「機動戦艦ナデシコ 〜異話 The Prince Of Darkness」
第二章「夏への扉」
Majestic twelves(固有名詞)
@(一般)
イエス・キリストに直接したがった一二人の弟子(使徒)の事。
A(軍)
第一次汎太陽系戦争開戦時に地球連合宇宙軍が保有していた超弩級戦艦【12使徒】級の一二隻の戦艦の事。
完成時、設計を担当した艦政本部の面々をして『今後五〇年はこのフネを超えるものは出ないだろう』と言わしめた、第三世代宇宙戦艦群の最高峰に位置したクラス。
各艦の命名は一九二〇年代に当時の列強諸国が建造し、その後警官の如く各地の紛争を監視し二〇年近く世界の平和を護った一二隻の戦艦と、その奮闘にタイムズ紙がイエス・キリストに付き従った一二名の使徒になぞらえて【世界の平和を司る一二使徒】と好意的に呼んだ事に因んでいる。
現在(AD二二六七年時)、八番艦【ジェームズ・ロングストリート】が、ラグランジェ3に設けられた地球連合宇宙軍総合博物ステーション・一〇番埠頭にて新造時の姿で公開されている。
B(未知)
【火星の後継者】による反乱の直前に発生した【ヒサゴプラン】の中継コロニーの連続爆破事件を捜査する為に、地球連合総会の事故調査委員会と地球連合統合平和維持軍(通称、統合軍)が設立した合同事故捜査委員会の俗称。委員の数が一二名であった事からこの名が付けられた。
【火星の後継者】事件時、選出された委員の過半数が【火星の後継者】軍に参加していた事が判明した事から活動は凍結。その後【火星の後継者】事件が鎮圧された時点で委員会は解散した。
なお、一般にこの中継コロニー連続爆破事件の真犯人は連合宇宙軍であるとの説が現在(二二六七年時)最も有力であるが、連合宇宙軍はこれを公式に否定している。
〈【英和汎用雑学辞典(二二六八年版)】より抜粋〉
−
【シラヒメ・ステーション】の爆発から三日後。アオイ・ジュン中佐の姿は【ヒサゴプラン】の中継コロニー連続爆破事件の原因究明の為に設立された合同事故調査委員会の席にあった。
無論、事故原因究明の委員としてではなく【シラヒメ・ステーション】爆発時の詳細を述べる為の証人としてである。
「私は見ました。あれは確かにボゾンジャンプです。その事は提出した爆発時に【アマリリス】が探知した各種データからも認識できると思います!」
まるで被告人席のような証人席から発言するアオイ。
具体的な証拠をもとに理論的、かつ合理的に進めていくその証言はかなりの説得力を持っていたが、いかんせん聞き手である委員たちにその証言に対する熱気が存在していなかった。
「コロニー爆発の影響で付近の艦、センサーの乱れ著し。との報告もあるが?」
「そうなるとアオイ中佐が提出した資料、その信憑性も疑ってかかるべきですな」
「確かにそうですな」
アオイの演台に隠れた、白い手袋に包まれた右手が思いっきり握り締められていた。
「誤認だと仰るのですか?」
「そうは言っていない。だが疑ってかかるべきだと私は思うがね」
「左様ですな。主観の入った憶測は事件の真相を探る上で障害以外の何物でもないですからな」
「ですが【シラヒメ・ステーション】の残骸から回収されたレコーダーに残っていた第三域監視衛星が探知したデータは本物であると思います!」
「だがその肝心な第三域監視衛星は二ヵ月前に隕石と衝突し故障。その後、最近まで虚報探知あるいは誤報が耐えなかったという報告が【ヒサゴプラン】の施設維持局より提出されている。故に委員会としては監視衛星の残骸より回収した情報の信憑性は君のフネが探知したものより低いと判断する」
「さよう。委員会としてそのような不確定な要素を持ったものを事故調査の公式資料として認めるわけにはいかんのだよ」
「それに、だ、アオイ中佐。現時点では木連も地球も一五メートル級のボゾンジャンプが可能な機動兵器を開発配備をしておらん」
委員会の面々は明確に否定した訳では無かった。
だがアオイの証言に重きをおいていない事は明白だった。
「まあいい。ご苦労だったなアオイ・ジュン中佐。下がって宜しい」
カン!カン!カン!
何時もは殺している足音を意識して立てながらアオイは地球連合の本部ビルを歩いていた。
それ以外に内側に沸き上がる憤懣を抑える術が無かった。
まさか八つ当りで壁を殴る訳にはいかなかった。
本音を言えばまた別であったが、地球連合の本部ビルの内装は、少なく見積もっても宇宙駆逐艦程度の装甲板よりは高額であった為、殴ったあとの弁償までを考えると自制せざるえなかったのだ。
「くそっ、あいつらやる気が無いんだ…………」
“いい人過ぎて…………”などと言われる日頃からは想像もつかない、とても人に聞かせられないような罵詈雑言を呟きながら、アオイは歩いていた。
「だいたい…………」
言っている内に更にヒートアップしたのか、もはや“聞くにたえない”を遥かに通り越して、アオイに淡い思慕を抱いてた清純派の宇宙軍本部ビル受付け嬢が聞けば卒倒しかねない事を口にしようとした時、唐突に通路の脇の自販機コーナーよりアオイをたしなめる声が掛けられていた。
「こらこらあんまり物騒な事を本部ビルの廊下で呟いちゃいけませんよ」
「さっ参謀!?」
「ええ」
其処には紙コップに入れられたコーヒーを片手に持って立つ、地球連合宇宙軍参謀総長ムネタケ・ヨシサダ中将の姿があった。
かつて地球連合の守護者として名を馳せた地球連合宇宙軍、その現参謀総長としてはなんともわびしい光景だった。
いや、ある意味で地球連合での宇宙軍の立場−最近では新聞の枕詞に“落目の”などと書かれているのも、その事を明瞭に表しているともいえる。
アオイの目には何処かしら襟元に止められた中将の階級章の輝きも曇って見えた。
もっともムネタケはそのような事に一切興味が無いようで、呑気にコーヒーを啜っていた。
「まっ君の表情を見ていれば委員会で何を言われたか、大体察するけどね」
「あいつら本気で原因を究明するつもりなんて無いんですよ!」
「かくして『連合宇宙軍は蚊帳の外。事件は事故調査委員会と統合軍の合同で行なわれる事とあいなった』という訳だね」
休憩所に設置されていたニュースウィンドウの題目を、まるで詩のように詠むムネタケ。
その姿にアオイは思わず声を荒げていた。
「参謀!」
そんなアオイにムネタケは上品に笑いながら肩をすくめていた。
「まっ確かに黙ってみている手はないからね。だから行ってもらったよ【ナデシコ】にね」
ムネタケの示したニュース・ウィンドウには、【ヒサゴプラン】施設群の中でも最も高い重要度の与えられた中枢中継コロニー【アマテラス】へと査察へ向う為、ラグランジェ1に設けられた第三宇宙港−通称“スカパフロー泊地”−より出航する【ナデシコb】の姿が写し出されていた。
「【ナデシコ】に…………」
感慨深くその名を呟くアオイ。
久方ぶりに聞いた名だった。
忘れた訳では無かった。
忘れたい訳でも無かった。
その思いはアオイが艦隊勤務中、ナデシコ部隊章−大戦終決後、解散する事となった【ナデシコa】乗組員が記念として自分たちで作った【ミリタリー・インシグニア】。その絵柄は撫子草を背景に飛ぶ【ナデシコa】というものだった−を縫い付けた【ナデシコa】副長勤務者用略帽を愛用している所にも表れていた。
「おっ、来たね」
ムネタケの言葉に触発されて振り返って見れば、そこには地球連合宇宙軍士官用の濃紺色を基調とした第一種軍装に身を包んだ【アマリリス】艦載機部隊【サウス・ボア】隊々長にして旧木連優人部隊将校、ガルン・ストラ大尉の姿があった。
彼は現時点で唯一、謎の機動兵器と交戦し生還したパイロットである為に委員会への出頭を命じられていたのだ。
「お待たせいたしました参謀総長。それに艦長」
言葉とともに、しっかりとした敬礼をするガルン。
「いえいえご苦労様でしたね。じゃあ帰りましょうか」
ムネタケの言葉を受けて一同は歩きだした。
歩きながら他愛の無いことを会話するガルンとムネタケの背を追いながらアオイは、彼がかつて思慕の念を抱いていた、今は亡き女性の義理の娘が操る戦艦に思いを馳せていた。
「【ナデシコ】……………【ナデシコb】、かっ……………………」
ふと振り返ったアオイは、ニュースウィンドウが既に別のニュースを流しているのを見て、口の端を緩めると先に進む二人に追い付く為に早足で歩き始めた。
−
漆黒の宇宙を切り裂いて進む、白を基調に群青色で塗られた一隻の戦艦。
側舷にに描かれているのは、赤い撫子草をモチーフとしたマーキング。
それは前大戦時において勇名を馳せた−あるいは地球と木連の双方に悪名を轟かせた機動戦艦【ナデシコ】の持っていた【パーソナル・マーキング】。
そして現在、そのパーソナルを付ける戦艦の名は【ナデシコb】。
それは【ナデシコa】の後継鑑であり、同時に大戦にて消耗しきった地球連合宇宙軍の一大建艦プラン“ネオジェネシスプラン”で採用される予定の技術実証と、【ワンマンオペレーションプラン/一人一艦計画】−これは戦死等によって正面に張り付けられる兵力が低下した宇宙軍が、少ない人的資源で正面兵力を増強する為に考えだした苦肉の策であった−の運用実験を担当する為に建造された試験戦艦であった。
所属は地球連合宇宙軍第四艦隊。
そして艦長はホシノ・ルリ。
【電子の妖精】の渾名を持った、若干一六才の宇宙軍最年少の少佐であった。
『星の数ほど人が居て、星の数ほど出会いがあって、そして別れ』
小さく呟きながらルリの手は、昨今では珍しくなった紙製の本−詩集をめくっていっていた。
現在、ルリの居る場所は“ステージ”の俗称で知られたブリッジ中央部の艦長シート。 その左後方の副長席には、肩まで伸びた長髪を赤色の一房を残して全て金色に染め上げた若い男−元木連将校高杉・サブロウタ大尉が座っており、高杉は飲み屋や知り合いの女性から送られてきた3Dホログラフ・メールに目を通しながらにやついていた。
そんな高杉の姿を非難じみた目で見つめるのは、ルリの右後方、補助用IFSシートに座った、まだ小学生のような−実際、実年令的にも小学生が正しい−軍人、マキビ・ハリ少尉。
仮にも任務中の戦艦とは思えぬ、全くもって緊張感の無い姿ではあったが、それは【ナデシコb】自体が完全に油断している事と同意では無かった。
【ワンマンオペレーションプラン/一人一艦計画】の技術実証艦である【ナデシコb】は、ある意味で【ナデシコa】以上に自動化の推し進められた戦艦であり、それ故に戦闘時以外の艦の運航は全て中枢電算機【オモイカネ】−【ナデシコa】にて使用されていた中枢電算機を改装、移植したもの−が一括処理しているからだった。
「ボクは木連の軍人さんは真面目で優秀な人達ばかりかと思ってました」
だらしなく火を切った制御卓に足を乗っけている【ナデシコb】副長、タカスギ・サブロウタの姿に、同副長補佐のマキビ・ハリ−通称ハーリー−少尉は遠回しに文句を付けるが、タカスギにとってハーリーの嫌味など何処を吹く風。
そんな、真面目さの欠片の無いタカスギの態度にハーリーはついつい声をあらげていた。
「へえへえそりゃあどうも」
「高杉大尉!!!」
まるで漫才のような二人の会話を聞きつつ、ルリはそっと詩集のページをめくっていた。
その口元は詩集、あるいは二人の漫才が原因なのか、日頃よりルリを良く観察している人にしか判らぬ程微かに緩んでいた。
その時、ルリの前に【オモイカネ】からのメッセージが表示された。
『現行速度で【タキリ・ステーション】まであと二〇分だよルリルリ』
「ありがとう【オモイカネ】」
パタリと詩集を閉じると、ルリは少しだけ目を閉じた。
(ウチの艦長。ホント可愛いよな)
(ああ全くだよ。人事部のカワダに涙ながして土下座して乗艦した甲斐があったよな)
(ウンウン)
ルリ達の居る“ステージ”から見て下位、【ワンマンオペレーションプラン/一人一艦計画】における情報収集や艦制御支援のオペレーターブロックからルリの姿を見上げていた男性オペレーター達が秘かに会話していた。
的確な情報分析と冷静な判断力を兼ね備えたルリは、宇宙軍において最も人気の高い艦長であった。
無論それはルリが有能であるばかりでは無かった。
その理由は、軍内部にルリ本人非公認のファンクラブが存在−因みに、ルリの軍務復帰時には二〇を数えていたが、一年の間にアララギ・カネツグ大佐が主催する【ホシノ・ルリファン倶楽部】に順次統廃合されていった。因みに【ナデシコb】乗組みの男性の殆ど全員がこの【ホシノ・ルリファン倶楽部】に参加していた−し、最近何やら妙に軟派な感じの軍務志願者が急増している事からも明らかだった。
もっともルリ本人はそんな自分の人気に、ただただ戸惑うだけであったが。
「皆さん、こちら艦長のホシノ・ルリです。現在本艦は【タキリ・ステーション】まで後二〇分の距離に接近しています。乗組員の皆さんはボゾンジャンプのシーエンクスを開始して下さい」
「了解しました」
「うぃっす」
声だけでもも鯱張っている様が感じ取れるハーリーに対し、タカスギは肩の力が抜けきった声で、ただし手元だけは忙しく走らせながら返事をしていた。
【ナデシコa】以来の伝統か、この【ナデシコb】もまた人格より能力を優先した人材が多く配属されていた。
そしてそれは、「はーい」という気の抜けたような返事がオペレーターブロックの何処からか返ってくる辺りが、その事を如実にあらわしていた。
−
ネルガル月面第三造船所、通称【オオガミ−U】。
そこは航空宇宙という分野に於いて後発であるネルガル社が、先達である四大企業、三菱、クルップOTTO、BOLG(ボーイング・ロッキード・グラマン)社、北崎アームストロングに対抗する為、その総力をあげて建設した巨大造船所である。
そして、その施設は“雄大”という言葉でのみ表される規模であり、地球圏でもトップクラスの規模を持った企業に相応しいものだった。
月面には、三基の全長五〇〇m級の超大型宇宙船が建造可能な大型ドックと、八基の中型宇宙船用ドックがあり、それに対軌道宇宙機や航宙連絡艇といった小型宇宙船を製造する大規模工場までもが完備されていた。
またその他にも機体に取り付けられる各種装備を一括して製造するコンビナート群や、兵装や電測機といった艦艇建造に必須となる備品を製造する為の軍需設備までもがあった。
更には月面施設の直上、月の静止軌道上には、艦艇の整備用大規模軌道ステーション【キツキ−V】を持ったそこは、民間のものとしては群を抜いて巨大な施設であった。
そんな巨大施設の最深部に、公表はおろか部内秘の設計図にすら記載されていない秘匿ドックが3つ存在していた。
その秘匿ドックは、宇宙軍からの極秘艦建造の依頼をこなす為、ネルガルが【オオガミ−U】第三造船所を建設する際に秘かに建造したドックであり、その建設資金の一部は連合軍が供出していた。
そんな秘匿ドックの1つ。
造船所の最っとも深い層に存在するG号第3ドック−秘匿ドックは情報隠蔽の意味からも、広大な第三造船所内で分散して設置されていた−は、ネルガルが極秘建造、就役させた艦の為に“改装工事中”と称して封鎖されていた。
その封鎖はG号第3ドックのみならず、人員用の通路及び完成艦の搬出路すらも行なうという徹底した物であった。
その外部から完全に遮断されたG号第3ドック。その内装が一切剥がされ−これはG号第3ドックを改装しているとの話に信憑性を持たせる為の偽装工作であった−錆止めの赤色塗装だけが施されたドック内には、流麗な船殻をした白亜の戦艦の姿があった。
名を【ユーチャリス】という。
“清らかな心”という花言葉を持つヒガンバナ科の常緑草の名を与えられた白亜の戦艦は、その花言葉通りの薄く輝くような白い装甲を纏っており、赤く、そして暗いドックの中に身を横たえた姿は、見るものに何か神々しい印象を与えていた。
(あるいは“禍々しい”とでも表現すべきなのかもね。これは…………)
そんな愚にもつかない事を思いながら、紺色のスーツに身を包んだ妙齢の女性−ネルガル重工宇宙開発部々長を務めるエリナ・キンジョウ・ウォンは【ユーチャリス】を眺めていた。
【ユーチャリス】の建造された経緯を知る、いや建造計画を推進したと言っても過言ではない彼女の思いは複雑だった。
(誰にも祝福される事の無い戦艦。復讐の女神の私生児ってところかしらね」
自嘲気味に顔を歪めるエリナは、自分でも気付かぬうちにその思いの後部分を呟いていた。
その微かな呟きはエリナの向かいに座っていた男の耳に届いた。
「?どういう意味だ」
断片的に、かすれた声で聞こえた言葉の意味を掴みかねて、それまでディスプレイに写し出されている情報を確認していた男−漆黒の衣に身を包み、目元をサングラスで覆い無表情で顔を纏ったテンカワ・アキトは尋ねかえしていた。
二人の居る場所はG号第3ドック上部に設けられた貴賓席。
秘匿であるものの、ネルガル重工の会長アカツキ・ナガレの趣味によって豪奢な内装の施された貴賓席にコンピューター機器を持ち込んでいた二人はそこを即製の作戦本部とし、【シラヒメ・ステーション】より奪取してきた情報を基に次回の襲撃に関する最終調整を行なっていた。
「いえ、何でも無いわ。でも皮肉なタイミングね。襲撃、延期する?」
二人の前にあるディスプレイには【アマテラス】査察の為に出航した【ナデシコb】の姿を写していた。
「いや時間がない。Drの話ではユリカが陥るまで、もう幾らもないとの事だ」
「……………………良いの?」
「問題ない。あの娘なら、ルリちゃんなら【アマテラス】襲撃程度のアクシデントは自力で抜けられるハズだ」
「そう……………………信用してるのねルリちゃんを」
「…………………………………………そうだな。アカツキやエリナさん程には信じているよ」
(多少自惚れても良いなら、アキトはルリちゃんに全幅の信頼を置いてるって事よね。でも…………)
【火星の後継者】と自称するもの達の手によって自分の五感の殆どを失い、結婚したばかりの愛する妻を奪われ、そして今は復讐者。テンカワ・アキト。
死人。既に戸籍は失われている。
科人。その両の掌は血と罪に染まっている。
そのような者が日の下に生きる者に接してはならない。
様々な面から、アキトの“復讐”を支えているエリナには、アキトが抱いている思いが痛いほどに解っていた。
だが同時に−仕事上のものが主ではあったが−今だ僅かに交流のあるルリの事を、かつて【ナデシコa】解散時に養女として引き取った、まだ一六才の繊細な少女の事を思ってあげて欲しかった。
「逢わないのルリちゃんに。あの娘、貴方の事を……………………」
「今更会う必要はない」
「そうね。だけど……………………だけど、あの娘は」
「死んだ筈の者が生きていた。ただそれだけの事だ。それがどうした。あの娘にも今は新しい仲間がいる筈だ。過去の亡霊如きが出るべきじゃあない」
「………………………………いいの?」
「ああ」
幾度も尋ね、そして返答は何れも同じだった。
その事は、尋ねる前より予想出来た事だった。
だがそれでもエリナは尋ねずには居られなかった。
今度の目標である【アマテラス・セントラル・ステーション】でアキトはルリの指揮する【ナデシコa】と直接砲火を交える可能性が高かいのだ。
だからこその質問。だが、その回答は今までと同じ明確なる拒絶だった。
ナノマシン制御用の機能も組み込まれたサングラス−イネス・フレサンジュ博士謹製の作品であり、軽度ならば顔に浮かび上がるナノマシン発光を抑える事が出来るが、その代償として装着者の顔から表情を奪っていた−によって、さしものエリナといえどもテンカワの表情を読み取る事は不可能だった。
それっきり貴賓室に沈黙が舞い降りた。
どれ程にそうしていただろうか。
その気まずげな沈黙を破ったのは、アキトの携帯型通話機−通称・コミューターだった。
虚空へと写し出される画面。
そこには神経質さと粗野さを同時に感じをさせるような煙缶服の男−ウリバタケ・セイヤの姿があった。
「おうアキト。こちらハンガーデッキ、ウリバタケだ。【ブラックサレナ】の再調整も終わったぜ。【ユーチャリス】は何時でも出られるぞ」
それはかつて【ナデシコa】の整備班々長として腕を振るい、そして今では妻にすら行方を教えずネルガルの中に身を置いてアキトを支えている男だった。
『テメエも水臭せぇな。へっいいかアキト、こういう時はだなただ一言“頼む”といやぁいいのよ!』
それがアキトからの協力要請を受けたウリバタケの言葉だった。
「了解。今から向かいます。じゃあ行ってくる」
「アキト君……………………気をつけてね」
立ち上がったアキトの背に向けて送られるエリナの言葉。
だがアキトは振り返る事は無かった。
「心配を掛けて済まない。行くぞラピス」
「はい」
アキトの言葉に反応し、それまで黙ったまま二人の傍らに立っていた腰まで伸びた薄桃色の髪と金色の瞳とが強い印象を残す儚げな少女−ラピス・ラズリはただ一言だけ言葉を発すると、アキトの左すぐ脇の位置で歩き始めた。
夏が始まる。
熱く激しい夏が始まる。
キリキリキリキリ音を立てて、凍った刻の扉が開いてく。
そしてその事を誰もが知った時、それは全てが手遅れになった時であった。
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【ケイ氏の独り言】
どうも毎度毎度、文才乏しき文章をお読み下さい誠に有難う御座います。
そしてこれからもどうぞ宜しくお願いします。
と、題名を見て変に思った方、誤植じゃ無いですよ。
アレでいいんです。
元ネタは某完結していない−とファンは思ってる−魔術シリーズですが、そこに加わったエッセンスは「SUMMER・OF・WAR」。すなわち「戦争の夏」なんですから(笑)。
あんまり派手さも無く腑甲斐のないクーデター軍たる【火星の後継者】に、ちょいとばかし派手に行ってもらいますんで。
そう全ては劇場版のヒーローとヒロインたる二人の為に!!
次からは遂に二人の邂逅−でもウィンドウ越し、おまけに片道(爆)−と戦闘です。
では次章でお会いしましょう。
艦長兼司令からの軸線砲発射命令(?)
さて、ケイ氏さんのみりたりSS(笑)第2弾です。
私はタイトルを見て、ハインラインの名作からかと思いました。
好きなんですよ、私はアレが(笑)
ま、それはさておき。
言ってみれば、ここまでが序章というところでしょうか。
これからどうなるのか。
ドンパチな3話を待ちましょう(爆)
メールはここ!
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