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機動戦艦 ナデシコ IF
〜昨日よりも もっと 優しく〜
第三話 C パート
By かすい
「機嫌、良さそうですね、エリナさん?」
鼻歌まで聞こえてきそうなくらいに、弾んだ空気が何処となく、ブリッジに漂っている。
軍からは攻撃を受け、状況的に、何かがおかしいような気もするのだが、ナデシコ自体にそれ程の危機感が感じられないのが不思議だ。
ネルガル重工の社風なのか、個人の問題なのか、あまりにも気楽な雰囲気が周囲を包んでいる。ブリッジでこうなのだから、他所では一体、どうなっているのだろう。
思わず、考えてしまう。
ルリは、ミサイルの着弾で振動を伝えて来るシートに座ったまま、身体を揺れるに任せ、それでも視線をエリナの方へとやり、話し掛けてみた。
ユリカは、振袖を着替えてくる、と席を外し、通信士は暇になってしまったのか、メグミは先程から、出たり入ったりを繰り返している。
今は、いないことを思うと、もうしばらく戻ってはこないだろう。
がくん、と一際大きな揺れが、艦を襲った。
ジュンの呻きが、後ろから小さく、聞こえてくる。
まだ、一人、いたようだった。
これと言って、気にはならない。
哀れ。
「何、ルリちゃん?」
エリナが、聞き逃したのか、微笑をルリに向け、声を返した。
「楽しそうですね?」
そうとしか、言いようがなかったのかもしれない。何しろ、感情に疎いと思い込んでいる自分にですらわかる、エリナの仕種。
流れる、と言う言葉が確かに合う。
ユリカが普段見せる楽天さとは、また違った何かが、そこにはあった。
何なのかは、わからない。感じる、としか言えなかった。
ルリは、基本的に、他者との交わりは少なかった。
ミスマル家に引き取られてから、約二年。
ユリカ、コウイチロウ、ジュンを含め、言葉を交わしたものは数えるほどしかない。エリナは、言ってみれば、ルリがユリカ以外で初めて興味を持った女性である、と思ってもいいのだろう。
ミナトにしても、メグミにしても、そうだ。
ユリカの存在そのものが、ルリにとっては母であり、姉であり、そしてまた、女性の象徴であった。
しかし、世界は広がりを見せ始めた。
その中で、理由は自覚出来ないにしても、何故かエリナに心を引かれる。
好奇心と言っても、良いのかもしれなかった。
「楽しそう?………そう見える?」
エリナが、言った。
「はい」
「だったら、楽しいのかもしれないわね。何処か、ほっとしているところがあるし、ね?」
「ほっと、ですか?」
ルリは、ちょん、と首を傾げる。
何気ない幼い仕種と、少女の持つオペレーターとしての能力とのアンバランスさを、確かに醸し出していた。
恐らく、気が付いてはいまい。
知りながら、出来るのだとすれば、策士であろう。
十一歳のそれではなかった。
知識に感情がついていかない、少女特有のあやふやさ、だった。
人は、魅力と呼ぶ。
可愛らしい。
「そうよ。ほっとしてるのよ、きっと。…………だから、アキト君に迷惑かけてるのよね…………」
苦笑している。
ルリには、エリナの言葉の意味が、理解できなかった。
「迷惑?」
「そう。………アキト君の時間、邪魔しちゃってるし。ま、別段、気にはしてないんだろうけど。甘えちゃってるのね?」
困った困った、と手をルリに向かって、振っている。
照れているらしい。
エリナも、この少女でなければ、ここまでは言うまい。
正直であるからだろうか。すんなりと心に入ってくる素直さが、ルリにはある。相手が自分のような、会長秘書として社会的立場を持つ者だとしても、変わることがない。
基本的に、ナデシコクルー全員がそうなのかもしれないが、少女は特に際立って感じられた。
金色の眼差し故に、であろうか。
まるで、吸い込まれるように。
「………………?」
ルリ。
「わからないかな?………そうね、例えば、お父さんかお母さんか、その、………大切な人にね、………ものすごく怒られたとするわ?」
「はい」
「嫌われたんじゃないのか。もう、相手にもしてくれないんじゃないか。でも、自分は悪くないと思いたい。それでも、自分も何処か悪かったのかな、って考えたりしちゃうの」
「はぁ…………」
ふにふに、している。
長くふうわりとした髪が左右に揺れて、頭上にはいくつかのウインドウが開き、ハテナマークを映し出していた。オモイカネの仕業であろうか。
少女には、良くわからないのかもしれなかった。
「わからない?結局は、不安になっちゃうのよ。傍にいても良いのかなってね?」
エリナは、優しげな微笑を浮かべた。
子供のような、大人のような、柔らかい笑みだった。
自分でも、何が言いたいのか、良くは理解出来ない。だとしても、この少女には伝えたい。
そんな風に、思っている。
理由などは、どうでも良い。
エリナが持つ、母性のためであろう。
「傍に……………」
「そう。………アキト君はね、あの時、トビウメの時に私を本気で邪魔だ、って思ってたわ?それこそ、あのまま撃ってしまうくらいに。結果的には、撃ちはしなかったけど、それでも、私はアキト君が絶対に撃たないなんて思ってなかったもの」
「死んでも良かったんですか?」
素朴な疑問だ。
エリナの言葉を考えれば、そうなってしまう。
そして、ルリはコミュニケを通じて、エリナがアキトの前に立ったあの時、全てを見ていたと言っても良い。
アキトがカノン砲を撃った瞬間、確かに微笑を浮かべていた。
忘れることが、出来ないほどに。
ルリは、聞いてみた。
「死にたくなんて、そりゃあ、ないわよ。でもね、アキト君に、あの時のアキト君に言葉を届かせるには、命を預けるしかないから」
「どういうことですか?」
「命をかけなければ、アキト君は受け入れないの。あんな時にはね?」
ひとつひとつ、疑問に対し、答えを返していった。
真っ直ぐにひたすら進むことも、悪くはない。しかし、寄り道、道草に数多くのことを学んでいくのも、生きることだった。
多少の質問のずれなど、気にもならない。
「良くわかりません。正しいことは、正しい。違っていることは、違っている。エリナさんのテンカワさんを止めようとした行動は、間違っているとは思えません」
その通りだ。
例え軍が、強攻策に出てきていたとしても、アキトはナデシコ艦内をすでに制圧していた。
以上の攻撃を必要としなくても良いことは、誰の目にも明らかだ。
「そう。私もそう、思う。でもね、理屈と感情は別。………アキト君にとって、理論的に正しくても、自身の考えに命をかけることの出来ない者の言葉なんて、決して、届くことはない。だから、よ」
くすり。
笑う。
アキトはある意味、何処までも自己中心的なところがあるのだろう。意味のあるものしか受け入れず、そして、意味のある言葉とは、己の全てをかけたものでしか、認めることはない。
火星で生きてきたアキトにとって、譲れない一線だった。
エリナには、悲しみとも映る。
少年の歴史が、垣間見えた。
どれほどに、甘い換言を受け入れ、自分の命を危険にさらしてきたのだろう。
リスクとして、アキト自身の全部をかけることが出来るからこそ、相手にもそれを求めようとしてしまう。
いや、求めざるを得ない。
でなければ、死ぬのはアキトなのだ。
それが、現実だった。
だからこそ、悲しい。
「感情…………。今は、わかりません」
言った。
いつかは理解することが、出来るかもしれない。違う。いつかは、理解したい。
想いが言わせた、言葉だった。
エリナの持つ微笑が、ルリに思わせる。
知ることが出来たのなら、何かが変化していくのかもしれない。
それは、そして、決して悪いことではないのだろう。
「ごめんね、話がずれちゃったわね?…………アキト君は、そんなこと気にする人じゃないの。私の問題なのよ?」
エリナが、微笑んだ。
何故だろう。
透き通る笑顔に、ルリは嫉妬にも近い、羨ましさを心に感じた。
「エリナさんの、問題ですか?」
「そう。最初に言ったけど、怖かったのよ?あんな事して、アキト君を止めて。一番怖かったのは、アキト君が、私を必要としてくれないってこと。年上なのに、おかしいでしょう?」
「………………そんなこと、ないです」
「だからね、アキト君に甘えたの。傍にいても良いのかなってね?部屋に行ったり、ベットに潜り込んでみたり。少しでも、傍にいても良いって思いたかっただけ」
「……………はい」
小さく、頷きを見せる。何となく、わかる気がした。
下手をすれば、殺されていたのかもしれないのだ。アキト自身の手によって。
エリナの言う、甘える。
意味は良く理解出来ないが、ルリには何処か甘美なものとして、心に残った。
とくん。
胸が鳴った。
「アキト君は、全然変わらない。だから、嬉しいのかもしれないわね?」
「嬉しい。………傍にいることが出来ることが、ですか?」
「おしいわね?ちょっと、違うわ。………傍にいる資格を持てたことが、よ?」
エリナ自身、本当にそう思っているのか、良く理解しているとは言いがたい。
ただ、アキトが変わらぬ事実だけが、喜びに変わっているのだろう。
こういうところは、十分に子供だった。
「………?」
ルリは、ほんの僅かな違いに、気が付けない。
何処に差が、一体、あるのか。
「片方だけの気持ちが強いなんて、しゃくじゃない?互いが同じように想える。………それが、資格。一方通行なのは、独り善がりって言うのよ?まぁ、私の私見だけれどね?………アキト君は、前と同じ。だから、私も同じでいられる。そして、だからこそ、確認したくなる。ただ、嬉しいだけね、ほんとに?」
言っていて、エリナ自身も不思議に思う。
何がそこまで、自分を安心させていると言うのだろうか。
アキトは別段、優しい訳ではない。普段の少年を見れば、すぐにでもわかることだ。
だとしても、惹きつけられる何かがある。
わからなかった。
エリナにとって、アキトの隣が居心地の良い場所である事実だけが、胸を過ぎった。
ルリと、何も変わらない。自分自身、心に溢れる想いを理解していなかった。
もしかすれば、エリーと呼ばれた彼女には確かめる必要のない、少年への思慕だったのかもしれない。
優しく、風が包むように。
それだけで、良かった。
友情でも、愛情でもなく、守らなければならない、大切な何か。
表し切ることのないだけの、想い。
例え、エリナであろうと自覚することは、適わなかった。
微笑み。
互いにすれば、十分すぎる。
「難しいんですね?」
ルリは、息をつき、言った。
少しだけ、考えてみようと試みる。
艦の揺れも、まるで気にはならなかった。
「言葉にしようとするからね。私にも感覚的にしかわからないんだもの」
シートの背もたれに寄りかかり、エリナは瞳を閉じた。
思い起こすように。
暖かな、風だけが想いを包む。
ゆっくりと、開いた。
妖精は、心に浮かべる。
獣と呼ばれた少年。
血に塗れながら、伝わってきた痛みが再び、襲い掛かってきそうなくらいに。
でも。
不思議と、恐れは感じなかった。
「やっぱり、難しいです」
「そうよね」
今は、それだけで良い。
それだけで。
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いつもの如く、かすいです。
う〜ん、今回の短さは眼を見張るものがあるな…………………。
エリナさんとルリちゃんだけで、パートを取りたいな、などと考えたのが
運の尽き。
何か、変になってしまった。
かと言って、ここを書かない訳にはいかないですし…………。
第三話、これが書きたかったのがメインですしね〜〜〜?
(何処らへんを?と聞かれてもかすいがわかっていませんが)
アキト君は出てないし…………。
いかんいかん、最近愚痴が多いような気がする。
感想メール、たくさんお待ちしておりますです。
では、またの機会に。
艦長からのひとこと。
はい、かすいさんの投稿です。
人を愛する資格(この場合、ちょっと違いますが)。
古今東西で議論になっていますが。
必要でしょうか?
必要かもね。
一方通行の”愛”は愛と呼びません(あたしゃこの”愛”という言葉はキライだが)
世の中のストーカーの皆様、見てますか?
アンタ方の行動を”愛”だの何だのと言った言葉で飾ろうとしてもムリですからね?(笑)
余計なことを書いてしまった。
とりあえず今回は閑話休題。
さあ、まぁーだ地球から脱出していないナデシコが見たいんだったらメールだ!(爆)