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人は言います、

『出会いは別れの始まり』だと。

でも、私はあの人ともう一度出会うことが出来ました。

だから私はこう思います、

『別れは出会いの始まり』だと。

だから信じています

もう一度あの人と、あの人達と出会うことが出来ると。

 

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ 五つの花びらと共に

 

 

 

 

先行する3機のエステバリス。それにやや遅れて2機のエステバリスが続く。

前方には雲霞の如く現れるジョロとバッタの群れ。

「なめんなよ」

まったく気負った風もなく言うリョーコ。

「たぁぁーっ!!」

気合い一閃、小集団に飛び込むと、ディストーションフィールドを纏った拳がジョロを粉々に吹き飛ばす。そのまま残りのバッタを引きつけるように飛ぶリョーコ機。

「ヒカル!」

「はいはーい!!」

リョーコを追うのに夢中になりほどよく固まったバッタの群れに飛び込むヒカル機。

次の瞬間、虚空に盛大に華が咲いた。

「ほーらお花畑ぇ」

「あっはははははは」

要はリョーコが囮になって誘導した虫達をヒカルが一掃したわけである。

「ははははは………ふざけていると棺桶行きだよ」

乾いた笑いにリョーコとヒカルがジト目になった途端低い声で呟くイズミ。

「なんだよいきなり?」

「ほーんとはーどぼいるどぶりっこなんだからぁ」

こちらはぶりっこなのか地なのかわからない口調で言うヒカル。

雑談しながらも固まった3機はディストーションフィールドの出力に物を言わせて次々に体当たりでバッタやジョロを叩き落としていく。

「甲板一枚下は真空の地獄。心を持たぬ機械の虫共を屠るとき我が心は興奮に向かう…なぜか?」

無感情に淡々と呟きながらきりもみ回転を加えて飛ぶイズミ機。

「さめたもの………悪いわね、性分なの」

「ああ、変な奴変な奴変な奴―っ!」

所詮この程度の長さのつきあいではまだまだ理解しきれないと悟るリョーコ。

(とにもかくにもあいつは変だ)

などと思っている間に前衛の虫達をあらかた撃破し終えるリョーコ達。

「本当に変な奴だな…おっと!そう簡単に俺様の後ろは取らせないぜ!」

背後に回り込んできたジョロをパンチで撃墜するガイ機。そのまま右腕を引き絞ると叫ぶ。

「ガァァイスーパーアッパァァァァッ!!」

ドドドドドドドド!!

アッパーと言うより実際はリョーコ達同様フィールドで体当たりしているわけだが…あえて言うまい。本人が満足しているのだからいいのだろう。

とにもかくにもガイが咲かせた数十の花を眺めながらため息をつくアキト。

(イズミもガイにだけは言われたくないと思ってるだろうな)

「テンカワ行ったぞ!!」

リョーコの声に我に返るアキト。

「へ?しまっ…」

うっかりしている間に数機のジョロに取り囲まれるアキト機。

ババババババババババ!!

アキトが逃げるまもなく、その背中から一斉にミサイルが放たれた。

「アキト!!」

叫ぶガイの目の前でアキト機が爆発に消える…消えたはずだった。

「なにぃ!?」

バシュゥッ

爆発のガス雲の中からアキト機が飛び出す。

「テンカワ!?」

叫ぶリョーコの正面に背中から飛び出したアキト機は直後に急制止するとその場でくるくる前後左右に高速で回転しながらライフルを乱射した。と、一斉に虫達が爆発する。

アキトを包囲するように虫達は集結していたので綺麗に球状にガス雲が巻き起こる。

「たーまーやー」

イズミにしてはありふれたボケをつぶやく。

「はぁ〜今のはさすがに焦った」

ほっと一息つくアキト。

「…テンカワ君」

「なにヒカルちゃん?」

「今の…かわしたの?」

「へ?…あ、ええと、まぁ…」

唖然となる一同。

タイミングといい位置といいどう考えてもかわせるとは思えない。

それに爆発から飛び出した後の機動も常軌を逸している。あんなに高速でさらにあんなめちゃくちゃな回転をすればパイロットにかかるGはいかほどのものか。

(いやぁ実際いまのはやばかった)

アキトもそう思わないでもなかった。

 

数秒前。

「ちょっ!?」

一斉に放たれたミサイルが360度全周からアキト機を襲う。

「!!」

一瞬頭が真っ白になったかと思うとすっと心が静かになった。同時にアサルトビット内の温度すら下がったような錯覚を覚える。にじむ汗は霧と消え、左腕はわずかな動きで的確な動作を行い、右腕は微動だにしない。

「………ふっ」

アキトは薄い笑みを浮かべた。

 

 

「敵だよ!」

イズミの声で我に返ると散開する一同。突っ込んできたバッタの群れをかわしつつリョーコの指示する態勢にフォーメーションを組み直す。

「ヒカル、ヤマダ!!」

ライフルを撃ちながら指示を出すリョーコ。丁度三角形を作るような位置にいるイズミとアキトもライフルを撃ち、虫達を一個所に追い込む。

「いっきまーす!」

「俺はダイゴウジガイだーっ!!」

それぞれ反対方向から突っ込んだヒカルとガイのエステは虫達の間をすれちがいながら突き抜ける。

一瞬遅れて虫達が爆発した。

 

「テンカワ、下がった方がいいんじゃないの?」

「…ばれた?」

「雨が止む。そら、晴れた。ぷ、くくく…」

「………」

相変わらずの寒いギャグにあきれながらも舌を巻くアキト。

(なかなかどうして…)

イズミはアキトのエステバリスのダメージに気づいている。他の面々はまだ驚きから立ち直っていないため気づいていないようだが。

先刻の状況は普通に回避行動をとったのではアキトでもかわせる場面ではなかった。では、どうしたか?なんのことはない、普通じゃない回避を行っただけである。エステバリスの各部のスラスターのリミッターを解除して急噴射、急制動をくりかえし数cm単位でエステバリスを動かした。そんな無茶な機動を行う傍ら落とせるミサイルはすべてライフルで撃ち落とし、ミサイルの雨をかいくぐったのである。その後の攻撃は…まぁたぶん無茶な機動を行ったのでブラックサレナに乗ってた頃の癖が戻ったのだろう。

もっともアキトの体はともかくエステバリスの方はたまったものではない。もとより人型の兵器はそうでないものに比べて強度では劣るのが常だが…

(うわ〜アサルトビットの中までギシギシいってるよ。これじゃさすがにセイヤさんにばれちまうな。リミッター解除も勝手に仕込んでるし怒られるだろうなあ)

どっちにしてももう一度同じことをしたらエステが空中分解…この場合は宇宙分解か?…することになるのは疑いない。

「テンカワ、お前訓練の時は…」

「危ない!」

追求しようとしたリョーコの声をヒカルが遮る。

散開した直後、一同のいた場所を大口径のグラビティブラストが突き抜けた。

「お、親玉がきやがったぜ」

何隻もの駆逐艦を従えて、グラビティブラストを連射しながら戦艦が進んでくる。

 

 

 

「着弾確認。ディストーションフィールド負荷率30%。問題ありません」

景気よく揺れるナデシコ。ブリッジとて例外ではない。

それでも重力制御は滞り無く行われ、また目前から迫るレーザーやビーム、グラビティブラストに動じる者もいない。

「艦長…」

フクベが口を開く。

「いえ、提督。まだその時ではありません」

前を向いたまま答えるユリカ。

「………ふむ」

フクベは開いた口を閉じた。

 

 

一方、一目散に戦艦に突っ込んでいく三人娘のエステバリス。

「いくぜぇ!」

「大物、大物…」

「おっきな花火ぃ!」

そこへルリの報告が入る。

『敵戦艦フィールド増大』

「なにぃ!?」

思わず速度を落とした3機はあえなく敵戦艦のフィールドにはじき返される。

「ち、奴らもフィールドか!」

「死神が見えてきたね」

「「見えん!見えん!!」」

イズミに突っ込む二人のエステの背後に光点が現れると、慌ててよけた二人の間を突き抜けた。

「「うわっ!!」」

「どぅおりゃぁぁぁぁぁぁ!!」

叫びのままに突き進むガイのエステバリス。そのままぐんぐんフィールドに食い込んでいく。だが、

「くっそぉぉぉぉぉぉ!!」

装甲までもう少しと言うところで届かない。

わずかに気を抜いたところで景気よく跳ね戻される。

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

ガシツ

「おっと」

慌てて姿勢制御するガイ機を受け止めるアキト機。通常速度でちょうど到着したところである。

「くそっ敵もフィールドかよ!」

「あぶねぇだろこのタコ!!」

「うわっ!」

いきなり現れたリョーコのウィンドウに怒鳴られて驚くガイ。

「格好いいけど間抜けな特攻だったねぇ」

「るせぇっ」

「死に水は取ってあげるわ」

「お、おぅ…じゃねぇ!!」

「イズミィ!!」

「それよりどうするのこのままじゃぁ」

「「「うーん」」」

考え込む一同。

敵戦艦の方はエステバリスを無視してナデシコへ向かうようだ。

「ねぇテンカワくんはどう思う?」

先刻から会話に加わっていないアキトを呼び出すヒカル。

都合、ガイの頭上に現れるアキトのウィンドウ。

「ふぅ、さすがにノーマルエステじゃ難しいか、仕方ないな…ガイ」

「なんだアキト?」

「熱血の出番だ」

「なにぃ!?」

途端に狂喜するガイ。

「おい、何の話だよ!?」

「ガイ、耳を貸せ」

「おう耳でも目でも好きなだけ貸してやるぞ!」

小さくなったアキトのウィンドウがガイの耳元に寄る。ガイはガイで耳をそちらに向ける。そのまま何やらひそひそ話している男二人。

「なに話してんだあいつら?」

「さぁ」

「蜂蜜の詰まった弾丸…みつだん…密談。ぷくくくくくく」

「…はいはい」

「おっしゃぁまかせろ!!」

「「「わっ!」」」

突然叫んだガイから慌てて飛び退く三人娘のウィンドウ。

間髪入れず飛び出したアキトとガイのエステバリスはそのまま戦艦への突入コースを取る。

「おいお前ら!!」

「ほんとに特攻する気!?」

『大丈夫です!』

いきなりドアップで現れるユリカのウィンドウ。

「「うわっ!」」

『アキト、ファイト!』

 

加速をつけながら前後に並ぶアキトとガイのエステバリス。

戦艦が目前に迫るとアキトのエステはイミディエットナイフを装備しさらに加速する。

「でいやぁぁぁぁーっ!!」

ナイフの先端に集中したディストーションフィールドが敵艦のフィールドを破り外壁を切り裂く。だがそこで再びフィールドにはじき飛ばされるアキト機。アキトは無理矢理機体のコースを変えながら叫ぶ。

「いっけぇガイ!!」

叫びに答えるかのように入れ替わりに突っ込んでいくガイ機。それはたった今アキトが突っ込み、かつはじき飛ばされたルートと寸分違わない。

「おうさ!ゲキガァンシュートォォォォォォーッ!!!」

ディストーションフィールドをまとった拳がアキトのつけた亀裂に突き刺さる。

直後盛大に火柱が上がり敵戦艦は火だるまと化した。

 

 

 

 

 

第6話『別れは出会いの始まり?』

 

 

 

 

 

「前方の敵80%消滅。降下軌道取れます。…どうぞ」

算出したルートを載せたウィンドウを指で弾くルリ。早すぎないスピードで移動したウィンドウはミナトの目の前で停止する。

「サンキュ、ルリルリ」

ウィンクするミナト。

「へ?」

唖然となるルリを視界の端にとらえて微笑むユリカ。

(そうそう、この時が初めてだったのよね。ルリルリかぁ。あたしだったらユリユリとか…うーん、ちょっと変かな)

「さぁみんな用意はいい?ちょっとサウナになるわよ」

(そういえばここんとこ暇だったから少しお肉が…サウナにでも)

「その前にエステの回収だ」

「とっくにやってるわ」

(そういえばナデシコにエステサロン…って違うぅぅ!!)

「その前にグラビティブラスト発射準備!!」

慌てて命令を発するユリカ。

「え?」

「了解」

「突入方向の地上敵部隊並びに現状の残敵を掃討します。その後、敵の増援が来る前に大気圏に突入します」

「おっけー」

「グラビティブラスト発射します」

直前の作業を一時止めて命令を実行するミナトとルリ。ゴートは格納庫に連絡をしている。

「ああそうだ。まだパイロットは待機だ。再出撃もありうる」

「なるほどどうせ撃つなら相転移エンジンの効率のいい宇宙空間から、というわけですな。いや結構です。実に経済的です」

「さすがユリカだね」

「へ?あ、あははははははは」

直前まで何を考えていたかはとても言えないユリカであった。

 

 

 

 

「これより地上班を編制し、揚陸挺ヒナギクで地上に降りる」

ブリーフィングはフクベのその一言で始まった。場所は簡単に会議場と化すブリッジの下部前面デッキである。

「しかしどこに向かいますか?軌道上から見る限り生き残っているコロニーはなさそうですが」

一般的な意見を述べるジュン。これはこれで大事な役目なのだが、気付いている人間は少なく何より本人が気付いていないのが哀れである。

「まずはオリンポス山の研究施設に向かいましょう」

地図と研究施設の映像を出すプロスペクター。

「ネルガルの?…抜け目ねぇな」

呟くリョーコ。

「我が社の研究施設は一種のシェルターになっておりまして。一番生存確率が高いものですから、はい」

軽く口を濁すプロスペクター。

「では地上班メンバーを…」

「あれテンカワ君は?」

「さっきから見てないよ」

「どうせまたコックでもやってんじゃねぇか?」

ぼそぼそと話す三人娘。

そこへ声が割って入った。

「…すまない」

「どわぁっ!誰だお前!?」

慌てて飛び退くリョーコ。

「あれ?アキト君?」

きょとんとして目をしばたかせるヒカル。

「あらま」

ぽっかり口を開けるイズミ。

黒装束に身を包んだアキトが立っていた。

 

「な、なんだその黒づくめはよぉ!?」

少し腰が引けているリョーコ。

「わーかっこぃぃ!顔までバイザーで覆っちゃってぇ」

対照的にくるくるまわりを回っているヒカル。

アキトは微動だにしないので何を考えているのかわからない。

「あぁそういえば皆さんはごらんになるのは初めてでしたね」

そう言うプロスペクターに向けて口を開くアキト。

「…話をしてもいいか?」

「はいどうぞどうぞ」

「おいおいなんだか雰囲気まで変わってねぇか?」

「ほんと口調もなんだかハードボイルドっていうかクールっていうか」

外野を無視して淡々と話し始めるアキト。

「…ユートピアコロニーに行きたい。エステバリスを貸してもらえないか」

「ユートピアコロニーってあのチューリップが落ちたって言う?」

「なんでそんなところにいきてえんだアキト」

リョーコとヒカルにアキトは答えない。

「………」

代わりにユリカが口を開いた。

「…アキトと私の生まれ故郷なんです」

『え?』

一斉にユリカの方を向く一同。

 

 

「あそこにはもう何もありませんよ。チューリップの勢力範囲です。ですが…」

ちらりアキトの方を見て目を細めるプロスペクター。

「………」

「いいだろう。行ってきたまえ」

「提督!?」

「ゴート君。お飾りとは言え私には戦闘指揮権が与えられているはずだな」

「は、しかし…」

「誰にでも故郷を見る権利はある。特に若い者にはな」

「………」

アキトは無言で一礼した。

「では、残りのメンバーのうち、スバル、アマノ、マキはヒナギクで研究所へ。ヤマダはナデシコの護衛として残ってもらう」

「だからぁダイゴウジガイだ!」

「…ナデシコを頼むぞ、ガイ」

低い声で言うアキト。

「…お、おう」

アキトはガイの返事を聞くと無言で部屋を出ていった。

「まるで別人だな、ありゃ」

「ほんと」

 

 

 

てきぱきと指示を出しているユリカに向けてルリが聞いた。

「艦長」

「え?なにルリちゃん?」

「艦長は一緒に行かなくてよかったんですか?」

ミナトへの指示を終えるとユリカはルリに向き直る。

「どうして?」

「だって生まれ故郷なんでしょう?艦長も…」

ユリカは微笑んだ。

「艦長?」

「そうね。でもいいの」

「………」

「過去(まえ)よりも現在(いま)を見ていたいから」

 

 

 

 

「さて…この辺りだったかな」

適当な地面を蹴ってまわるアキト。

しばらくすると地面が陥没した。

地面を形成していた土砂と一緒に落下しながらも、最小限の動きで奇麗に着地すると何事も無かったように身体を起こすアキト。その背後から声が掛けられる。

「ようこそ火星へ」

無論、その気配には最初から気づいていたが殺気はなかったのでほうっておいた。何よりその気配には覚えがある。

「歓迎すべきかせざるべきか、なにはともあれコーヒーくらいはごちそうしよう」

ふりかえるとローブとフードに身を包んだ女性が立っていた。目元もグラスで覆われているため声からかろうじて女性と判断できる程度だ。だが、アキトはそれが誰なのか知っていた。

「それにしてもすごい格好ね。全身黒づくめなんて」

人のことは言えないな」

「こんなところで生きていくにはこれしかなくてね」

そう言うと女性はフードとグラスを取り、アキトの予想通りの金髪の美女が現れた。

ふっ、あんたは服に気を使う様な奴じゃないだろう、イネス・フレサンジュ?」

にやりと口の端を歪めるアキト。イネスを驚かせられる機会などそうはない。実は昨日からずっと楽しみにしていたアキトであった。

だが予想に反しイネスは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

「その台詞はそっくりお返しするわ、テンカワ・アキト君」

「!?」

アキトは心底驚愕した。

 

 

「イ、イネスさん!?」

一瞬の硬直から立ち直るとそう問い掛けるアキト。

「ぷっ、あっはっはっは!」

堪えきれないと言わんばかりに笑い声をあげるイネス。

「もしもし?」

「そ、その格好で昔のアキト君みたいな、間抜け面をすると、ギャップがす、すごいわね」

腹を抱えるイネスを見て頭をぽりぽりと掻くアキト。

目元に涙をにじませたイネスは3分間ほど笑い転げると気が済んだのかいつもの調子を取り戻す。

「さて、と。まぁとりあえずナデシコが来るまでコーヒーを飲む時間くらいはあるでしょ。そうそうユリカさんは元気?もちろん私たちがよりよく知っているユリカさんの方よ」

「…あいつから元気をとったら何にも残らないでしょう」

「あら、ひどい言い草ね」

「ひどいのはあんただ。よくもまぁユリカに…」

「あら、アキト君を連れ戻す会の一員として当然のことでしょう」

「やれやれ」

疲れた声を出すアキト。自分の周りにはなぜこの手の女性が多いのか。

(…単にナデシコのメインスタッフにおける女性の割合が多いだけか…)

男女格差のない社会をたたえながらもそれとこれとは別だなと感じるアキト。

「でも、そのバイザーを見る限りナノマシーンの除去には失敗したようね。ラピスちゃんもいないのにどうやって感覚を補助しているの?」

「ラピス!?」

その名前を聞いたアキトの脳裏に稲妻が走る。

「そうラピスラズリ」

「なんてこった!」

頭を抱えて叫ぶアキト。

「ちょっとどうしたの?」

「何か大事なことをずっと忘れている気がしてたんだ!そうだラピスだよ!」

「ちょっと落ち着きなさいなアキト君」

今にも地球に飛んでいきそうなアキトを見ながら懐に手を伸ばすイネス。

「畜生!俺はなんて馬鹿なんだ!はやくラピスを連れ出さないと!」

「…落ち着きなさいといってるでしょ」

イネスは右手に持った物体を軽く振るった。

ピコ

ガォォォン!

「ぐえぇっ!」

突如襲った衝撃と激痛に頭を抱えてしゃがみこむアキト。

「落ち着いた?」

「な、なんなんだそれは!?」

ぐらぐらする感覚に耐えながらなんとか立ち上がるアキト。

「知らないの?ピコピコハンマーよ」

見たところ中身が空洞の樹脂製らしいハンマーを振るイネス。柄の部分は赤色でハンマーの部分は黄色だ。

「音がピコピコ言うからピコピコハンマーわかりやすいでしょ?」

そういいながら自分の左手の手のひらをハンマーで叩くイネス。確かにピコピコと小気味いい音がしている。

「み、見かけと音からは想像不可能なくらい痛かったぞ」

(下手すりゃ死人が出るんじゃないか)

アキトは無意識に間合いを計りすり足で距離をとる。

「理由を知りたい?」

うっすらと妖艶な笑みを浮かべるイネス。

「い、いや遠慮しとく」

「あら残念ね。ま、いいわ。話を戻すけど、そんなに慌てなくてもラピスちゃんは逃げやしないわ。まぁ研究所から連れ出すのには賛成だけどちゃんと段取りを踏みなさい」

そういいながらハンマーをマントの下の白衣の中に戻すイネス。

(あの白衣はいったいどうなってるんだ?)

白衣の中にマイクロサイズのチューリップが入っている光景を想像して毒気を抜かれるアキト。とにもかくにもアキトは冷静に戻る。

「…ふぅ。そうだな。まずは地球に戻ってからか…」

「じゃ、話を戻すわよ。ナノマシンの影響は?」

嫌そうな顔をするアキト。

「イネスさんの無茶な治療法をユリカが素直に実行したおかげで五体満足ですよ」

イネスは一瞬だけ安堵の表情を浮かべると悪戯っぽく笑った。

「さすがは私ね。お代はラーメンセットで手を打ちましょう。もう何年も食べてないものね」

「はいはい。…そろそろこちらが質問していいか?」

気を引き締めるアキト。

「急に口調を変えないでよ」

「この格好はある種の暗示効果を兼ねている」

「なるほど、で」

「なぜ“イネス・フレサンジュ博士”じゃなく、“あんた”がここにいる?」

「知りたい?」

「ああ」

そこでしまったと悟るアキト。だが時既に遅し。

喜色満面でイネスが言った。

「…説明しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず事の発端はアキト君とユリカさんのボソンジャンプ。ボース粒子の反応からしてアキト君とユリカさんがジャンプしたのは確認できた。が、いつまでたっても二人は現れない。ボース粒子の反応をたどって発見したブラックサレナも無人のまま。さて、二人はどこへ行ったのか?

 ジャンプに成功したらアキト君はどうあれユリカさんからは連絡が来るようになっていた。実のところ念のためユリカさんの身体に発信機をつけておいたんだけど反応はなし。まぁ逆に発信機からユリカさんが死んだという信号も来ないから一概にユリカさんが死んだとも考えれない。ということはジャンプになんらかの問題が発生したと考えられる。

 これまでのデータからジャンプに問題が生じた場合、過去にジャンプしてしまう可能性が高い。まぁ本来、相対的な未来へのジャンプは不可能と考えられるから当然の結果でしょうけどね。それでは、いったいいつに跳んだのか?アキト君の心理状態を推測するとそれはナデシコAに彼がいた時間がもっとも可能性が高いと判断される。

 しかし、過去にアキト君が現れたという事実はない。そもそも現在の記憶を持つアキト君とユリカさんが過去に跳び、かつ現在に戻れないと判断した場合、歴史に介入しないはずはない。少なくとも二人の基準でよりよい歴史にするべく行動するだろう。すなわち二人が現れた時点で歴史は変わっているはず。しかし、そもそも我々の歴史があった結果として歴史を変えようと試みるのであるからここにパラドックスが生じる。

 では、何が起こったのか?答えは簡単、二人はパラレルワールドに跳んだ。遺跡には時間と空間の区別がない。いみじくもこれが全てを解き明かす。遺跡はボソンジャンプの演算機であると同時にパラレルワールドを行き来する機械となりうる。もっとも制御はできないでしょうから勝手に飛び回ることもできないでしょうけどね。

 さて、問題のパラレルワールドについてだけど、20世紀末に有馬広大が唱えた…」

「ああ、その辺はとばしてくれ」

アキトの言葉に恨めしそうな顔をするイネス。

「…まぁいいでしょう。以上の推測から二人がパラレルワールドに跳んだと仮定した。二人は戻っては来れない。そこで私の出番」

「…俺達を追ってジャンプか?」

「そう。ミスしたジャンプの軌跡を追いかけることは不可能だけど、遺跡とユリカさんがリンクしている以上、ユリカさんを目標としてジャンプすればどうなるか」

「…無茶なことを」

「二人の場合と違って徹底的に装備を整えて私はジャンプした。最悪、帰れなくなることも覚悟の上でね。ま、私の場合あっちにそんなに心残りはなかったからいいんだけど」

「それで?」

「でも、自分が瓦礫と土砂の中に消えていくのを見るのはあんまり気持ちいいものじゃなかったわね」

「あんたの場合はそうなったか…やはり死体は発見できなかったのか?」

「さすがに私一人じゃ掘り返せないわよ。まぁそろそろ土に帰っているんじゃなくて?」

「ある種の是正効果ということか、俺といいユリカといい」

「するとこの世界の二人も消えているのね?」

「ああ、俺は地球でバッタに、ユリカは…あいつは少し違うな。あっちのユリカの身体は遺跡に融合して精神だけがこっちのユリカに乗り移ったらしい」

「へぇ、精神の融合はどうなったのか興味があるわね」

「とりあえず、当初の目的に戻ろう。ひとまずナデシコへ」

「そうね」

「ま、正直あんたの方が来てくれたのは助かる。エステバリスの性能がいまひとつだ」

「ぜいたくねぇ。ま、いいわ。技術資料は持ってきてるし無くても頭の中には入っているわ」

「ふっ、さすがだ」

「そうそう、忘れないうちに」

イネスは懐から一枚のディスクを取り出すとアキトに差し出した。

「?」

「ホシノ・ルリからお手紙よ」

「!?」

 

 

 

 

 

「つまり、とっとと帰れと、そういうことかな?」

イネスの話を聞いたフクベが険しい表情で言った。

「正確にはこの船に乗る気がないということかしら?まぁもっともね、無事に地球に帰れる見込みはないんだから」

「ちょっと待てぇ!いっちゃあなんだが俺達は連戦連勝だぜ!!」

「…相手も本気じゃなかったからな」

「なにぃ!?てめぇアキ……」

黒装束のアキトがバイザー越しに向けた視線に沈黙するガイ。

「そうですね。そろそろ敵もこの船のデータ収集を終えてそれに見合った戦力を用意してくるだろうし…」

ぼそりと呟くユリカ。

「「「「艦長!?」」」」

「それってぇ、さっきからあっちこっち行ったり来たりしているのと関係があるわけ?」

先ほどからまったく休憩がとれないミナトが聞いた。

「一個所に留まっていては敵が戦力を集結させてしまう、そういうことかいユリカ?」

ジュンにうなずくユリカ。

「そういうこと」

「少なくとも艦長さんとテンカワ君とかいったかしら?そのパイロットは正確に状況を把握しているようね」

「…俺はコックだ」

「あらごめんなさい」

くすくすと笑うイネス。

「だがドクター、我々はいまだ敗北したことはない」

「やれやれ、いい?ナデシコの基本設計をし地球に送ったのはこの私。だから、私にはわかる、この船では木星蜥蜴には勝てない」

一呼吸おくと険しい目になるイネス。

「…いいこと?あなたたちは木星蜥蜴について何を知っているの?あれだけ高度な無人兵器がどうして作られたか?目的は?火星を占拠した理由は?」

「俺達を信じてくれないのかよ!?」

叫ぶガイの方に向き直るイネス。

「君の心を解説してあげようか?ロボットに乗って少しばかり戦いに勝った。彼女も出来た。俺は何でもできる。俺はヒーローだ」

「ぐっ」

後ずさるガイの隣でメグミがふと気付いたように言った。

「…もしかして説明が好きなんですか?」

自明のことなのでそれには答えないイネス。

「若いってだけでなんでもできると思ったら大間違いよ。誰でも英雄になれるわけじゃ…」

「…ドクター。その辺にしておけ」

アキトの言葉に肩をすくめるイネス。

「はいはい。…それはそれとして誤解がないように言っておくけど、私は乗らないとは言っていないわよ、この船に」

「「「「「え?」」」」」

「あら、悪い?私はまだネルガルの社員だし、迎えに来てくれたんでしょ、プロスペクターさん?」

「それはそのとおりですが…しかしそれでは先ほどの説明と矛盾が生じませんか?」

「さてどうかしらね。それでこれからどうするの?このまま火星を脱出?」

「…ユリカ?」

「へ?」

急に視線を向けられ慌てるユリカ。

「え、えーと…あははは」

(…何も考えてなかったわね)

(…俺はいつかこいつの思考回路を完全に理解できる日が来るのだろうか)

「敵艦隊補足!」

ルリの報告にブリッジに緊張が走る。

「位置と規模を!」

途端にユリカの顔つきが変わる。

「出ました」

ナデシコの進路方向から半包囲態勢を敷くような形で数個艦隊が接近しつつある。

「小型戦艦多数、大型戦艦は現在確認されているだけでも10隻を越えます。尚も増大中」

「後退だ!」

「駄目です!」

ゴートの指示をすぐさま却下するユリカ。それに合わせてルリが報告を入れる。

「後方にチューリップを確認しています。今のところ敵はいないようですが」

「敵から離れるべく後退したところでチューリップから本隊が出現。一挙に包囲殲滅。悪くない作戦ね」

「感心している場合ではないドクター!」

「前門の虎、後門の狼というところですか。どうします艦長?」

落ち着いて尋ねるプロスペクター。

「だが、今のところ後方のチューリップは活動していない。やはり後方に下がるべきだ」

「そうだよユリカ。でなければ一時大気圏外に待避するか」

「火星上を行ったり来たりしている間は敵も戦力を分散せざるを得なかったけど、こちらが宇宙に出れば敵も晴れて全軍を投入できる。なにせ、我々には火星か地球か、どちらかへ向かうしか道はないものね」

既にナデシコのコミュニケーターを用意したらしく簡易図を出して説明するイネス。

「ならばここは一度地球に戻るか?」

「そうですな、完全とは言えませんが目的の幾割かは達成しまし…」

ゴートとプロスペクターの会話を遮るユリカ。

「いいえ、もう手遅れです」

「なに?」

「そうみたいです。上空より艦隊が降下中。大型戦艦多数確認」

「艦長!?」

フクベが緊張を隠せない声を上げる。

「後方チューリップ活動開始を確認。敵艦が続々と出現中」

スクリーン上のチューリップから次々に戦艦が現れそこからバッタが発進してくる。

「なによあれ?なんであんなに入っているの?」

さすがにここまで大軍を見たことのない一同。

「入ってるんじゃない、出てくるのよ。途切れることなく。あのたくさんの戦艦は…きっとどこか別の場所から送り込まれてくるの。だからチューリップを破壊しない限りいくら落としても落としても次から次に敵が現れる」

イネスの説明を聞いていたユリカがきっと顔を上げる。

「ディストーションフィールド展開!グラビティブラストスタンバイ!エステバリス隊発進準備!」

「了解。フィールド展開。グラビティブラストエネルギーチャージ開始します」

ルリの復唱に続いてブリッジを駆け出していくパイロット達。

「しゃーねぇいくぞ」

「はーい」

「息をするところ、それは肺、ぷくくく」

「おう!」

黒装束のままユリカを見上げるアキト。

「………」

「………」

二人の視線が絡み合ったところでアキトが言った。

「…行ってくる」

「うん、行ってらっしゃい」

目を細めてそれを見送るイネス。

(…それにしてもやっぱりブリッジから格納庫への直通シュートとか欲しいわね)

でも考えているのはそんなことだったりする。

「ミナトさん!」

「なに艦長?こうなりゃなんでもこいよ!」

「右舷九時方向に回頭して下さい。包囲網が完成する前に突き抜けます。全速力でかっ飛ばしちゃって下さい!」

「りょーかいっ!」

ミナトが手を走らせるとすぐにナデシコが動き出す。

「だが艦長、包囲網が完成しつつある現在では側面をつかれる」

「そうだよユリカ。仮に突破できても相当な被害を受けることになるよ?」

「構いません。その程度の被害ですめば御の字です」

「はぁ。背に腹は変えられませんか」

肩を落とすプロスペクター。

「でも、おそらくナデシコは二度と宇宙には上がれなくなるわね」

そう言いながらユリカを見つめるイネス。

(…でも、前回よりもはるかに状況は悪いわね。前回の轍を踏まないための努力が招いた結果がこれだから皮肉なものね。艦長の戦術はおそらく現状では最良の選択。前回と同程度の損害に抑えられるかも。ま、さすがはユリカさんと言う所かしら)

『こちら格納庫だ!エステバリスいつでも出せるぞ!』

「そのまま待機して下さい」

(…無意味な仮定だけど、ブラックサレナがあれば突破は容易ね。敵の殲滅は無理でもナデシコの被害は最小限に抑えられるはず。ま、アキト君が歯がゆく思うのもわからないでもないけど、とりあえずは今のエステバリスで頑張ってもらうしかないわね)

「前方、本艦のコース上の敵部隊まもなく合流します」

「合流する瞬間を狙って両集団の合流点にグラビティブラスト発射!同時にエステバリス隊発進、進行方向の敵を攪乱して下さい!」

「了解。グラビティブラスト発射準備完了。目標敵合流ポイント。照準セット。発射します」

グラビティブラスト発射の衝撃に震えるナデシコ。同時に正面でいくつもの火球が生じる。

「着弾しました。小型艦船多数を撃沈。敵部隊散開します」

同時にメグミがインコムに叫ぶ。

「エステバリス隊発進して下さい!」

『『『『『了解!!』』』』』

「グラビティブラスト再充填しますか?」

「必要ありません。そのかわりにディストーションフィールド出力を最大に!」

「了解」

まだ敵はナデシコの方には向かってこない。

「敵戦艦の撃破は無理だったようだな艦長」

フクベが敵のデータを見ながら言った。

「敵もフィールドを持っている以上仕方ありません」

「ほぅ…なるほど、とりあえずは敵の集結を阻止することが目的か」

「ええ…ミナトさん!」

フクベにうなずくとミナトを呼ぶユリカ。

「ちょっと待って!………ここね!!」

ミナトに操られナデシコは敵のまっただ中に突っ込んでいくコースを取る。特に計算データも表示も無いところを見るとミナトの頭の中で選び出したルートに手動で突っ込んでいくようだ。

ユリカはミナトを信頼してまかせると今度はメグミを呼ぶ。

「エステバリスは!?」

「スバル、アマノ、マキ各機は右舷、テンカワ、ダイゴ…じゃなかったヤマダ両機は左舷に展開。バッタ、ジョロと交戦状態に入りました!」

ユリカは少しうつむくと命令を発する。

「エステバリス各機に伝達、『よけて下さい』」

「はい、各機に連絡…『よけて下さい』!?」

驚くメグミに構わずゴートに命令するユリカ。

「全ミサイル管連続発射!構いません!照準はいいからばらまいちゃって下さい!!」

「了解!」

 

『ナデシコより各機へ!よけて下さーい!!』

「へ?」

「は?」

「え?」

「なんだぁ?」

「了解」

 

ドドドドドドドドド!!

慌てて避けるエステバリスに構わず四方八方にミサイルを乱射するナデシコ。

狙いはまったく付けていないが敵の数が数である。熱誘導程度でも十分な命中率である。

 

『俺達を殺す気かぁーっ!!』

『なんまいだーなんまいだー』

構わず続けるユリカ。

「エステバリス各機は前方集団に突入。敵の注意を引きつけて下さい。ナデシコの直掩は必要ありません」

言っている間にも左右から砲撃が降り注ぐ。

一撃一撃は十分ナデシコのフィールドも持ちこたえるがこれまた数が数である。

「左舷被弾、損傷軽微。続いて右舷被弾、中破」

「左舷は自動装置に任せろ!修理班は右舷の被害に全力を注げ!!」

戦闘中は何もしていないようで実は忙しいジュン。

「ディストーションフィールド負荷率依然90%を越えています」

「こりはちょっとスリルあるわねぇ」

わずかに舌をのぞかせ唇をなめるミナト。目はらんらんと輝きなんとも言えない色気を辺りに振りまいている。ナデシコは既に戦艦とは思えない機動性をもって突き進んでいた。

「ミナトさん燃えてますね」

冷静に感想をもらすルリ。それに看過されたように落ち着いた声を出すメグミ。

「そうだね」

「もうちょっとっ!!これでっ!!…抜けたっ!!」

ズドォォォン!!

ミナトが叫んだ瞬間、これまでで一番大きな衝撃がナデシコを襲った。

敵戦艦グラビティブラスト、フィールドを突破。左舷相転移エンジンに被弾。出力低下します

ブリッジ前方に表示されたナデシコのフレーム図面。相転移エンジンブロックが真っ赤に染まる。

「左舷相転移エンジンをカットしろ!周辺ブロックを閉鎖!あぁそうだ修理班でどうにかなるものじゃないだろう!右舷の作業に全力を注げ!!」

ほとんど怒鳴るように指示を出すジュン。

「エステバリスを回収!」

「了解。エステバリス各機、ナデシコに帰還して下さい!」

「ミナトさん!!」

「だいじょーぶ!振り切れるわよっ!」

「後方にミサイル弾幕!全速力で離脱して下さい!!」

 
 
 
 
 

 

ようやくアサルトビットを出たアキトはふっと息をつく。

「なんとかなったか。ま、さすがはユリカってところだな」

あちこちに被弾している自分のエステを見上げるアキト。

「悪かったな。次からはもっとうまくやるからもう少しの間がんばってくれよ」

アキトと同じように損傷の激しいエステバリス達が帰投してくる。

「かぁーっ!!洒落になんねぇぜ!!」

「もうへとへと」

「子牛がテトテト歩く…もーてとてと、もうへとへと…ぷくくく」

「疲れてんのに余計疲れさせるな!!」

アサルトビットを出るなりめいめいぼやくパイロット達。案外余裕が有るのかも知れない。

(さすがはナデシコのパイロットだ)

こんな時にと思いながらも笑みをもらすアキト。

そこへメガホンを持った格納庫の主が現れた。

「よーし野郎共!かかれ!!」

『おーーーーーっ!!!』

 

 

「エステバリス各機の収容完了しました」

どこかほっとした声で報告するメグミ。ユリカは少し考えると格納庫を呼び出した。

「セイヤさん」

メガホン片手のセイヤがユリカの方へ振り返る。

『おう艦長。こっちは今から戦場だ。手短に頼むぜ』

「エステバリス各機の状況は?」

『あちこち被弾してるが大きな損傷はねぇよ。直すのにもたいして時間はかからねぇ。空戦フレームは多少予備が有るからいざってときはすぐに出せるぜ。もっともパイロットの方がへばってるからな。しばらく休ませてやんな』

「わかりました。それと…」

『へ、テンカワなら心配いらねぇよ。一人だけ平気な顔してやがったよ。じゃあ、仕事があるんでな』

「ありがとうございます」

通信が終わると自分を見ているイネスに気付く。

「イネスさん?」

「行って来なさいな」

「え?」

「行きたいんでしょ?少しくらい休憩をとっても誰も文句は言わないわよ」

「えーと…」

ユリカは少し考えていたがうなずくとブリッジを飛び出していった。

「艦長?」

イネスは頭上を振り返るルリに歩み寄るとゲキガンガーの人形を手渡した。

「なんですかこれ?あ…」

胸元に『艦長代理』の名札がついている。

「ま、とりあえずね」

「はぁ」

 

 

小走りに駆けていたユリカは覚えのある場所で立ち止まる。

「えーと…」

「どうしたユリカ?」

艦内服に着替えたアキトが現れる。

「あ、アキト…アキトこそ」

「ん?あぁ、ま、ちょっとな」

二人してすぐそばの化粧室の入り口を見つめる。

「ま、そのなんだ…がんばったなユリカ」

「うん。アキトもお疲れ様」

微笑み合う二人。

「ねぇアキト」

「なんだ?」

「その…お願いしたら今日はしてくれる?」

「なにを?」

「だから、その、ごほうびの………キス

「え?あ…えーと」

赤くなった顔をかくアキトと同じく赤面してうつむくユリカ。

二人はそのまましばらく立ちつくしていた。

 

 

「ま、こんな所かしらね?それにしても…ふふ」

「悪趣味…ですね」

 

 

つづく

 

 



艦長からの謝辞

はい、艦長です。
神崎悠さんから第五話が届きました。

奥さんに加えて、愛人まで追いかけてきてしまいました(爆)
すみません。
発言に語弊がありました(笑)
ま、今のところはなんとか史実通り。
これからどうなるかな?


続きがとっとと読みたいんだったらメールだ!


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