。コナン君・・」
クスクスと笑いながらそう返事をして消えていった。
「ケッ、なんだってんだよ・・」
その様子が何となく面白くなかったのか小声で悪態をついた。
「あのー、コナン君・・その・・灰原さんと何か連絡取ったりしてますか?」
光彦が再び同じ質問をコナンに繰り返した。
「ん?灰原と連絡?特に何もないけど・・」
まさかと毎日学校で顔あわせているとは言えないしなあと思いながら適当に応える。
「光彦のヤツ、灰原がいなくなって元気がなくなってよー」
「光彦君は灰原さんのことが好きだったんだよね・・」
元太と歩美にそうはやし立てられると光彦は顔を真っ赤にして否定する。
「あ、歩美ちゃんだってコナン君がいなくなってから随分落ち込んでいたじゃないですか!
今日だって早くコナン君に会いに行こうって一人ではしゃいでいましたし・・」
「おいおい・・」
今度はコナンが慌てる番になった、なんとか話題を逸らそうとするが逆にそっちの学校での生活はどうだとか
かわいい子はいるかなどと突っ込まれる始末である。
(なんで俺はガキ共相手に必死になってるんだろう・・・)
我ながら間抜けな状況であるとともにどこか懐かしい感じがする。
(つい3ヶ月前まではこいつらと一緒だったんだよなあ・・まあ、あの時と違うといえば・・)
「あら、コナン君もてもてねえ・・」
にやにや笑いながら志保が戻ってきた、どうやら先ほどまでの会話はしっかりと耳に入っていたようだ。
いれてきた紅茶をみんなに配りながら、レモンパイの皿に目を向ける。
既に4分3がなくなっていた、改めて光彦が「おいしかったです、ごちそうさまでした・・」と言うと
歩美と元太も元気よくごちそうさまでしたと言った。
そう言われると志保としてもまんざらでもない気がしてくる
「また作ってあげるから食べに来てね・・」と満面に笑みを浮かべながら言う。
100万$の笑顔などと表現すればよいのか
周りの者を魅了する素晴らしい笑顔あった
100%営業用の笑顔だなと呟く不届き者もいたのではあるが。
子供達3人が帰った後二人で昔話に花が咲いていた。
ただしこの二人は話していると何故かまるで喧嘩でもしているかのような感じになってしまうのが不思議である。
江戸川コナン、灰原哀としての生活をお互いに振り返ってみると・・
「オメーはニコリともしないで妙な冗談を言うからなあ
まあ元々無愛想なヤツだったけれどな!」
「あら、まるで本当の小学生みたいにあの子達に溶け込んでいるあなたと一緒にしないでくれない?
まああなたが元々子供っぽいってことなんじゃないのかしら?」
話が最初に会った時のことまで遡るとあんな自己紹介はないだろうとか
寿命が10年は縮まったぞなどと文句を言う
「今また10年以上若返ったからいいんじゃない?」
さらりと切り返されてぐうのねもでない
そんな話を続けていると突然志保の携帯が鳴った。
着メロを聞いたコナンにセンスが悪いとひとしきり馬鹿にされるが
キッとにらんでコナンを黙らせ携帯を取り出す。
着信を見ると非通知になっていた、不審に思いながらも電話にでてみる。
何かの勧誘の電話であろうか、電話に出た志保はひたすら断り続けていた。
10分程立つとようやく相手もあきらめたのか通話が終了した。
「何の電話だ?何かの勧誘か?」
「それぐらい自分で推理したらどう?名探偵さん?」
「なんかヒントくれよ、判断材料が少なすぎるって。
まさかどこぞの黒い組織からの勧誘じゃねーだろうなあ?」
「まさか・・?」
両手を大きくひろげながら首を振り否定のリアクションを取る。
プライベートなことなのかなと察しをつけてこれ以上考えるのはやめることにした。
そんなことよりも話したいこともあったからである。
ポケットから封筒を取り出しそれを志保に渡す
何かと思ってあけてみると映画の試写会のペアチケットであった。
「誰か男でも誘って観にいけってことかしら?」
意地悪く尋ねてみる。
「バーロー、んなわけねーだろ!退屈で死にそうなのは俺なんだし。
映画を観に3,4時間ぐらい外出するだけならいいだろ?」
「それは万一のために私も一緒に来いってことかしら?」
「うっ・・お、お願いします・・」
結局のところ志保の承諾がなければ満足に外出すらできない身である
ここは腰を低くしてお願いするしかなかった。
もっとも志保の性格を考えると成功の確率はかなり低そうであったが・・
しかし意外にもOKの返事をもらえた
志保自身もここのところ疲れているため息抜きでもしようと思ったののかもしれない
もっとも心なし声が弾んでいたようにも感じたのではあるが。
「それにしてもあなた大丈夫かしら?途中で寝ちゃうなんてことないわよね?」
チケットを目の前でひらひらさせながら尋ねる。
失礼なヤツだなと思いながらチケットをひったくるとそれを再び封筒の中にしまう。
「でも、そのチケットよく手に入ったわね。話題の新作じゃない・・」
話題の新作?何を言っているんだこの女は?
さっきからどうも会話がかみ合わない
慌てて封筒からチケットを取り出して確かめてみる。
「それにしてもあなたがラブストーリーものの映画に誘うなんてね
隣から大あくびが聞こえてきそうで怖いわよ・・ん?どうかしたの?」
「ああ、いや・・その・・チケットは母さんの知り合いの女優が出演してるそのつてで送られて来たんだと思うけど・・」
有紀子は向こうの方でも随分と有名になっている
おそらく日本で上映されるような有名な映画ならこの類のチケットが必ず送られてくるのであろう。
部屋に山積みになっているチケットを想像して志保はため息をつく。
(お金持ちの坊ちゃんはこれだからこまるわね・・)
一方間違えたチケットを渡したことに気がついたコナンはどうしたものかと悩んでいた
本当は探偵左門文字シリーズの映画の試写会のチケットを渡す予定だった。
これもまた名探偵工藤新一宛に送られてきたものである。
もちろんラブストーリものの映画なぞ興味はない
しかしここで探偵左門文字シリーズなどと言い出したら志保の機嫌を損ねることは明白である。
というかさっきから楽しそうに志保がその映画の話をするのが気になった。
(く、詳しい・・・なんでこいつこの映画のことそんなに知っているんだ?)
話を聞いてみるとこの映画はもともと有名な小説を原作としたものであり
意外なことに志保はその小説のファンであったらしい。
「この小説、お姉ちゃんが好きだったのよ・・」
ふいにそんな言葉がポツリと漏れる。
そんな言葉を聞かされてしまっては今更もう探偵左門文字シリーズなどと言うことなどできなくなった。
もう2度と見ることはないようなハイテンションの志保
対照的につまらなさそうに憮然とした表情のコナン
試写会は3日後の日曜日であった。
あとがき
むう、ようやく小説らしくなってきたような・・(^^;)
ちなみにラブストーリものの映画てのは風と共に去りぬみたいなものの映画を想像してください。
うわっ、新一絶対寝ちゃいそうですなw
でもこれが二人の初デートってことになるのかな?(ぉ
次回予告:そりゃ事件が起きないはずもなく(ぇ