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機動戦艦 ナデシコ IF

〜昨日よりも もっと 優しく〜

第二話 E パート

 

By かすい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、お父様?ひとつ、お聞きしたいことがあるんですけれど?」

 

外では動力を止められたナデシコが、海に浮かび波に揺られていることだろう。

何が始まろうとしているのか、理解すらしていない。

心に漂う意識は、ひとつだけだった。

思い込みは、ほんの少しの因子を加えると信じることへと、姿を変える。

最早、誰にもユリカを、止められない。

 

のんびりしていた。

仲の良い家族の晩餐のように、二人の間には、あまりにも穏やか過ぎる空気が包んでいる。

 

「良いですか、お父様?」

ユリカは、状況をまるで考えていないかのように、無邪気な笑みを見せると、ミスマル コウイチロウが話し出そうとするのを遮り、もう一度、弾むように言った。

天上天下唯我独尊。

押しの強さと言う意味では、しかし、確かにユリカは艦長として相応しいのかも知れぬ。

笑顔で全てを、封じ込んでいた。

 

目の前にいるのが、軍でも有数の力を持つ司令の一人であることを、完全に理解していない。

それとも、やはり娘にとって、どれだけ偉かろうと父親は父親でしかないのだろうか。

社会的な立場ではなく、あくまでも自分との関係を続けようとするユリカを見れば、コウイチロウが親として、多くの愛情を娘に注いできたことがわかった。

言葉の意味の通り、溺愛してきたのであろう。

しかし。

それ故に、ユリカは今を己の中で、確立しきれていない。

旗艦“トビウメ”内にあるこの豪華な応接室で、テーブルを挟み相対しているのは、ナデシコを拿捕しようとしているものたちの代表であると言う事実だ。

だからこそ、このような言葉も言えたのかも知れなかった。

困ったものだ。

それとも、マスターキーを遠回しに渡すように迫るコウイチロウを、にこやかな笑い顔でかわす計算なのか。

あまりにも、ナデシコ艦長を務めるこの女性は、読みずらい。

 

ユリカの前には、大きな皿の上に所狭しと、いくつものケーキが並んでいる。

何故、軍艦にここまでのケーキが用意されているのも疑問だが、考えることなく口へと運ぶこの女性は、もしかすれば、大物なのであろうか。

おいしそうに、頬に細い手を当てていた。

微かに首を傾ける仕種は、あまりにも可愛らしかった。

 

「ん、何だね?」

突然の質問に、多少の驚きを見せながらも、コウイチロウは僅かの間も置かずに答える。ユリカが幼い頃から何故どうして、と問い掛けてきた言葉に、恐らく、今と同じ表情をしながら、話して来たのだろうと誰にでも、わかることだった。

だからこそ、ユリカはユリカとして成長してきたのかもしれない。

親とは、そう言うものだ。

現状を知る者にとっては、あまりにも穏やか過ぎる空気。

「テンカワ アキト君のことです」

さらに、弾む。

ユリカはフォークを手元に置くと、姿勢をしゃんと正し、コウイチロウを見据えた。

変わらぬは、微笑。

長い髪が、気ままに揺れた。

「テンカワ…………。はて?誰だったかな?」

「もう、十何年も前になりますけど、火星でお隣に住んでいたアキト君。覚えてません?」

「火星……………。おぉ、あのテンカワ家の息子さんのことか。いきなり名前だけ出されてもわからんよ、ユリカ?それがどうかしたのかな?」

威厳も何も、あったものではない。

恋人との会話を楽しむ男、そのままだ。

ブリッジで、ナデシコとの通信の時に見せた最初の尊大さは、何処へ行ったのだろう。

ぐにゃり。それ以外に、表現がしようがない。

押さえつけても跳ねている髪型も相まって、異様としか人の目には映らなかった。

 

「私、アキトに逢いました」

 

「なんとっ!!生きとったというのか!?」

驚愕に、声が上ずった。

「はいっ!ナデシコに乗ってますよ。…………でも、ご両親は死んでしまったって…………。それで、アキト、ご両親がどうして死んだのかも覚えていないって…………」

ユリカの音色が、沈み込む。

アキトの心を考えると、とても平静に話すことなど出来なかった。

悲しみ。

昔、母を失ってしまった自分と、何処か重ねているのかもしれない。

これは、しかし、考えすぎと言うものだ。アキトは本気でなんとも思っていないのであろうし、知ったところでそんなものか、と記憶の片隅に仕舞い込むくらいのものだ。

少しでも、力になりたいと思う気持ち。

恋は盲目。

まさに、ユリカは地で行っていた。

 

「それは彼を責めることは出来ないだろうな、ユリカ。テンカワ夫妻が亡くなられた時、アキト君は確か、お前よりも年下だったのだから、五歳かそこらだろう。ましてや、その数日後には木星蜥蜴との交戦状態に入ってしまった。その混乱の中、事情を理解出来るものの方が、恐らくは少ない」

「わかります。アキトも、そう言っていました。でも、せめてご両親が亡くなってしまった理由くらい、教えてあげたいんです」

言いながら、視線を部屋の隅へと沈ませる。微かに瞼を伏せ、肩を振るわせた。

ユリカは、本気だ。

これが演技であると言うのなら、世の中の女性が全て疑惑の対象となってしまうくらいに、纏う感情は儚げだった。

 

静かな風が、ゆるりと漂う。

 

「そうか。……………私は事故だ、と聞いている。確証はないがな?これすらも私が火星でテンカワ家と交友を持っていたことを知る友人が、教えてくれたことでしかない」

コウイチロウは、ゆっくりと言った。

止めた煙草を吸いたい、と無性に思う。

少なくとも、話したくない言葉を塞ぐことは出来るのだろうから。しかし、ユリカが産れて以降、一度たりとて手元にあることはない。

話すしか、道はなかった。

「事故…………ですか?」

「そうだ。一説には事故に見せかけて、殺されたとも言うが…………」

知る事実を、口にする。

娘に嘘やごまかしは、確かに通じはしない。

そう、育ててきた自負もあった。

だから、言った。

 

「殺された?………どういうことですか、お父様?」

 

「わからん。あくまでも推測だよ、ユリカ。それすらも、友人の考えに過ぎん。テンカワ夫妻は、二人そろって優秀な科学者だった。優秀すぎた故に、そして、研究の内容故に、殺されたのかもしれん、とな?」

「そんな…………」

ユリカに、驚きを隠し切ることは、無理だった。

生命を奪うほどの、研究。

理解の外にある、小説の中の話でしかなかったのだろう。現実に起こり得たなど、考えることも出来なかった。

「推測だ。今となっては、誰にもわからんことだよ」

「でも、殺される可能性まであった研究って………?」

ユリカは、テーブルに身を乗り出すようにして、聞いた。

「それもわからん。夫妻の勤める研究所は、独自に何かしらの研究を続けていたらしい。開戦の混乱から、あの時期のデータはほぼ全て、失われているに等しのだ。担当した友人すら、知らん。………私にも、これ以上のことは何もわからんのだよ?」

コウイチロウは、自分の声が沈んでいくのを、自覚する。

 

テンカワの夫妻は、良い家族だった。

二人の、互いの持つ能力のためかもしれない。夫婦でありながら、愛情のみならず尊敬しあい、尚、意見を正直にぶつけ合うことの出来る心。そして、研究者にありがちな、理論と結果のみではなく、想いを大切に出来た人達であった。

逝くには、早過ぎる。

凶報を伝えられた時には、歯軋りしたことを覚えていた。

 

握り締めた手が、痛いほどに、食い込んでいる。

 

「お父様……………………」

 

気遣わしげなユリカの声は、コウイチロウの心を、柔らかく、優しく包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「張り巡らされた、軍部の陰謀っ!残された子供達っ!!このシチュエーションに燃えるものを感じないのか、皆〜〜〜〜〜〜っ!!!俺達は正義なんだよっ!必ず勝つんだよ〜〜〜!!!」

 

旗から見れば、何処までも物悲しい。勢いだけが空回りし、聞くもの達に対し、何一つの感銘も与えはしない。

ヤマダ ジロウは、それでもスクリーンの前に設置されているテーブルに、ギプスの片足を忘れて、上機嫌で飛び乗った。

余程、興奮しているのだろう。

あまりの騒がしさに、別段アニメを見るでもなく、ぼんやりしていた者達の視線が、集まってくる。

握り拳を突き出し、尚も正義を主張し始めた。

そこには、理論も大儀もあったものではなく、ただ、己の考えを押し付けているようにも取れる。ヤマダにその意識はないにせよ、正義だけで何とかなるなどと、社会はそれ程に甘くはなかった。

 

「でもね〜〜。だからって、艦長もいない、マスターキーもない、ナデシコは制圧されている、って状況で何が出来るって言うんですか?」

メグミは、嘆息した。

三つ編みに結った髪が、同意するように震えた。

尤もだった。

いくら自分達が戦艦であるナデシコのクルーであるとは言っても、元は所詮、民間人に過ぎない。軍人を相手に、何とか出来ると考えることの方が、何処かおかしいのだ。

ため息を吐きたくなるのも、当たり前のことだった。

 

ヤマダはさらに、声高く、叫び続ける。

 

「せめてあのキノコさんくらいどうにか出来たらね、メグちゃん?」

椅子の背もたれに寄りかかり、苦笑するようにして、ミナトは答えた。

強調される胸のふくらみは、恐らく、何も打開策を思いついてはいない。妖しげに揺れるだけで、それ以上の力を見せることはなかった。

悩ましげな吐息が、流れた。

吐息は風を生み、風は己の存在を確認するかのように、緩やかに室内を漂いつづける。

ミナトは、もう一度、ため息を吐いた。

 

誰もが皆、そう思っている。

だとしても、何かしらの打開策が浮かんでくるわけではなく、この現状へと陥っているのだ。

無力ゆえの、罪。

 

「皆、聞いてんのかっ!!……………テンカワっ、お前だってロボットのパイロットなんだ、わかるだろうっ!?」

 

責めるような声、だった。

ヤマダは、後に、後悔することになるのだろう。もしこの時、アキトに声をかけたりしなければ、と。

何処か楽しげにも感じられるアキトの顔には、しかし、最早ヤマダに理解しきれるものではなかったのかもしれない。

緑の奔流。浮かび上がる紋様に、瞳奪われ、尚、恐怖が底から湧き出すように、襲い掛かってくる。

瞬時に悟った。

触れてはならぬものが、確かにある。

パイロットとしての資質すら示す、身に迫る危険への、感だった。

 

瘴気が、一点より巻き上がる。

アキト。

 

言葉すら、奪われた。

ヤマダは、震えているのを自覚した。

 

「正義は勝つ、か?………面白いよな?」

 

発せられた呟きを、風は確かに全てのものへと、届ける。

低く、重く。

込められた魔気とも言える意思に、クルーの全てが振り返った。

そして、知る。

闇の体現者が、そこにはいる。光までもが、身を竦めているように。

あまりにも、冷たかった。

理屈でも、感情でもない。心が恐怖に否定しようとするくらいに、伝わり来る鬼気に、誰もが言葉を失った。

「ひっ……………」

メグミの怯えを、皆が遠くで聞いた。

 

「ならば、負け続けてきた火星に生きる者達、それは悪か…………」

くくっ、と楽しそうに含み笑う。

奪われ、奪い尽くされてきた者。

アキトの身体を走る光のラインが、気迫とともに輝きを強めていく。

少年には、わかった。自分が変わっていく。

 

もう、誰にも止められなかった。

 

「テン、カワ、…………さん?」

ルリは、必死で言葉を唇に乗せ、紡ぎだす。

震えつづける自らを、鼓舞するかのように、小さな手のひらを握り締めた。

何かを言いたかった訳ではない。しかし、何かを言わなければいけない、と幼い心は前へと足を踏み出そうとする。

妖精は、世界の広がりを知った。

「奪われてきたんだ…………。何もかも無くしてきたんだ…………。それが、悪かっ…………」

吐き出される呟きは、ルリの耳に流れ込んだ。

あまりにも、小さく。

他の者には、届いてはいない。

ルリだけだった。

胸が鳴る。

「なら、奪え。奪うと言うのであれば、生命(いのち)をかけろよ?」

アキトは、誰の視線を気にすることもなく、微かに身を沈める。

 

跳んだ。

 

食堂からの、出入り口は閉じられている。

なのに、そこまでの距離を、僅か二回の低く長い跳躍で辿り着く。

人では、決して、あり得ない。

細身に感じていた体の線が、大きく一回りほど、膨れたように、見えた。

前のめりに肩を落とし、アキトは揺れる。

 

「なんと…………」

フクベの驚きが、漏れた。

当然のことだった。アキトの見せた動きは、それ程の人外のしなやかさを垣間見せていた。長く軍属として、木星蜥蜴と戦い、多くの兵士を育ててきたフクベ提督ですら、驚愕に身を竦めるのが、現実だった。

 

理解しきれぬものと相対したとき、人は理性でそれを排除しようと試みる。

現実にはない。

現実ではない。

自分は知らない。

か細い希望に縋るかのように、集められたクルーは、恐怖に縛られた。

 

「駄目…………。駄目です、テンカワさんっ!!」

その中で、ただルリだけが、叫ぶかのように声を上げ、駆け出した。

それは、予感だったのかもしれない。心の中で、アキトを止めなければ、と訴え始める何か、があった。

不安が零れる。

(あの人は…………。あの人は…………)

泣きたくなった。

約束は、守られることはない。

思いたくはない確信が、ルリの小さな身体を支配した。

エリナの、悲しげな笑み。

浮かぶ。

溢れる感情と言うものを、ルリは初めて、悲しみを携えながら、理解した。

 

「はぁーーーーーーーー」

アキトは、閉じられた扉を、凄惨な笑みを流しながら、見た。その姿を見るものが見れば、瞳の奥に宿るものが、例えようもないほどの狂気であったことがわかるだろう。

耳を塞ぎたくなるような、笑いが獣の唇より漏れ出てくる。

反応を見せるかのように、アキトの顔の紋様は輝きを増していった。

シャツの隙間からのぞく胸元。伸びた腕。

全ての個所に、ラインが光とともに、走り出す。

ゆっくりと、両手を扉へとかける。

指先を、隙間に挟み込んでいく。

何をしようとしているのか。

扉は外からロックされ、今この場にいるクルー達には成す術もない。だのに、この少年は、こじ開けようとしている。

如何なるものとて、どうしてこの獣を止められよう。

自らの眼を疑りたくもなる光景が、誰の視界にも広がった。

 

ミシッ。

作られた門番の悲鳴が、静かに漏れ出た。

開く。

開こうとしている。

 

「そ、そんな…………嘘……………」

誰の呟きだったのだろう。

 

「何をするつもりだ、テンカワっ!!」

叫びの音。ゴートだった。

この身体の動きすら阻む瘴気の中、声をアキトに向かって出せたことだけでも、特筆に価する。かつて、ネルガルのシークレットサービスにいたことは、伊達ではないのだろう。

足を踏み出せぬまでも、射抜くような視線を獣に向けた。

 

しかし、アキトには届かない。

ただ、一言のみが、全てを表す。

 

「殺す……………」

 

破壊の音色だけが、部屋の中に轟いた。ひしゃげた扉であった塊を、両脇へと押しつぶしていく。

冬を引き連れた獣よ。

 

地獄の扉が、開かれた。

 

「テ、テンカワさん………………」

足が意思に反して、ゆっくりと速度を落としていく。

ついには、歩みを止め、佇むだけしか出来なくなった。

「テンカワ………さん」

もう一度。

鈴の音は、寂しさだけを醸し出していく。ルリの右の瞳から、涙が一筋、流れ落ちた。

何故。

自分ですら、わかることのない雫に、ルリは怯える。胸元で両手を握り締め、振るえる身体を止めようと、必死になっていた。

(エリナさんエリナさんエリナさんエリナさんエリナさん、エリナさんっ!!)

恐怖。

それとも、悲しみ。

身を砕くやも知れぬ想いに。

 

ルリは、火星の意味を知り得た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分達にとって、それは容易い仕事であるはずだった。

 

最新の技術を投入され建造された戦艦とは言え、そこに乗るもの達は、戦う術すら身に付けてはいない、民間人。何処をどう転んだところで、失敗することなどあり得ない。

そう、思っていた。

後は、ムネタケの指示に従い、この食堂に集められたクルーがおかしな行動をとらないように、見張っていれば良い、と。

武器も持たず、扉までロックされ、奴らに一体、何が出来ようか。

 

「さっさとしてくれないかね、上の人達も……………」

 

正直なところ、暇で欠伸のひとつもしてしまう。それが、しかし、間違いだと気付いた時には、すでに遅かったのかもしれない。

ミシリ。

背中越しに、何かが聞こえてきた。

後ろには、食堂の扉しか存在していない。だとすれば、中で何かし始めたのか、と考えるのは、簡単すぎた。

「なんだ、まったく静かにしてりゃ痛い目見なくてすむものを……………………」

肩から下げられた小銃を構え、忌々しげに呟く。

天井に威嚇射撃でもしてやれば、大人しくなるだろう。

男は一歩、近づいた。

 

その時だった。

 

轟音が響き渡り、目の前の扉が勢い良く、強引に開かれていく。

(なっ………)

軍人としては、男の動きはあるまじき行為だったのかもしれなかった。

後ず去っていく。震える指先が、小銃のトリガーにかかることを拒否していた。

逆らえない。

それは、生ける者としての本能だった。

 

「ば、化け物……………………」

恐怖に染まる。

視界の中には、聖書にある悪魔とも見間違えるくらいの笑みを浮かべた少年が、口元を緩めながら、立っている。

緑の紋が、顔どころか、身体を埋め尽くさんばかりに覆い尽くし、発光していた。

 

今をどう、表現すれば良い。

恐怖などすら、生温い。

 

「そうか…………。貴様もか?」

 

瘴気を撒き散らしながらの死神の問い。男には、答えることが出来なかった。恐ろしさで、金縛りにあってしまったようだった。

瞬間。

震える銃口が、アキトへと向けられた。

しかし、願いはかなわない。

 

撃つよりも先に、獣は姿を掻き消すように動き、瞬時に男の顔面を右手で掴むと、壁に叩きつけた。

床から足は離れ、宙に持ち上げられた状態で、壁に押さえつけられている。その気なら、頭蓋を握りつぶすことも、この少年には可能なのだろう。にやり、と微笑を浮かべた。

手に力が込められる。

軋む感触に、喜びの声が上がった。

 

「ひ、ひ…………。や、止めて…………」

 

楽しんでいる。

男は、思った。

顔を手で覆われ、姿は見えぬまでも、伝わり来る震えは、確かに歓喜そのものだ。殺されたくない。こんな風に、楽しげに殺されたくはない。誰が愉悦のために己の命を授けることなど出来ようか。

そこに、軍人としての姿はなかった。

戦う理由は、誰でも持っている。愛国心であれ、使命感であれ、恐怖を上回る何かが軍と言う組織を形作る。しかし、それらすら超える恐怖に、人は逆らうことなど、不可能だ。

人間とは、何処までも本能で生きる生物にしか、過ぎないのだから。

 

軍服を着込んだ男は、泣いた。

失禁している自分に、気が付かなかった。

 

「でも、お前は俺から奪いにきたんだろう?」

「ひっ」

 

ミシッ。

力が、緩やかに込められていく。

 

男は、耐え切れなくなり、逃げ出した。気を失うと言う、方法をとって。

 

「止せっ、テンカワッ!!殺すなっ!!」

ひしゃげた扉へとゴートは、駆け寄りながら、アキトへ向かって叫んだ。力ずくでも止めようと、懐に隠し持っていた銃に手を伸ばす。

しかし、抜き去ることは出来なかった。

アキトは、持ち上げていた男をゴートへと、投げ付けたのだ。

体重七、八十kgはありそうな男が、玩具のように宙を舞い、ゴートへとぶつかる。

その衝撃、誰が想像出来よう。

「ぐはっ」

呻き声が、食堂内に木霊した。弾き飛ばされる。

傍にいたミナトが、傍へより助けようと、上半身を起こすゴートの背を支えた。

 

「なぁ、ヤマダ…………」

アキトが、呟くように、言った。狂気が言霊となり、聞くものの心を支配する。

誰も口を挟むものは、いなかった。

静寂に包まれ、聞き入る。

 

「これは、“正義”なんだろう?」

 

嘲笑が、舞い踊った。

何人たりとて、動き出したアキトを止めることが、出来なかった。

 

蜃気楼に揺れるが如く、ゆらりと身体を揺すると、獣は動き出した。

 

残るは、静寂。

 

 

 

 

 

「う………、くっ、…………うっ」

 

ルリは、ひとり、床にへたり込みながら、両手で顔を覆い、泣き続けていた。

 

わからない。

わからない。

 

何故か、アキトの言葉とともに、悲しさが心を覆い尽くす。

流れ込んでくる風に、ルリは、ただ咽び泣くことだけしか、出来ることはなかった。

どうして。

 

アキトの感情、想いをしめる何かが、伝わってきた。

炎に包まれた、心。

混沌の中に、アキトはいる。

(あの人は……………、もう、壊れてる……………)

エリナの姿が、胸に浮かんだ。

 

「どうして、一緒にいれるんですか?………………エリナさん?」

 

 

 

 

 

獣の心は、何処までも悲しみを友としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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かすいです。

 

はぁ、Eでも終わっていない……………。

どうすれば、良いんですかっ!!(自分で考えろってね?)

何とか次で終わるように、頑張らねば…………。

何か、昔から言っているセリフのような気が…………。

見捨てないで、読んでやって下さい。

 

かすいは今、エリナさんとルリちゃんで心の五分の二をしめています。

この二人を絡め、アキトを中心にお話は進んでいくことになると思うんです。

予定は未定ですけど。

はい?残りですか?

後の五分の二が、某楓嬢と、某アスカ嬢でして………、はい。

その他はひ、み、つ。(爆)

 

感想、お待ちしております。

 

では、またの機会に。

 

 

 



艦長からのひとこと。

はい、かすいさんの投稿です。


はい、アキト壊れてます。
これからどーなる?
ナデシコに血の雨が降るか?(笑)
雑魚だったら殺していいよ(不敬)

さあ、切れまくりアキトが見たいんだったらメールだ!

PS:かすいさん、艦名ホントにあれでいいんですか!?(笑)

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