あくび

 

雨が降りしきる中3人の男女が佇んでいた、

傘は2つ・・・小さめの傘には解毒剤によって元に姿に戻った志保、大きめの傘には同じく元に戻った新一と蘭が入っていた。

「ありがとうな、灰原、おかげで元に戻れたぜ・・」

「ありがとうね、哀ちゃん、新一を元に戻してくれて・・」

新一と蘭はそういい残すと雨の中に消えていった。

「待って、待って・・二人ともちょっと待っ・・」

消えていく二人に志保はそれこそ立ち消えそうなか細い声で呼びかけるが既に二人に姿はなかった。

そして雨の音と共に志保の心には二人の声がこだましていた。

ありがとう、灰原

ありがとう、哀ちゃん

ありがとう・・

ありがとう・・

灰原・・

哀ちゃん・・

ありがとう・・

「やめて、私はあなた達に感謝される筋合いはないわ・・全て私の責任・・」

思わず口に出して一人で叫んでいた。

「それに・・私は灰原哀なんかじゃないわ、私は・・私の名前は宮野志保・・」

しかしいきなり別の声が割り込んできた。

シェリー・・それがお前の名前だ!

突然聞こえてくるはずのない言葉がふいに背後から投げかけられてきたのである。

思わず志保は振り向いたがそこには人影はなくただ雨音がするだけであった。

もちろん幻聴であることはわかっていた、何故ならその声の主はもうこの世にはいるはずがないからだ。

しかし再び背後から・・

シェリー・・

シェリー・・

お前は俺のものだ、シェリー・・

再び背後から聞こえてくる声はさっきと同じくまぎれもなくジンの声であった。

しかもその声はこころなしかだんだんと近づいてくるように感じた。

「ふっ、私もどうかしてるわね・・こんな幻聴が聞こえるなんて・・」

志保が自嘲的な笑みを浮かべながら呟くと・・

幻聴なんかじゃないぜ、シェリー・・

再びジンの声が聞こえたかと思うと突然、頭に冷たいものが降りかかった。

傘から雨漏りでもしたのかと思ってびっくりした志保が上をみるとそこからはなんと緋色の液体が垂れてきていた。

「これは・・血・・?」

いつのまにか志保のさしている傘は血で緋色に染まっていた、そして傘から血が志保の身体に垂れてきているのであった。

志保が思わず悲鳴をあげそうになった時に・・・

 

「これ、哀君、どうしたんじゃ?」

そこは見慣れた阿笠邸内の一室であった。

目の前にはPCがある、どうやら夜中にPCで作業中に寝てしまっていたようだ。

「え・・私・・夢?」

「ちょっとトイレに行く途中に覗いて見たら哀君がどうやらうなされているようでな・・起こして悪かったかのう・・」

「いや、いつまでも寝ていられないし・・丁度よかったわ、ありがとう博士・・」

「おいおい哀君、あまり根を詰めすぎると身体に悪いぞ・・君は今小学生の身体なんじゃし・・」

「大丈夫よ、博士、明日は学校も休みだし・・」

「そうかのう・・ああ、そういえば明日はわしは用事があるんで出かけるから留守番よろしく頼むぞ・・」

「わかったわ、博士・・おやすみなさい・・」

「くれぐれも無理しないようにするんじゃぞ・・」

博士が部屋から出て行ったあと哀は再びPCの前に向き直った。

そして目の前にあるフロッピーを手にとってみる、解毒剤の試作品のデータが入ったフロッピーである。

突然脳裏に先ほどの夢の場面が浮かんできた。

ありがとう、灰原・・

ありがとう、哀ちゃん・・

哀はフロッピーを持った手を振り上げるとそのままフロッピーを床に叩きつけようとしたが途中でその手は止まった。

「何やってるのかしら、私・・」

結局そのもやもやとした気分を振り払うためにはいつも以上に研究に没頭するしかなかった。

 

「ふぁ〜あ」

哀がPCの前に座りながら大きなあくびをするとソファーの上で寝転がりながら本を読んでいたコナンは哀の方を見た。

「何よ、その顔は?」

コナンの視線に気が付いた哀が何事かと尋ねる。

休日の午後であるが哀は昨日からずっとPCで相変わらず解毒剤のデータとにらめっこ状態であったし

コナンは何故か博士の家でずっと本を読んでいた。もちろん二人の間に会話は皆無であった。

「え、いや、でっかいあくびだなと思って・・」

「何よ、あくびくらいしちゃいけないのかしら?」

コナンとしては特になんでもない一言であったが最近寝不足気味の哀は機嫌が悪く、ものの見事にとばっちりを食うはめになった。

「いや、別にそんなことは言っていないけど・・」

「そもそもなんであなたがここにいるのかしら?本読むだけなら彼女の家でゆっくりと読んでいればいいじゃない・・」

「バーロ、おっちゃんのいびきがうるさくて本なんか読めないんだよ・・」

「ふん、人が一生懸命解毒剤作っているのにあなたはいいご身分ねえ・・」

さすがにここまで言われるとコナンも頭にきた。

「あのなあ、そもそもお前に作った薬が原因なんじゃねーか・・お前があんな薬を作らなきゃな、俺は普通の生活をだな・・」

そこまで言った時に哀の顔色が変わったことにコナンは気が付いて慌てて口を閉じたが既に遅かった。

「そうよ全ては私のせいなのよ、あなたはさぞかし私が憎いでしょうね、本当は顔も見たくないんでしょ!?」

「おい、灰原・・俺は別にそういう意味でいったわけじゃあ・・」

「いいから出ていってよ!」

コナンは必死に哀をなだめようとするがしかし哀はコナンの目の前まで来て読んでいた本を引ったくるとそのまま

玄関までコナンをひきずっていきとうとうコナンを家から追い出してしまった。

「おいおい、マジかよ・・」

あまりの出来事に途方にくれるコナン、しっかりとドアにカギもかけられていた。

一方の哀はというと・・

「何やってるのかしら・・バカみたい・・」

こんなことをしたって工藤君に嫌われるだけなのに・・

でもどうせ彼は彼女のもとへ・・そう、解毒剤が完成したらきっと・・

「こんなこと考えていてもしょうがないわね・・」

ふと足元に哀が放り投げた本があった、さっきまでコナンが読んでいた本である。

著者は工藤優作、どうやら彼の父親が書いた小説の最新作らしい。

さすがに作業を続ける気にもならずしばらくソファーの上でボーッとしていると寝入ってしまった。

 

「おい、灰原、灰原!こんなところで寝ていると風邪引くぜ・・」

突然声を掛けられて哀は飛び起きた。

「く、工藤君?どうして?」

確かにコナンは先ほど哀が外に締め出してドアにカギもかけたはずであった。

「バーロ、探偵をなめるんじゃねーよ、これぐらい朝飯前だぜ・・」

「クスッ、でもそれじゃあ探偵じゃなくて泥棒ではなくて?」

「グッ、そうかもな・・」

何だか無性におかしくなってしばらく二人とも笑い続けた。

「そういえば、何か用なの?」

ひとしきり笑ったあと哀はコナンに尋ねた。

「バーロ、俺が読んでた本お前に取り上げられちまったままじゃなえーか・・」

「あ、はい、これね、それとさっきはごめんなさいね・・」

「いや、俺の方こそひどいこと言って悪かったな・・」

「ううん、事実だし・・ちょっと寝不足でいらいらしてただけだから気にしないで・・」

「オメー、悪い夢でも見たのか?」

「え・・」

(なんで分かるのかしら?)

「その様子だと図星のようだな・・最近寝不足のようだし大丈夫か?」

「ちゃんと寝れば大丈夫よ・・ふぁ〜あ・・」

そういいながら哀はまた大きくあくびをした。

「ははは、本当に眠たそうだな・・じゃあ悪い夢を見ないように俺がしばらくそばにいてやろうか?」

「そばにって、あなたまさか変なことする気じゃないでしょうね?」

「バ、バーロ、何言ってやがんだよ、誰がガキ相手にそんなことすっかよ・・」

顔を真っ赤にしながら慌ててコナンは答える。

「まあせっかくだけど遠慮しておくわ・・私そばに人がいると気になって眠れないし・・」

「ふ〜ん、そうかじゃあ俺はそろそろ帰るわ・・」

「ええ、じゃあね・・」

 

終わり

 

あとがき

現在僕のPCの壁紙になっているあくびな哀ちゃんを見ていたらいつのまにかにこんなのができてしまいました(笑)

なんか哀ちゃんが寝たり起きたりしてるだけのような気がしますがそこらへんは気しないというとで。

しかし真昼間から寝たりしているとはまるで僕の生活みたいだな哀ちゃん(笑)