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「はぁまたお葬式か…」

ポクポクポクポクポク、チーン

 

 

現在ナデシコは火星に向けて星間空間を航行中です。

たまに木星蜥蜴の哨戒部隊と遭遇して攻撃されることもありますが、それもほんの挨拶程度。数日前、艦長と話した所、現状では木星蜥蜴も積極的に攻撃してくることはなく、敵が本格的攻勢に出てくるのは、勢力圏を確保している火星軌道近くに到達してからだろうということで意見の一致を見ました。

そんなわけでナデシコ艦内は通常態勢のまま航行中です。

最新鋭であるところの機動戦艦ナデシコは無論自動航行装置を備えており到達日前後の火星の位置を計算してコースを設定してしまえば後は他にすることはなし。はっきり言ってヒマです。

通信士のメグミさんは交信可能区域を離脱した頃から仕事が無くなり、昼間はヤマダさんの部屋にこもりっぱなし。部屋の前を通ると何やら叫び声が聞こえるというお話です。

操舵士のミナトさんにいたっては朝寝坊。たまに顔を見せる他はずっと寝てるみたいです。ま、いいんですけど。

 

さて、現在ナデシコでは空いた時間を利用して、先日サツキミドリで亡くなった人たちのお葬式を執り行っています。本来ならネルガルの本社などで一斉に行うのでしょうが、そこは非常時。一番手近の支店、つまりこの場合はナデシコで行うことになりました。

不幸中の幸いというもので、コロニーの人達の大半はたまたま月面施設の方に移動していて難を逃れていたそうです。…そういえば以前艦長とテンカワさんがサツキミドリがどうとか話していましたけど…考え過ぎですかね?ま、それでも亡くなった方達は結構な人数です。

 

 

「いちまいだーにーまいだーさんまいだーはーおしまいだー」

かくっと頭をたれる和尚さん姿の艦長。

「おしまいじゃないよユリカ」

「あ、やっぱり?」

アオイさんの講釈を聞きながら衣装を着替えるために飛び出していく艦長達。式場を造りかえる裏方さんたち。その間に出席者の人たちはしびれた足をのばしたりして休憩しています。ちなみに式場の設営は整備班のみなさんがなさっています。ネルガルの社員契約では勤務中に亡くなった方は希望する形式のお葬式を行ってもらえるそうです。そんなわけで神道、仏教、キリスト教、イスラム教、ヒンズー教その他いろいろ…でも艦長達の衣装といい大道具といいなんでこんなもの積んでいるんでしょうねナデシコ。普通宇宙船の格納スペースには余裕は無いものなんですけど。ま、それはさておき。

 

 

「ま、そうは言っても前よりかはよっぽど楽なんだけどさ」

「テンカワぶつくさいってんじゃないよ!!」

「うぃーす」

こちらはホウメイさんの講釈を聞きながら料理に励むテンカワさん達です。テンカワさんにしてみれば料理に専念できるので願ったり叶ったりというところだそうで。尚、当然の事ながら葬式料理は乗組員の三食及び夜食に転用されます。テンカワさんによると、前ほどの量はないし少しとはいえお酒もつくので概ね好評だとか。ところで前っていつのことですか?

 

 

どうにか本日のノルマを終えた艦長は艦長席で休憩中です。

「まぁそれは別にいいんだけどね、これも艦長の仕事だし…」

「艦長、頭」

「ふぇ」

ポテ

大きな帽子が転がって落ちました。どこの国のものだか私には見当が付きません。アオイさんやホウメイさんじゃないですけど本当に世界は広いですね。

「結構片付きましたね。残り20%くらいですか」

「まぁ前よりは楽だし…」

「はい?」

「なんでもなーい…あれみんないないね?」

ブリッジを見渡す艦長。

「ミナトさんはまだ寝てると思います」

「メグちゃんは?」

「ヤマダさんの所じゃないですか?」

「ふーん、いーなー」

 

 

その頃のヤマダ・ジロウさんガイの部屋。

「レッツゲキガイン!」

「ジョー!」

ちなみに声たのはスピーカではないので念のため。ま、何はともあれ仲がいいのはよろしいそうで。

 

 

「艦長もテンカワさんの所に行けばいいじゃないですか」

「でもそれじゃブリッジにルリちゃん一人になっちゃうじゃない」

「特に航行に支障は無いと思いますが」

「そういうことじゃなくてぇ…あ」

ピコン、と艦長の頭上で電球に灯が点きました。

「なにか?」

「ならアキトをここに呼べばいいんだ」

「はぁ」

艦長は意気揚々とコミュニケを操作しています。

「ほんと馬鹿ばっか」

 

 

 

機動戦艦ナデシコ五つの花びらと共に

 

 

第5話『日記は毎日書いていますか?』

 

 

 

<2196年12月20日>
<ナデシコ ブリッジ>

 

『ほぁたぁ!』

『あちょぉ!』

ウィンドウの中では右と左が戦っている。

「…で?」

『一時停止』

「で、といいますと?」

コントローラを持って向き合うアキトとルリ。

「なんで俺を呼んだ張本人が寝こけてるんだ?」

「すぴーすぴー」

アキトを呼び出したユリカはアキトにもたれて熟睡している。

「…さぁ。お昼寝の時間なんじゃないですか?」

「…やっぱり子供だな、こいつ」

アキトは怒っている様な、それでいて笑っているような不思議な表情を浮かべる。

「まぁ前みたいに悟りを開こうとか考えないだけましか」

「?」

首を傾げるルリ。

「なんでもないよ…よしっ続きだ!」

「はい」

『ほぁたぁ!』

「あーーーーっ!!」

『ていやぁ!』

「ガードが甘いですねテンカワさん」

『ちょぇぇぇぇーっ!』

「なんの!」

『とたたたたたたっ!!』

「付け焼き刃じゃだめですよ」

『せいやぁぁぁーっ!』

「木連式柔ぁ!」

『しゅしゅしゅしゅしゅっ!!』

「何ですかそれ?」

この日の戦績は3勝1敗1引き分けでルリに軍配があがった。

 

 

 

<艦内通廊>

 
 
「…テンカワ」

通廊を歩いていたアキトに背後から突然声がかかった。

「…気配を消して近づくのはやめてくれ」

渋面を浮かべるアキト。その背後に立つイズミが不気味な笑みを浮かべる。

「最初から気づいている奴のいうことじゃないね」

「そうわかっててやる方もどうかと思うけどな」

そこで振り返るアキト。

「へぇ」

驚いた風に声を出すアキト。イズミは大浴場にでも行くところだったらしく小脇に桶を抱えていて着流し姿である。胸元にはサラシが覗き、なんとも様になっていて格好いい。

(ヤクザの姐さん…いや、どっちかというと用心棒の先生だな)

「ちょうどいい。ひとっ風呂浴びる前に付き合いな」

「なんだ?」

そういいつつもついていくアキト。今日の仕事は終わっているし今のイズミは概ねシリアスモードらしいので安心してついていく。

 

 

<シミュレーションルーム>

 

『READY』

シートに座ったアキトの前にメッセージが表示される。

「はぁこういうことか」

『ふふっ手加減はしないよ』

サブウィンドウの中で唇の端に笑みを浮かべるイズミ。それと対照的に目は真剣だ。

(うーん。これは本気でかからないとボコボコにされるな)

「お手柔らかに」

そう答えた後、表情を消すアキト。だが、イズミは予期していたのかわずかに目を細めただけだった。そのままウィンドウが消える。

『GO!!』

シミュレーション空間の中でピンクとグリーンのエステバリスがドッグファイトを開始した。

 

 

 

<2197年1月8日>
ナデシコ食堂

 

「ふへーヒマだねルリちゃん」

ぐてーっとカウンターにうつぶせになったユリカが言った。顔をルリの方に向けているのでほっぺたがひしゃげている。

ちなみにお葬式は前日ですべて終了している。

「ならまたお昼寝でもしてたらどうですか?」

両手で頬杖をついているルリが視線だけユリカに向けて答える。

「だってそしたら夜眠れないじゃない」

ここ数日で実証済みである。

「…そうですか?」

「そうだよ」

「そうですか?」

「そうだよ」

「そうですか」

「そうだよ」

「だからって…ここでだ言ってんじゃないよ」

シュルシュルシュル

ジャガイモの皮むきをしながらアキトが言った。

「だってぇ」

「だってじゃない」

手際よくむきおわると次のジャガイモを手に取るアキト。

「あの、ご迷惑でしたら…」

「ルリちゃんは何も気にしなくていいよ。あ、なんか飲み物でも作ろうか?」

「はぁ、おかまいなく」

ぷぅっと顔を膨らませて行くユリカを横目で見るルリ。

「アキト!!」

 

 

「ねぇねぇやっぱりあの二人ってできてるのかなぁ?」

ミートボール片手に聞くヒカル。

「あの二人って、あいつらか?」

フォークで少し離れた席のガイとメグミを指すリョーコ。

「あれはできてるのか、じゃなくてできてる、でしょ」

「あ、そうか」

「まぁオペレータとパイロットができてるってのもありがちよねぇ」

「んで、お前の聞いてるできてるってのは…」

「できている人でてきてぇ………ぷ、くくく、あはははは」

だんだん、と手近の壁を叩くイズミ。

「はいはい」

眉間にしわをよせながら茶を飲むリョーコ。

「で、どう思う?」

「だから誰がだよ?」

「艦長とぉテンカワ君」

「テンカワぁ?」

「ほれ、あれ」

ヒカルの指さす先に視線を向けると、ユリカがアキトに突っかかっているのが見えた。もっともむしろ子犬か子猫がじゃれて噛みついているように見えるのは御愛敬か。

「へぇ。あいつそうだったのか」

それほど驚いた風もなく感想をもらすリョーコ。対照的に驚いた風のヒカルが声をかける。

「…割と落ち着いてるね」

「なんで?」

「あれ、リョーコってテンカワ君に気があるんじゃなかったの?」

「いきなりなんだそりゃ!?」

ダンとテーブルを叩いて身を乗り出すリョーコ。

「だってさぁ、いつものリョーコだったら男に『リョーコちゃん』なんて絶対呼ばせないと思うんだけど?」

「お前だってヒカルちゃんって呼ばれてるじゃねぇか!」

「あたしは前からみんなにそう呼ばれてるもん」

「そーそー」

「るせぇなほっとけ」

「お、照れてる。何かあるな〜」

「そんなもんねぇ!」

「「リョーコちゃ〜ん」」

顔と顔をくっつけてじりじりと近寄るヒカルとイズミ。

「てめぇら…」

 

 

事態はしばらく前にさかのぼる。

「あ、リョーコちゃん」

食堂に入るなりそう呼ばれてがくっと膝がくだけるリョーコ。

「誰だ!?俺をちゃんづけで呼ぶような野郎は!?」

「ん?…俺だけど」

「?」

カウンターにアキトが肘を突いていた。

「テンカワ!やっぱりてめぇか!」

額に青筋を立てながら詰め寄るリョーコ。

「そうだよリョーコちゃん」

「だからそれをやめろ!」

「どうして?」

「俺はそういう呼ばれ方はいやなんだよ!」

ホウメイは席を外しており、ホウメイガールズははらはらと見守っている。

「前はとっさのことだったし見逃してやったが今度はそうはいかねぇぞ!」

「…でも習慣で自然に出るんだよなぁ」

「あぁん!?」

アキトの襟元を掴み思いっきりガンをつけるリョーコ。もっともアキトはまったくこたえた様子が無い。

(まぁでも俺が直せばいいだけだしリョーコちゃんを怒らせることもないか)

そう考えなおすアキト。

「じゃ、なんて呼べばいいかな?」

「ちゃんづけ以外ならなんでもいいよ」

「じゃあ、リョーコさん?」

何かどっと気分が悪くなるリョーコ。

「…なぐるぞ」

「リョーコ君?」

「なんか背中がむずむずする」

本当に背中をかいてみせるリョーコ。

「じゃあ、リョーコ」

「…お前が言うとなんか妙だな」

「スバル?」

「耳触りが悪いな…お前わざと音程かえてないか?」

剣呑な目つきになるリョーコ。

「勘繰り過ぎだよ。単になれてないだけだ」

「本当にそうか?」

「あ、もう一つあった」

「おう言ってみろ」

鷹揚に頷くリョーコ。

「リョーコちゃん」

「おう、それが一番しっくりくるぜ………あ」

「じゃ、リョーコちゃんに決定と」

やっぱりなぁ、とうんうんうなずくアキト。

「おいテンカワ!」

「なんか飲む?それともちょっと早いけどメシにするかい?」

「そーじゃねぇだろ!」

「あ、俺鍋見てたんだったやばいじゃ、またねリョーコちゃん」

「テンカワーッ!!」

 

 

(…なーんて話はぜってぇこいつらにはできねぇな)

目を細めて相棒二人をみやるリョーコ。

「あ、なにその顔?」

「なにか隠してるね?」

「う、うるせぇっ何でもねぇよ!!」

「「りょーこちゃーん」」

「ぶっ殺す!!」

 

 

そんな喧噪は露知らずジャガイモをむき終わるとぽんと手を打つアキト。

「そうだ、暇ならちょうどいい」

「へ?」

きょとんとするユリカ。

 

 

 

 

 

 

<しばらく後、再び食堂>

 

「シクシクシクシク」

少しの間席を外していたホウメイは食堂に帰ってきたところで見慣れないものを見て立ち止まった。

「艦長?」

「…ホウメイさん…うるうるうるうるうる」

だーっと滝のような涙を流しているユリカ。知らず後ずさるホウメイ。

「ちょ、ちょいと艦長いったいどうしたってんだい?」

「アキトが、アキトが…」

「テンカワが?」

ごくりとつばを飲み込むホウメイ。

「私に玉ねぎを微塵切りにしろっていうんですぅぅぅぅっ!」

ホウメイはがくっと肩を落とした。

 

 

しばし時間はさかのぼる。

「時間がありあまっているならちょうどいい。お前とルリちゃんに料理を教えてやろう」

?」

「ルリちゃんはともかくとしてお前は本腰入れないと上達しないからな」

「え、え」

「ルリちゃんはどうする?」

「え………そうですね、お願いします」

少し考えてそう答えるルリ。

「ユリカ?」

二人の視線がユリカに向けられる。

「ううう、やります、やればいいんでしょ」

「よろしい」

 

 

トントントントン

「…なるほどねぇ」

しくしく泣きながらも作業を続けるユリカ。取り敢えず包丁の扱い方は悪くない。

「まぁなんにしても厨房で玉ねぎを刻む艦長ってのは史上初かも知れないねぇ」

「いいんです、平時は艦長の仕事なんて大してありませんから」

「そうかい?」

そんなことはない(きっぱり)。

いかにナデシコが民間船でも数百人の乗組員で構成される宇宙戦艦の艦長ともなれば日々さまざまな雑務がある。あるのだが…

コキコキ

肩を鳴らすジュン。

「艦長の補佐をするのが副長のつとめ、さぁあと30件がんばるぞ!」

雑務はもっぱらジュンが処理しているので実際問題としてユリカのいわゆる日常業務は少ないらしい。

一方、ルリの面倒を見ているアキト。

「そうそうフライパンで転がすようにね」

「はい」

真剣に練習中のルリ。フライパンの中では割ときれいな形にオムレツが焼きあがっている。

「いいのかいテンカワ?」

「なにがです?」

「なにがって…艦長に厳しいんじゃ」

背後ではユリカが別の料理を作っている。

ホウメイに言われてマントと艦長帽をとり、髪を首の後ろでしばってエプロンをつけているのでどうみても艦長には見えない。

(でもまあ案外家庭的なのかもしれないねぇ)

十分に主婦で通じる姿にそんな感想を覚えるホウメイ。

「俺にとっては死活問題っすから」

「はぁ?」

「料理を食べるほうの身としては、ってことっす」

?…あ、ああなるほど。テンカワも大変だねぇ」

言葉の意味を理解して苦笑するホウメイ。

(なんのかんのといって仲のいいことだねぇ)

「しかし、意外とあいつうまいんですよねぇ」

「艦長だって女だよ。意外ってのは失礼だろ」

「…前、一回夜食を食わされた時は死にかけましたよ」

味を思い出したのか青ざめた顔をするアキト。ホウメイもそれを見てあながち嘘でもないと感じる。

「ふーん、でもそうは見えないけどね」

「そうなんですよね」

二人の見守るユリカの手元の料理は、見かけやにおいからしてさほど問題がありそうな感じはしない。どちらかと言えばルリの方が気にかかる。まぁこちらは背が低くて力もないためやや料理道具の扱いが危なっかしいというところだが。

(ああ、そういえばルリちゃん用のエプロンって…)

制服姿のルリを見てエプロンの在庫があるかどうか心配したアキトだったが、なんとなくありそうな気がして背筋が寒くなる。

(ナデシコって戦艦だよなぁ…)

「まあそれはそれとして、ちょっとつきあいな」

「はい?」

「おーい、あんたたち!」

「「「「「はーい」」」」」

異口同音に答えるホウメイガールズ。相変わらず見事なチームワークだと感心するアキト。

「テンカワの代わりに艦長とルリ坊の面倒みておくれ」

「「「「「わかりましたーっ」」」」」

 

 

紅茶のカップを置くホウメイ。

「ホウメイさん?」

「まぁ飲みな」

「はぁ…いただきます」

しばし紅茶の香りを楽しむ二人。

「落ち着くだろう?ちょいと酒も垂らしといたからね」

「…そうっすね」

ややあってホウメイが口を開く。

「お前さん、ちょいと働きすぎだよ」

「そうですか?」

「あたいの目は節穴じゃないよ」

「………」

ぽりぽりと頭をかくアキト。

ホウメイの言っていることは間違ってはいない。

朝は早くから食堂で仕込みにかかり朝食が終われば昼の仕込みを始める。昼過ぎからしばらくは時間があくが、そういう時はなるべくユリカやルリの相手をしている。夕方から忙しくなり、食事時が終わり後片付けして翌日の準備をおえれば食堂の仕事は終わりだが、今度はトレーニングルームにこもって筋トレや射撃訓練に余念が無い。これらは五感が戻ったことに伴う感覚のずれを補正するのが当初の目的だったが、実戦から遠ざかることによる勘の衰えを防ぐのが現在の主な目的だ

「ま、たまには艦長やルリ坊のことを放っておいてのんびりすることも必要って事さ」

「………そうですね。俺ってちょっと心配性になってるのかな?」

「さぁね。ま、悪いことじゃないとは思うけどね」

「………」

 

 

 

<シミュレーションルーム>

 

 

『ま、確かに訓練は必要だな』

『あたしたちエステバリスじゃ3人同士でしか戦ったことないしね』

『くんれんしているうちに日がくんれん…ぷくくくく』

『よぉっしアキト!今日こそお前を倒してやる!』

『まぁお互いを知るにはいいことだと思うけどさ』

結局、赤、橙、緑、青、ピンクが毎晩乱舞することとなる。

 

 

 

 

 

<2197年1月11日>
<昼下がりナデシコ食堂>

 

ぱくっ

「………うまい?」

「そうですね」

黙々と食べるルリをよそにスプーンを咥えたまま固まっているアキト。

ちなみに料理の練習を開始して三日後のことである。

(おかしい…昨日のルリちゃんの料理がおいしかったのはまぁよしとして…なぜここまでうまい?三日でこれだけ上達された俺の立場は?)

ちなみにユリカは疲れたのか厨房の奥で椅子に座って居眠りしている。

「………」

「食べないんですかテンカワさん?」

 

 

<翌々日>

 

「………う゛っ!?」

バシッ!

「あっ!」

チャリーン

ズドドドドドドド!!

「どうしたんだいテンカワの奴?」

何事かと厨房から出てきたホウメイがルリに聞いた。

「わかりません。一口食べた途端いきなり私の手からスプーンを弾き飛ばして」

そう言いながら手をさするルリ。あまり手加減をする余裕がなかったのかルリの手が赤くなっている。

「テンカワの奴どうしたんだい?ものすごい勢いで走っていったけど」

食堂に入ってきたジュンが言った。

「どうも艦長の料理を食べた途端出ていったらしいんだけどね」

落ちたスプーンを拾いながらホウメイが言った。

「ユリカの料理?」

テーブルの上にはほとんど手付かずのカレーライスが二皿載っている。

「よかったら一口味見させてくれるかい?」

「…ええ、いいですよ」

少し考えた後ルリは答えた。

 

 

「…哀れな奴」

トイレから帰る途中、担架で運ばれていくジュンとすれ違ったアキトはつぶやいた。

 

 

 

<更に翌々日>

 

 

どんぶりとにらめっこしているアキト。

ルリは自分の分には手を付けずじっとアキトを見守っている。

ごくり。

アキトはつばを飲み込むと意を決して料理を口に運んだ。

ぱく。

「………」

「………」

もぐもぐ。

「………」

「…テンカワさん?」

ごくん。

「………うまい」

「………」

ほっと胸をなでおろすルリ。

スプーンを取ると自分も食べ始める。

「本当ですね。どちらかといえば前のチャーハンの方がおいしかったですけど」

「なんなんだあいつはいったい?」

「この次はまたすごい味かも知れませんよ」

「それは勘弁してほしいな」

例よって料理に全身全霊を注いだユリカは疲れて寝てい

 

 

一回目チャーハン…成功

二回目カレーライス…失敗

三回目親子丼…成功

 

 

「別に料理の難易度に特に差はないよなぁ」

「そうだね。割と似た分野の料理だし」

ホウメイと一緒に検討中のアキト。

ちなみにルリの方のメニューは、グラタン、スパゲッティ、クリームシチューとなっている。作ることそのものにはかなり苦労したようだが(料理とは結構な重労働なのである)味の方はいたって問題なかった。後はルリが自分なりの味付けを考えれば…

「味付け?」

振り返るとホウメイガールズ達に尋ねる。

「ねぇみんな俺がいなかった時ユリカに何の料理を教えたか覚えてる

言われて顔をよせあう5人。

「えーとなんだっけ?」

「火星丼じゃなかった?」

えーちがうわよ」

「日本の料理じゃなかった?」

「そうそうたしか親子丼でしたよアキトさん」

「やっぱり、か。うん、ありがとう」

 
 

「ユリカ、ユリカ」

「う、ううーん。あ、アキト、おはよう」

寝ぼけている様子だがとりあえず無視して質問するアキト。

「ユリカ、一昨日のカレーライスって誰かに作り方教わったか?」

「一昨日?ああ」

ぽんと手を打つユリカ。

「やだなぁアキト。いくら私でもカレーライスくらい誰かに教わらなくても作れるよ」

「………」

(そうだな、いくらお前でもカレーライスを作るだけならできるな。でも問題はその後なんだよ…)

 

 

「なるほど、こりゃテンカワのチャーハンの味とおんなじだね」

「やっぱりそうですか」

ユリカに作らせたチャーハンをホウメイと二人で食べている所である。

真相は次のような次第である。

ユリカの記憶力は過去に実証済みであるが、ユリカは一度のレクチャーで完璧にアキトやホウメイガールズの味付け方法を暗記した。包丁の使い方なども一度手本を見せてもらったものは完全にマスターしているだろう。要はそれをそのまま実行しただけである。だから味は同じというわけだ。

「まぁこれはこれでたいしたもんだけどね」

「それはそうっすけど」

一度見ただけでこれだけのものを作れるというのはたいしたものだ。

さて、それでは知らない料理はどうか?それはもう思い付くままに独創的に味付けをしたことは疑いようも無い。

(…まさか、カレールーの鍋にうさぎの形をしたりんごが入っているとは思わなかったが…)

証拠物件を検証した時のことを思い出す。中には異常な量のカレールーの固まりからうさぎりんご、房のままのぶどうやら豚の角煮やら…まぁかろうじて意図を想像できなくもない物が山ほど入っていた。

「しかし艦長には誰も料理を教えてくれる人はいなかったのかねぇ?」

「あいつの母親は早くに亡くなったそうです。高級軍人の家で金持ちですから家事は全部お手伝いさんがやってたんでしょうし、学校もたぶんお嬢様学校から直接士官学校に行って料理を習うこともなかったんじゃないですか?」

「ふーん。そういやお前さんは?」

「まぁ俺ガキの頃に両親が死にましたから」

「…そうかい」

「コックになりたかったのは本当ですから趣味と実益が合ったというところですよ」

「でも、今は戦うってわけだね」

「ええ、戦いを終わらせるまでは」

 

 

 

<2197年1月25日>
<ブリッジ>

 

「艦長、何読んでるんです?」

「図書館にあった料理の本」

利用するような人間がいなかったのでわからないが…調べたいことがあればオモイカネのデータベースを利用すればすむことである…しかしあれだけ設備の整ったナデシコである。わざわざ紙媒体の本を読みたがる乗組員の為に図書館も相当なものが用意されているはずである。

「アキトが食堂で練習する前にこれを全部読んどけって」

「全部ですか?」

10冊ほど積み上げられた本を見るルリ。

「まぁちょうどいい暇つぶしになるけどね、ふわぁぁぁ」

欠伸をしながらもかなり早いペースでページをめくっていくユリカ。

「はぁそうですか」

「あ、ルリちゃんも読む?ルリちゃんは本を読んでも食堂で練習するのでもどっちでもいいってアキトが言ってたよ」

「いいんですか私だけ」

「いいんじゃない?」

「…気になりませんか?」

「特に気にならないけど?」

「…そうですか?」

「そうだよ」

「そうですか?」

「そうだよ」

「そうですか」

「そうだよ」

プシュー

二人の背後のドアが開く。

ドタドタドタドタ。

足音高く大勢の人間がなだれ込む。

「「?」」

ジャキジャキジャキ

「「………」」

ずらりと並んだ銃口を目の当たりにすることになる二人。

「あ、そうか」

ぽつりと呟くユリカ。

 

 

 

<食堂>

 

「今日はみんな来るのが遅いね」

「そうっすね」

いつもより人の少ない食堂を見るホウメイとアキト。

時刻は正午ちょうど。

「ホウメイさーん出前の注文でーす」

「出前?」

「ええ、格納庫と機関室と…」

「なんかあったのかい?」

「なんでも反乱だそうですよ」

「反乱?」

をしかめるホウメイ。

「あ、そうか」

こちらもぽつりとつぶやくアキト。

 

 

 

 

 

 

 

「我々は断固ネルガルの非道に反対するー!!」

あちこちで演説やら垂れ幕やら抗議文やらが乱舞している。

いったいいつの間にそんなものを用意したのか…少なくとも通常業務が滞ったという話は聞かない。まぁ選挙運動だろうが何だろうが何をやらせても一流であることには間違いないようだ。

「いったいこれは何事だい?」

一人出遅れてブリッジで銃口に迎えられたジュンが言った。

「これ見ろ!」

セイヤの差し出す紙を覗き込むジュンとユリカ。

「契約書ですね」

「そうだね」

「その一番下!」

ユリカはしゃがんで契約書に目を近づけると声に出して朗読する。

「社員間の男女交際はこれを禁止しないが艦内の風紀維持のため手を繋ぐ以上の行為は禁止する」

「それがどうかしました?」

言わずもがなのことを言うジュン。

「どうかしたかじゃねぇだろ!それでも男かお前は!?」

 

 

「みんな盛り上がってるわねぇ」

久しぶりにブリッジにやって来たミナトは自分の席で楽しそうに言った。

「そうですね」

こちらも席に戻ったルリが答える。

何事も無いかのように周辺空域の座標データやら何やらをやりとりする二人。

「そろそろ火星だな」

自室で呟く人もいるが、要はそういうことである。

「とりあえず予定通りに進んでるわね」

「そうですね」

そういってウィンドウを閉じる二人。

「ミナトさんは反乱側じゃないんですか?」

背後から聞こえた声に振り返るミナトとルリ。

「テンカワさん?」

「あら、テンカワ君。いつ入ってきたの?」

「たった今ですよ」

見たところ誰も気づいた様子が無い。あいかわらず注意はユリカとジュンに向いている。

「そういうテンカワ君は?」

「とりあえず参加する気はないですよ。別にあんなに騒がなくても隠れて付き合えばすむことですし」

(しかしあいつ本気でボケてるのかそれとも芝居を打ってるんだか本当にわかんないよなぁ)

上部デッキの会話を聞きながら考えるアキト。

「そうよね〜」

「ま、とりあえずどうぞ」

出前と書かれた箱からチャーハンの皿を取り出すアキト。

「わ、さんきゅ。でもいいの?」

「ああ気にしないで下さい。ユリカの分ですから。あれじゃ当分食べられないでしょ。はいルリちゃんの分」

「どうも」

二人にチャーハンの皿を渡すとコップを取り出しお茶を注ぐアキト。とりあえず頭上の喧噪は無視する様だ。

 

 

 

「それが困るんです!」

論争が頂点に高まったところで現れるプロスペクター。

「出やがったな!」

一斉にプロスペクターに銃を向ける一同。だが、プロスペクターは涼しい顔である。

矛先が変わったところで人の輪を抜けて顔をだすユリカ。

「ルリちゃん…ととっ」

顔にかかる髪をかきあげながらルリに呼びかける。

「はい艦長、なんですか?」

こちらは垂直に90度顔を傾け真上を向いて答えるルリ。

「ディストーションフィールドの出力を最大にして」

「はい?…はぁ了解しました」

理由はわからないがとりあえず従うルリ。

「ミナトさん」

「なぁに?」

「自動航行システムをカットしてしばらく手動でお願いします」

「いーけど、どうかしたの?」

「転ばぬ先の杖ってところです。それじゃお願いします」

ユリカは顔をひっこめると論争の場に戻っていった。

「俺は…ま、いいか」

アキトはとりあえずエプロンをとると出前箱に引っかけて壁際に置く。

 

 

「でも契約書にサインされましたね」

「そんな細かいところまで読む奴がいるかよ!」

「あ、私読んだよ」

何気なく答えるユリカ。

「え?」

続いて下部デッキからルリの声が上がる。

「私も読みました」

「実は俺も」

ルリの隣でしゃがんだままひょいっと手を挙げるアキト。

………』

沈黙する一同。

「勝敗は決したようですな」

勝ち誇るプロスペクター。

「黙れ!これが目にはいらねぇか!」

なぜかスパナを構えるウリバタケと銃を構えるその他一同。

「これも目に入れて下さい」

ずいと契約書を押し出すプロスペクター。

緊張したままにらみ合いに入る双方。
 

 

ドォォォーン!

 

 

「うわっ!」

「なんだ!?」

突如、衝撃に震えるナデシコ。

「ルリちゃん!」

瞬時に真剣な表情に切り替わるユリカ。

即座にナデシコの現状から始まって周囲の位置関係、敵の規模などを表示するウィンドウたちがブリッジ正面に表示される。

「攻撃の規模がこれまでのものとは違います!迎撃が必要です!」

「総員戦闘配置!!」

ユリカが叫び、警報が高らかに鳴り響く。

だが、咄嗟に反応できない反乱組一同はその場に立ちつくしている。

「命令が聞こえませんでしたか!!」

なにやらぼそぼそと言っているがユリカに気圧されているのか誰も答えようとしない。

かろうじてガイが口を開く。

「だ、だがよ…かんちょ…」

パン

チュィィィーン

キン

カラカラカラ

「命令拒否は銃殺です」

そう言うとユリカはホルスターに銃を戻した。

ズザザザザ!

ユリカが抜撃ちでガイの銃を弾き飛ばしたと悟りあとずさる一同。

「みなさんのご不満はわかります。しかしっ!今は生き残ることが先決です!!…ご理解頂けますね?」

ユリカがにっこりと微笑み情勢は決した。

 

 

「敵艦隊なおも接近中」

「相対速度落とすわよ」

「じゃ、お先」

淡々と報告するルリとミナト。そして一足先に格納庫に向かうアキト。

「しゃーねぇいくぞ!!」

リョーコが言うと銃を放り出し、持ち場に急ぐ一同。こうなれば行動は早い。

ドアが開くと一斉に駆け出していく。

「…お見事です」

契約書を懐にしまうとプロスペクターが言った。

「これが艦長の仕事ですから」

ユリカが言うとプロスペクターは笑みを浮かべた。
 

 

 

<重力カタパルト>

 

『畜生!この怒りは蜥蜴共にぶつけてやるぜ!!』

気合い十分のガイ。

『おぉこうなりゃ鬱憤晴らしだ!行くぜぇ!!』

血の気十分のリョーコ。

『行け行け!!』

二人をあおるヒカル。

『カエル飛び込む水の音…そりゃ古池…ふるいけ…いけいけ…ぷっくくくく』

あいかわらずなイズミ。

『なんだかなぁ』

最近やや心配性のケがあるアキト。

「よっしゃぁてめぇら行って来い!!」

メガホンで叫ぶウリバタケの指示の下、エステバリスが順番に重力カタパルトで射出されていく。

 

 

 

「エステバリス隊全機発進完了しました」

「速度固定。エンジン異常無し」

「ディストーションフィールド出力安定。接敵まであと110秒です」

報告が続くが、相変わらずブリッジは落ち着いている。 

「さてどうなりますかな艦長」

眼鏡を拭きながらプロスペクターが言った。

ユリカは視線だけプロスペクターに向けた。

「…まだ、大丈夫です」

「まだ、ですか?」

「ええ、まだ…」

ユリカは視線を正面に戻すとそう言った。

 

 

  

つづく
 


艦長からの謝辞

はい、艦長です。
神崎悠さんから第四話が届きました。

うーむ、なんかドタバタの中でもほのぼのしてていいですなぁ
しかし・・・このままアキトがユリカとくっついたら面白くないなぁ
などと不遜な考えを持つのは私だけでしょうか?(笑)

さて、このたび神崎さんの乗艦
その名も「超時空洗脳戦艦トリスメギストス」です
ちょっとやばそうな戦艦ですな(笑)
これからこの艦が賑わうでしょう。
いやほんと。


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