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機動戦艦 ナデシコ IF

〜昨日よりも もっと 優しく〜

第1話 C パート

 

By かすい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとに、ほんとにほんとに、アキトなんだねっ!?」

 

ブリッジを駆け抜ける異様なまでに能天気な声は、無人兵器が奏でる爆発音と相まって、手が付けられそうにもないくらいに弾んでいた。

ユリカは自身の両手を胸に抱きしめるようにしながら、瞳を潤ませつづけている。

どれだけの叫びを自分が上げたのか、気が付いてすらいないのだろう。

ただ、心は空を舞い踊る。

流れるは、風。

頭の中では、今ごろ天使が輪になって、フォークダンスでも楽しんでいるのかもしれなかった。

こうなってしまえば、乙女は無敵だ。

年齢なぞ、誰が何を言おうが最早、関係ない。

ましてや想いの中、翼持つ人の中心で踊っているのは他ならぬ艦長、ミスマル ユリカだった。

何をどうすれば良い、と言うのか。

己だけの世界を持つ者は、ある意味、世間の内にあっては強すぎる。

ユリカはまさに、言葉の表す意味合いを地でいっていた。

 

揺れている。

 

しかし、これは攻撃されている振動なのか。

それとも、考えたくはないが、三半規管に異常でもきたしてしまったせいなのか。

いまいちはっきりしない。

 

「…………ううっ、まさかそうくるとは、私も予想だにしなかったわ…………」

 

エリナは両手を付き、床に突っ伏せ、軽く頭を振りながら呟いた。

耳が痛い。

ユリカの隣を占領するかのごとく振舞っていただけに、大音量の被害をまともなまでに喰らってしまったのだろう。

眼をぱちぱちさせる。すぐ横に、ユリカのすらりと伸びた足が見え、さらにその奥には倒れこんでいる軍服姿。首がいい感じで曲がっているせいか、まさしくキノコ、そのままだ。

自分と同様に、ユリカの隣にいたのだ。

無理もない。

不謹慎だが、笑ってしまいそうになった。

昔の自分は、恐らく、その行為自体を否定するのだろう。

何故か、そんなことを思った。

確かに自分は、変わってしまっている。

理解してしまえば、心の認識はエリナに甘い風をもたらしてくれた。

 

違う。

(今は、そんなこと考えている場合じゃないじゃない)

正論だった。

 

エリナのいる位置から見下ろしてみれば、ハルカとメグミはこめかみを叩いてみたり、首を鳴らしてみたりしている。

これだけの距離があると言うのに、被害はちゃんと被ったらしかった。

唯一、小さなルリだけが、両手で耳を押さえ、こちらの方をうかがっている。

伊達に二年も、ミスマル家に世話になっている訳ではないようだ。

思わず、お見事っ、と言いたくもなる。

 

「やっぱりあたし達は、もう一度出逢う運命にあったのよっ!」

 

頭上から、鈴の音が降ってくる。

エリナは、立ち上がろうとした。何しろ今は、戦闘の真っ最中なのだ。この程度のことで、挫けている場合ではなかった。

しかし。

かくかく。

足に力が入ってくれない。

しっかり、この程度のことで挫けているらしかった。

(超音波兵器って訳でもないでしょうに、もうっ)

右手で振るえる足を、ぺしぺし、叩いた。

困った。

痛みすら、感じない。

(ちょっと、何とかしてよアキト君〜〜〜〜〜〜〜〜)

実際、良いコンビなのだろう、この二人は。

 

恐るべきは、ユリカの感激だった。

 

「や〜〜ん、ってあれ?………アキト、どうしたの?」

ユリカは、映し出され続けるエステバリスとの通信用ウインドウに眼を丸くしながら、言った。辺りの皆の状況には、全然気が付こうとはしない。

ただただ、アキトがいる事実だけに、心を奪われていた。

狭いコクピットの中で、何処をどうすればあのような姿勢になれると言うのだろう。

アキトは見事なまでに逆さまになり、ひくつく両足だけがウインドウからは見えた。

 

エステバリス自体は旧式のものだが、操縦席だけでも、とエリナが気を利かせ、上等なシートへと変えていたせいだ。座り心地の良いシートはアキトがユリカの声に驚き、身体を大きく震わせ跳ねさせた時、見事なまでにバウンドし、少年の筋肉質とは言え細い身体を完璧なまでに回転させていた。

逆に、跳ねるに任せれば良かったのだろうが、反射的にとってしまった回避行動が考えもしなかった力を、アキトに加えてしまったのかもしれない。

結果、足だけが映されている。

笑えた。

だとしても、ユリカにとってはどうでも良いらしい。

 

ルリは、もう被害なしと判断したのか両手を耳から離し、アキトに視線をやった。

一度後ろを振り返ると、エリナがじたばたと暴れているのがわかる。

 

振動が、艦を襲いつづけていた。

 

「どうしたも、こうしたも…………、あいててて」

ぶつぶつ文句を言いながら、アキトは体勢を整え、ウインドウに向き合おうとする。しかし、何処か怖がりながらシートに背中を押し付け、ブリッジと繋がるウインドウから距離をとろうとしていた。

「ねぇ、どうしたのよアキト〜〜!?」

にこやかなユリカの笑み。

「なんなんだ、一体?」

言いたくなるのも、当たり前だ。

基本的に通信ウインドウは、互いの感情をダイレクトに伝えるために音量や、感情によってサイズを変化させる。

ユリカが叫んだ一瞬、エステバリスの通信は、コクピットの全てを埋め尽くさんばかりに大きく広がり、さらには最大までになった音量がアキトを襲ったのだ。

鼓膜が破れなかっただけ、自分の身体の丈夫さを神に感謝したくなった。

人型に乗ったもののエレベーターの中に閉じ込められ、エリナに叱責された上にこの攻撃だ。これくらいの愚痴は許されている、と思いたい。

 

「ねぇ〜、アキトってば〜〜〜」

「だから、なんなんだあんたは一体!?」

「ユリカだってばっ!」

「それは知ってるよ。ミスマル ユリカ。この艦の艦長さんだろ?」

「覚えていてくれたのね?やっぱり運命の二人なのね?」

もう、誰にも止められない。

感激に、身震いまでしている。

「それくらい、クルーの名簿をみたら誰でもわかるだろうに。ましてや、艦長だろ?」

「名簿を見ただけで、すぐに私だってわかったなんて……………、信じていて良かった」

「おいおい、何処いってるんだ、艦長さん?」

話がまったくといって良いほど、噛み合わなかった。

 

あ、踊り始めた。

 

「あの………、テンカワ アキト………さん?」

 

その時だった。

アキトに別の方向から声がかかる。

うん、と小さく答えると、アキトは視線を向けた。

小さいのがいる。

 

「えっと、君は確か…………」

アキトは、言った。そこで、言葉を詰まらせる。名簿の中に、この少女がいたことは覚えていたが、何故か名前が出てこなかった。

金色の瞳。

何処か感情を乗せない、整った顔立ちとは違い、緩やかに想いを表現している。

とても、優しい。

(星、みたいだな?)

そう、思った。

「ルリです。………ホシノ ルリ。オペレーターです。艦長………、ユリカさんが説明できる状態ではないので、手短に私が説明しても良いですか?」

「頼むよ。こっちは全然、訳がわからない」

苦笑だけが、表情を彩る。こんなことをしていて、本当に良いのだろうか。

ますます、揺れは激しくなってきている。

エレベーターに乗っているだけに、振動が直接エステバリスに伝わってきているのかもしれなかった。

「はい。………私もユリカさんから聞いただけですので、ほんとのところはわからないんですけど。ユリカさん、小さかった頃、火星にいたらしいです。そこで住んでいた家のお隣にテンカワ アキトという男の子がいて、本人曰く、運命の出会いをしたとか。今でも写真、部屋に飾ってます」

「じゃあなに?同姓同名の奴が火星にいたってことなのか?」

 

大ボケな答えだ。

火星は植民地であり、大規模な移住が行われたのは歴史的な事実でもある。しかし、いくら大規模とは言え、その数には限界があり、地球のそれとは比較にはならないくらいだ。ユリカとほぼ同年齢で、ユートピアコロニーに在住していたテンカワ アキトは、恐らくはほかにはいまい。

 

「テンカワさんは覚えてらっしゃらないんですか?」

ルリは、表情を変えることなく、淡々と。

けして、感情がないわけではない。ただ、その表現の仕方が多少なりとも少ないだけだった。ユリカと共にいた二年間は、ルリをしっかりと少女と呼ぶに相応しいだけの成長を促している。ユリカ自身が、この小さな女の子の生きてきた年数に精神年齢が近かったことも理由だろう。

今はほんの少し、アキトの言葉に対して、怒っていた。

姉が待ちに待った王子様だ。その王子様が、姫君のことを忘れている。

毎日のように聞かされて来た、優しくてかっこよくて、そして、強い王子が綺麗さっぱり忘れているのだ。どうして、怒らずにいられよう。

何だか、裏切られた気分までしてしまう。

「覚えてるも覚えてないも、俺の記憶がはっきりしてるのって、親父さんに拾われた辺りからだしな…………。艦長さんが火星にいたのって、どれくらい前?」

アキトは聞いた。

(拾われた?)

ルリは、アキトの言葉に妙な引っ掛かりを感じながら、問いに答えようとする。

「たしか、十三………、十四年くらい前です」

変に、心細くなってしまった。

「んじゃ、無理だよ。ちょうど戦争が始まったくらいだろ?あの頃の記憶って、ほとんどないんだ、俺」

「記憶がない、ですか?」

「そりゃ、ね?あの頃から戦場(いくさば)で生きてきたんだ。生きる以外のことを頭の中から消去するのは、簡単だったろうけどね」

言うと、ぽりぽりと頭を掻いた。

 

驚きだった。

ルリには、信じることが出来なかった。

言葉から、すぐに悟る。

(この人、火星出身とかじゃない…………。火星で生きてきたんだ)

自分は、地球にいた。ユリカも地球にいた。

どれほどの理屈をつけたところで、火星は見捨てられていたことは事実だろう。

その中で。

生き抜いてきた。

言葉が出ない。

 

がくん。

艦がこれまでにないくらいに、揺れ動いた。

 

「昔話はそこまでよ、アキト君?状況を把握なさい」

アキトに、親しみのある声が届く。

エリナだった。

視線を向けると、未だに戻ってこないユリカの隣で、手すりにつかまりながら膝を震わせ立ち上がっている。力が入らないのか、腕力だけで身体を支えているのが、見て取れた。

「やっと起きたのか、エリナ?」

からかい口調。

エリナに対しては、基本的にいつもこうだった。

馬鹿にしているのではなく、親愛の情とでも考えれば良いのだろう。相手の反応が楽しくて悪戯してしまうことは、確かに良くあることだった。

ただ、アキトが時と場合を考えていないことが多い。

それだけのことだ。

いや、それが一番の問題なのかもしれない。

「最初から起きてますっ!!」

その物言い。エリナがむう、と顔を顰めた。二十歳とは思えないくらいに、可愛い。

困ったことに、本人がその事実に気が付いていなかった。

「わかってるって。とにかくこっちはエステにもう、乗ってるんだ。早いとこエレベーターの方を何とかしてくれ。囮になろうにも、このままじゃなりようがない」

尤もだ。

アキトは、初めから言っている。

何とかしてくれ、と。

 

「うっ……………。ホシノ ルリ………ちゃん?そこからエレベーター、上に動かせる?」

力を抜けば、そのまま床に落ちそうになってしまう。

歯を食いしばりながら、伝えた。

 

「はい。動かすだけでしたら、ここからでも大丈夫です。でも、よろしいんですか?」

ルリが、すばやく答える。

一機だけで、出しても良いのかと聞いた。

囮とは言え、援護もなしに出撃させるのにはリスクが伴う。

どうしてなのかは、わからなかった。

ただ、確かめたかった、と言うのが正解だろう。

「良いのよ。アキト君、今回は殺しても死なないから」

対し、エリナは言い切った。

やり取りを聞いていたアキトが苦笑を浮かべるくらいに、迷いもなく言い切った。

アキトには、エリナの言う意味が良く理解できた。

「…………?」

ルリが首を捻る。

 

「私の靴、まだ買ってくれてないもの。死んだら買えないでしょ?」

 

お気楽だ。

 

ユリカはまだ、踊っている。

 

 

 

 

 

結局、アキトは見事と言えるエステバリスの操縦で囮役をこなし、エリナはほっ、と隠れて息を撫で下ろし、ルリは何処かぼんやりとしながら考えていた。

ゴートやプロスペクターは、作戦終了まで気を失い続け、気付いた時には真っ先に己の人材スカウト能力に疑問を抱く。

ちなみに、ユリカにいたってはグラビティブラストの発射のその時まで、夢の世界から戻ってくることはなかった。しっかりと命令だけは出してはいたが、遠くを見つめ続ける淡い瞳は、まるで艦の置かれた状況を理解しているとは思えない。

頭の中で、小人さんでも働いてくれているのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

不安だけが、曇り空のように募る。

 

 

 

 

 

「何だか私達、忘れられたりしてません?」

「下手に話すととばっちりを受けるわよ、メグちゃん」

 

しっかりと働いていたのは、この二人だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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かすいです。

何だか、さらに勢いで書いたのは良いんですが、ルリちゃんが

妙に出張って来ているような…………………?

はて?

困ったな。

さらに訳がわからなくなってくる。

一番の問題は、ユリカが変にお気楽になってしまっていること。

いかんな。

問題だらけじゃないですか、これは。

何とかせねば。

どうしたら良いですかね?

 

では、またの機会に。

 

 



艦長からのひとこと。

はい、かすいさんの投稿です。

エリナさん、相変わらず可愛いなぁ、ちくしょーめ(笑)
まずい、出だしが前回と同じだ(笑)

でもね、エリナさん活躍SSってのも読みたい気もする今日このごろ。
みなさんどう思います?(笑)


さあ、続きが読みたいんだったらメールだ!


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