長い1週間(7)
日曜日、もちろん今日は志保が楽しみにしていた試写会の日である。
反対にコナンにとってはかなり憂鬱な日でもあったが
今更もうどうしようもないと腹をくくる。
もちろん浮かれているようでいてもそれなりの配慮はしている
家から出かける前に万一に備えて新一の服をつめたリュクサックをコナンを待たせておくことにした。
持たされた本人は重いとぶつくさ文句を言うが
元に戻ったときに公共わいせつ罪で逮捕されたいのかと言われてしぶしぶ従った。
服装も志保にしてはめずらしく・・・ということはなくいつもの通りの黒づくめの格好であったが
それでも普段よりは多少おしゃれにしているらしかった。
そして何よりも感情を露にすることが少ない志保にしては珍しく上機嫌であった。
そのせいか普段よりも志保の美貌は際立ち普段以上に男性の関心を集めた。
ただし声をかけようとする人は不思議といなかった。
前方をしかめっつらをして歩いて行くコナンの姿に何か近寄りがたい雰囲気を
感じたせいかどうかは定かではないが・・・
「ところで工藤君・・・一つお願いがあるのよね・・・」
丁度目的地の最寄り駅に降りたところであった。
日曜の朝だというのに意外と混んでいたので人ごみを掻き分けながら進んでいく。
新一が小学生のコナンの体とあって必然的に志保が手を取って引っ張っていく形になった。
「ん?あんだよ?」
志保に手を引っ張られているという状況を妙な気持ちで眺めながら返事をする。
「今日は妙な事件起こさないで欲しいんだけど・・・と言っても無駄かしら?」
そう言って苦笑する。
「ハハハ・・・んなことオレに言われてもなあ・・・」
コナンも苦笑するしかなかった。
改札口を通って駅の外にでると目的の映画館はすぐ目の前にあった。
映画館とは言うものの丁度数ヶ月前にできたばかりの最新の大型のシネマパークであり
5階建てのビルが全て映画館となっており試写会が開かれるのは3階であった。
結構早めに出かけたせいかまだ開場時間まで少し間があったので一階で待つことになった。
「ったく・・・だから早いって言ったじゃねえか・・・」
コナンが壁にもたれかかってあくびを噛み潰しながらぶつくさ文句を言っていると
横で同じく壁にもたれかかりながら時計をちらちらとみている志保に対して突然声が掛けられた。
慌てて正面を見るとそこには髪を金髪に染めた若い男が前に立っていた。
「やあ、どうしたんだい?こんなところで会うなんてね・・・
もしかして例の話を返事にしにわざわざ僕に会いに来てくれたのかな?」
実に慣れなれしい態度で話しかけてくる。
(例の話・・・?何のことだろうか・・・?)
この前かかってきた電話のことが頭によぎる。
(なるほど・・・たぶん、あの電話はこいつと何か関係があるみたいだな・・・)
そう思って相手を注意深く観察してみることにした。
まず服装であるが、よくよく見てみるとブランド品で固めていて腕時計などもかなりの高級品のようだった。
年齢は30歳前後といったところであろうか・・・
そして少し離れたところでこちらを伺っている女性はどうもその男のつれのようである。
なかなかの美人であったが射抜くような鋭い視線がその美貌を損なっている感じがした。
どういう理由であの男が志保に話しかけているかはいまいちはっきりしないがその事をあまり快くは思っていないようである。
さて再び男の方に視線をうつすと・・・
その男の態度は実になれなれしく、勝手に手を握ったり手を肩にかけたりと
まるで女性を口説いているかのような感じがした。
(てか・・・どう考えてもまじめな話をしてるとは思えんな
最初の話題とは全然関係ないくだらない話しかしてねーし)
正直志保が口説かれようが別に自分には関係ないことだと思っていたが
この時はその男のなれなれし態度に何故か随分と腹が立った。
「ねえねえ、ポップコーン食べた〜い。買って買って!」
この場を離れるための口実を作るために久しぶりに小学生を演じることにした。
志保もそれを察してうまく会話を中断させてそさくさとその場からコナンを連れて逃げていった。
「ったく・・・アイツ誰なんだよ?」
一息つくと当然の疑問を口にした。
「あら、名探偵さんならそれくらい推理したらどうなのかしら?」
澄ました顔で不適な笑みを浮かべながら応える。
「情報が少なすぎてお手上げだよ・・・どうでもいい話ばっかしてたしな。
まあオメーに用あるっていうと・・・薬の研究かなんかの話か?
それにしちゃあ随分と派手な身なりだったけどな・・」
それを聞くと眉を顰め小馬鹿にしたような表情を浮かべた。
「工藤君、推理するときは先入観というものはできるだけ排除した方がいいわよ?
私に用があるからと言っても必ずしも私の知識を必要とする人達だけじゃないってことね・・・」
「じゃあ、あの男はオメーに一体何を求めていたんだ?」
随分と失礼ないいぐさである。
志保はそう言われると右手の人差し指を唇に当てて首をかしげる。
目線が少しの間宙をさまよい、そして再びコナンに向かう。
「そうねえ・・・しいて言えば私の美貌を求めていたってとこかしら?」
「・・・ただのナンパか?」
コナンはやれやれといった感じなんともいえないで虚脱感に襲われた。
「違うわよ・・・芸能人にならないかって誘われたのよ。はい、これ彼の名刺・・」
渡された名刺を見てみると確かに有名な大手プロダクションのスカウト担当と書いてあった。
「ははは、よりにもよってオメーをスカウトしたのか・・・
最近いい若手芸能人が出てこないと思ってたけど、あんなヤツがスカウトしてるんじゃあ当然ってことだな・・」
「ちょっと、随分と失礼な人ね?まあどう考えても私に向いてるとは思わないけど・・・
でも、こんなところで会うなんて思ってもなかったわ。
朝からとんだ災難ね・・・やっぱりあなたなんか連れてこなきゃよかったわ・・」
まるで全ての災難がコナンのせいであることが当然のような口調である。
確かにことの発端とは全く関係ないがやっかいな事件に次々とめぐり合う妙な偶然は未だに健在であった。
「ちょ、ちょっと待てよ。何で俺のせいになるんだよ?俺は関係ねーだろ!
だいたいさっき助けてやったんだから礼ぐらいしたらどうなんだ?」
「あら、いつ助けてくれるのかとずっと待ってたんだけど?
困ってるのは一目瞭然なんだからもっと早く助けてくれるべきよね・・」
「・・・オメーって意外とわがままなヤツなんだな・・」
まさしくあきれて物も言えないという感じである。
そんなコナンの様子をまるで楽しんでいるかのように志保は言葉を続ける。
「だって、守ってくれるんでしょ?」
その言葉によって二人の間の時間が一瞬止まった
お互いに見つめあい交差する視線
そして金縛りにあったかのように動かない体
それは1秒にも満たない時間であったがその瞬間をお互いに感じ。
「なーんてね・・・まあ、今のあなたにそんなこと言ってもしょうがないわね・・・」
志保はお決まりのセリフで二人の時間を現実に引き戻した。
そう言って時計を見ると入場時間が近づいていた。
「そろそろ、時間ね・・・行きましょ・・」
そう言ってエレベーターの方に向かって歩き出した。
あとがき
事件編は次かな・・?10ぐらいで終わるような感じですね。
ペース上げなければ・・(汗