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機動戦艦 ナデシコ IF

〜昨日よりも もっと 優しく〜

第二話 B パート

 

By かすい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキト〜〜、アキトってば、待ってよ〜〜〜!」

 

ユリカは、通路のほんの少し先を歩く二つの人影を見つけると、疲れた表情を一変させて声を上げた。あの背中はどう考えても、アキト以外には考えられない。

身体の一部に加速装置でも仕込んでいるのか、いきなりスイッチが切り替わったかのように動きが変わった。

ナデシコのチェック疲れも何処えやら、だ。

理解しきれないくらいの速さで、アキトに迫る。

余程、アキトと会えたことが嬉しかったのだろう。今、アキトの隣に誰がいるのかすら、気が付かない状態だった。

 

「なんか、すごい勢いね………。あれって止まれるのかしら、アキト君?」

「知らん」

 

そんな呟きも、ユリカには関係ない。何しろ、聞こえていないのだから。

今わかることは、どうしても話たかった相手が目の前にいると言うこと。この機会を逃せば、このような偶然、今度は何時になるのか予想も出来ないと言う事実だった。

アキトの部屋にでも行ってみようか、などと思っていた矢先のこの出会い。

無駄にしたくはなかった。

 

乙女は走る。

ひた走る。

それ以外に、一体何が出来ようか。

 

ユリカはアキトとの距離が手を伸ばせば触れられるくらいの距離となると、踏み出した片足をふんばり、停止しようと試みる。両手を振りながら姿勢を何とか維持したが、さすがにこのスピードの全てを吸収するには、無理があったのかもしれない。

上半身が意思に反して、流れていった。

「あれれ?」

バランスを崩しそうになる。

 

転ぶ。

 

そう思った瞬間、しかし、傾いていく視界が急に止まった。

「危ないわよ、ミスマル ユリカ?廊下は走らない。原則でしょう?アキト君に感謝なさいね?」

含み笑い。

小学校の先生みたいなことを、エリナが苦笑しながら言うのを、ユリカは遠くで聞いた。

何故か、などと考える必要もない。

エリナの言葉以外に気を取られていたからだ。

(あぁ、やっぱり私の王子様!)

思わず、うっとりとしてしまう。

それもそのはず、理由は簡単。

アキトの片腕が、しっかりとユリカの身体を支えている。

何処となく細い外見とは裏腹に、強靭さとしなやかさを併せ持った腕は、確かに乙女の肩辺りに触れていた。

潤む視線を投げかけられていることに気が付くこともなく、倒れかけ斜めに傾いたユリカをアキトはぐい、と立ち直らせる。

その上で、手を離した。

「あ………………」

「ん?」

残念そうな表情が浮かんでいるユリカの顔に、アキトは不思議を思った。

 

「どうかしたのかそんなに急いで、艦長さん?」

アキトは、言った。

ユリカを挟んで前に立つエリナの方を一度見ると、うん、と先を促す。まさか自分と会って話したかっただけ、などと考えることはなかった。

当たり前だ。

自分にとってユリカとの関係は、仕事上以外、何もないに等しい。

何かしらの問題があったと思ってしまうのも、仕方ないことだった。

「艦長さんだなんて…………。ユリカって呼んでよ、アキト!」

見るものが見れば、とろけてしまいそうな位の喜びを笑顔に乗せている。唯一、惜しむべきは人の話をまるで聞いていないことだったのかもしれなかった。

エリナが肩を竦めて、呆れている。

「いや、呼んでって言われても。艦長を艦長って呼ばないわけにはいかないだろうに」

「だって、昔からアキトは、ユリカユリカっ、て呼んでてくれたんだよ?」

今更、艦長などと言う方がおかしいのだ。

そう告げる。

 

しかし。

 

「だから、俺は覚えてないんだよ。艦長さんがいくらそうは言っても、俺はそのことをまるで覚えてない。覚えていない話をされても、こちらも困る」

「大丈夫っ!アキトは私を覚えてるよ」

「本人が覚えていないって言ってるのに…………。大体、随分前のことなんだろう?確か、ルリ………ちゃんだったか、が教えてくれたけど、火星の会戦が始まる前なんだから…………。え〜と」

「十四年前よ?」

エリナが、助け舟を出してくれた。

「そう。アキトが五歳くらいで、私が六歳のころだもん」

どう記憶していろと言うのだろうか。普通の生活の中でさえ、その頃の思い出などごく一部以外、持ちつづけることなど出来はしない。

ましてや、アキトは火星にいた。あの戦乱の星にいたのだ。

そのことをユリカは、まったくと言って良いほど、理解していなかった。

 

「残念。何も残っていないよ、俺の頭の中には。何しろ、どうやって両親が死んだのかすら覚えていない」

 

「え?ご両親…………、亡くなった?」

ユリカが、顔を曇らせる。

思ってもいなかったことだったのかもしれなかった。

「あぁ。薄情なもんで、死んだことは覚えていても、何時、何処では記憶の彼方だ。それ以来、基本的には一人なんでね」

気にする風でもない。

事実を、事実として話している。

そんな感じだった。

「そんな」

僅かに、声が強まった。

 

ユリカは、はっきり言ってしまえば、親への敬愛は世間一般に比べて強い方の部類へ入る。母は幼い頃、地球に戻ってきてから亡くしたとは言え、その分父親が十分以上の愛情を注いでくれていた。

親ばかと言う言葉があるが、ユリカはその逆、子ばかとでも言えば良いのか。

父に対する信頼は、とても厚い。

程度の差があれ、誰でもそうだと思っていた。

だのに、アキトは関係ない他人の死を語るかのように、両親の死を語っている。

 

「子供だったんだ。覚えていない方が、普通だろ?」

ユリカの視線に、何かを感じたのだろう。アキトは淡々と、答えた。

「でも、ご両親のことだよ?誰か知っている人でも…………」

「その頃大人で火星にいたやつは、ほとんど死んでるよ。直後に戦争が始まったんだから。それに、別に知りたいとも思わない」

「アキト……………」

「どうしても知りたいんだったら、探せば良いよ、艦長さん?」

アキトは、子供に向けるような笑みを浮かべ、ユリカに言った。

まさしく気分は、駄々をこねる子供をあやしているようなものだろう。

 

何か納得がいかないのか、まだ頬を膨らませていた。

 

「恨めしそうな眼で見てるわよ?」

エリナ。

「見られても、困る」

正直だ。アキトにしてみれば、両親の死は何の感慨ももたらさない。親が自分の生活自体に関わってきていた記憶すら持たないのだから、悲しみを感じることもなかった。

そのことに関して、何を言われようと困ってしまう。

何者かの死を悼む。

記憶であり、想いであり、心に残る何かがあってこそ悼む気持ちにもなれよう。

親に対して、アキトはその“何か”を持ってはいない。

悲しめ、と言う方が無理だった。

「性格は変えられないってこと?」

エリナが、覗き込むようにして、言った。

 

その通りだ。

 

アキトは、何も答えず苦笑しながら頭を掻くと、歩き始めた。

話はこれで、終わりで良い。

これ以上のことを聞かれたところで、言えることは同じことだけだった。

エリナも、そのことはわかっているはずだ。

 

「何だ、エリー?」

見つめ続ける、視線。アキトの隣を歩きながら、眼は離さなかった。

そして。

「何でもないわ…………」

妙な、間があった。

アキトは瞬間、ユリカが近くにいることすら、忘れてしまっていた。

 

こつこつ、と足音だけが響く。

 

「ところでアキト、これから、何処行くの?」

背中の方から、声がかかる。小走りに付いて来ているのだろう。伝わる足音の速度が、僅かに速かった。

「食堂」

振り返ることなく、簡単に言った。基本的に、アキトは必要外の言葉を語ること自体が、少なかった。

これだけ喋ることの方が、珍しい。

普段は、エリナだけだ。口が滑ってしまうのは。

だから、いつも苦労する。

 

はふはふ、と息づかいが聞こえてくる。

ユリカ。

 

「私も行っても良い?」

「別に構わないけど…………。エリー?」

アキトは、歩くエリナに視線を向けた。自分が良いと言っても、エリナが駄目だと言えばそれまでだ。ノーと考えるものがいるのに、意見を押し付けようとは思わない。

 

「良いわよ?それに、ちょっと用事もあってプロスさんに会いに行かなきゃいけないし。艦長と行ってくれば良いわ」

エリナが、微笑する。

自然な笑みだった。

「そっか。じゃ、そうするよ」

「ええ。楽しみにしてなさいね、食堂」

「ん?」

「言ったでしょう?頼んで中華メインのシェフを入れてもらったって。アキト君の待ち望んでいたものも、あるかも?」

くすくす。

手を口元に当て、含みを持たせた。

誰にも見せない、エリナ特有の何処かいたずらっ子のような、可愛らしさが垣間見える。

 

「中華?何それ」

 

怪訝そうな表情。

それもそうだ。火星で過ごしてきたアキトに、料理の種類がわかるはずもない。ただ、何か企んでいる、と心に刻み込むくらいのものだったのかもしれなかった。

覗き込むように、自分を見ている。こうしていれば、年齢相応の雰囲気がアキトにはあった。しかし、どうにも疑ってかかってきているらしい。

思った。

それはそれで、かまわない。

きっと、後でアキトの喜んだ顔が見れるのだろうから。

 

「それと、靴、ありがと」

「えらい出費だ」

「ふふ…………」

 

エリナは手を振ると、また後でね、とアキトに声を渡して、別の通路へと戻っていった。

 

残されるのは、アキトとユリカ。

緩めていた足を、再び動かしだした。

 

「ねえ、アキト?」

エリナがいた位置まで追いつくと、そのまま歩みを落とすことなく、ユリカは前を向いて歩きつづけるアキトに、話し掛けた。

「うん?」

顔だけを、ほんの少しだけ向ける。

「その………、あのね、エリナさんと…………アキトって、親しいの?」

おずおず、と聞いた。

先程の二人の会話に耳を澄ますと、アキト達の仲が決して悪くはないことは、すぐにユリカにも理解出来た。さすがに付き合っているだの、恋人だ、などとは考えたりしてはいないが、気になるものがある。

そこはやはり、女の子だと言うことだろう。

 

アキトの答えを待った。

 

「親しい………。まぁ、親しいと言えばそうだろうし、そうじゃないって言えばそういうことだろうし。良くわからないな」

本当に、そう思っている。

「でも、アキト君って呼んでるし、エリナさんのことエリーとか呼んでるじゃない?」

「それは、こっちに戻ってきてからの付き合いだしね」

 

「つ、付き合い…………っ!?」

 

はた、と足の進みが止まる。

ショックを受けたらしい。

突然、隣から消えたユリカに、アキトも歩みを止めて、振り返った。

「どうした、艦長さん?」

数歩後ろで、呆けたように宙に視線を泳がせるユリカ。何やら、訳のわからないことを呟いているようだった。

 

「付き合ってる………。アキトとエリナさんが………。嘘。嘘よそんなこと」

 

駄目だ。

向こうの世界に行ってしまっている。

 

実際、付き合いと言っても会社、つまりはネルガルの上司のようなものであり、仕事としてのテストでのパートナーでしかなかった。男女関係など、アキトは欠片も含ませてはいない。

本人は意識していないが、ただそのままを言ってみたまでだった。

事実、エリーと呼び始めたことですら、何ヶ月か前の事件を境にでしかない。

だとしても、一年弱の期間、良く顔を合わせている。

それだけのことだ。

だが。

ここまで混乱させるようなことを、自分は口にしたのだろうか。

僅かに疑問を心に流す。

(なんなんだ、一体………………?)

いくら考えたところで、しかし、答えが見つかるはずもなかった。

知るには未だ、アキトはユリカを知らなさ過ぎた。

 

もう、目の前までに食堂は近い。

しかし、辿り着くまでに、後幾ばくかの時間を必要としているのかもしれなかった。

 

(腹減ってるんだけどな、俺………)

 

アキトの声は、届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後は、スキャパレリプロジェクトを発表すれば良いってことね?」

 

エリナは、薄暗い部屋で壁にもたれ掛かりながら、言った。

腕を組んで、目の前で眼鏡を怪しく光らせているプロスペクターから、視線をはずそうとはしない。はっきり言えば、そこに意味は何もなかった。

別段、企みを持っているわけでもなく、ただ単に確認のためにプロスの部屋にきたのは良いが、こういうのも演出ですから、とプロスペクターが室内の電源を僅かに落とし、声を密やかにし始めたからだ。

暗く閉ざされた場所に、仕事だとしても男と二人。

多少なりとも、身構える。

女としての、本能だ。

アキト以外のものに対しては、心構えの点で異様にガードが固くなる。

もちろん、プロスの方にその意識はなかった。

 

「はい。艦内のチェックも、ほぼ全てが終わっています。すぐにでもブリッジに上がって、皆を集めますよ」

 

にこやかな声。

自分の演出を壊してしまっているような気がするのは、エリナだけではないのだろう。誰かがいれば、しっかりと同意してくれるはずだ。

そう思った。

だとしても、今はそんなことを言っている場合ではない。

 

「説明の方は任せます。私には他にもまだ、やらなくてはいけないことあるから」

「やらなくては、いけないこと………ですか?」

自分にも知らされていない何かが隠されているのか、とエリナを見つめた。

所詮はしがないサラリーマンだと言っても、蔑ろにされるのはあまり嬉しくはなかった。

「勘違いしないこと。アキト君のお守りよ?会長じきじきの命でね?」

エリナは苦笑した。

相手の考えていることがわかるだけに、馬鹿らしくもなる。

本当にそう言われているのだ。

―――まぁ、テンカワ君のお守りでもしばらくしておいてくれ。

困ってしまったことを、思い出した。

 

「お守り、ですか?」

「そ、お守り。それが一番しっくり来る言葉なのよ」

「はあ…………」

今一、良く理解し切れないのかもしれない。たかだか、エステバリスの一パイロットだ。会長秘書が傍にいることだけでも、理解の範疇を超えている。

アキトとの付き合いがない以上、わかれと言う方が無理だ。

エリナですら、未だに良くわからないところもあるのだから。

「では、ブリッジには来られないので?」

眼鏡を指先で直しながら、プロスペクターは聞いた。

「とりあえず、私も上がるわ。副操舵士としてナデシコには乗っているんだから、ブリッジクルーがいないのも、問題あるでしょう?」

「それは、確かに」

 

プロスは、部屋に備え付けられている通信用のコミュニケを、ブリッジに繋いだ。

映像は出さずに、言葉だけを届かせる。

 

「あぁ、メグミさんですか?………えぇ、艦長を含むブリッジ要員を至急集めておいて下さい。発表したいことがある、と。………はい、そうです。すぐに私もそちらの方へまいりますので、はい」

 

プロスペクターの几帳面な性格そのままに、綺麗に纏められた部屋。

声だけが、漂う。

 

(火星…………。そこでどうするの、アキト君?)

エリナは、耳から入る音を無視して、ぼんやりと、考えた。

何がしたいと言うのだろう。

ただ、戻りたいなどと、あの少年が考えるだろうか。

否。

しかし、だとしても、自分にはわからないことなのかもしれない。

わかりたくても、わかり得ないことなのかもしれない。

それだけの苦しみと悲しみをアキトは、恐らく、心の中に忍ばせていた。

いや、それも違う。

アキトが苦しみだとも、悲しみだとも思っていない。

その想い自体が日常であり、生きる中でごく、当たり前のことでしかなかった。

 

決して、今の自分には見せてくれない何か。

 

「私は、会長のお使いだものね…………。いくら、私が火星に限りなく近いって。アキト君がそう言ってくれたとしても、火星の女にはなれないもの」

 

呟き。

ふと、悲しい。

そう思った。

 

髪が、流れる。

エリナの想い、そのままに。

 

零れた言葉は、何を意味していたのだろうか。

知りえる者は、ここにはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これがラーメン……………………。麺にスープに、具がのってる」

 

食堂でガラスケースの中に、見本として並べられている幾つかのサンプルメニューを見渡していると、アキトの視点は一箇所で止まり、そして固まった。

自分自身、何処か納得が出来る。

目の前のサンプルに、ラーメンがあるのだ。

つまりは、ラーメンをオーダーして、食べることが出来ると言うことになる。

 

一年。

地球に、着てからすでに一年。

 

考えないようにしていたが、あまりにも長すぎたのかもしれない。

アキトは、どうにも泣きたくなってしまった。

すぐさま厨房と繋がっているカウンターの方へと走りより、身を乗り出さんばかりに中を覗き込んだ。

最早この時点で、先程まで隣にいたはずのユリカがブリッジに呼び出されていることにも、気が付いていない。残念そうな表情を少年の背に送りつづけていたが、ユリカは結局、声をかけることなく、食堂から移って行った。

人間、集中力が高まればこうにもなろう。ある意味、この時のアキトは火星を出て以来、最大限に心を集めきっていた。

若い女性よりも、食べ物。

今のアキトにしてみれば、比べる必要もないことだった。

 

「すいませんっ!ラ、ラ、ラーメンがあるんですかっ?」

思わず、どもってみたりなんかもする。

 

「あぁ、あるよ。オーダー入れるのかい?」

 

厨房から、女性の声がアキトの意気込みに答えてくれた。

身長も高く、白い料理服に身を包み、にこりと笑う。ある程度の長さのある髪を、だんごにして纏めていた。作る料理に髪が落ちないための、気遣いだ。

恐らくは、エリナの言っていた、この食堂のシェフと言うやつなのだろう。

まだ、随分と若そうにも感じられる。しかし、アキトに比べると、年上であることは疑う余地もなかった。

 

「はい!ラーメンが食べたいんです」

アキトは、中華鍋を手元のコンロに置き、自分の方へと近づいてくるその女性に、一度、頷いた。

「なんだい、そんなに力んで?そんなにお腹が減ってるんだったら、もっとボリュームのあるのもあるよ、このナデシコ食堂には、さ?」

あまりの真剣さのためだったのだろうか。微かに首を傾げると、柔らかく言う。

それは、優しさだ。

母性を思わせる暖かさに、懐かしさすら想ってしまいそうになる。

(キョウコさん?)

まるで、似ていない。

だのに、伝わる印象は、かつてアキトが母とも呼んだ女性に通じるものが、確かにあった。

「いえ………。腹が減ってるってのもあるんですけど、ラーメンが食べたいんです」

アキトは、ゆっくりと、言った。

「そうかい?だったら、何にするんだい?」

「いや、だからラーメンを……………」

戸惑った。

ラーメンを食べたいと言っているのが、聞こえていなかったのだろうか。

 

辺りには、鼻をくすぐる良い匂いが漂っている。

それこそ食堂にいる客は、アキトだけではないのだから当たり前のことだ。

他愛のない喋りと、美味いと話す声が聞こえた。

 

「何ラーメンが良いのか、って聞いてるのさ」

「は?何ラーメンって?」

「鶏がらベースの醤油から、豚骨、塩、味噌。それぞれのチャーシューメンに、果てはフカヒレラーメンってのもあるんだよ、ここには」

微笑と共に、アキトに答えてくれる。

「あぁ、なるほど………」

頷き返した。

その程度のことなら、アキトも知っていた。地域によって多くの種類が生まれ、味を確立してさえいるらしい。ただ、困ったことはその差が、まるでわからないことだった。

口元に手をやり、考える。

「どうするんだい?」

真面目に思考を続けるアキトに、面白さでも感じたのか、笑いかけるようにシェフが言った。

 

「んじゃ、一番基本になるラーメンって…………何ですか?」

 

「そうだね〜。人によっちゃいろいろ異論もあるんだろうけど、あたしにとっちゃやっぱり鶏がらをベースにした醤油かね?良い意味で昔ながらのって感じがしてね」

「それじゃ、それをお願いします」

アキトは、言った。

軽く、頭まで下げてしまう。

「醤油ラーメンだね?あいよ。…………でも、おかしな奴だね?そんなにラーメンが食べたかったのかい?」

厨房の中で動き回っている女の子達に一声かけると、アキトへと向き直った。

「食べたくても、食べれなかったんですよ………」

「ん?」

「いえね、ナデシコに乗る前はネルガルで、エステのテストパイロットをしていたんですけど、このテスト施設の食堂が何ていうのか、妙に高級とでもいうのか、こうメニューに何とかの何とか風コースだとか、そんなのばっかで………。ラーメンがなくって」

「別の場所で食べれば良かったじゃないか?」

確かに。

尤もな疑問だと、思う。

しかし、そうもいかない理由があった。

「それがね〜〜〜。テストパイロットだったでしょう?何でも新技術やら、新開発だとかに関わるから、外部との接触は取らせられないって施設から出してもらえなかった。だからと言って、インスタントとかで終わらせたくなかったですし………」

今更かもしれないが、まさに鬼だ。

ほ〜ほほっ、とエリナの高笑いが、耳元で聞こえてきそうだった。

「企業の裏ってやつかい?」

「そこまでのことでもないんですけど、ね?」

ただ単に、技術の独占を目指して行動しているだけのことでしかない。自分達が開発し、発表した事実がほしいだけだ。

そのためには、何を研究しているのかすら外に漏れ出てしまっては、困るのだろう。

働いている方が、良い迷惑だ。

 

「何だか良くわからないけど、大変だったんだね?」

「ええ。ほんとに大変だったんです………………」

 

ほ〜〜〜ほっほっ。

心の内で、木霊する。

 

(うるさいぞ、エリーっ!!)

 

あまりの腹立たしさに、アキトは食堂に設置されていたスクリーンにブリッジ内部が映し出され、火星への出発をプロスペクターが皆に告げていることに、まったく気が付いていなかった。

その中に、エリナがいることにも。

 

 

 

 

 

椅子に座ると、ひたすらに、ラーメンだけを待ち続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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かすいです。

 

さらに、ナデシコです。

ちょっと長く書きましたが、それでも他の方々に比べると、

短いんですよね、これがまた。

もっと長く書いてから、投稿すれば良いんですけどね?

集中力が持たないんです、長く書くと…………。

何ででしょうね?

いや、所詮はかすいだから、なんですけど。

 

ご意見、ご感想、お待ちしております。

…………その前に、読んで下さっている方、どれくらいいるんだろう?

 

では、またの機会に。

 

 



艦長からのひとこと。

はい、かすいさんの投稿です。

Aパートで書いたように、同時公開です。
かすいさん、ホントごめんなさい。

それもさておき。
ユリカ、かわいそーに(笑)
ま、この人はこれぐらいがちょーど良いという話もあるようなないような。


さあ、続きが読みたいんだったらメールだ!

かすいさーん!少なくとも私が続き読みたいです(爆)

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