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機動戦艦 ナデシコ IF
〜昨日よりも もっと 優しく〜
第三話 B パート
By かすい
「ルリちゃん、エリナさんを呼んでくれるかな?」
艶やかなるかな、その振袖姿。
着れたことが嬉しいのか、それとも、何かしら別の理由でもあるのか、ユリカは満面の笑みを浮かべて、ルリに言った。
軍との交渉が上手くいかなかった事実ですら、今の浮き立つこの気分を壊すことはなかった。新年だけに、心も弾む。ある意味、平和過ぎたのかもしれない。
見ている分には、楽しい。
しかし、これからのナデシコが取らなくてはいけない行動を考えると、誰もが苦笑せざるを得なかった。
何しろ軍は、この艦を敵だ、とまで言い切ってしまっているのだ。
地球側が持つ防衛ラインは、全部で六つ。
戦闘機の編成による第六次、艦隊による第五次は、この際無視していてもかまわない。たかだかナデシコ一隻に、軍が戦力の大半を動かしたせいであろう。各地で冬眠状態にあったチューリップが、大きな口を開き始めている。対応に、ナデシコどころでは、最早、なくなっているはずだ。
第四次の地上から放たれるミサイルに関しても、ディストーションフィールドが安定している今、それ程の害はないだろう。多少、艦が揺れる程度になるかもしれないが。軍の上層部が、そのことに気付いて撃たずにいてくれれば、尚更良いが、あまりに希望的観測なのかもしれない。
問題は、尽きることはない。
「エリナさん、ですか?」
ルリは、オペレーター席から、顔だけをユリカの方へ向けると、聞き返す。
ブリッジには、既に主要クルーはそろっているのだから、そこにエリナを呼び出す意味があるのかどうか、良くわからなかったせいでもあった。
ミナトが操舵をしている現在、エリナがいる必要まではない。
だが、ユリカの言い分は違った。
「そっ。副だと言ってもエリナさんもナデシコを動かしてもらうんだから、ちゃんと針路のこととか知っておいた方が良いでしょう?防衛ラインも結局、止めてくれないみたいだし。後でデータでも見ればわかるけど、お話しておいたほうがきっと、わかりやすいもん」
袖を、くるくる振り回す。
楽しんでいるらしい。
フクベのため息が、小さく流れた。
ユリカ自身の行動が軍の上を怒らせたことに、まるで気が付いていない。
プロスやゴートは、何処吹く風。すでに考えることを止めていた。
「ユリカ、そんなにはしゃいでいると、転んじゃうよ?」
ジュンもまた、言う。
しっかり、前回の戦闘の後、ナデシコに乗り移っていたらしいのだから、大したものだ。
普通なら、気まずくなるのだろうが、ユリカの性格は把握している。
恐らく、自分をトビウメに置いていったことなど、すでに遠い記憶の彼方のはずだ。
逆を言えば、今ここに自分がいたところで、変だとも思いはしまい。
喜ぶべきか、悲しむべきか、微妙なところだった。
考えてしまえば、答えが知りたくなってしまう。下手に思わない方が、無難だった。
哀れだ。
「大丈夫、ジュン君はほんとに心配性だね?ルリちゃん、よろしく」
ユリカは、ブイサインを決めながら、弾んだ。
「わかりました。……………部屋にいない。あれ?…………テンカワさんのとこ?」
ルリが小さな手を滑らしながら呟くと、手元にウインドウが開かれ、エリナの所在地が映し出される。だが、艦内地図にある赤い光点は、エリナの部屋ではなく、アキトの場所で点滅していた。
また、遊びにいっているのかもしれない。
その程度に、思った。
先日、廊下ですれ違ったエリナに、暇なら付き合う?とアキトの部屋に連れて行かれた記憶がある。またか、と肩を落とすアキトに恐縮したのを覚えていた。
「どうしたの、ルリルリ?」
ミナト。
首を傾げるルリに、何か感じたのか、隣から声をかけた。
長い髪が、サラリと流れている。
相変わらず、制服のサイズがあわないのか、豊かな胸元もあらわに、気にする様子もない。
理解しているのか、無意識のうちなのか、女性としての魅力を撒き散らしていた。
綺麗と言う点において、ナデシコ一を誇るだろう。
「はい?いえ、別に。ただ、エリナさん、テンカワさんの部屋にいるみたいですから…………」
返事をする。
ミナトの言葉の節に、自分への柔らかさを感じるのが、何故か嬉しいと思った。
「テンカワ君のところに?」
「はい。………とりあえず、繋げます」
さらにルリが手を動かすと、ブリッジの前方に大きくスクリーンが広がる。
「あ…………………………」
誰の声だったのだろう。
音声だけにしておいた方が、良かった。
風だけが、漂う。
沈黙の分だけ、クルー達の驚愕の大きさを物語っていた。
アキトがいた。当然だろう。少年の部屋なのだから、何も問題はないはずだ。年の割に、綺麗に片付いているところが、妙に皆の歓心を誘う。
ベットに寝ていた。自由時間に寝ていたとしても、疲れがたまっているのだろうから、責める筋合いは何処にもない。自分達でも、時間が許すのなら暖かいベットの中に、潜り込みたいと思ってしまう。
至福のひとときだ。
だが。
何故、エリナが一緒に寝ているのだろうか。
アキトの腕を枕に、胸に頬を摺り寄せ、気持ち良さそうに。
小さく唸ると、もそもそとアキトに暖かさを求めるようにして、身体をあわせた。
しっかり、縦に白と黒のストライプ柄のパジャマが布団から覗いているが、今はそんなことはどうでも良い。
重要なのは、その二人の姿が、まるで違和感を思わせないと言う事実だった。
「これは…………、契約違反なんですがね〜〜〜?」
プロスの呆れた声を、心に届けたものはいない。
興味深げに顎に手をやり、かつて見たことのない上司の穏やかな顔に、微笑みすら出て来てしまう。会長が言っていたのはこういうことですかね、と一人、理解していた。
テンカワ君は、特殊だね。
なるほど、確かに特殊であろう。
エリナが、可愛く見えてくる。
「ア、アキト………。あうあう、あ、アキト。嘘、嘘よ」
対して、こちらは違ったらしい。
微かに首をふりふり零すユリカが、可哀相になってくる。振袖が、変に微妙な動きを醸し出していた。
想像豊かなのが、災いしているのかもしれない。脳裏には、何が駆け巡っているのだろうか。
十分な言葉にならないらしかった。
ただひたすらに、あうあう、だった。
誰も、しかし、聴いてはいない。
それも、仕方ないことだ。
皆が皆、ウインドウに映るアキトとエリナに、気持ちを奪われ続けていた。
「あら、楽しくなりそ」
ミナトだけが、にこやかな微笑を浮かべて。
「あの…………、テンカワさん?………起きてくださ〜〜〜い?」
ルリは、ブリッジの困惑に気が付くことなく眠り続けるアキトを、小さく呼んだ。
起きてもらわないことには、話が進みそうもない。
電気が落とされているせいか、アキトの部屋は暗く、コミュニケの光で浮かび上がる二人の姿が、やけに印象深く、心に残った。
幸い、アキトはすぐに反応を見せ、目を開けた。
「ん?………あぁ、ルリちゃんか。どうかしたか?」
アキトは、コミュニケに映るルリに、頭を掻きながら上体を起こそうとする。しかし、腕にかかる重さに気が付いたのか、自分の隣へと視線を向けた。
エリナがいた。
嘆息する。
またか。
そう、思った。
「あの、テンカワさん?」
「ん、ちょっと待ってくれるか?こいつが邪魔だ……………」
エリナの頭を逆の手で少し持ち上げると、腕を引き抜き、その間に枕を挟みこんでやる。そっと手を離して、揺らさないように己の半身を起こした。
ここでエリナが眼を覚ませば、怒り出すのは目に見えている。
なるべくなら、起こしたくなかったのだろう。
シャツがよれよれになっていた。
涎でもついていたなら、殴ってやるところだ。
「あの、…………どうしてエリナさんと寝てるんですか?」
ルリは、言った。
違う。
そんなことを、聞きたかったのではない。
エリナにブリッジへ来るように、伝えてほしかっただけだったはずだ。
思わず口をついてでた言葉に、ルリの方がうろたえを感じさせた。視線が、泳いでいる。
僅かに顔を、赤く染めた。小さな仕種に、慌てているのがわかった。
「ん〜〜〜〜、知らん」
茫洋。
言葉そのままに。
アキトにしてみれば、そう答えるしかなかった。
何故と言われても、理解出来ないのだから言いようがない。わかるのなら、逆に教えてほしいくらいだった。
この辺、呆けているといわれても仕方がない。
昨日は確かに、一人で寝ていたはずだ。大概のことならすぐに眼を覚ますが、どうしてもエリナが部屋に入ってくるのに、気がつけないのが不思議だ。
ベットの中にまで潜り込まれても自分が寝ていることを考えると、エリナを人間として認識していないのかもしれない。
馬鹿げたことを、心で流す。
短期間の間に、アキトの認識はクルーの中での位置付けが下降しているのも尤もだった。
獣の姿は、そこにないのだから。
大ボケな兄ちゃんでしかない。
「知らない、ですか?」
ルリが、言った。
「そう、知らない」
あまりにも、簡単な返事だった。
「知らないって、そんなの酷いじゃないですかっ!!」
いきなり、メグミが叫んだ。
「あ、あうあう……………」
ユリカも何か言おうとしていたのだろうが、遮られる形でメグミに先を越されてしまったらしい。口をぱくぱくさせている。
どうにも、間が悪かった。
「何で?」
アキトが、聞き返した。
それはそうだ。疾しいところは、何もない。それ以前の問題なのかもしれないが、現状において、少年は何もわかっていないに等しかった。
ある意味、こちらの方が、性質が悪いのだろう。
「何でって……………。そんなこと、私から言えませんっ!!」
メグミは、しばらく考える。顔を真っ赤に染めると、さらに叫んだ。
「言ってもらわないとわからないが…………」
確かに。
しかし、世の中女性には言葉にするのを憚ることが、多くあることを理解していなかった。
ただ単に、想像を膨らませすぎだ、との意見もあるが、却下する。
イメージする力がなければ、人は何処までも今いる場所から動けない。
女性の持つ逞しさも、自身らが持つ、逞しいまでもの想像力のおかげだろう。
話がずれた。
メグミは、恥ずかしさにそっぽを向いている。
別段、アキトを意識しているのではなく、変なことを考えてしまった自分が恥ずかしいのだ。
しかし。
「だから、どうしてアキトがエリナさんと一緒に寝てるのっ!!まさか………、まさか、アキトは……………。大人に、………なっちゃったの………………?」
そうでないものも、いるらしい。
考えるだけどころか、口にまで出してしまっている。
ユリカが、ぱたぱた、地団駄を踏んでいた。
艦長としての威厳は、そこにはない。
可愛いらしかった。
「何でって言われてもな。エリーが勝手に入ってくるんだから…………。ブリッジで当直が終わった後、部屋に戻る途中に俺の部屋があって、自分のとこまで行くのがめんどくさいから俺の部屋に潜り込んでくるらしいが……………。ここしばらく、いつも寝てるな、こいつ」
アキトは、言った。
エリナからは、確かにそう、聞いている。
しかも、最早すでに、パジャマ持参だ。洗面所には、歯ブラシまである。部屋にエリナの私有物が、訳もわからず増えてきているような気がしたが、持ち込んでくるのを見たことがないのに、一体、何時の間に運び込んでいるのだろうか。
不思議だった。
「だからって、一緒に寝るの〜〜〜〜〜〜〜!?」
泣き出さんばかりに、ユリカが声を上げた。
アキトの言葉を信じる、信じないはどうでも良かった。すでに、感情だけの問題となっていた。
瞳を潤ませ、声を荒げる。
誰も、止められなかった。いや、止めようとは思わなかった。
「だから、エリーが勝手に寝てるだけだ」
淡々とした、声。
少年にとって、その程度のことでしかなかった。
「前に私が部屋に行った時には、すぐに起きて銃まで突きつけたのに〜〜〜〜〜〜〜!!何でエリナさんの時は起きないのよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
大音量で、叫ぶ。
潜り込もうとしたのだろうか、ユリカは。
言外に意味を理解し、クルーは呆れかえった。
「あれだけ妙な気配をさせてたら、誰でも起きると思うが…………」
納得出来る答えに、確かに、と思わず誰もが頷いてしまう。
ユリカを見ていれば、自然と理解出来た。
「完全に天然ね、あの子」
ミナトの呟きに、ルリは意味がわからず、首を小さく傾げる。
「天然?」
視線を向け、聞いてみた。
「何も意識していないってことよ、ルリルリ?」
くすくす笑っていた。
ぼて。
通信を介して、重い音がブリッジに流れる。
「あ…………、エリナさん落ちた」
「………痛い」
「ちょい、待て。俺のせいじゃないぞ、おい?」
「…………うるさい」
「あ…………」
アキトが、ベットから落ちた痛みで眼を覚まし、押し出されたと勘違いしたエリナに、見事なスナップで叩かれるのが映し出されたのは、ほんの僅か、数秒後のことだった。
可哀相に。
誰もが、思った。
「おっとと、こぼれる。……………しかし、何かこの艦に乗ってからと言うもの、変に生傷が絶えないような気がするが。どうなってんだろうな?」
アキトは、食堂のカウンターで受け取った豚骨ラーメンを、空いている席まで運びながら、一人、ごちた。
エリナに張られた頬に、しっかりと紅葉が出来ている。
見事なまでに赤いそれは、廊下ですれ違ったクルー、食堂で横に並んでいた整備員、さらにはホウメイやアシスタントの女の子を含め、全ての笑いを誘っていた。
多少の時間は過ぎていると言うのに、未だに真っ赤に存在を主張している。
エリナの恨みが、こもっているのだろう。
衝撃音と共に、揺れた。
すでに軍の第四次防衛ラインからの、攻撃を受け始めている。
地上からのミサイル攻撃だ。
艦自体に害はないとは言え、さすがのディストーションフィールドでも、ミサイルの衝撃まではどうにもすることは出来なかった。
着弾ごとに大きく揺らぐ艦内で、アキトは丼片手に器用に歩いている。
椅子に座った。
「テンカワ君?」
食べ始めようとした瞬間、背中から柔らかく声がかかった。誰かがいることは気配で気が付いていたが、まさか自分に話し掛けてくるとは思っていなかったのだろう。
丼を片手に持ったまま、麺を口にくわえ、アキトは軽く振り返った。
「ぶぅわあい(はい)?」
「あ〜〜〜、口の中のもの、ちゃんと食べてからで良いから」
ミナトだった。
指先で落ちてくる髪を後ろに流し、微笑している。座っているアキトの視線に高さを合わせるためか、僅かに屈みこんだ姿勢だった。
お姉さん。
そんな雰囲気が、周囲に漂っているかのよう。
アキトは頷き、麺を啜ると口元を拭い、言い直した。
「はい?えと、ハルカ ミナトさん、…………でしたか?」
「そっ。あら、早く食べないと、冷めちゃうわよ?」
「はぁ。そりゃ、食べますが………」
「隣、座っても良いかな〜〜?」
「どうぞ。空いてますから」
アキトにしてみれば、何故、自分に聞かれるのかが、良くわからないのだろう。ミナトが話し掛けてくることと同様に、理解しがたい“何か”があった。
妙に最近、言葉を交わすものが増えてきている。
事実としては、アキトとエリナがいたる所で喧嘩をしているのを目撃されているため、アキトに対し、クルーが僅かとは言え、親近感を持つようになってきていた。
自身は気が付かないまでも、認められ始めている。
そういうことだ。
ただ、アキトには、どう思われようと、それ程たいしたことではないらしい。
振動。
「ね〜え、テンカワ君?一つ、聞いても良いかな?」
ミナトが、黙々とラーメンに箸を伸ばし続けるアキトの顔を覗き込むようにして、頬杖を突いている。何処となく、音色が楽しそうに感じられた。
胸元が、眩しかった。
「なんです?」
こちらは、いつもと変わりがなく、そっけない。
異様な速さで食べ終わり、最後には丼を抱えて、スープを最後まで飲み尽くしている。
ここまで豪快に食べ尽くしてくるのなら、ホウメイが喜ぶのも無理はなかった。
テーブルに飲み干した丼を戻した時のアキトの微笑が、心底嬉しそうで、何ともいえず良かった。
「おいしそうね〜〜〜。なんか、あたしも食べたくなってくるわ」
ミナトは、唇に微かな笑みをのせる。
「上手いですよ?」
再び、簡単に。
聞きたいことがあると言ったことに、何も問いただしたりはしなかった。
この少年は、一見そっけなく映るが、例え相手が誰であろうと、ミナトの知る限り、答えを返さなかったことなどない。だからだろうか。ミナトには、アキトという少年が、好ましく感じられた。
それでなくても、エリナとの会話で垣間見せる仕種には、余人は知らず、ミナトは確かにエリナに対する思いやりに満ちていると思っていた。
そうでなくては、どうして命をかけるほどの信頼が生まれてこようか。
アキトの駆るエステバリスの前に立ちふさがったエリナには、目に見えるほどの覚悟があった。
アキトが撃たないと信じていたのではなく、アキトになら撃たれてもかまわない。
そう、考えていたのだろう。
どうすれば、あそこまで己の命を他者に預けることが出来るのか。
ミナトには、不思議で仕方がなかった。
ナデシコに乗る前は、社長秘書として働いていた。
しかし、企業を預かっている人物でさえ、それ程の力は持ち合わせていない。優秀ではあったが、ミナトもまた、エリナのように自分の生殺与奪権を与えるくらい、信頼することは出来なかった。
結果、この船に乗っている。
だのに、何故。
この少年は、エリナの命を握るほどに、想われているのだろう。
操舵士と副操舵士の関係のためか、エリナと接する機会は多い。エリナがどのような人物であるのかも、完璧とは言わないまでも、多少は理解しているつもりだ。
冷静沈着、視野も広い。能力で言えば、誰も勝てるものはいないだろう。
そこらの男では太刀打ち出来ないのは、眼に見えている。
そんなエリナが、しかし、アキトの前では幼さを隠そうとしない。
何処に、それだけの魅力があるのか。
興味が募った。
再び振動が、襲い掛かる。
幾つか、ミサイルがあったらしい。
気にもならなかった。
「う〜ん、ダイエット中だから、止めとくわ?それよりも、テンカワ君…………何か呼びづらいな〜、アキト君で良い?エリナが怒る?」
ミナトは、くすりと微笑を浮かべながら、言った。
「別にかまわないが………。呼びづらいかな?」
アキトの方は、妙なところで、考え込んでいる。
眉を寄せ、いきなり、苦悩していた。
長年親しんだ名前だ。今更、変えることも出来ない。何か方法はないか、などと馬鹿げたことを思っていた。
こういう性格が、呆けていると言われていることに、気が付いていなかった。
「そこは別にかまわないんだけど………………」
ミナトも、呆れかえってしまった。
今まで、名前で呼んでも良いか、と聞けば、大概の男達は喜んで頷いたものだ。
秘書として働いていた時もそうであったし、会社帰り、同僚達と飲みに行ったときも同様だった。
しかし、アキトは喜ぶのではなく、別のことに意識をとられている。
基本的に、馬鹿正直なのだ、少年は。
真剣に、名前について、考え込んでいる。
可愛い。
思わず、ミナトは思ってしまった。
「そう言えば、火星でもテンカワなんて呼ばれることは、ほとんどなかったからな…………。確かに、何か呼びづらいような気が……………」
まだ、言っている。
「そう、それそれ、アキト君?」
ミナトが、言った。
「はい?」
「アキト君、火星にいたんでしょう?」
「あぁ、はい。いましたけど。エリー、言ってませんでした?」
アキトが、のんびりと答える。
「言ってたよ〜〜〜。でも、火星にいたってことだけ。どうしていたのとか、何時までいたのとか、ぜ〜んぜん。いきなり二人で喧嘩始めちゃうから」
からかい口調で、笑いかけた。
ブリッジの一こまを、思い出す。今考えると、計算していたのかと考えられるくらいに、タイミングが良かった。
アキトを見れば、そのような事がないのはすぐにわかるが、これもエリナとの相性と言うものだろう。
「なるほど。…………エリーがもう、話していると思ってましたから」
「だから、教えてくれないかなって、思ったのよ?」
「はぁ、変なこと知りたいんですね。別に、かまいませんけど。隠すほどのことは、何もないですし」
怪訝そうな顔をした。
「あら、興味あるもの。多分、み〜んなね?」
「はぁ…………」
曖昧に相槌を打つと、首を傾げるしか、出来ることはなかった。
当たり前だ。
生い立ちに興味があると言われても、自分にとってはただ単に、今までの生活を、思い起こすにしか過ぎないのだから。
「教えてくれるかな?」
微笑を見せたままの、ミナト。
楽しそうに、アキトの言葉を待っていた。
「火星…………。そうだな、何から言えば……………」
アキトは、僅かに天井を見上げるようにして、考えた。
始まりは、何処にあるのだろう。
ふと、思う。
気が付いた時には、その場にいたのだ。何から話し出せば良いのか、良くわからなかった。
「うん?」
ミナトの優しげな声が、耳に届いた。
「テンカワ、何処だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
呆れるくらいの大声が、何処からか響き渡ってくる。
あまりの音量に、食堂内にいた誰もが手を止め、辺りを見回していた。
アキトとミナトも、例外ではない。
自分の名を呼ばれただけに、アキトは異様に警戒をしていた。
「ヤマダ…………。まだ、見せるつもりかよ?」
呟いた。
最近、いや、トビウメとの一件以来、ヤマダが部屋にビデオ持参で押しかけ、本当の正義を教えてやろう、と訳のわからないアニメをひたすら流し続けていた。
エリナがいれば、叩き出してくれるのだろうが、今はミナトが傍にいることを考えると、操舵手として仕事をしているのだろう。
はっきり言って、わずらわしかった。
宇宙無宿だか、ゲキガンだか知らないが、笑いを誘いこそすれ、真面目に見ようとは思わない。ヤマダには、そのことが気に入らないらしく、ことある毎に現れていた。
「あらあら、アキト君、人気ね〜〜〜〜?」
ミナトが、微笑を零す。
何となく、アキトがどのような人物なのか、わかるような気がした。
「い、居場所がない………。エリーがいれば、ヤマダがいない。ヤマダがいれば、エリーがいない。俺の居場所が、どんどん減っていくような……………………」
確かに。
部屋にいなければ、大概が食堂か格納庫だった。
最早、行動パターンが読まれているらしい。
艦が揺れているのか、自分が揺れているのか、アキトには理解することが出来なかった。
願わくば、艦であると思いたい。
「大変ね〜〜〜〜?」
「大変なんです」
肩を落とすのを、一体、誰が責められようか。
まだ、火星で木星蜥蜴か、盗賊相手に戦っていた方がマシだった。
「あたしの部屋に来る、アキト君?」
ミナトが、にこりと笑った。
「は?」
「お茶くらいご馳走するし、火星のお話も聞きたいしね?それに、いつも同じ場所にいるから、見つかっちゃうのよ?」
ふんわり、と髪が流れる。
ミナトの持つ、柔らかさそのままだった。
ヤマダが、近づいてくるのが感じられる。
アキトは、否応なく、頷いた。
「あれ?アキト、いない」
部屋で、ユリカが呟いていたのは、別の話。
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かすいです。
はて、結構書いているような気がするのに、どうしてここまでお話が
進んでいないんでしょうかね?
未だに第四次防衛ラインだし。(笑)
このまま行くと、地球を出る頃には、どれだけパートを重ねていることやら………。
(止めときましょう。ほんとになりそうで、怖い……………)
前回の更新が、かすいの書いているエヴァのお話とほとんど重なり、
すっからかんにしていたHOTMAILが埋まってしまいました。
返信、急いでいるんですが、さすがに少し、遅れるかもしれません。
ごめんなさい。
後、十通くらいで今回のは、送り終わりますので…………。
感想、質問、たくさんお待ちしておりますです。
返信、確実。
送ってやって下さい。
艦長様、艦名、大丈夫です。
あれはあれで、かすいにあっているような気がしてならんです。
しかし、空母と巡洋艦に並んで、いきなり屋形船…………。
笑えますな?
では、またの機会に。
艦長からのひとこと。
はい、かすいさんの投稿です。
エリナさん。
それじゃまるで押し掛け女房ですってば(笑)
・・・そのうち、アキトの部屋には「テンカワ/キンジョウ」なんて表札がかかるかもね(爆)
さあ、いまだ地球から脱出していないナデシコが見たいんだったらメールだ!(爆)