「機動戦艦ナデシコ 〜異話 The Prince Of Darkness」
第四章「狂宴」
「小便すませたか?
神様にお祈りは?
部屋のスミでガタガタふるえて命乞いする心の準備はOK?」
ウォルター・C・ドルネーズ(ヘルシング家執事)
モニターに映し出されている戦況。それはお世辞にも良好とは言い難いものであった。 ハッキリと表現するならば苦戦していた。
或は翻弄されていると表現してもよいだろう。
ほんの数分前までは戦域簡易表示ディスプレイを覆い尽くさんばかりに存在していた緑色表示の統合軍所属機動兵器は既に半減し、赤色表示の正体不明機が【アマテラス・セントラル・ステーション】の周りを我がもの顔で飛び回っていた。
その様相を、第一級戦闘配置状態で待機している【ナデシコb】の戦闘艦僑で、まるで新兵のように興奮した面持ちで眺めているハーリー。
匪賊や海賊といった、大戦終結後に大量に発生した中小の賊を討伐する戦は経験しているものの、これ程の数の機動兵器が入り乱れて戦う様を見るのは初めてだったのだ。仕方の無いことと言えるだろう。
只、僅かばかりの問題としてはハーリーが心酔してやまない、そして僅か以上の恋心を抱いているルリに、少しばかり非難のスパイスが交えられた視線で見られた事であるが、当人が自覚しなかった以上、問題にはなりえなかった。
「…………はぁ〜あ“ブラックゴースト”ってのはバケモノですねぇ」
「?何ですかハーリー君“ブラックゴースト”というのは」
「あっ、いえ、艦長何でもないんです。たださっきアマテラスのコンピューターに潜った時に掴んだ情報の中に、あの謎の襲撃機のことを統合軍が“ブラックゴースト”って呼んで…………」
「ハーリー君。その情報を私の所に表示して下さい」
「あっはい!」
ハーリーの言葉とともに即座に表示される“ブラックゴースト”の頁で括られた一連の情報群。
合同事故調査委員会に提出されたものより数段は鮮明な画像に捉えられた黒い機動兵器の飛翔する姿を背景に、測定された諸数値から推測されたこの機動兵器の能力諸元が表示されていく。
「…………どう思いますタカスギ大尉?」
「コッチに表示されてる数値がマジものなら、アレは信じられん位のバケモンと言った所ですね」
お手上げ。そんな意味を込めてか、【ナデシコb】唯一の艦載機動兵器である【エステバリス・Typ−S】のコクピットの中でサブロウタは両手をヒラヒラとさせるジェスチャーをして見せた。
そんなサブロウタの乗る【エステバリス・Typ−S】は、【ナデシコb】船体の両舷より突き出された二本のディストーションフィールド発生用ブレード、その右側にだけ設置されたリニアレールカタパルトの基部にある気密ブロックにてカタパルトのシャトル(荷台)にセットされた状態で待機していた。
「どうします艦長?出動要請も来てますし、ヤレって言われりゃあ…………(刺し違える程度はやってみせられると思いますよ)」
タカスギの言葉を遮るように、艦長としての判断を告げるルリ。
「当面は高見の見物です。出撃の必要はありません」
「いいんすかぁ艦長?」
「かまいません。タカスギ大尉に命を賭けてもらはなければならない様な−統合軍に対する−義理は無いですから」
非情ともとれるルリの言葉。だがそれはサブロウタの言葉にしなかった部分、その意味を正確に把握しているが故だった。
ルリはサブロウタが生粋の木連軍人であり、そして何より木連時代のサブロウタの見せた戦い方を未だ忘れてはいなかった。
「それに敵の目的。これ程の力を持った敵の真の目的、知りたくは無いですか?」
ルリの示したウィンドウには【アマテラス・セントラル・ステーション】のセントラルコンピューターが何ものかの手によってハッキングされていく様が表示されていた。
「ハーリー君、このハッキングに重ねる形でアマテラスの中央電算機にハッキングしちゃって下さい」
「いっいいんですか艦長?」
「構いません。それにヒサゴプランの裏側。中々深そうですから」
「…………でも一度気付かれてますから今度は難しいんじゃないかなぁ〜と…………」
「そうですねハーリー君のドジで一度気付かれていますね」
「だからソレは違うって言ってるじゃないですか!!」
「A・K・I・T・O」
「はぁ?」
ルリの手の中でクルリと引っ繰り返るウィンドウ。
黒地に赤く書かれた文字。そこには【OTIKA】では無く【AKITO】とあった。「多分、キーワードはコレで良と思います」
「AKITO、アキト、アキト?…………アキトってどういう意味ですか艦長?…………艦長ぉ!?」
ハーリーを無視する様にルリはIFSフィードバックのレベルを上げ、【ナデシコb】を戦闘態勢に移行させる。
「フィードバック、レベル一〇まで移行。【ナデシコb】は避難民の収容後、第一種戦闘配置で【アマテラス・セントラル・ステーション】第三宙域へと後退します」
−
誘っているのか?
乱舞する機動兵器の群れ。
小隊や分隊単位の小集団で無秩序に攻撃をしかけてくる【アマテラス・セントラル・ステーション】守備部隊は数こそ多けれども、アキトの突破を阻める程に濃厚な火線を形成しえてはいなかった。
そう【アマテラス・セントラル・ステーション】外壁へと取り付ける方向に対してだけは。
あるいは流れ弾によるコロニーへの被害を恐れてかもしれない。
だがそれにしても異常であった。
オロニーへの被害を恐れるならばこそ、その前面には強固な防御ラインを敷くべきである筈が、其処を手薄とする。
故に罠。
アキトの唇の歪みが大きなものとなる。
面白い。乗ってやる。
−
「敵機動兵器、第三三ライン突破!ポイント〇まであと一一(秒)」
「カンウトスタート」
『一〇』
【アマテラス・セントラル・ステーション】内の整備ドックから離床したばかりのクロッカス級駆逐艦が、超至近距離で【ブラックサレナ】の一撃を艦僑と機関部に受けて瞬時に爆沈する。
「【パンジーU】爆沈!」
『九』
誰もが【パンジーU】の爆発に巻き込まれて【ブラックサレナ】が被害を受けることを願ったが、【ブラックサレナ】は爆炎を切り裂いて無傷な姿を表してしていた。
そして、状況確認と【パンジーU】乗組員救助の為に不用意な接近をした一個小隊四機の【ステルンクーゲル】を回避する間も与えず、一瞬で撃破する。
「バケモノが!」
憎々しげに吐き捨てるアズマ。
既に【ブラックサレナ】によって生じた死傷者は七〇〇人を突破していた。
『八』
再加速を開始する【ブラックサレナ】。
その目的地は幾重もの重防御外殻によって護られた【アマテラス・セントラル・ステーション】の中核であり、アズマによる捨身の罠の顎が待ち受ける場所であった。
『七』
「准将。部隊の展開、完了しました」
「有線リンクはどうなった?」
「七割が限界でした」
『六』
「まあいい。残りには見越し射撃を実施させろ。多少の被害は構わん」
「ハッ!」
『五』
「敵機動兵器第三層を突破!」
雨霰と撃ち上げてくる対空砲火をものともせず、突進する【ブラックサレナ】。
相対速度と管制システムの問題から、殆ど見越し射撃となる対艦砲座群までもが無理遣りにも火線を吹き上げている。
幾その中のつかの大口径砲弾が【ブラックサレナ】の漆黒の装甲を削りゆく。
激しい振動に見舞われているコクピットの中で、だがアキトは嗤っていた。
哄笑を上げないものの、確かにその唇は笑みの形をしていた。
『四』
「ECM発振準備完了」
全ての準備を終えた【アマテラス・セントラル・ステーション】トリプルCは静寂に包まれていた。
『三』
誰もが息をこらしていた。
『二』
只、静寂の中で進むカウントダウン。
『一』
「ゴクリッ」
誰かの生唾を呑む音が、やけに大きく鳴った。
【ブラックサレナ】が、第二層を突破し、遂には【アマテラス・セントラル・ステーション】の本体へと辿り着いた。
『〇』
「一斉射撃開始せよ!!」
あらん限りの気合いを篭めたアズマが叫ぶ。
そして煉獄が生まれた。
−
「ちぃ!」
無意識な舌打ちを一つ。アキトは機体の態勢を立て直そうとする。
それ迄の侵入戦が児戯に思えるほど濃厚に、そして無数に撃ち込まれてくる対空砲弾。 【アマテラス・セントラル・ステーション】本体にとって天蓋、あるいは最終防御システムとしての意味を持つ第二層をも破壊しながらの射撃は確実に【ブラックサレナ】を捉えていた。
如何な【ブラックサレナ】と言えど、上部を覆った第二層によって回避路の殆どを奪われた状態では、その殆どをその身に受けるしかなかったのだった。
みるみる間に、ディストーションフィールドの過負荷が溜まっていっていた。
「!」
激しい対空砲火の中であっても、的確な射撃によって対空銃座群を沈黙させていくアキトではあったが、些かその破壊すべき数が多すぎたのだ。
流れ弾を恐れてか、この場に存在するのは自律型対空銃座と、ケーブル有線にて遠隔操作されている対空型フレームのエステバリスのみであり、これら無人、あるいは遠隔操作機の攻撃は柔軟性に欠けたものではあったが、攻撃の密度がそれを補ってあまりあったのだ。
大幅な機能低下は未だないものの、既に全身のスラスターの一一・四%とセンサーの二三%が機能を喪失している。
両腕に装備されたブラスターが、また一基の対空銃座を粉砕する。現時点での制圧率一三・一%。
この程度の敵に撃破される危険性は極めて少ない。
だが突破を果した後のことを、残存しているであろう戦力と一戦を交え、なお且つこの【アマテラス・セントラル・ステーション】の重要度を考えれば出現する可能性の極めて高い真の敵への備えも怠ってはならない。
裏の社会では軍諜報部にも匹敵すると恐れられているネルガル重工の会長アカツキ・ナガレ直属の諜報組織、会長付き第四秘書課そして通り名は【NSS/ネルガル・シークレット・サービス】が全力をもって捜査しても、掴めるのは切り捨てられた尻尾のみという有様。
その実態は未だ不明であり、判明している目的はボゾンジャンプの独占のみという謎の組織。
名を〈火星の後継者〉という。
……………………そして…………北辰。
ぞくり
その名を思い出した時、アキトの左目が疼いた。
激震。
ほんの一瞬。集中力を欠いた瞬間にコクピットが激しく振り回される。
[左バインダー損傷。スラスター可動率七五、八%]
損害が赤く表示される。
「ちぃ」
『あきと…………無理シナイデ』
……………………ラピス、すまん…………
我武者羅に突進した自分への苛立ちが募る。
もう少し警戒して進んでいれば、ラピスを戦場に引きずり出すことなどしなくても良かった筈なのに……………………ルリちゃんが来ているという事に俺は少しばかり…………。
噛み締めた唇の端より血が一筋、流れた。
「襲撃案変更。〈B−三番〉。ラピス、ジャンプシーエンクススタート」
『了解』
−
舞台に新たなる俳優が登場する。
−
まるで脱兎のごとく、一目散に【アマテラス・セントラル・ステーション】脱出せんとする敵機動兵器の姿が映し出される。
「やったか!?」
「はい、不明です。ですが目標の速力は四〇%近く低下しています!」
「よ〜し、決して逃がすんじゃないぞぉ!必ず墜とせぇ!!統合軍に歯向かう奴らに、その恐ろしさを教育してやるのだっ!!!」
まるで熊でも吠えているかのような勢いで叫んでいるアズマ。
(コレさえ無ければ良い上官なのだが…………)
そんな司令官の姿に、シンジョウはそっとため息をついていた。
「敵機動兵器、【アマテラス・セントラル・ステーション】第四層を突破!第三防衛ラインまで後七〇〇!!」
「構わん、駐留艦隊に伝えろ“追撃セヨ”だ!!」
「宜しいんですか司令?」
「“池に落ちたぁ犬はぁ叩けっ”!何事も徹底的にだシンジョウ中佐!!」
「はぁ」
−
「おやおや、王子さまは逃げていってるじゃないか?」
ステーションの最深部、【アマテラス・セントラル・ステーション】防衛責任者であるアズマすら知りえない場所に存在する秘匿研究ブロック【D−51】。
ソレは、【ヒサゴプラン】と呼ばれるもののもう一つの顔。その象徴とも云えるものであった。
「大丈夫なのかねぇ〜あんなので?」
まるで何かの冗談を言うかのように、戯けた口調で肩をすくめる白衣姿の男−ヤマサキ・オシオ。
その背でぽこりっ、と気泡が弾ける音がした。
「おや、気になるのかい?だろうねぇ。数少ない君の同胞なんだからさ」
『……………………』
「ああ大丈夫。心配しなくていいよ。此処を引き払う時は必ず君たちは処分してあげるからね。安心して同胞の活躍する様を見ていればいいよ」
ぽこり…………再び気泡が弾ける。
ヤマサキの後にあったモノ。それは緑色の液体に浸けられ、透明なシリンダーに入れられた幾人かの生首であった。
「ほら見たまえ。君たちの希望、彼女の王子さまの雄姿を。凄いよねぇアキト君は。君ら二流品とは大違いだからねぇ。五感を喪っただけで自在のジャンプ可能なんだから、君たちも体まで切り落とされるまでにジャンプに成功しておけばよかったのにねぇ〜」
「所長」
「ん〜どうしたぁサワダ君?」
「連中から連絡で、後五分でと…………」
「こわぁ〜いお兄さん達がやってくるって訳だねぇ」
「はい」
その言葉にコミュニケーターを作動させるヤマサキ。
『はいはい、お楽しみ中の皆さん撤収準備。五分で完了しない場合は置いてくぞ!』
慌ただしくなる研究室。その瞬間、激震が【アマテラス・セントラル・ステーション】を襲っていた。
「!?」
−
『ポイントA−〇七にボース粒子の増大を確認!』
「何だと!?敵か!分析急げ!!」
『解析出ました。質量、せっせっ戦艦クラスです!?』
「何だと!!」
その瞬間、風巻く輝が如くボース粒子をともなった白亜の戦艦−【ユーチャリス】がポイントA−〇七、即ち【アマテラス・セントラル・ステーション】本体の最外殻部、第七層近宙に出現する。
「戦艦の艦種識別、急げ!?」
「識別不明です!!…………なっ!敵艦、重力波反応増大!?グラビティブラストです!!!来ます!!!!」
「なっ!?」
「総員耐しょ…………」
シンジョウが叫ぶよりも早く、【アマテラス・セントラル・ステーション】は激しく揺さぶられていた。
轟音が轟き、トリプルCの照明が赤い非常灯へと切り替わる。
「各部被害状況報せっ!」
「レッドアラート!第四層D域との通信途絶!!域内の気圧、危険域まで低下。隔壁閉鎖実施します!!!」
「C層及びB層も被害甚大です!!」
「第三電測機群、使用不能。直撃を受けた模様。機能回復は」
「第一駐留艦隊……………………壊滅!護衛艦部隊は、全艦が戦闘不能に陥った模様です!!」
立体状況図面が瞬く間に真っ赤に染まっていく。
「ぬぅぅぅぅぅっ!ヤツは囮か!!」
「司令!?」
「構わん!【キルサンタス】と【よいまちづき】に伝えろ、貴艦らは残余艦艇をもって白い戦艦を墜とせとな!」
「きっ機動兵器の方はどうするんですか!?」
「そっちの方は残っている機動兵器部隊だけでも時間稼ぎ程度ならば何とかなる筈だ。下命急げっ!?」
「はっ!」
「…………ワシのコロニーを傷つけておいて、このままで済むと思うなぁ」
湯気を上げんばかりに真っ赤そまった顔でアズマは吠えるように宣言していた。
−
白いボース粒子を伴って、漆黒の宇宙を切り裂くように出現した白亜の戦艦【ユーチャリス】。
具現化するよりも早く、“清らかな心”という花言葉に相応しき優美な船殻より放たれたのは、連装二基四門と装備するグラビティブラスト独特の無色の重力波。
連鎖的に発生する火球。
小型艦艇や機動兵器に対する掃討戦用としての照射モードで放たれたS級破壊力を持ったグラビティブラストは、その射界に存在したあらゆる機動兵器を一掃し、多くの艦艇を爆沈せしめていた。
『現在、統合軍【アマテラス・セントラル・ステーション】駐留機動兵器部隊ノ稼動率ハ三四%マデテイカ』
【ユーチャリス】に搭載されたオモイカネ系艦載型電算機【ミネルヴァ】の報告がウィンドウに表示される。
ディスプレイへと克明に映し出された命の燈。
あるいは煉獄にて燃ゆる業の火か。
だがその実施者、【ユーチャリス】の統合オペレーターたるラピス・ラズリはそれに何の感傷も抱かなかった。
確実に、一〇〇を単位として喪われていく命。
すぐ傍らの耐Gシートに身を預けたウリバタケが、その様に何とも言い難いと顔を顰めているのとは対照的に、平時より何ら変わる事無く無表情で黙々と【ユーチャリス】を操るラピス。
艦下部の機動兵器格納庫より連珠のように放てれていく小型無人機動兵器群。
その手によって新に生み出される火球は確実に人の命を奪っていくもの。
ヒトの死。
(ソレガ何ダトイウノダロウ…………)
人の手によって生み出され、運命に弄ばれたこの少女にとって死は最も馴染み深いものであった。
彼女を生み出した場所で与えられたものは只、ヒトを殺すためだけの知識であった。
そして[結社]と自称した組織に捕らえられてからは、日毎に同胞が実験の露として喪われていくだけの、そして残された同胞の数が捕らえられてよりの日数を教えてくれるという日々だった。
強制された生と死。
それに比べれば、この場で喪われた命のなんと幸せな事か。
彼らは自分の意志で軍人を志し、この場に存在していたのだ。
だからラピスはアキトの為にも攻撃を躊躇する事は無かった。
−
咲き乱れゆくは命の華。
−
「派手にやってやがんなぁ」
背面監視モニターに、【アマテラス・セントラル・ステーション】越しに見える火球の連鎖に、愚痴にも似た口調で洩らすリョーコ。
もっとも、その口元には肉食獣の如き笑みがあった。
ようやくの事で出撃許可の下りた第二〇一【ライオンズシックルス】中隊(独立)第一小隊の各機は現在、統合軍の誇るウルトラエースであるスバル・リョーコ直率の下、敵戦艦の出現したポイントの反対側へと急行していた。
『行きたいんスか隊長?』
やや寝呆けたような顔の造形に、この時代では珍しい眼鏡をかけた男、アマミヤ・カンジ少尉が嗾けるように喋る。
「馬鹿ぬかせ。オレ等の相手はあんな雑魚じゃねぇ」
『でも何ぞ物欲しそうってな表情してまっせぇ隊長。我慢はいけませんでぇ』
外見は温和しいのだが、その内面は至って攻撃的という【ライオンズ・シックルス】一の童顔であるジル・クレームは唆すように言い、またその相棒で諦観主義者のバイアン・メンドはため息をつくように応じた。
『なんたってウチの姉御は派手好きだからねぇ』
『くっくっくっちげえねぇ』
「へん、派手好きはテメエ等も一緒だろうが!?」
『まっ、みんな病気という事ですかねぇ』
「他人事みたいにぬかすなバイアン!」
『そうだ!テメェが一番ビョーキが重めぇだろうがよぉ!!』
『ちょっと待てジル、俺の何処がビョーキだ!?』
『ぜーんぶだっ!大体……………………』
【トリカブト】の飛行甲板同様に、まるで冗談の様な会話を繰り広げている面々。
もっとも、それぞれの目は油断無く周囲を警戒しつつだった。
だが一同の機体が居る場所は、主戦場に対して【アマテラス・セントラル・ステーション】の反対側の宙域。
連隊規模で散布されている敵無人機動兵器ではあったが、流石にこの場へとは達していなかった。
まずは“平穏”といってもよいだろう。
このような場で【ライオンズ・シックルス】の面々が【エステバリス・カスタム】を駆っている理由。
様々な理由が混在していたが、それを一言で言うならば“勘”であった。
敵、漆黒の機動兵器の示した【アマテラス・セントラル・ステーション】への襲撃と、その後の離脱。
逃走とほぼ同じタイミングで出現した白亜の戦艦による強襲と、生み出された混乱。
完全に乱れきった【アマテラス・セントラル・ステーション】の防衛ライン。
実戦経験が生み出したモノが警鐘を鳴らしていた。
故にリョーコは、自由行動を許されていた事をいい事に【ライオンズ・シックルス】部隊をこの宙域へと進めていたのだ。
だが今のところ【エステバリス・カスタム】や【アマテラス・セントラル・ステーション】の各種センサーに反応は現われていなかった。
念の為にと、肉眼でも対宙監視を実施してみるが何の反応も見られなかった。
安全は確認された筈だった。
だが、リョーコの内側でかき鳴らされている警鐘は鳴り止むどころかますます大きくなっていく様に感じられた。
『どうします姉御?』
「ん〜ん……………………」
僅かばかりの逡巡。そして決断。
『隊長?』
リョーコは通信を【アマテラス・セントラル・ステーション】第三域管制室へと繋いだ。
「こちらベクター〇一。第三CC(コントロール・センター)だな?悪りぃが第三域L−三−24〜29までにグラビティブラストをブッ放してくれねぇか」
『こちら第三CC。ベクター〇一、方位と威力は了解した。だがいったいどうした。コッチのセンサーには何の反応も無いぞ。何か捉えたのか?』
「そんなもんじゃねぇんだが…………強いて言ゃあ“勘”かな」
対艦の発射を依頼するにしては曖昧極まりない理由であったが、リョーコ同様に実戦経験者であった第三CCの主任管制官はその判断に異を唱える事は無かった。
主任管制官は、アマテラスSCC(セントラル・コントロール・センター)に判断を仰ぐ事無く即断で第三域を射界に納めている第五主砲群へとリョーコの依頼どうりに発射命令を下命していた。
『了解した“深紅のエース”。待ってろ。今調整中だ。後…………六三秒だ……………………どうした!?…………何?………………………ザザッ………ガッ』
突如として途切れる通信。
「なっ何がどうした三CC!?おい!」
真っ黒なウィンドウに踊る深紅の[close]という文字。
『ECMっスか!?』
『どうなってやがるんだ!』
守秘性の高い近距離用レーザー通信を使用しているお陰で、列機との通信は今だ維持されているものの、【アマテラス・セントラル・ステーション】各部への通信やデータリンク群は完全に途絶していた。
『しかしECMにしちゃあおかしいゼ、コレ』
リンク・システムの状態を再チェックしたアマミヤが、報告するように呟いた瞬間、真っ黒なウィンドウが突如として甦り、そこにはリョーコにとって一年ぶりに見る懐かしい顔があった。
『お久しぶりですリョーコさん。大丈夫ですか』
「ルリか。久しぶり。だがオマエ、こんなジャミング(電波妨害)が強い状況でどうやって通信を繋いだんだ?」
『違いますリョーコさん。コレはECMじゃありませんよ』
『『『おおっ!“電子の妖精”…………かわいぃ〜』』』
ウィンドウボールと俗称されている、球体状に展開された高々度情報処理システムのウィンドウが放つ薄ぼんやりとした光がルリを、正に妖精の如き儚さをもって一同に感じさせていた。
『統合軍に移っちまって失敗だったかなぁ〜』
『………………………………だな』
『録画録画…………』
そんな、何やら感動、あるいは後悔に近い表情を見せている一同を尻目に、ルリとリョーコは言葉を重ねる。
「ECMじゃねぇってどういうこった?」
『ハッキングです。何ものかが【アマテラス・セントラル・ステーション】の中枢電算機にハッキングを仕掛け、それが成功しつつあるんです』
「アマテラスのSC(セントラル・コンピューター)相手に情報戦だぁ?」
『はい。現在の被制圧率は六割り近いですね』
「…………相手はバケモンかよ…………ルリの方からは何とかならねぇのか?」
『残念ですが…………』
「だろうな」
やや顔を済まなさそうに歪めたルリに対して、リョーコは割合とサバサバとした表情で納得していた。
純粋に技術的な側面から見れば、ハッキングの撃退と電算機群の再制圧は不可能でない。いやそれどころかルリとオモイカネをもってすれば“確実”といっても過言では無かった。
だが法規的に、その行為は現場の総監督の許可を得ずに行なうことは許されておらず、その総責任者たるアズマが宇宙軍嫌いで知られている状況では、【アマテラス・セントラル・ステーション】の全てを把握されかねない電算機管制/指揮権をルリに一時的とはいえ譲渡する可能性は無かった。
故にリョーコはさしたる痛痒さを感じなかったが、実はルリにはリョーコに言えない、拒否すべき理由もあった。
それはハーリーに対し、敵のハッキングに同調させて【アマテラス・セントラル・ステーション】中央電算機へのハッキングを命じている事である。
電算機管制/指揮権を譲渡された場合、ある程度の重要情報位ならば自由に閲覧する事が可能となるが、同時にアマテラスの管制室に対しては全てを公開した状態で行なわねばならない為、厳重に封鎖されている情報に触れ、或は持ちかえる事は不可能である為、ルリは確実性の高い選択肢を選んだのだった。
『それより、先程のG−ブラストの方は…………』
「ああコッチも急がねぇとな。さっきのやり取りを聞いてたんなら話ははええ。ルリ、悪いけど例の場所へグラビティ・ブラストをブッ放してくれ」
『即時発射は可能です。ですが今の【ナデシコb】の蓄電率は四一%ですので、であれだけのエリアに照射モードを使用すると、威力レベルは最低の第五級がせいぜいですよ』
「それでいい。構わねぇからぶちかましてくれ!」
『了解しました。ハーリー君……………………リョーコさん発射まで後七秒です……』
【アマテラス・セントラル・ステーション】の避難民収容後、第一種戦闘配置で待機していた【ナデシコb】は、ルリは指示に即座に対応出来ていた。
『…………三・二・一・〇。発射』
広大な領域へ向けて撃ち放たれたグラビティブラスト。
その破壊力の低い重力波は宇宙塵を粉砕しつつ拡散し、そしてリョーコの目的のモノを漆黒の宇宙に明るく浮かび上がらせていた。
『ビンゴ!姉御、第三域L−三−27、ヤツです!距離七四〇〇〇!!』
バイアンが叫ぶ。
そこにはグラビティブラストとディストーションフィールドの反作用によって発光し、位置を露見させた【ブラックサレナ】の姿があった。
【ブラックサレナ】はディストーションフィールドを利用した光学迷彩に身を包み、機載型の各種センサーに引っ掛からぬ様に機関出力を絞り、慣性速度のみをもって【アマテラス・セントラル・ステーション】へと再接近を試みていたのだった。
「おっしゃぁ!野郎どもオレに続けぇ!!」
『『『応っ!!』』』
大小併せて六枚の重力波ユニットを一杯に広げた四機の【エステバリス・カスタム】は深紅のリョーコ専用機を先頭に、その技量の高さを示す緻密な編隊を組んだまま、爆発的な加速で【ブラックサレナ】に突進を開始した。
『武運を。リョーコさん』
今、漆黒と深紅が衝突する。
方や、喪われた存在の為に戦う黒い復讐者。
相対するは、欺瞞された理想の盾とされたもの達。
狂宴はさらに激しさを増していく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【ケイ氏の独り言】
どうも相変わらずにも、リズム感無しな戦闘シーンしか描けないケイ氏です。
頑張ってるんですけどねぇ〜、どうにも才能の不足って奴だけは補えません(笑)。
EiWで慣れた分、近接白兵戦ならそこそこにはなるんですけど、機動兵器同士の銃撃戦はどうも難しいもんです。
ホンネを言えば本章内で、ブラックサレナとリョーコちゃん率いるライオンズシックルスの面々とのドックファイトをやっちゃいたかったんですが、悪癖(底無しに書くのが遅くなる)が出そうなんで止めときました(笑)
あと、冒頭のセリフですが、知るヒトの知る吸血鬼ガンアクションの「ヘルシング」からです。
本来は二巻の主悪役の一人ヤン・バレンタインの台詞ですが、このお話にはより凶悪な闇を内在させたウォルター・C・ドルネーズ氏(元ヘルシング−国教騎士団−ゴミ処理係)の方が似合っていたんで、コッチで書きました。
しかしコレって面白いけど、英国への偏愛が強化されすぎるのが問題かな(笑)?
“名誉も守れぬ繁栄など何の意味があろうか”
う〜ん甘美なセ・リ・フ。
では次章までさぁ〜よぉ〜なぁ〜らぁ〜
…………う〜む、再捕獲した猫はネコじゃ無かったようです。
もっとヤバイ本性が丸出しに(笑)
だぁ〜アプロ、俺の頭を噛るな!
噛るのは海賊だけにしといてくれ!!
艦長兼司令の独り言。
ケイ氏さんの連載、第4話です。
冒頭の一文に爆笑してしまった私は何者でしょう(笑)
いや、あのマンガ私も好きですから(爆)
さ、いよいよおっぱじまりましたね。
なんとなく、手際悪いぞ、アキト(笑)
罠とわかって飛び込むのは、自分の戦力がよほど強大でもない限り、しちゃダメ(笑)
さあ、ここからケイ氏さんが劇場版をどうさばくのか?
見物であります。
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