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「とりあえず一休み、か」

休憩を取るためにアキトは部屋に戻ってきた。ドアを開くとほっと一息をつく。

「あ、お帰りアキト!」

がくっと頭を垂れるアキト。

 

「なんでここにいるんだ?」

「だってあたしの部屋隣だもん」

「何!?」

以前ナデシコに乗っていた時からユリカの部屋など行った事の無いアキトがユリカの部屋を知るはずもない。それはそれとして…

「…部屋が隣というのと、俺の部屋にいるのと何の関係があるんだ?」

「それはもちろんアキトの帰りを待ってたの」

「お前な…」

「アキト!」

ユリカがアキトの胸に飛び込んだ。

「ユリ…」

「アキト、アキトアキトアキトアキトアキト!うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

大声を出して泣き出すユリカ。

「ユリカ?」

「アキトアキトアキトアキトぉ!!」

ユリカは嗚咽混じりでただアキトの名前を呼び続ける。

「………」

アキトはゆっくりとユリカを抱きしめた。

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ 五つの花びらと共に

 

 

第3話 『信じているものは何ですか?』

 

 

 

 

 

「すぅ…すぅ」

ユリカはアキトの腕の中で静かな寝息を立てている。さすがに泣き疲れたらしい。

「それにしても…」

(よくもまぁ2時間以上も泣き続けられるもんだ…)

しみじみ思うアキト。

もっともそのかいあってか、赤く泣きはらしていた顔も、今はとても安らかな表情を浮かべている。結局、ユリカにとってアキトの腕の中以上に安らげる場所はないということなのだろう。アキトが構わないと言ったらそれこそ一生その腕の中にいるに違いない。

 

アキトは毛布を取ろうと思って手を伸ばしたがさすがにベッドまでは手が届かなかい。

「まぁいいか」

アキトはユリカを抱く腕に力をこめると自らも瞼を閉じる。

「…うぅん。アキトだいすき…」

「…あぁ俺もだよ」

 

 

<遡ること数十分前>

 

ユリカにしてみれば、最愛の男性が自分を助け出し、そのまま自分に会わずに姿を消し、よりにもよって死のうとして、それをどうにか追いかけて会えたまではよかったが、目の前の問題をほったらかしてアキトに飛びつく訳にもいかず、こらえにこらえていたわけである。

ユリカの性格を思えばここで何時間か泣かせるくらいですむなら安いものだ。アキトはそう思う。

「馬鹿。柄にもなく無理なんかしやがって」

「だってだってアキトは私の為にもっとつらい目にあったんだもん!」

「あれは俺が…」

「ユリカを助ける為よね!」

そういって泣き笑いの表情を浮かべるユリカ。本気か冗談かは相変わらずわからない。だけど…

「…サンキューな、ユリカ」

「夫を助けるのは妻の役目だもん」

「…今のお前はミスマルユリカだろ?」

「ぶーっ!ヤマダさん風に言うと…ミスマルユリカは世を忍ぶ仮の名前!本当の名前、魂の名前はテンカワユリカなの!」

「…あいつの真似はやめとけ」

「アキトが一番真似してたくせに」

コホン、と咳払いしてごまかすアキト。

「…それに契約書にあっただろ、男女間の交際は手をつなぐまでって」

「交際じゃないもん。もう結婚してるもん!」

(…話題を変えるか)

「…だいたいお前どうやって追いかけてきたんだ?俺はどういうわけだかジャンプしちまった…」

ふとアキトの脳裏をこの世界にジャンプしたときのやりとりが横切る。

 

 

『行けるよ!アキトが望むなら!』

(…え?)

『さあイメージを浮かべて!』

(…イメージ)

(…ナデシコ)

(…みんな)

『「ジャンプ」』

 

 

「あーっ!!」

「なぁにアキト?」

「あの時俺に話しかけてきたのお前だな!?」

「ぴんぽーん。さっすがアキト、やっぱり愛の力ね!」

(くそ、なんであのとき気がつかなかったんだ!?)

考えてみれば口調と言い脳裏に響いた声のイメージといいユリカでしかありえない。

「で、でもいったいどうやって!?」

「アキトとラピスちゃんはどうして離れていてもお話できるのでしょうか?」

「ん?それは精神をリンクして…お前!?」

「ぶーっ、あたしとしてはそっちの方がよかったんだけど、アキトったら行方くらませちゃったから。仕方なしに…」

「し、仕方なしに?」

「遺跡とリンクしちゃいました、えへ」

アキトの目の前が真っ暗になった。

 

 

もともとユリカは遺跡と融合させられていた身である。

イネスから説明を受けたユリカはアキトの行動を予測。体内に残った遺跡関係のナノマシンを除去する際によりわけを行い、アキトとラピスが用いているシステムの応用でリンクシステムを残した。

「というわけで完璧じゃないけど遺跡の活動はだいたいわかっちゃいまぁす」

『はぁ残念ねぇ、こんなにいいサンプルがいるのに』

とイネスが残念がったかどうかは別として。

死にかけていたアキトが無意識にジャンプしようとしていたのを察知したユリカは遺跡を介してメッセージを伝達、ひとまず安全な場所に退避させようとジャンプを促した。アキトがジャンプを開始したのを確認したユリカはその軌跡に同調してすかさず自分もジャンプした。もっともイメージからしてユリカも過去に戻るものとばかり思っていたのだがまさか平行世界にジャンプするとは思わなかった。

 

 

「…ちょっと待て。この世界の俺は死んでいたから俺はよかった…いやそれはそれであんまりよくないけど…そんなことはいい!お前はどうなんだ!?この世界のユリカは!?」

「えーと、よくわかんないけど元の私を構成していた体はほとんど遺跡に融合しちゃって残りの精神とか記憶とかがこっちのユリカと融合しちゃったみたい」

「はぁ?なんだそりゃ?」

「ところでアキトの感覚って治ってるよね?」

「あ、ああ」

いきなり話を変えるな、と思いつつ答えるアキト。

「やったぁ!」

「やったってお前がなおしたのか?」

「うん。イネスさんの発案でね、ジャンプをナビゲートする際に構成分子のより分けをイメージしてみなさいって」

イメージ的にはアキトの体から不純分子を取り除いて実体化させるということらしい。もともとイメージだけでボソンジャンプを行うような遺跡である。そのファジーさを遺憾なく発揮したということであろう。ちなみにジャンパーとしてのナノマシン処理は生来の物だし、IFSはユリカのイメージではアキトの一部なので残ったらしい。

「そっかありがとうユリカ………待てよ」

アキトの脳裏に嫌な想像が浮かぶ。

「あ、あはは。そうそうアキト、ラーメンなんだけど…」

ユリカは慌てて話題をそらそうとしている。

「それってもしユリカがイメージに失敗したら…」

(IFSだけなくなって他のナノマシンは残ってるとか…いや、それならまだいい!腕が一本ないとか骨と肉がばらばらにジャンプアウトするとか完全に消滅するって事も!)

「いやぁイネスさんも人が悪いよね、えへへ」

「なんちゅうおっそろしいことを…」

「あはははは」

とはいえもともと自殺しようとしていた身だ。

(…今更文句を言えた立場でもないか)

アキトはなんとか取り繕うとしているユリカを横目で見ると抱き寄せた。

「アキト?」

「ありがとなユリカ」

「…うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テンカワさん。ちょっとよろしいですかな?」

そう言って夕食の仕込み中のアキトを呼んだのはプロスペクターだった。

「何です?」

「少々内密なお話がありまして」

「…こんな所でいいんですか?」

「まったくだね」

二人の前に茶をおいたホウメイが言った。ちなみに二人が座っているのは食堂のカウンターである。

 

ちなみに現在ナデシコは太平洋上を航行中。地球を脱出するのに最適な位置(火星と反対側に飛び出しては身も蓋もない)に移動するためと、連合軍との最終交渉をまだ終えてないためである。

 

「逆にこういうところの方がいいんですよ。ホウメイさんできれば内密に」

「ま、あたしはテンカワっていう助手がいなくなったりしない限りは構わないけどね」

「どうも…さてテンカワさん、ちょっとこれをご覧下さい」

そう言ってプロスペクターは胸のポケットから数枚の紙を取り出す。アキトの前に置かれたのは写真だった。どこかの工場らしき場所で黒いマントにバイザーをつけた男が写っている。

「…ネルガルにしては仕事が遅かったな」

自然に口調が変わり、そう答えるアキト。無論、写っているのはアキト自身だ。

「まったくです。なにしろナデシコが出航してからこっちいろいろありましたですからねぇ。まぁ地球を発つ前にわかっただけでも恩の字でしょう」

「それで?」

表情の消えた顔で促すアキト。

「あなたは我々…いえ、ネルガルの敵ではないとおっしゃった。私もそう思います。しかしサラリーマンの悲しい性と申しますか、上司を納得させるだけの説明が必要でして、はい」

「もっともだな。俺ももともとネルガルの協力をちゃんと取り付けておきたいと思っていた。…わかった、直接話すとしよう」

「直接と申しますと?」

「会長本人と話すさ」

「なんと?」

「話が早いだろう?」

わずかに笑みを浮かべるアキト。

「ですが、会長もお忙しい方で…」

「知っている。だが、直接じゃないと話せないようなことも…これ以上はちょっとホウメイさんにも聞かれるとまずいな…」

「場所を変えましょうか?」

「そうだな」

そう言うとアキトはコミュニケを動かした。

 

 

『アキトから連絡してくれるなんて嬉しいなっ!なぁに?』

(お前、そこブリッジじゃないのか?)

今更悩んでも仕方のないことなのだろうがついつい頭を抱えてしまうアキト。

「重要な話がある。今から…そうだな俺の部屋に」

『ええっ!?アキト駄目よ!戦争も終わっていないのに早すぎるよ!あ、でもアキトがどうしてもっていうならユリカは…』

「何を勘違いしてる!?プロスさんも一緒だ!!」

途端に口調が地に戻り叫ぶアキト。

まだまだ修行がたりませんなぁ、とプロスペクターが思ったかどうかは不明だ。

『あ、そうなの?』

「いえいえお邪魔でしたら私は…」

「プロスさんも頼みますよ」

とほほ、と顔に書いて言うアキト。

「はっはっは」

 

 

 

アキトと対面に座るプロスペクター。

二人の間には小振りなちゃぶ台が一つ。

そしてその上には湯飲みと急須が小さなお盆にのって佇んでいた。

(これこそ日本人のわび、さびというものでしょうか)

一人そんなことを考えているプロスペクター。侮りがたい人物である(笑)

「はいアキト」

湯飲みを差し出すユリカ。

「サンキュ」

「どうぞプロスさん」

「恐縮です…しかし…」

自分の対面に並んで座るアキトとユリカをしげしげと眺めるプロスペクター。

「まるで夫婦のようですなお二人とも」

二人は顔を見合わせた後プロスペクターに向き直る。

「「夫婦ですから」」

「………は?」

 

 

プロスさんを味方に引き入れよう。

アキトとユリカの考えは一致していた。

「というわけでざっと5、6年後の世界、あ、歴史がちょっと違うからパラレルワールドだと思うんですけどぉ、そこからやってきちゃいましたーっ!」

陽気にとんでもないことを言うユリカ。

(なにが、というわけ、なんだ?)

誰しも思う疑問を感じるアキト。

(…よくよく考えるとこれがこいつの交渉術って奴かもしれないな)

話しているユリカを見ながらそんな感想を抱くアキト。

もっとも今回はユリカもすぐに真面目な顔に戻りプロスペクターと話している。

「………にわかには信じがたいお話ですな。タイムマシンですか?」

「ちょっとジャンプしただけです」

「ジャンプ?」

「ええ、詳しいお話はおいておくとして、ボソンジャンプによる時間移動を行ったと考えて下さい」

「ボソンジャンプ…あなた方はボソンジャンプを行い、かつ時間移動も行ったというのですか?」

アキトが口をはさむ。

「時間移動はともかく空間移動だけならいつでもできますよ。もっともあの服に仕込んであるジャンプフィールドの発生装置があれば、ですけどね」

「あの黒装束ですか?」

プロスペクターの視線が壁にかけられたアキトの黒装束に向けられる。

「ええ、個人用のディストーションフィールド発生装置も仕込んであります。元に戻す自信があるならばらしてもらって構いませんよ。まぁジャンプだけならCCがあればことはたりますけど…」

「ほう…CCまでご存じで…」

「できれば緊急時に備えて俺とユリカにCCを用意してくれると助かります」

「考慮しておきましょう」

アキトが湯飲みに手を伸ばすと今度はユリカが話し出した。

「…私達の世界ではプロスさんがいろいろしてくださったおかげで木星蜥蜴やアキトの御両親が亡くなられた本当の理由についてナデシコの乗組員みんなが知ることができました」

「………」

「ネルガルのことをいろいろ思ったこともあったけど、それは俺にとってはもう過去のことです。俺達の世界じゃ地球と木星の連中は仲良くやってますしね。ま、それなりにいざこざもありますけど」

「…木星の連中?」

それには答えない二人。

「私達の歴史についてあれこれ話すことはあまりよい影響を与えるとは思えません。ですから私とアキトは歴史を知る者としての干渉は最小限に留めようと思っています。それでもネルガルにとって不利益になることはそんなに無いはずです」

「…わかりました。その旨、上に伝えましょう」

「適当な時点で顔を出しに行きますよ。その方があいつも話が早い」

「そうよねアカツキさんってそういうタイプだもの」

「…会長のこともご存じですか」

「ええ」

「いやはや私の様な小心者にはこたえますな」

「謙遜ですね」

「ははは」

「…最後に木星の連中と俺達が呼んだ相手についてです。この時点ではプロスさんはまだご存じないんでしょう?」

「ええ。非常に気になってはいます」

「プロスさんなら人に言う心配もないだろうけど…」

「ま、いきなりというのも何ですから、自分で調べてみて下さい。ヒントは月です」

「月、ですか」

「ええ、月」

 

 

話が一段落したところでプロスペクターが話を変えた。

「ところでお二人は夫婦とおっしゃりましたか?」

「はい。初めまして、テンカワユリカです!」

「お前…」

「しかしまだ戸籍上お二人は独身ですね?」

「あ、そういや俺の戸籍ってどうなってるんだろう?死亡届とか…」

「契約書はお読みになりましたか?」

「手をつなぐまで、ですか?」

「ええ、よくご存じで」

「俺は別に…」

「アカツキさんに直談判ね!これは!」

「おいユリカ」

「ははは、伝えておきましょう。…なるべく他の皆さんに見つからないようにお願いしますよ?」

「プロスさん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズズ−ン

「少し塩が足りないかな」

ミサイルの着弾に揺れるナデシコ。無論キッチンといえども例外ではない。そんな中、微動だにせず味見をしているアキト。ホウメイもそれを見ながらのんびりジャガイモの皮むきをしている。警戒配置中なので食堂も静かなものだ。

現在ナデシコは防衛ラインを突破中である。今回も交渉はめでたく決裂したらしい。もっとも前回同様チューリップが活発に活動しているので第3防衛ラインのデルフィニウム部隊が出てくるまでは障害らしい障害はないようだ。

余談ではあるが今回はアキトに晴れ着姿を見てもらえたのでユリカはいつにも増して上機嫌である。

 

 

「そういやテンカワ。お前さんは待機してなくていいのかい?」

「本職のパイロットの怪我が治ったんです。俺はパイロットはあくまで兼業ですからよっぽどのことがない限り…」

『テンカワさん』

鍋から立つ湯気の中にメグミの映るウィンドウが現れる。

がっくりと肩を落とすアキト。

「…わかったよ。まだもう少しくらい持つよなあの馬鹿」

『あはは。できるだけ急いで下さいね』

逃げるように消えるウィンドウ。

「ホウメイさん、すみませんけど…」

情けない顔のアキトにホウメイは笑って答えた。

「心配無用。行って来な」

 

 

 

『頼むぞテンカワ!』

「ガイのばっきゃろーっ!!」

一機のエステバリスが怒声を残してカタパルトを飛び出していった。

 

 

 

『ユリカ、これが最後のチャンスだよ。ナデシコを戻して』

ウィンドウに映し出されるジュン。

「ジュン君」

2回目なので驚かないユリカ。なら最初から置いてくるなという気もするのだが…

「よくわかんないけどジュン君迷ってるみたいだったし、それならこうした方が吹っ切れるんじゃないかなと思って」

…だそうである。

「君の行為は契約違反だ」

ゴートが告げるがさすがに今回は誰も聞いていない。

『このまま行けばナデシコは第防衛ラインの主力を相手にする事になる』

 

ユリカはまっすぐジュンを見つめると口を開いた。

「ごめんジュン君。私ここから動けない」

『! 僕と戦うというのかい?』

「…私が私でいられるのはここだけなの。ミスマル家の長女としてじゃなくお父様の娘でもない。だから…」

(後はアキトの所だけ)

そう思っているのだが口には出さない。

『やっぱりあいつがいいのか』

ぼそっと呟くジュン。

「え?」

首をかしげるユリカ。声が小さくて聞こえなかったのだ。無論、聞こえていたら肯定したのは疑いようも無い。

『なら、まずはこのロボットから破壊する!!』

『うぉーやめろぉ!!』

ガイの叫びも虚しくジュンのデルフィニウムからミサイルが放たれる。

 

そんな会話を聞き流すアキト。。

「熱いよなみんな。ま、俺も人のことは言えないけど、な!!」

戦場に到着するなりガイのエステバリスを押さえていたデルフィニウムを突き飛ばすアキトのエステバリス。すかさずライフルでジュンが発射したミサイルを迎撃する。

「…そういや、前回はなにか熱い台詞を吐いたような気がするなあ」

 

 

「テンカワ機、戦闘区域に到着。ヤマダ機を拘束していたデルフィニウム2機を排除」

「にらみ合いに入ったか」

「第三次防衛ライン突破まで後少し…」

 

 

「くぅぅ恩に着るぜテンカワ!この借りは華麗な活躍で…」

「はぁ」

持ってきた予備のライフルをガイのエステバリスに放るアキト機。どことなく背中に哀愁が漂っている。

(…ガイって本当に一流のパイロットなんだろうか?プロスさんが人選を間違えるとも思えないけどなぁ…)

「…いい機会だから確認してみるか」

「ん、なんか言ったか?」

(…本当に間抜けなだけだったら適当に理由をつけてナデシコから放り出そう)

そんなことを考えているとはおくびにも出さないアキト。

「いや、なんでもない。…それよりガイ、少しでも恩に着てくれているなら俺の話を聞いてくれ」

「おう、いいぞ。なんでも言ってみろ!」

妙に上機嫌なガイ。それもそのはず、ナデシコで彼のことをダイゴウジ・ガイと認識してガイという名前で呼んでくれるのは今のところアキトだけなのである。

「お前が正義の味方なのはわかっている」

とりあえずそこから入るアキト。

「おう当然だ!!」

ますますうれしそうなガイ。

「だがガイ。明らかにお前は目立とうと無茶なことばかりしている」

「な、なんだとぉ!!」

「まぁ聞けよ。正義の味方ってのは普通に戦っているだけでも十分格好いいし目立っているんだ。そこを更に目立とうとするから失敗する。だいたいなんだ?あんな雑魚相手に必殺技を使ってどうする?あんなのはライフルで十分だ」

「だ、だが俺様のガイスーパーアッパーは!」

「わかっているガイ。だからこそ乱用しては駄目なんだ。必殺技は強敵に対して使う切り札なんだ。ゲキガンガーだってゲキガンフレアを使うのはいつも最後だろう?力を尽くしても勝てない相手への最後の手段としてのみほとばしる熱血を武器にするんだ。なにか俺の言っていることは間違っているか?…ん?どうしたガイ?」

うつむいているガイ。さすがに心配するアキト。

「おーい」

ガイががばっと顔を上げる。

「お前の言う通りだテンカワ、いやアキト!俺は間違っていた!!あんな雑魚に俺様の必殺技を使うとは!俺はなんて未熟者なんだ!!」

涙を流して力説するガイ。

「い、いや、わかってくれればいいんだ」

(ちょっとやりすぎたかな?)

心なしか背中が寒いアキト。

「ま、まぁいい。さぁガイ、あんな連中とっとと片づけようぜ」

「おぅよ!!」

叫ぶや否や飛び出すガイの空戦フレーム。

『なにぃ!?』

『いかん散開しろ!』

『駄目だ、うわぁぁぁ!』

デルフィニウムを上回る機動性をいかんなく発揮し瞬く間に背後をとったガイのエステバリス。そのまま的確な点射でデルフィニウムのブースターを撃ち抜くと、すぐさま別の敵機の背後に回る。

「安心しな、命まではとらねぇよ」

余裕なのかそんな台詞まで吐く始末だ。

 

 

「「「「「ほぉぉぉぉぉ」」」」」

さっきまでとは人が変わったようなヤマダ機の動きに感嘆の声をもらす一同。

『テンカワ機、援護に移る』

そう言ってアキトのウィンドウも閉じる。

「いやいやテンカワさんもやりますな」

ピ、ポ、パと電子そろばんを弾きつつ費用対効果を計算するプロスペクター。

「さっすがアキト!」

 

 

 

『やられました!!』

そういってまたデルフィニウムが一機落ちていく。

「ええい!」

ジュンの視界には十倍近い敵に囲まれたエステバリスが映っている。だが、そのエステバリスは軽快な機動でミサイルをことごとくかわしつつ、逆に一機ずつ確実に仕留めている。

「くそっ!」

その時、視界の隅に後方から援護射撃をしているもう一機のエステバリスが映った。

そのパイロットは確か…

(あいつさえ!!)

 

「ん?」

一機のデルフィニウムがこちらへ移動を開始するのをとらえるアキト。

「ジュンか。さて、どうするかな?」

 

「僕と勝負しろテンカワアキト!!」

予想通りの相手と言葉に少し考えるアキト。

「あ…」

「ちょっと待ったぁ!!」

口を開いたアキトを遮るようにエステバリスが2機の間に割り込んだ。

え?」

 

「やい貴様!いったいどういうつもりだ!?」

「うるさい!邪魔をするな!」

「嫌だね!」

「あの…」

「アキト!ここは俺に任せろ!」

「いや、そうじゃなくて…」

アキトの周囲に残りのデルフィニウムが集まってくる。

(…やっぱり俺がこいつらの相手すんのかよ?)

 

 

「この前まで俺達仲間だったじゃねぇか!なのになんで戦わなきゃなんねぇんだ!?」

「正義の為だ!僕は地球を守る正義の味方になりたかった!そして連合宇宙軍こそがその場所だと信じているんだ!!」

エステバリスに向かって突撃するジュンのデルフィニウム。

「ちっ!」

 

 

「熱いなぁ…セイヤさん、空戦フレームの行動限界なんですけどまだ大丈夫ですよね?」

『おう。まだまだ余裕がある。第二次防衛ライン位までは心配すんな』

「了解。よっと、はいもう一機」

ミサイルをかわしつつライフルを発射。デルフィニウムの脱出ポッドが飛んでいくのを確認して次に移る。

 

 

「へん!そんなの信じられないね!」

「なんだと!?」

「だったらなんでナデシコに乗った!?最初から宇宙軍で戦えばいいだろ!」

「う、うるさい!!」

振りかぶりざまなぐりかかるデルフィニウム。だがその拳をがっしと受け止めるエステバリス。

「へっその程度の拳じゃ俺はやれねぇな」

「くっ」

「てめぇは単に自棄になってるだけだ!けっ、情けねぇな。たかが女に相手にされねぇぐれぇでよ。てめぇはそれでも男かぁっ!!」

「そ、そんな個人的なことは関係ない!僕は軍人として悪を見過ごせないだけだ!」

「!」

くわっとガイの目が見開く。

「ぶわっきゃろぉぉーっ!!!」

ガコン!(左フック)

ドコン!(右アッパー)

グワッシャーン!!(回し蹴り)

「がはっ!」

『おぉーっ』

一同感嘆の声。

「なにをするんだ!?」

 

(…なにをするんだ、じゃないだろジュン)

そう思いながらミサイルの雨をかいくぐるアキト。

 

「てめぇはこんなことがしたかったのかよ!惚れた女に武器を向けるようなことを!」

「好きな女だから見過ごせないんじゃないか!」

「好きな女を殺す正義の味方なんているわきゃねぇだろぉが!!」

「くっ!!」

 

 

「でもジュン君の好きな女の人って誰なのかしら?」

「「「「「え?」」」」」

小首をかしげるユリカを振り向く一同。

「いや、ですから艦長…」

「話からするとナデシコに乗っている人みたいですけど、プロスさんご存知ですか?」

「いや、はは、私の口からは何とも…時に艦長はアオイさんのことを?」

「もちろんジュン君はとっても大切なお友達よ」

「「「「「はぁぁぁ」」」」」

ため息をつく一同。

「へ?」

事態が飲み込めないユリカ。

「ほんと馬鹿ばっか…」

 

 

「ガイ、そろそろ第2次防衛ラインだ。空戦フレームじゃこれ以上は無理だぞ」

「止めるなアキト!俺はこのわからずやを!」

「デルフィニウムもそろそろ燃料が切れるはずだ」

ちなみに他のデルフィニウムは既に戦線を離脱している。

「ちっ、仕方ない。やい貴様、この続きは…なに!?」

突然急加速して上昇するジュンのデルフィニウム。

その上空からは第2次防衛ラインのミサイルが近づいてくるはずだ。

「あいつ!」

「やれやれ…あ、しまった。待てガイ!」

ガイのエステの腕をつかんで引き止めるアキト。

「なんだ!?」

「それ以上行ったらエネルギー供給ラインが切れる」

「なんだそれくらい!ちょっとの間ぐらいもつだろうが!」

「高度がありすぎる。大気も薄いし、もう空戦フレームじゃ限界に近い。エネルギーを馬鹿食いしながらフル回転してるから飛んでいられるんだ」

「ああ畜生!じゃあ、あいつはどうすんだ!」

「…あいつの運にかけてみるさ」

 

 

両腕を広げてナデシコをかばうように静止するデルフィニウム。

「そうさ、わかってたさ。所詮、軍は戦争をしているだけ。そこには正義なんてありはしない」

ジュンの視界には、宇宙をバックに迫ってくるミサイル群の第一波が映っていた。

「でもユリカ、これでもし君を守る事ができるなら、きっとここが僕の居場所なんだ…」

『…それがわかっているならいいじゃないか』

「え?うわっ!!」

2機のエステバリスにそれぞれ両腕をつかまれ後方に引っ張られるデルフィニウム。

直後、その場所をミサイルが通過した。

「どうして!?」

『くだらねぇこと聞いてんじゃねぇよ。俺達は仲間だろうが』

男の笑みを浮かべて答えるガイ。

「ヤマダ・ジロウ…」

『ダイゴウジ・ガイだ!!』

アキトは苦笑しつつ割り込んだ。

『なぁジュン。好きな女だったら邪魔するんじゃなく、助けてやれよ』

「何!?」

『アキトの言うとおりだぜ』

「…僕に、ナデシコに戻れというのか?」

『まぁ強制はしないけど…でも、好きな女を守るのだって立派に正義の味方だと思うぜ。な、ガイ』

『そのとおりだ!!ま、地球を守る正義の味方なら俺が居るから安心しな!』

『はいはい。それより二人ともさっさとナデシコへ行かないとミサイルに落とされるぞ』

『そういうこった!先に行くぜ!』

「………」

ガイのエステバリスがナデシコに向かって飛ぶ。ジュンはその背中を見つめながらためらいがちにデルフィニウムを動かした。

 

 

「…好きな女を守る、か」

そう呟くアキト。

『アキト』

アキトのコックピットに小さなウィンドウが現れる。

「…ユリカ」

『アキトはいつも一生懸命。それでいいじゃない』

そういってにっこりと微笑むユリカ。

「…そうだな」

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

「と、いうわけで」

 

ナデシコはすべての防衛ラインを突破して無事宇宙に飛び出しました。

今回は私も出番が少なかったですね。ま、別にいいですけど。

でも、この先いったいどうなるのかな?

 

 

つづく

 



艦長からの謝辞

はい、艦長です。
神崎悠さんから引き続いて第一話です!

思うに。
ユリカが全面に出てくるSSって少ないですよね。
ルリが主役を張るSSならそれこそ星の数のごとくありますが(笑)

・・・ってことは、ウチは光の当たらない登場人物にスポットを当てるSSばかり集まるということか?(笑)
それはそれでいいんですが。
私もそっちの方がいいですし(笑)

さて、神崎さんは4作目ですので少佐に昇進です。

続きがとっとと読みたいんだったらメールだ!


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