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機動戦艦 ナデシコ IF

〜昨日よりも もっと 優しく〜

第1話 B パート

 

By かすい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………きゃあ、って、もうちょっと何とかならないの、この揺れ?」

 

エリナは、アキトと別れた後、すぐさまブリッジへと移動を開始する。

しかし、伝わるあまりの振動に、思わず愚痴が唇から漏れ出るのを止めることはしなかった。このような事態は、いくらエリナが優秀であったとしても、想像すらしていなかったのだから。

それだけの情報封鎖はしてきていた。

建造開始以来、ありとあらゆる手段を用いて、新造艦の隠蔽工作はしてきていたはずだった。このサセボドックを使用していることすら、軍の上層、それもごく一部のものだけの知る事実。

 

振動。

 

黒髪が、ふわり、流れる。

ついでに、豊かな胸も揺れる。

 

だのに何故、この場所を攻めてきたと言うのか。

結果から言えば、ネルガルの最新技術を投入したこの戦艦があるからであろうことは、すぐにわかる。しかし、どうしてそのことを敵は知っているのかが、不思議だった。

コミュニケで情報を確認してみれば、襲ってきているのは木星蜥蜴だと言うことだ。

(蜥蜴は、どうやってそんな情報を手に入れているって言うの?)

先に言った軍や、他企業ならまだしも。

侮れない。

きり、と歯軋りをしながら、エリナは揺れる体を支えるように壁に手をついた。

後手に回ってしまった現実だけが、エリナの思考を彩る。

 

アキトの方も、もうすでにエステバリスへと辿り着いていることだろう。

急がなくては、いけない。

旧式のものとは言え、エステバリスの戦闘力はなかなかに高かった。それにアキトが乗っていることを考えると、敵を退けてくれる期待感よりも、言いようも知れぬ不安感が募る。

普段の少年なら、まだ良い。

だが、今のアキトは、完全に切れかける一歩手前の状態だ。下手をすれば、敵に壊されるくらいなら、と自分の手でこの艦を破壊しかねない。

いや、確実にする。

アキトが火星育ちであるのは、伊達や酔狂ではなかった。

現状で、自分だけが知る事実だった。

 

ガクン。

再び、エリナを振動が襲った。

 

時間は、刻々と過ぎていく。

新造艦は、きっちりとドック内に置かれているとは言え、あくまでもドック自体に固定されているに過ぎない。ドックそのものが揺れてしまえば、艦がそのまま振動に揺らぐのも、当たり前のことだ。

悲しいかな。

いくら新兵器を満載された戦艦であったとしても、その能力を使えなければ沈む。

自明の理だ。

これは、考える必要すらないことなのかもしれない。

 

「面倒くさいわね…………。こっちは急いでいるって言うのに…………」

呟いた。

すぐにバランスを崩しそうになるヒールの靴。

エリナは顔を僅かに顰めると、支給されたばかりの真新しい靴を脱いだ。指先にたらすように持つと、一睨みしてから、ぽい、背中越しに投げ捨てた。

後ろで、こつん、と物悲しそうな音が響いた。

(もったいないけど………)

とんとん、と足先で床を叩く。

何かに気が付いたのか、悪戯を企む少女のような笑みを見せた。

「この方が動きやすいわ。………後で、アキト君に新しいのを買ってもらうことにしましょう」

自分でも良い思いつきだ、と思ったのかもしれない。微笑はそのまま、満面の笑みへと変わっていった。

通常、決して見せることはない、エリナの表情だ。

余程、考えに気に入ったのか、うんうんと何度も頷いたりもしている。

論理的に、しかし、何かがおかしい。

靴を脱いで捨てたのは、自分だ。ましてや、持っていけば良いものを、廊下へ放置したのも、確かにエリナのはずだった。

その程度のことを、しかし、気にしていてはネルガル会長の秘書は勤まらない。

アキトが急がせたから、靴を脱がざるを得なかった。

それ以外のことは、エリナは考えようとはしなかった。

だから、アキトに新しい物を買ってもらう。

簡単な思考。

(購買の方、充実させといて良かったわ)

うんと高いのを、買ってもらうことにしましょう。

 

才媛も、やはり女の子だと言うことなのだろうか。

 

エリナは揺れを物ともせずに、走り出した。

先程までの戸惑いも何処へやら、驚異的なスピードでブリッジまで辿り着く。艦の構造はすでに確かめるまでもなく、頭の中に入っていた。最短の距離を抜けた。

 

(馬鹿なことは考えないのよ、アキト君っ!?)

 

言葉は、何を意味しているのだろうか。

エリナ自身以外に、知る者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルリちゃん、状況は?」

 

ユリカは、この艦のオペレーターとして着任している妹分に声をかけた。

十一歳とはいえ、少女の持つ能力はこの二年の間で、嫌というほど認識している。可愛いだけで、クルーに選ばれたりなどはしない。

どう動くにせよ、現時点で自分達の置かれている現状が把握出来なければ、全てが徒労に終わる可能性も十分にあった。

すなわち、撃沈。

回避し、生き残るためには、情報は不可欠と言うものだ。

 

操舵席には、社長秘書からスカウトされたハルカ ミナトが座り、通信士として元声優のメグミ レイナード。二人にはさまれるように、艦の全てを掌握していると言っても過言ではないオペレーターにホシノ ルリ。

ブリッジ後方、中央には艦長の自分とその右隣には副長として乗ってくれたアオイ ジュンがいた。ちらりと視線をやると、気遣わしげな表情を返してくる。

昔から、何も変わらない。

そして、さらに後ろには、ネルガルからの派遣としてゴート、そして、プロスペクターの二人。

 

ユリカの隣では、呼びもしないのに軍より派遣されて来たキノコ頭のムネタケが誰も聞いてはいないのに、喚きつづけている。

しかし、この人物が騒げば騒ぐだけ、周囲の皆は落ち着きを見せ始めていた。

ある意味、ありがたい存在とでも言えるのかもしれない。

 

「現在、地上軍と木星蜥蜴の無人兵器が交戦中。押されています。混乱のためか、それ以上の情報が掴みきれません」

ルリは、ユリカに答えた。

僅かに後ろへと振り返り、拍子に絹糸のように細く長い髪が、流れて揺れた。

「上だけじゃ、どうしようもないってことよね?」

「そうですね。このままだと、全滅するのも時間の問題」

「わかりました」

ユリカは、頷くと言い切った。口調こそはっきりとしているが、その表情はルリの良く知る姉だ。にこやかに微笑み続けている。

何故、笑えるのだろう。

ルリには、常に楽しそうにしているユリカに、不思議で仕方がなかった。

 

「どうするのかね、艦長?」

老獪。

まさに言葉のままに、深みを持った音色がブリッジに響き渡る。

それ程、大声で話しているのでもなかろうに、声は良く届いた。

現役を退いたとはいえ、さすがはネルガルが三顧の礼により連れ出でたフクベ提督と言ったところか。

今の今まで、己の存在すら消していたのは、年の功なのだろう。オブザーバーとしての、自身の立場を認識していると言っても良い。

必要以上に、口を挟もうとはしないのだ。

しかし、提督ですら、ブリッジクルー内では、ただのおじいちゃんとしか映っていない。

困ったものだ。

 

「ナデシコを発進させます。このドックは海へと繋がっていますから、そのまま浮上し、敵の後ろを突きます」

ジェスチャー付きで、言った。

「だが、どうやってあれだけの敵を?」

 

プシュ。

 

「グラビティブラスト、ね?」

ユリカがフクベに答えを言おうとした時に、重なるようにして、鈴が鳴った。

何を言ったところで、クルーも緊張していたのであろう。エリナがブリッジに入ってきたことに気が付いたものが、ルリを除き、誰もいなかった。

「あの、はい、そうです」

「確かに、あれなら外の敵も殲滅できるわね」

エリナはずうずうしくもジュンを押しやり、ユリカの隣をキープする。この位置が、一番映し出されるスクリーンが見やすい。

ふと、視線を向けると、プロスペクターが何か、嫌そうな顔をしていた。

小さく、隣にいたゴートに耳打ちしている。

恐らくは、エリナ自体、怪しい人物ではないことを教えているのであろう。

シークレットサービスにいたとはいえ、最早現役を退いて久しい。エリナとの面識がなかったとしても、おかしくはなかった。

「しかし、そのためには敵を一箇所に集める必要がある」

ゴート。

正しいことを言ってはいるのだろうが、その口調に何故か、げんなりとしたものを感じてしまうのは、気のせいではないだろう。

意味もなく、気が滅入ってくる。

だとしても、気にしている場合ではなかった。

 

「だから、囮を出せって言っているのよっ!!十機もあれば一機くらいは生き残るわよっ!!」

 

「うるさいわね。なんなの、このキノコ頭は?」

エリナが、言った。

ブリッジの皆が、一斉に吹き出す。

「いや、これはまた………。軍より派遣された方ですよ。それよりも、どうしてあなたがここに?」

プロスペクターの問いは、尤もだったのかもしれない。

まさか、ネルガルの会長秘書が乗り込んでくるとは、夢想だにしなかったに違いなかった。

余計なことは言わずに、何故、と理由だけを聞いた。

「副操舵士として、よ。ちゃんと乗員名簿にも載っているわよ」

短く返す。

それだけで、とりあえずは十分だとエリナは知っていた。

 

ひっきりなしに、叫びつづけるキノコ。

 

「パイロットがいません。偶然乗っていたヤマダ ジロウさんも足の骨を折って、医療室にいます」

ルリが言った。

誰も相手にしていない、ムネタケに言った。

だが、答えたのはキノコではなかった。

「一人、乗ってるのよ、ちゃんと。もう準備は終わっているころだから、通信開いてくれる、ホシノ ルリ?」

エリナだった。

腕を組み、ユリカの隣からルリを見下ろしている。

言葉にルリは、オモイカネに調べさせた。

「あ、ほんと」

「でしょ?早く通信開いてくれる?急がないと暴れだすわよ、あの子」

「は?」

暴れる。

何を意味するのか、良くわからなかったが、とにかくエステバリスとの通信を開くことにした。まさか、本当に言葉のとおり、エステバリスが暴れだすなどとは思ってもいない。しかし、エリナの眼は本気だった。

 

「あの……………」

何処か、遠慮気味に声がかかる。

話し掛けても良いのか悪いのか、判断しかねている子供のよう。

「何、ミスマル ユリカ?それと、エリナでいいわ」

「はぁ、それじゃエリナさん。………どうして靴、履いてないんですか?」

きょとん。

確かに、その質問は正しい。

靴を履いてはいない。たった一つの事実が、エリナが本来持つ雰囲気から、コミカルなものへと変えていた。

 

 

 

 

 

「いろいろあるのよ、女には……………」

やっと、それだけを口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まいった………。何で、エレベーターが動いてくれないんだ?」

 

アキトは一人、エステバリスのコクピットの中で頭を抱えていた。

エリナと別れて、すぐさま格納庫の放置されてあったエステに乗り込んで、ドック外へと出ようとエレベーターに乗ったまでは良かった。

このエレベーターは運搬用であり、地上へと繋がっている。元来、作業用のものなのであろうが、今はそんなことを言っている場合でもない。

使えるものなら、使えば良い。

それだけの話だ。

しかし。

途中で見事なまでに止まってしまってた。

電源が、落ちでもしたのだろうか。

 

爆発音が鳴り響き、振動がエステバリスを襲う。

 

「うわっと。おいおい、何とかしろよ、エリー」

先程までの緊張も何処へやら、思わず、頭をかきむしった。

自分で考える以上に、切り替えが早いのかもしれない。

 

「………何をやってんの、アキト君?」

 

アキトの眼前に、通信用のウインドウが現れた。エリナが呆れた表情をしながら、頬を引くつかせているのが、良くわかる。ブリッジ内の様子がエリナを中心に映し出されていた。

さすがはネルガル製。

解像度も最高だ。

一人一人の顔まで、完璧に届けてくれる。

何やら、怪訝そうな顔をしているのが一人いる。声までは聞こえないが、ぶつぶつ何か言っているようだった。

(艦長さん、だったよな。さっき見た…………)

どうでも良い。

 

「エリナっ!!良いところにっ!!何とかしてくれ。身動き取れないんだよ?」

アキトは安堵のため息とともに、眉を寄せるエリナに言った。

「はぁ………。意気込んで出てった割には……………。らしいと言えば、らしいけど」

何故か、こめかみを押さえたりなぞしている。

「そんなこといってる場合か?このままじゃ、こいつが俺の棺桶になるぞ。早いとこ、何とかしてくれよ」

「動かす前に、アキト君、何をすれば良いのかわかっているんでしょうね?」

「うん?外に出る。無人兵器を潰す。それ以外に何かあるのか?」

「あのね、あなた一人で何とかなる数じゃないのよ?わかってるの、バンザイアタックでもするつもりなの!?」

怖い。

背中に炎を背負っているのが、見える。

「うっ……………」

エリナの勢いに、アキトはひけ腰になってしまっていた。

今逆らえば、自分がどうなるのかを、嫌というほどに理解している。

言い訳をしようとした。

が、それすらをもエリナは封じる。

 

「とにかく、作戦を伝えるわよ?アキト君はそのまま上に上がってもらって、囮になってもらいます。その間にこの艦は海中を通って浮上。背後からグラビティブラストで敵を殲滅する。………わかった?」

 

「わ、わかりました…………」

肩を竦めるように、小さな声でエリナに答える。

逆らってはいけない。火星で生きてきた本能がそう告げていた。

話を逸らすしかない。

アキトは、じっとエリナを見た。

「………何?」

「いや、何で靴履いていないのかな、と」

「後で、新しいの買ってもらいますからね、アキト君?」

エリナが言う。

にやり、とでも言えば良いのか、妖しげな笑みが浮かんでいた。

「は?何で、俺が?」

「アキト君のせいだから」

「はぁ?」

何を言っているのか、まるでわからない。ただ、理解できることと言えば、このまま行くと自分がエリナの靴を買わされるという事実だけだった。

 

その時だった。

 

「あの………、アキト?」

声が届いた。

ユリカだ。

突然の話し掛けに、エリナまでもが驚いた表情を隠そうともしない。

それはそうだろう。いくら艦長なのだとしても、いきなりアキトと呼び捨てにしてしまうほど、親しい間柄だとは、誰も思ってはいない。

しかし、ユリカの真摯な瞳は、もう、夢見る少女そのままだった。

 

(テンカワ アキト………。どこかで聞いたような………?)

ルリは、オモイカネに出させたアキトのデータに、眼を通していた。なんとなく、予感でもあったのかもしれない。

火星出身の十八歳。

昨年より、ネルガルに入社。

エステのテストパイロット。

それ以外の経歴は一切、不明。

「何処かで会ったりした?」

呟いてみる。

理由は、しかし、すぐにわかることになった。

 

「ん?」

ユリカからの問いかけに、首を傾げ、アキトは聞き返した。

 

「アキトだよね?」

おずおずと。

「そうだけど?」

「テンカワ アキト?」

確かめるように。

「そうだ」

「火星のユートピアコロニーに昔いたよね?」

最後の確認。

「確か、いたと思うけど?」

「やっぱり……………」

うんうん、と納得したのか頷きを垣間見せる。

「何?」

 

「アキトだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

 

 

鼓膜が、破れたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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かすいです。

 

一話のB、です。

はて?何が書きたいのか、どんどんお話が滅茶苦茶になってきているような………?

あまりの雪のせいで、家からも出られず、書いてはみたものの

こんな結果になってしまいました。

どう思われます?

 

では、またの機会に。

 

 



艦長からのひとこと。

はい、かすいさんの投稿第3弾です。

エリナさん、可愛いなぁ、ちくしょーめ(笑)
世にも珍しいアキト×エリナものが読めるのかしら(爆)
かすいさん、ちょとだけ期待してまっす(笑)


さあ、続きが読みたいんだったらメールだ!


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