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というわけで、民主主義には二度万歳をしよう。

一度目は多様性を許すからであり、二度目は批判を許すからである。

ただし、二度で十分

 

フォースター(英国の小説家、批評家)

 

 


機動戦艦ナデシコ

異話 The Prince Of Darkness

第九章【策謀と混沌】


 

 

 それを艦隊前衛部隊に属するLRRS(遠距離レーダー衛星 Long Range Radar Satellite)が捕捉したのは、第一連合艦隊(1CF)が地球まで残り七日程度の距離まで接近した時であった。

「LRRS−5と7が察知しました。現在、予備の2番と11番衛星もバックアップに回しています。観測開始まで後三〇です」

「プラマイゼロの〇時。ドンぴしゃんの地球方向からの来訪者か………」

 辛くも第一次〈火星の後継者〉会戦を生き延びていた【メルバ】は前衛艦隊へと配され、光学/電子索敵艦としての機能を十分に発揮していた。

 その【メルバ】の統合情報管制所が現在、一三機のLLLS管制までも行い、1CFの眼と成っていた。

 【メルバ】が搭載していた大型の電子/熱源観測機器とが更なる調査を行った結果、対象の総数は18と、熱源波形観測でその全艦が戦闘艦で在ることが判明していた。

「常識的に考えれば味方、ですよね?」

「ああ。【ヒサゴプラン】が機能停止している筈の現在、〈火星の後継者〉軍が我々(1CF)よりも先に地球へと到達している筈は無いからな」

 地球方面から敵〈火星の後継者〉軍が来るはずは無かった。

 だが、言い合う情報管制官の顔色は優れない。

 大規模ボゾンジャンプ戦術と云う新戦術を実戦に投入した〈火星の後継者〉軍に、更なる新技術が隠されているのではとの思いがあったからであった。

「まぁいい。此処で推測していても始まらんさ……後ろ(1CF本隊)へは情報を送っているな?」

「はっ現在、中継艦を出して直接リンクを展開しています」

「なら上(艦隊首脳部)が考えるさ」

 

 

 前衛艦隊より届けられた正体不明の艦隊、接近中との一報に、1CF旗艦と第一航空戦隊群(1AG)の旗艦を兼ねている【フォン・リヒトフォーフェン】の3C(中央戦闘指揮所 Central Combatdirection Center)は緊張に包まれていた。

「……統合軍からの後詰めか?……」

「……それはあり得ない……」

「……敵か?……」

「……だがしかし……」

「……地球は……」

 その正体に対する推測を参謀陣が述べきった時に、艦隊総司令官であるシェクリンス・カースン代将が口を開いた。

「詳細は判明しているのか?」

 第一次〈火星の後継者〉会戦以降の撤退戦の殆どを3Cに詰めていたシェクリンスの顔には疲労の色が強く浮き出ていた。

「不明です」

 得られた情報の整理を行っていた為に参謀陣では只一人、議論へと参加していなかった戦務参謀が口を開く。

「大小併せて一八の反応が出ていますし、後一日接近すれば在る程度までの艦種は判明しますが………」

「その代わりにやり過ごせなくなる。そう云う事だな?」

「有り体に言えばその通りです。もはや残余推進材は危険域にまで低下しています」

 艦隊の状態は控えめに言っても最悪であった。

 医療品や食料、それに酸素と云った物にこそ問題は発生していなかったが、殆どの艦艇は被弾し、小破以上受けていた。

 本来、第一連合艦隊は多種多様な補助艦艇を引き連れていたが、第一次〈火星の後継者〉会戦時にこれら補助艦艇の大半を沈められており、第一次〈火星の後継者〉会戦にて被害を受けた艦の修理は行われていた。

 無論、シェクリンスら1CF首脳陣とて手を拱いていた訳ではない。

 特に重度の破損を受けていた艦艇を中心に一三隻を部品供与艦とし、これの艦より様々な部品を剥ぎ取って残る艦の修理部品へと転用し、総体として艦隊の戦闘力維持に務めていた。

 だがそれでも現状、何の補給も無しに戦闘可能な艦は二〇隻にも満たない程度でしかなく、他の艦は進路変更用の推進材にすら事欠いているような状態であった。

「………ならば方針は一つだ。命令“前衛艦隊ハ第一連合艦隊ヨリ前進シ、正体不明艦隊ヲ調査、此ガ敵デアッタ場合ハ殲滅シ、第一連合艦隊本隊ノ航行ノ安全ヲ確保セヨ”だ。正式な文面は通信参謀、君に一任する」

「了解しました」

 慌てて文面作成を始める通信参謀。

 命令が発せられ、慌ただしく動き出す3C。

 その時、航空参謀が口を開いた。

「機動兵器部隊はどうしますか?」

「一個中隊(航空中隊)を爆装で、後は防空任務に専念だな」

「確かにもう一度ボゾンの組織攻撃を受けては堪りませんからな」

「そう云う事だ」

「判りました」

 不承不承といった顔で肯く航空参謀。

 航空参謀は、先の第一次〈火星の後継者〉会戦の防空戦にて些か不面目な事態へとなったと感じていた為、今回の攻撃にて失地回復をと思っていたのだ。

「そう不満げな顔をするなコクサ(航空参謀)、次があるさ」

 少しだけ相好を崩して口を開いたシェクリンスに、航空参謀は苦笑いに近いものを浮かべて肯いていた。

 

 

 

 

 

 

 果てしなき虚空を突き進む一五の天狼の群。

 1CF前衛艦隊は傷ついた1CFにとって唯一の即応戦力として十分な推進材を割り当てられていたお陰で、この正体不明艦隊との接触に於いても十分な戦闘機動が可能な状態にあった。

 既に正体不明艦隊を補足してより二日後、その艦艇の類別もほぼ完了していた。

 三つの戦艦、或いは航宙母艦(空母)と思しき大強度熱源反応を中心に、一三つの中、小強度熱源反応が付き従っている。

 距離が近づいた事によって明瞭な形で捉えられた熱源波形は幾つかこそ識別不能ではあったが、その殆どは連合宇宙軍が開発し統合軍が配備してきた艦種のものであった。

 恐らくは大型の一個機動任務部隊(Task Force)

 地球の宙域より来る事から考えれば1CFへの増援、或いは支援の艦隊。

 だがそれで安心出来る様な状況では無かった。

 一つの危険性としては、この正体不明艦隊が元々は統合軍に所属しており、その後、〈火星の後継者〉軍へと参加した部隊と云う事があった。

 或いは、システムの中核を成していた【アマテラス・セントラル・ステーション】の崩壊後、その機能を喪失していたヒサゴプランを〈火星の後継者〉軍が何らかの手段によって復旧させた可能性もあった。

 故に1CF前衛艦隊司令は距離が詰まると同時に属する艦艇を三つの群に分け、それぞれに砲雷戦用の単縦陣を形成させて突き進んでいた。

 緊迫の度合いを増していく前衛艦隊。

 既に前衛艦隊司令は隷下の全艦へと第一種戦闘配置を発令しており、各艦は今や遅しと攻撃命令を待っていた。

 本来、直接接触せずともIFF(敵味方識別装置 Idenfification Friend or Foe)或いは遠距離通信による確認が出来る筈であったが、太陽の活動活性化によって中、遠距離の電波通信システムは、そのほぼ全てが能力を喪失していた。

 そんな前衛艦隊の直ぐ脇を、直衛として付けられた三個の航空中隊が駆けていた。

 先の第一次〈火星の後継者〉会戦にて手酷い被害を被っていた1CF隷下の機動兵器部隊にあって練度及び、状況(人員、装備の充足率)から最良の状態と判定された部隊であった。

 【イージーライダース】に【ブラックライトニングス】、そして【ライオンズ・シックルス】。

 全部隊が前大戦以来の熟練操縦者を揃えている、流石は熟練部隊と評すべき状況であった。

 正体不明の艦隊が敵であったあった場合、本隊の安全を確保する為には此を絶対に一戦をもって揉み潰す事が必要である為、シェクリンスは前衛艦隊にこれらの艦隊最精鋭の機動兵器部隊を支援部隊として付けたのだった。

 緻密な編隊を維持したまま飛び続けている四十二機の機動兵器。

 そして【ライオンズ・シックルス】の先頭を征くは当然ながらも深紅の個人塗装が為された【ライオンズ・シックルス】隊々長機であるスバル・リョーコ大尉の乗機であった。

 

 

 三六〇度、全方向モニターに包まれた【エステバリス・カスタム】のコックピット。

 全面へとモニターパネルを設置する事によって、まるで宙に浮いているように感じられるバッケットシート。その正面に設置されたタッチセンサー式パネルに表示されている目標との相対距離を表示するカウンターが、凄まじい速度で減少していく。

 緊張と興奮。

 デジタルカウンターが減少していく意味を正確に理解しているリョーコは、その様を楽しげと評しても良い表情で眺めていた。

「聞く迄もねぇがテメェら、準備は出来てんな?」

 極めて乱暴とも評し得るリョーコの言葉に、直属の第一小隊に属する三名より即座に返信が返ってくる。

『アイ!隊長』

 僚機であり、同時に中隊副長も兼ねるアマミヤ・カンジが左手親指を立てて返事をする。『問題無しです』

 アレクセイ・V・チョムスキィ中尉が大雑把な作りの貌を殆ど動かす事無く、淡々と応えた。

『たっぷりと暴れて見せますよ』

 ルイ・ディボア中尉の返信は茶目っ気をたっぷりと含み、ウィンクが一つ付けられていた。

「へん、良い返事だなルイ。あん時(第一次〈火星の後継者〉会戦)の分まで暴れっぞ?」

『姉御の御心のゆくまでに』

「気取りやがって………………連中の仇をとるぜ」

 小さく、とても小さく付け加えられたリョーコの言葉。

 それは喪われた三名の仲間へ捧げられたものであった。

 【ライオンズ・シックルス】航空中隊は第一次〈火星の後継者〉会戦によって三名が戦死し、一名の補充を受けており、現在、航空中隊々長であるリョーコ自身も含めて一二名で編成されており、それ故に第一小隊をリョーコが直率する事と為っていたのだった。

 或る者は発艦の間際、母艦である【アルミランテ・セルヴェラ】の爆発に巻き込まれて。

 又ある者は離艦直後、十数機の無人機によって袋叩きにあって。

 そして、無人機に狙われた避難艇を護るために自機を盾として散った者も居た。

『連中の弔いやっで、派手にぶちぱりましょうや姉御!』

 戦死した第三小隊々長に代わって、【ライオンズ・シックルス】航空中隊第三小隊々長となったジル・クレームが口を挟んだ。

「だな」

 リョーコの口元には、遮光バイザー越しにもはっきりと影が刻まれて見える笑みが浮かんでいた。

 

電子音

 

 近距離用レーザー通信機の着信を知らせる音。

『マッハベースよりリーダー、貴編隊は先行する【ハツユキ】に追従し、此を支援せよ。送レ』

 それは前衛艦隊に配された唯一の空母【ハーミス】の航空指揮管制所から発せられた命令であり、その内容は前衛艦隊に先行して正体不明の艦隊と接触する先行艦への支援を行うと云う事であった。

 メインディスプレイの脇に新規に展開されたウィンドウには、一般に特型とも呼称されている【フブキ】級の六角錐を思わせる船殻をした【ハツユキ】が前衛艦隊を離れ、更なる加速をしていく様が映し出されている。

 戦前に最良の対艦駆逐艦として設計された【ハツユキ】はその防空能力の低さから、戦中、戦後の駆逐艦任務の転換−対艦攻撃ではなく集団での防空戦闘を主任務とするに伴って旧式艦と分類されてはいたが、同時に対艦戦闘を行う為に与えられた高度な電測機器や高い個艦戦闘能力から、この様な高速偵察艦としての任務を行う事の多い艦であった。

 新鋭ではあっても練度や経験不足の艦が殆どをしめる1CFに於いては、ある意味、宝石よりも貴重な艦であった。

「リーダー了解。ROE(Rules of Engagement 交戦規則)は?」

『残念ながらAD−3、UF(Unidentified Fleet 未確認艦隊)への未確認先制攻撃は認められません。【イージーライダース】と【ブラックライトニングス】は即応待機させているから安心してください。マッハベース、終ワリ』

「ROEがP(AD−3)で何に安心しろって?」

 通信ウィンドウが閉じられると同時に小さく悪態を吐くリョーコ。

 交戦規則AD−3とは平たく言えば“敵を敵だと確実に認識して後に交戦する”と云うものである。

 地上的な認識ならば此でも余り問題は無いが、事、場所が一刻一秒を争う宇宙空間ともなればこの相手を確実に敵と認識する行為は自殺行為以外の何者でも無かった。

 故に交戦規則AD−3は俗に“P(Scapegoat 贖罪の山羊)”と呼ばれ忌み嫌われていた。

 忌々しげに舌打ちをしつつリョーコは通信機を航空中隊系に切り替え、苛立ちを吐き捨てるように命令する。

「野郎ども、聞いての通りだ。敵に一発殴られるまでは撃てはしねぇがその後は暴れ放題だ!派手に行くぞ!!」

 

『『『『『『『『『『『応!』』』』』』』』』』』

 

 一斉に、只一言だけを口にする【ライオンズ・シックルス】隊々員。

 その合奏に陰のない笑みを浮かべたリョーコは、【エステバリス・カスタム】の主推進機制御桿を巡航から戦闘へと一気に押し込む。

「付いてこい!」

 

閃光

 

 リョーコの操る【エステバリス・カスタム】は盛大に推進材を消費して、加速を開始した【ハツユキ】へと突き進む。

 そして【ライオンズ・シックルス】隊々員の操る機体もリョーコ機に些かも遅れる事無く、そして編隊を崩すことなく追従する。

 

 

 

 第一種戦闘配置によって常灯の消された【ハツユキ】トリプルCは、赤黒い非常灯とディスプレイのみが光源となっていた。

 元来が数隻の駆逐艦で編成される駆逐隊の指揮を務める嚮導駆逐艦として建造された【ハツユキ】のトリプルCは、駆逐艦のものとしては極めて大きな容量があり、其処へ駆逐隊の指揮管制用の電算機器が搭載されていた。

 そして現在、それらの電算機器は電子戦闘用電算機へと換装されていた。

「電波状態はどうか」

 電測士官長へと苛立ったような声で問うた【ハツユキ】副長。

 だが電測士官長からの返答は膠も無いものであった。

「中、近距離通信システムは全て不通。IFFも受信不能です」

 先遣艦隊旗艦より先行調査任務を与えられてから一時間。その間に幾度と無く、それこそ5分置きに同様の事を問いかけてくる副長に、電測士官長の愛想も底をついていた。

「そうか」

 【ハツユキ】と先遣艦隊の周囲の電波状態は相変わらずに、否、地球が近づくにつれて益々悪化していた為、未だ中、近距離用通信機は使用出来ない状態であった。

 因みに遠距離用通信機は、その惑星間通信すらをも可能とする電波出力故に周囲へと艦隊位置を暴露する危険性が高いが故に現在、その使用が停止させられていた。

「恐らく此は自然のものでは無いな」

 髭や頭髪に少なからず白髪の混じっている、正に好々爺然とした風貌の【ハツユキ】艦長は、トリプルCに充満する緊張感を無視した、何処かしら学者を思わせる柔らかな口調で呟いた。

「電波障害が、ですか?」

 眉を顰め、確認するように言う副長。

 【ハツユキ】に配属されてまだ間もない彼は、この以前に電測学校の教官をしていた事があったと云う艦長の雰囲気が演技なのか、それとも地なのか判断しきれずにいた。

「そうだ」

「はい。確かに今まで観測された事の無い事象ですが、だからと云って………」

 正面から上官の言葉を否定する訳には行かず、濁す副長。

 

電子音

 

 その時であった。

 電測士の一人が声を上げたのは。

「UFとの相対距離四〇〇〇〇、光学IFF圏内へと入りました!」

 その瞬間、艦長は既に決断済みの言葉を発する。

「宜しい、敵味方識別灯点灯!近距離用レーザー通信機、発信せよ!!」

 船殻前部に設置されたマストが青色灯を三度、断続的に点灯する。

 返信は無い。

 

青・青・青

 

 再び点される識別信号。

 

沈黙

 

 強い緊張を含んだ沈黙がトリプルCをおし包む。

 誰かが飲み込んだ固唾の音が大きく響いていた。

「返信、ありません」

「戦と…」

 艦長が【ハツユキ】の最終的な戦闘準備命令を発しようとした瞬間であった。光学観測機操作士が声を上げたのは。

「応答信号あり!識別信号、青・青・青。友軍です!」

 その声には純粋な歓喜があった。

「続いてレーザー通信、受信します!」

 その言葉が終わるよりも早く、艦長の眼前にウィンドウが展開された。

『初めまして。私は地球連合宇宙軍第四艦隊所属第一独立戦隊司令兼、同旗艦【ナデシコb】艦長のホシノ・ルリ少佐です』

 ウィンドウの内側には、一般に“電子の妖精”との名で知られる宇宙軍名物艦長の可憐な敬礼姿が映っていた。

 溜息。

 そして安堵、或いは様々な感情が入り交じった表情で答礼をし、それから官姓名、そして所属を口にする【ハツユキ】艦長。

「地球連合統合平和維持軍第一統合艦隊。先遣部隊所属【ハツユキ】艦長、ヨーゼフ・ヘルムント中佐。さっそくで悪いが少佐、宇宙軍がこの宙域で何をやっているのかね」

 単刀直入。

 その単語そのままに問いかけるヨーゼフ。

 実際、1CFには余裕が殆ど無く、戦うにせよ退くにせよ素早く決める必要があったのだった。

 そんなヨーゼフに対するルリの返答も又、直截的であった。

『貴艦隊への援護です』

 その言葉と同時に、ヨーゼフの眼前へともう一つのウィンドウが展開される。

「ほう………」

 其処に表示された情報−ルリの第一独立戦隊が持ってきた様々な物資のリストに副長が感嘆にも似た言葉を漏らした。

『工作艦と病院船も連れてきました』

 

 

 ルリとの、合流に関する細々とした打ち合わせを終えたヨーゼフは矢継ぎ早に命令を発する。

「電波管制解除、1CFへ通信。“邂逅ス。UFハ敵ニアラジ”それから、第一独立戦隊の情報と例のリストも付けてな」

「了解!」

 慌ただしさを増す【ハツユキ】トリプルC。

 その時、リスト内容を確認していた副長が言葉を漏らした。

「しかし何故………」

「どう云う意味だ副長?」

「はい艦長。リストです。病院船や軽度の補修物資までは理解出来ますが戦隊には工作艦、それも大型の【アカシ】級が3ハイ(隻)も含まれています。この【アカシ】級の能力と補給物資の総量ならば艦隊(1CF)の殆どを修理可能です」

「急ぎすぎている………か?」

「はい。1CF本隊も後5日程で地球圏へと到着する位置です。ならば工廠………そうですね、月衛星軌道上の第二軍需工廠辺りならば無理に工作艦で修理するよりも………」

「だがそれよりも、だ副長。その様な事を言い始めると何故、宇宙軍が支援に来る。何故、統合軍ではない?」

「それは………」

「情報が少なすぎるのだよ副長。今は眼前の事に全力を尽くすべき時だ」

 一瞬の逡巡、そして返答。

「はい」

 そして副長は、まず自分の為すべき事を始めた。

 

 

 

 

 

 

 敬礼。

「地球連合宇宙軍第四艦隊所属第一独立戦隊司令兼、同旗艦【ナデシコb】艦長のホシノ・ルリ少佐です」

 答礼。

「地球連合統合平和維持軍第一連合艦隊司令シェクリンス・カースン代将だ」

 【フォン・リヒトフォーフェン】艦内に設けられた士官室にて些か格式張った挨拶を交わした両者はそれから少々の雑談を交え、そして本題へと入った。

 

 

「戦時特別法だと?」

「はい。戦時特別法が布告されました。この結果、統合軍全組織は連合軍の統帥下に入る事が決定しました」

 言葉とともに差し出された一枚の書類。

 其処には統合軍統合参謀本部からの命令、1CFの全艦が宇宙軍へと編入される旨が書き記されていた。 

「我々は今後、どうなるのかな?」

「第一連合艦隊主力はリンガ泊地へと移動後、艦艇の修理と人員の補充を受け、第七航空戦隊としての再編成と訓練に従事してもらう事となっています」

「リンガ、月衛星軌道上であれば第二軍需工廠の方が艦艇の修理能力は高いのでは?」

 眉を顰めて口にする参謀長。

 道理であった。

 同じ月衛星軌道上に存在する艦隊拠点であれば、統合軍管理下の第五宇宙港“リンガ泊地”よりも宇宙軍及び日米英の宇宙軍が共同管理をしている第二軍需工廠“エンジェルズ・ネスト”の方が規模も大きく、医療設備も整っていた。

 如何にルリの第一独立戦隊が病院船を二隻連れて来たとは云え、第一次〈火星の後継者〉会戦にて人員にも手酷い被害を受けた1CFの必要とする量に対して充分であるとは言い難かった。

「我々としては第二軍需工廠への入渠を希望したい」

 強い口調で言い放った参謀長。

 彼には、宇宙軍が故意に外様である1CFを蔑ろにしていると感じられたのだった。

 敗軍の将である自分ら1CF首脳陣を蔑ろにするのであれば、敢えて甘受せねばならない面はある。

 だが1CFに属すると云う理由で傷ついた将兵を蔑ろにされる事には納得できない。

 その強い思い故に、その視線は凄まじく厳しげなものであった。

「どうなのかね、ホシノ少佐」

 日頃は最も嫌う階級を嵩に着る口調で言い放った参謀長の中佐。

 その内心を理解出来るが故に口を挟まぬシェクリンス。

 彼は、後にこの行為の責任が問われた場合に、自分が一切の責任を負うつもりでルリの言葉を待った。

 嶮しい表情でルリを見つめている二人。

 だが、ルリの返事は二人の想像を絶するものであった。

「何、物理的不可能だと?」

 呆けた様に呟く参謀長。

 対するルリは淡々と簡易端末を操りながら答える。

「はい。現在、第二軍需工廠は全力稼働中であり、入渠は物理的に不可能なのです」

 予め、この様な話題が出る事が予測出来ていたのだろう。

 ルリは二人の眼前にウィンドウを展開させると、現在の第二軍需工廠の状況を纏めたものを表示していた。

「これは!?」

 ウィンドウには同時に五〇隻近い艦船の修理、点検、改造それに新造が可能な第二軍需工廠の巨大空間船渠が艦艇によって埋め尽くされている様が映っていた。

 それも殆どが小破等ではなく大、中破と云った損害を被っていた。

 

電子音

 

 医療施設の使用状況が表示されたウィンドウも重ねて表示される。

「!」

 其処には、第二軍需工廠の医療施設が一七〇%近い使用状況となって事が表示されていた。

「これはどう云う事なのかね、ホシノ少佐」

「もしや〈火星の後継者〉軍が地球圏へ!?」

「違います」

「では何故?」

「第一連合艦隊による討伐作戦の失敗からG−Thirteenが割れました。ユーラシア諸州連合(中印朝)が〈火星の後継者〉との和睦を主張。当然ながらも海洋諸州連合(日米英)が正面から反対し、〈火星の後継者〉対策臨時評議会は決裂………」

「叛乱が発生したと!?」

「はい。初手は中華人民国宇宙軍予備役軍人勇士によって編成された義勇軍による攻撃でした」

「義勇軍、それも予備役だと。ふん、連中(中華人民国)の古典的常道手段だな」

 鼻を鳴らして吐き捨てるシェクリンス。

「だが、これ程の被害は………?」

「この義勇軍に属する中華人民宇宙軍製の新鋭ステルス艦【四不象】が、アメリカ合衆国宇宙軍主力が合戦準備を進めていたハワイ泊地を奇襲し、特一級NN(No Nucleus)兵器を使用しました」

「特一級の州軍装備は禁止されている筈では無かったのか!」

 参謀長は呆然とした表情で、或いは魅入られたようにウィンドウに表示された合衆国宇宙軍の被害状況を眺めていた。

 州宇宙軍で唯一、独自の宇宙港(泊地)を持つアメリカ合衆国宇宙軍を壊滅させた、たった一発の特一級NN兵器。

 それは、理論上、地球を一撃で破壊できる物すらも作れるとされている純粋水爆(Purity Hydrogenbomb)の事であり、特に“特一級”とランクされているそれは、俗に衛星破壊規模弾と呼ばれている戦略級広域破壊兵器であった。

 その威力故に特一級NN兵器は州軍の装備が禁止されており、そして宇宙軍や統合軍でも地球連合評議会によって管理されている兵器であった。

 その管理の厳重さは、地球連合が存亡の危機にあった【第一次汎太陽系戦争】に於いてすらも、二発が使用されたに過ぎないと云う事実に表されていた。

 正しく禁断の兵器であった。

「義勇軍の宣伝では〈火星の後継者〉軍から提供された物との事です。これ以降、中華人民州政府は先進国を主張していた列強から人民の真なる独立を勝ち取る事を目的とした戦争−宣戦布告を海洋諸州連合へと行いました。また、同日に常任理事特別権限にて臨時評議会を解散させ、現在、地球連合の評議会機能は麻痺状態へと陥っています」

「何ともまぁ………」

 そう呟くと参謀長は力無く椅子へと身を預けていた。

「正しく混沌だな。だがならばどうやって戦時特別法が布告されたのかね?アレは総会の………」

「はい。中華人民州による宣戦布告の翌日、地球連合首相であったヴァンズ・D・ブリュント氏が地球連合への背任を理由に告訴され、地球連合評議会議長であったジル・クレイトー氏が地球連合首相代行へと就任し、その首相権限で布告しました。現在、評議会自体が機能停止状態である為に地球連合総会も開催される事無く、現在問題なく実施されています」

「………」

 ルリの口から語られた、地球の容易ならざる状況に、シェクリンスも押し黙っていた。

 

 

 

 

 

 

 只一人の恰幅の良い男が緻密な細工の施された椅子に座っていた。

 その部屋の窓には厚いカーテンの下ろされており、照明も又、弱いものしか点されていなかった。

 その部屋が極めて豪奢な作りをしている事は薄明かりの下でも理解出来たが、落とされた明度と老人の纏う雰囲気相まって今は一切の明るさと言うものを感じさせなかった。

 俯いたまま微動だにせぬ男。

 男は、正確には壮年と評すべき年代であったが、その雰囲気は老人とすら言い得るものであった。

 男が死んでいないと言う事は、僅かに動いている胸元から確認できるだけであった。

 

打音

 

 重厚な、この時代では珍しい木製の扉が乾いた音を立てる。

「………」

 ノック。

 入室許可を求める行為。

 だが男は一瞬だけ身じろいだものの、口を開く事は無かった。

 

打音

 

 再度叩かれた扉。

 だが男は答えぬ。

「………」

 沈黙が支配する部屋。

 時間の流れを感じる事なき部屋。

 

開音

 

 今度はノックされる事無く扉が開かれる。

 扉の先は煌々と照明の点された廊下。

 その廊下より逆光の中、ファイルバインダーを持った一人の痩身の男が部屋に入ってくる。

「久方ぶりだな、ヴァンズ・D・ブリュント」

 内側に含んだ自信を示すように、ゆっくりと歩み入りながら痩身の男が部屋の主−地球連合首相であった男へと語りかける。

「………何の用かなジル・クレイトー君。私は君に用は無いのだが?」

 対する男−ヴァンズは俯いたまま覇気無く答える。

 ヴァンズ・D・ブリュント、第二一代地球連合首相は、未だ地球連合首相の座にこそ就いてはいたが全権限は凍結され、その身柄は地球連合情報庁の手によって地球連邦の首都【クリストス(旧メルボルン)】内の高級ホテルの一角に幽閉されていた。

「何、只の宣告を告げるために来たのだよ。本来はもう少し早く来たかったのだが如何せん、貴方の火遊びの後始末が忙しくてな」

 仕立ての良い背広を優雅に着込んだジル・クレイトー地球連合最高評議会議長にして地球連合首相代行は、ゆったりとした動作でヴァンズの向かいの座席に腰を下ろす。

「宣告………か、聞くまでもないな」

 項垂れたまま、唯一見える口元に強い影が刻まれる。

 それは地球連合首相として辣腕を振るっていた頃の迫力、その残滓を感じさせるものであった。

「確かに」

 同意するジル。

 そして一枚の書類を取り出し、ヴァンズへと差し出す。

「地球連合反逆罪で貴方は告訴される。首相職は私の評議長権限として解任する」

「評議長と、首相を一身に、か。民主主義に反するな」

 口元の影が嘲けりを加えられ、より濃いさを益すヴァンズ。

「所詮、それが貴様ら帝国主義者の限界だ」

「呆れたね。それが、その民主主義によって首相の座へと選ばれた人間が言う言葉かね?」

「私にとって民主主義など、貴様ら帝国主義者へと抗する為の道具にしか過ぎない。選ばれた?それは私を選んだ民衆が愚かだった事の証明だよ」 

 喉を引きつらせ、嘲笑うヴァンズ。

 だが対するジルも、より辛辣な笑みを浮かべて口を開く。

「貴方の言い様は詭弁だな。選挙時に虚言を弄する程度は誰でもするかもしれん。だが貴方が首相職権限をもって行った行為の罪は?」

「………」

「職権乱用はその行為を為した人間に起因する。貴方は首相就任時に誓約した地球連合基本法に付随する連合公職者法を犯した。これはどうなのかな?」

 

沈黙

 

 幾ばくかの時間後、再びジルが口を開く。

「都合が悪くなれば沈黙。か、………まぁいい。それよりも本題だ。貴方は何故、中華人民国へと傾斜したのかな」

「尋問か?」

 瞳を細めるヴァンズ。

 対するジルは、朗らかに答える。

「専門的なものは情報庁と統合警察省の紳士淑女諸君が行う事が決まっている。これは単純な好奇心だ。無論、私のな」

「ご苦労な事だな。兼職の職務は忙しかろうに………」

「好奇心は人の原動力だよ。教えては貰えないかな?」

「………」

 再び、訪れた沈黙。

 だが今回の沈黙は短い物であった。

「………新義州市事件」

 少しだけ開かれた口先より只一つだけ放たれた単語。

「当時、北朝鮮と呼ばれていた州(国)の北部に位置していた新義州市を舞台にした事件。この概要は理解しているな、ジル・クレイトー君?」

 大学時代に軍事史学をも学んでいたジルは口中に苦みに近いものを感じながらも、表情に出す事無く黙って肯く。

 

新義州市事件

 

 それは地球連合創設後に発生した最大の戦乱、第三次朝鮮戦争の最中に発生した陰惨極まりない事件の名であった。

 口さがない人々の中には、事件を“新義州市虐殺事件”と評した人間も居た。

 時は第三次朝鮮戦争中期。

 反攻作戦を控えた汎太平洋条約機構軍(地球連合軍の投入は、中華人民国等の反対によって行われなかった)は反攻作戦最大の障壁となる北朝鮮人民民主国軍によって囚われた同条約機構軍朝鮮半島駐留軍々人の救出作戦を計画。

 救出すべき軍人達の総数は七六六名。

 囚われた場所は朝鮮半島北部の都市、新義州市。

 中国との国境も近く、そして中華人民国軍も国境周辺に展開している現在、当然ながらも正規軍の投入は行えない場所であった。

 故に汎太平洋条約機構軍は海軍航空部隊(空母機動部隊)と二個大隊の特殊部隊による強襲救出作戦を立案し、実施したのだった。

「あの時、私の家族は商売の関係上で新義州市に住んでいた。貿易関係だ。あの場所は中国との国境にあり、当時、中国と北朝鮮との貿易は旨味の多い商売だったからだ」

 ジルを見ず、虚空を見上げながら淡々と言葉を紡ぐヴァンス。

「良い街だったよ。人々は優しく我々を受け入れてくれていた。我々だけではない。中国やロシア系の人々も多数住んでいた。そう、あの日までは」

 北朝鮮軍は南侵にほぼ全ての兵力を投じており、新義州市近郊には守備部隊と呼べるものは殆ど展開されていなかった。

 収容施設の詳細も入手出来ていた。

 歴戦の指揮官の多い汎太平洋条約機構軍にとって、最早それは児戯に等しい作戦であった。

“行って帰ってくるだけだ”

 出撃直前、親しい整備兵にそう漏らしていた日本国海上自衛隊の熟練戦闘爆撃機搭乗員も居た。

 一時的な航空優勢を確保後、空挺特殊部隊が捕虜を解放し、其処へ垂直離着陸型の輸送機を投入する事によって脱出させると云う、投入する兵力さえ間違わなければ極めて効果的な、単純にして荒っぽい作戦であった。

 だが現実は手酷いものであった。

 確かに北朝鮮正規軍は新義州市に駐留しては居なかった。

 だがその代わりに訓練を受け、武装した市民が存在していたのだった。

 しかもその武装は小銃程度だけではなく、携帯型近距離対空誘導弾や使い捨ての対戦車奮進砲等すらも装備していた。

 最新型でこそ無かったが、その数は尋常では無く、又、その戦意に不足、そして迷いは無い。

 この戦争を始めたのは市民らの側の政府ではあったが、市民らにとってこの戦いは自らの故郷を、そして家族を護る為の戦闘であったのだから。

 だが退けぬ事は汎太平洋条約機構側にとっても同様であった。

 開戦劈頭、国境線で孤軍奮闘した戦友をなんとしても救出する。

 その一念で、北朝鮮北部最大の都市新義州市へと侵攻していったのだ。

 両者は互いに引くことなく、故に新義州市は正しく地上の煉獄と化していた。

 高層化した市街地の何処其処からゲリラ的、通り魔的に攻撃を仕掛けてくる新義州市乃民に対し汎太平洋条約機構軍は、圧倒的な火力で相手を押し潰す事で前進していっていた。

 激しい、だが短い戦いの後に捕虜収容所より解放た汎太平洋条約機構軍兵士。

 長い俘虜生活で疲労した捕虜達であったが、戦友達による強襲解放はその疲労を吹き飛ばすものを含んでいた。

 歓喜が、陰湿な雰囲気を持っていた捕虜収容所、新義州市市街中央部に設けられた白亜の建物に木霊する。

 だがそれこそが罠。

 日米同盟を主軸として結成された汎太平洋条約機構軍の強大さを知悉した北朝鮮陸軍参謀本部が汎太平洋条約機構の指導部、並びに全地球連合参加諸州の人々を標的として仕掛けた罠であった。

 汎太平洋条約機構軍の救出部隊が捕虜収容所へと突入、俘虜を解放し脱出を試みたその時、それまでどれ程に新義州市の市民軍が叩かれようとも隠れ潜んでいた北朝鮮軍及び、義勇中国軍の将兵が一斉に攻撃を開始したのだった。

 

 

 だが、その事に気付いた時には既に突入した特殊部隊将兵並びに俘虜の大半が死傷していた。

 空は、それまで温存されてきた精鋭の北朝鮮義援空軍が極めて限定的ながらも航空優勢を確保しており、勇敢なパイロットに操られた戦術輸送機が幾度か脱出を試みるも、その都度に焼けこげた輸送機の残骸と人であったものが散乱させるだけであった。

 そして陸路で目指すのに海は余りにも遠く、正に脱出不能であった。

 連隊規模で襲い来る北朝鮮特殊部隊を相手に、捕虜収容所へと立て籠もって防戦する八〇〇名程度にまで撃ち減らされた将兵。

 繰り広げられた血塗れの攻防戦。

 政治的な理由から北朝鮮特殊部隊が殲滅戦では無く制圧戦を仕掛けてきたが故に、汎太平洋条約機構軍側は捕虜収容所を確保出来ていた。

 だが劣勢は覆うべくもなく、翌朝、北朝鮮軍側は余裕をもって拡声器で投降を呼びかけて来ていた。

 最早陥落は時間の問題であった。

 もし陥落し、俘虜並びに救出部隊が敵の手に落ちたならば戦争の動向へ致命的な影響を与えるであろう。

 故に汎太平洋条約機構軍朝鮮半島方面軍司令部は一つの決断を下す。

 

FAE(気化爆弾 Fuel Air Explosive

 

 前線へと投入する予定であった戦術航空戦力や、極東域に展開していく全ての空母機動部隊の航空戦力を一気に投入する事によって制空権を奪還し、その後に“貧者の核”とも評されているFAE−広域破壊爆弾を中心とした爆撃によって、経空撤退の邪魔となる北朝鮮軍や民兵と云った連中を吹き飛ばして生き残った将兵七一二名を収容する事を決定したのだった。

 

 

「全てが終わったとき、新義州市市民で生き残った者は七万名にも満たなかった。五〇万名近く住んでいたのに、だ。確かに二,三万名程度は銃を手にしていたかもしれん。だが被害者の大半は婦女子であったのだ。私はそれが絶対に許せなかった………」

 何かを抱きあげるように両手を差し出したヴァンズ。

「私の妹も、父も母も死んだ。小さかったよ。黒こげとなった妹の遺体はな」

 対するジルは嘲笑うように唇を歪め、そして口を開いた。

「だから、か?」

「そうだ。私は個人的な復讐心から中国に手を貸したのだ。【ドラゴンストライク】と云う名を与えられた作戦が提唱された時、私は一も二もなく参加を決意したよ。あの傲慢極まりない海洋国家連合の者どもに鉄槌を下す為になっ!!」

 確認と肯定。

 ヴァンズの瞳には、妄執に取り付かれた人間に特有の狂気があった。

 その瞳でゆっくりとジルを睨み付けるヴァンス。

 だがジルはその眼光に些かも怯むことは無かった。

 否、ジルの瞳には、その狂気を上回る凶暴さが宿っていた。

 

拍手

 

 乾いた拍手の後、ジルは口を開く。

「素晴らしい」

 まるで肉食獣が口を開いたかの様に響いた言葉。

 その一言にヴァンズは鼻白んだ表情を見せた。

「何が、かね?」

「何、貴方が素晴らしい程の個人主義者である事を実感しただけだよ」

 口元を引きつらせながら笑い、そしてジルはファイルバインダーから一枚の書類を取り出した。

「………」

「これはその【ドラゴンストライク】作戦にて発生した羅災者の詳細だ。ハワイ泊地近宙にて警戒航行中であった護衛艦三隻がNN弾の余波を受けて地球へと墜落した。一隻は太平洋北東部だったが二隻はカンサスと箱根へと墜た。現在、集計されている分だけでも七〇〇万近い被害が出ている」

 

哄笑

 

 ヴァンズはとても楽しげに笑って言う。

「それはとても素晴らしい!」

「そうかな?」

「そうだ!鉄槌が下ったのだ、帝国主義者の頭上に!!」

 手を叩いて喜びを表現するヴァンス。

 その姿には、ほんの少し前まで紳士的態度で知られた政治家ヴァンズ・D・ブリュントの面影は微塵も存在していなかった。

「これでもかね?」

 差し出されたもう一枚の書類。

 最初は怪訝な顔つきで、そして最後には険しい顔つきで書類を睨むヴァンズ。

「これは、正気なのか!」

 それは海洋諸州連合から中華人民州へと行われた宣告の写しであり、その内容は、要約すればただ一言“我々(海洋諸州連合)はあらゆる手段をもって、貴国(中華人民国)を滅ぼす”と云う事であった。

「貴様は地球連合を預かる者として、此を許すつもりなのか!」

 一瞬だけ、復習者ではなく政治家としての顔を見せたヴァンズ。

 対するジルは、口元へ獣のような笑みを張り付けていた。

「彼らの受けた被害を思えば、反対する理由は無いと思うが?それが例え軌道爆撃艦を使用する事であっても」

 一〇〇発近い対地NN弾頭誘導弾を装備した軌道爆撃艦と云う艦種は、一艦を以て広大な地表を焼き尽くす事が可能な能力を持つため、特一級NN弾と並び地球連合評議会の厳重な監視下に置かれた兵器であった。

「馬鹿な!」

 声を荒げるヴァンズ。

 其処には、それまでの狂気ではない意志が込められていた。

「軌道爆撃艦の使用などを許可すれば、中国は………いやそれよりも地球連合評議会の許可は!」

「貴方が巻き起こした混乱で、案外、簡単に使用許可は出せたよ。今頃は連合艦隊(日米英三州連合艦隊)が露払いに中華人民宇宙軍を殲滅している頃ではないかな?」

「何という事だ………」

 衝撃の顔色を無くしたヴァンズが、呻くように漏らす。

 その時、ジルが呟く。

「私は幸せ者だな」

「何故だ!」

 それは、ジルが海洋諸州連合に苛烈な復讐を許可した事への問いかけであり、その事をジルも理解してはいたが、その口より紡がれた言葉は全く別のものであった。

「いや、全くの幸せ者だ」

 感情が一切抜け落ちた口調で、再度繰り返された言葉。

 そして言葉を紡ぐ。

「復讐を直ぐに、公権力をもって出来るとはね」

 とても楽しげな口調。

「?」

「私の妹がね、住んでいたのだよ。箱根には」

 

哄笑

 

 それはさながら、人の皮を被った悪魔の笑い声であった。

 

 

 

 

 

 

 【ナデシコb】内に設けられたブリーフィングルーム。

 其処でリョーコは、【ライオンズ・シックルス】航空中隊に属する一一名のパイロットを前に訓辞を行っていた。

「まあこのフネに乗り込まさせられた時点で大体予想はしていたと思うが、俺らは今後、第一独立戦隊旗艦【ナデシコb】所属の機動兵器部隊として運用される」

 その一言に、一瞬だけ沸く【ライオンズ・シックルス】航空中隊の一同。

 以前、【アマテラス・セントラル・ステーション】から地球へと帰還する時に【ナデシコb】へと便乗させて貰った時に、この【ライオンズ・シックルス】航空中隊の一同は、【ナデシコb】艦長ホシノ・ルリに惚れ込んでいたのであった。

 もしルリが求めたならば【ライオンズ・シックルス】航空中隊の面々は、一切の躊躇いや含む所なく『はい、お姫様』とすらも呼んだであろう。

 “可愛い”と“美しい”とが絶妙のバランスで成立し、その上で的確な状況判断能力と認識力を持ったルリは一種、崇拝の対象ですらあった。

「そして1CFと分離後、第一独立戦隊はトラック泊地(第七宇宙港)へと帰還する。その後、俺らは新型機を受領する」

「新型機、ネルガル製なんっすか?」

「いや違う。まぁエステ(エステバリス)系ではあるけどな」

 そしてリョーコは、楽しげに口元を歪めて言い放つ。

「【エグゼバイト】だ!」

 【エグゼバイト】、それはネルガル重工以外が初めて製作した【エステバリス】フレームの名であり、〇G戦フレームと空中戦フレームが兼用化される傾向にあって、〇G戦を主軸とする設計が為された最新鋭フレームであった。

 両足はAMBAC−能動的質量移動による自動姿勢制御を考慮した多目的脚ではなく、最低限度の着陸脚機能を与えられた推進ユニットであり、背部にも巨大な推進ユニットが搭載されていた。

 大量に推進材を消費する関係上、地上での運用にはやや難−稼働時間が短いものの、その運動能力は極めて高いものがった。

「採用されたんでっか?」

 瞳を輝かせて言うジル・クレーム。

 統合軍機動学校へと持ち込まれた【エグゼバイト】試作三号フレームに騎乗した経験からジルは【エグゼバイト】フレームに惚れ込んでいたのだった。

「量産型じゃねぇぞ、増加試作型だ」

「問題ねっすね、派手にやれますわ」

 五号フレームに騎乗していたアマミヤ・カンジがとても楽しげに言っていた。

 因みに、【ライオンズ・シックルス】航空中隊が【ナデシコb】に転属させられた理由は、宇宙軍統合軍令本部からの命令によって第一独立戦隊の即戦能力向上−特に機動兵器部隊での向上があった。

 元来、【ナデシコb】は航空中隊の整備、運用能力を保有していたが、政治的な問題から多目的機として一機の【エステバリス】(エステバリス・Typ−S)を搭載していただけであり、故にパイロットも副長であるタカスギ・サブロウタ中尉が兼任していた。

「あんまり盛るなよ、みっともない」

 

圧搾空気音

 

 笑いながらリョーコが言った瞬間、タカスギを連れたルリがブリーフィングルームを訪れていた。

「ご苦労様です」

 その奇襲的な出現に、【ライオンズ・シックルス】航空中隊の面々は、がちがちに緊張し、思わず心配してしまう程に鯱張って敬礼していた。

 答礼するルリ。

 顔には柔らかな笑みがあった。

「………」

 その花のほころんだ様な笑みに、骨抜きにされたかの様に相好を崩した部下達の姿に、リョーコは思わず天井を仰いでいた。

 

 

二〇〇〇 一〇/一二 一一型

 


 

【ケイ氏の独り言】

 

 ども、無茶苦茶に間が空いてしまって、思いっきり“反省!”ってな感じのケイ氏で御座います。

 

 相変わらずにイッちゃってる愚作で御座いますが、今回は更にスパークしてしまいました。

 まぁ多くは書く程のことでは御座いませんが(笑)

 楽しんでいただければ幸いです。

 

 

 次は一つの山場ザマして、出来るだけ早く仕上げる予定で御座います。

 何か最近、宇宙戦闘から離れていますんで、ムッチャ派手に行きたいモノです(ソレは希望−笑−)。

 ええ、出来るだけ(藁 ←ここら辺が最近入り浸っていた某所からの悪い影響(爆)

 

 では。


艦長の独り言。

はい、艦長です。

はい。
なにかスッとした気がするのは私だけでしょうか?(笑)


さあメールを!
ここ!



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