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機動戦艦 ナデシコ IF

〜昨日よりも もっと 優しく〜

第三話 D パート

 

By かすい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、ど〜ぞ。………お待たせ。インスタントで悪いけどね?揺れるから、気をつけて?」

 

かちゃかちゃと音を立てながら、ミナトが部屋に備え付けられた簡易キッチンからそれ程大きくもない盆を持って、ベットの横に設置してある小さなテーブルの前で胡座をかいて座っているアキトの方へと、てくてく、歩み寄った。

 

ミサイルの振動の中、上手にバランスを取りながら、進んでいく。

慣れてしまったようだ。

 

ハルカ ミナト。

 

整った顔立ちには、微笑が絶えず、浮かんでいる。

機嫌が良い、悪いではなく、これはミナトの性格なのかもしれない。微笑みはこの女性を包むようにして優しげな風へと変わり、ゆったりとした雰囲気を作り出していた。

何処となく気だるそうな感もあるが、ある意味、それこそが独特の空気を漂わせていると言っても良いのだろう。

 

ミナトは、ミナト。

そう言うことだ。

 

どちらかと言えば使いやすさを重視しているのか、室内には女性にしては小物の類などが少なく、綺麗に整えられている。

外見とは違った一面が、垣間見えた。

何度かエリナの部屋に行ったこともあったが、猫に見えなくもない人形やら、アキトには理解出来ないような大きな熊の人形が、ベットにいくつも、所狭しと置いてあったのを覚えている。

 

実際は抱き枕でしかなかったのだが、アキトはそんなものがあることすら知らないのだから、仕方なかった。他者がエリナの部屋を一目見れば、何故エリナがアキトに抱きつくようにして眠るのかの理由も、きっと良くわかる。

癖なのだ。

恐らく、いつも顔を熊の抱き枕に埋めるようにして抱きつき、朝まで眠っているのが想像出来る。

もしかすれば、自分にも抱きついてくるのかも、と善からぬ考えまで浮かべるであろうが、何処までも想像でしかない。

誰にでもという訳では、決してないのだ。

今事実を知るものは、エリナ自身が語ったルリくらいのものだろう。

エリナが甘えたいと思うのは、世界広しと言えどもアキトだけだった。

 

だがしかし、唯一の相手は、限りなくボケている。

 

(エリナも少し、ベット周りを片付ければ楽に寝れると思うんだが…………)

少年にとって、エリナが隣に寝ること自体は、苦痛でもなんでもない。ベットの中で伝わり来る暖かさを思えば、拒否する理由も見つからないだけでしかなかった。

だから、あえて強くも言ってはいないのだろう。

自分自身にも、理解し切れない行動だった。

(アカツキ辺りに影響でも受けたか?)

馬鹿なことを、考えてしまう。

しかし、誰が影響を受けたと言うのか。ベットに潜り込んでくるエリナか、それともそれを許すアキト自身のことなのか。

 

答えを出せぬまま、アキトは苦笑した。

 

「どうしたの、アキト君?」

ミナトが、コーヒーカップをアキトに手渡しながら、にこりと笑って言った。

構えているような様子は、まるでない。親しんだ知り合いを部屋に上げた程度のことしか、思っていないのだろう。アキトのことを何も知らないと言うのに、この態度。ある意味、豪傑とも言えた。

エリナに勝るとも、劣らない。

操舵士とは、皆こうなのかもしれなかった。

「それとも、二人が特殊なのかね?」

思わず、考えていることが口に出てしまった。

「は?」

ミナトは、突然のアキトの物言いに、きょとんと眼を見開きながら、首を傾げた。

長い髪が、さらりと揺れ落ちる。

赤い大き目のイヤリングが、主張するかのごとく、絹糸のような髪の隙間から姿を見せていた。

「あ、いや、こっちの話で…………」

まさか、面と向かってあなたは変だ、などとはいくらアキトであったにしても、言えるものではない。誤魔化すしか、道はなかった。

「そう?な〜んか、変なことでも考えたりしなかった?」

ふに〜、とミナトが乗り出すようにテーブルを挟んで、アキトに顔を寄せる。

胸元からきめ細かな肌が、意識もせずに投げ出されていた。量感のある二つの山が、ゆっくりとアキトの視界を支配する。

 

あぁ、重力制御バンザイ。

無重力では、決して味わえない。

 

アキトは、不埒なことを思った。

どうやら、しっかり男としての欲はあるらしい。

視線が吸いつけられるように、ミナトの柔らかそうな胸から離れなかった。

 

間。

風だけが漂うように。

 

エリナがいなくて、幸いした。もし、今のアキトの姿を見れば、烈火の如く怒りにまみれ、殺されているのかもしれない。

 

ミナトは、黙るアキトの目線をたどり、自分の胸元へと行き着くと、こほんと咳きをして座りなおす。くい、と上の制服を引き寄せた。

 

「…………えっち」

 

責める感じはまるでなく、他愛もない悪戯をした子供に笑いかけるような、優しげな口調だった。

くすくす、笑みを零す。

「……………う……………、すいません」

アキトは、言い訳すらせずに頭を下げた。

「エリナが怒るわよ?何してるの、アキト君っ!ってね?」

「言ったりしますか?」

「言ってほしい?」

にっこり。

「……………すいません。許してください」

本気で謝るしか、残されていない。かつてない危機感が、アキトの心に襲い掛かる。殺される。初めて実感したのかもしれなかった。

何故、ミナトの胸を見て自分が殺されるのか、などと考えることはない。

理由は、どうでも良いことだった。エリナは怒る、確実に。事実の認識だけが、生き延びる秘訣だとも言えた。

 

ただ、心だけが認める。

 

「う〜ん、どうしよっかな〜〜?」

余程、アキトの慌てる様がおかしかったのか、ミナトは人差し指を頬にあて、微笑しながらも悩んでいる風を装った。

楽しい。

あれほどの恐怖を撒き散らした少年が、あうあうと慌てふためいている。

ミナトは、エリナがどれだけアキトの心の中にいるのかを、この時理解した。

「ううっ、………エリナが怒る………」

アキトは、頭を抱え始めていた。

 

ミナトは、微笑みを流した。

 

互いに意識すらしていない。だのに、傍にいることの出来る二人に、何処かで羨ましさにも似た感情が溢れてくるのを、止めることは誰にも出来ることではないだろう。

ミナトには、兄がいる。

感覚的には、アキトとエリナの関係に一番近いのかもしれない。

傍らにいることに疑問もなく、自然に受け入れることの可能な人。

両親の離婚により離れて暮らすことになってしまっていたが、たまに会うときには、それでも兄妹としての関係が崩れることはなかった。

しかし、それは幼い頃から培ってきた関係であり、アキト達のものとは一線を画する。

この二人は、血の関係があるわけでもなく、今のところ、恋人でもない。エリナの話では、出逢って一年程度のものでしかないのだ。

だのに、想いあえる。

ごく、自然に。

己の想いを理解する必要もなく、互いが互いを確かに受け入れていく。

風が二人を繋げるように。

 

暖かくなるような、心の糸。

決して、切れることはないのだろう。

 

「ほんと、羨ましいわね?」

ミナトは、頬杖を突きながら、呟いた。

 

アキトは、未だに唸りつづけている。

余程、エリナが怖いらしかった。

 

 

 

 

 

しかし、真なる恐怖に気が付いてはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルリちゃ〜〜ん、お願いしたいことあるんだけど、良いかな〜〜〜?」

 

ユリカは、振袖姿のままブリッジに戻ると、間を置かずにオペレーター席に座るルリに、声をかけた。

視界の片隅にジュンがいるのを認識するが、どうも頭の方には伝わっていないのか、素通りしてルリとエリナのいるブリッジ下部へと降りていく。

床がつるつると滑りそうになるのを、気をつけながら、二人の後ろまで歩み寄った。

艦を揺らす振動に、足元の踏ん張りが利かない。

ふらふら、身体を動くに任せ、右へ左へ揺れていた。

 

「ユリカさん。………振袖、着替えてくるんじゃなかったんですか?」

ルリが、ちらりと振り返り、言った。

「ん〜〜〜〜、だってアキトに見せてから着替えようと思ったのに、アキト、部屋にいないんだもん」

「食堂の方は?」

エリナ。

 

部屋にいないとなれば、食堂くらいしか考えつかない。せっかくの待機の時間、わざわざ格納庫まで行くとは、アキトの性格を理解していれば、思うまでもなかった。

袖を振りながら、ユリカが拗ねた顔を見せている。

何だか、妙にエリナは落ち着かなくなった。

着物、持ってくれば良かったかな、と変なことを考えたりもしている。

 

「何処にもいないから、ルリちゃんに探してもらおうかなって思って。食堂の方も寄ってみたんだけど、ホウメイさんがラーメン食べた後、どっか行っちゃったって」

「はぁ。………でも、今は待機中ですし、プライバシーの侵害になるんじゃ?」

ルリは、ちらりと視線をエリナにやりながら、ユリカに答えた。

 

確かに、その通りだ。

自由な時間に、アキトが何処で何をしていようと、それこそアキトの自由なのだ。

部屋にいようが食堂にいようが、別段、関与する必要もないことなのだろう。ましてや、少年は考える以上の仕事をこなしていると言っても良い。

少なくとも、ナデシコに格納されたエステバリスが全て仕様可能になった事実は、ヤマダの働きによるものではなかった。

 

「でもでも、せっかく着たんだし、見てもらいたいもん」

しかし、理屈は通じない。

駄々っ子でしかなかった。

「はいはい、わかりました」

ルリは、ため息を吐いた。こんな時、ユリカが想像以上に頑固なのは、誰よりも自分が知っている。駄目だと言ったところで、聞き分けてはくれないだろう。

そうでなければ、ユリカはナデシコの艦長にはなってはいない。

どれだけコウイチロウが反対したところで、ユリカは何処吹く風だった。

エリナに、苦笑を届けた。

向こうも、肩を竦めている。

仕方あるまい。

 

ルリは、オモイカネにアキトの所在地を示すように、指示を出した。

 

エリナとルリ、そしてユリカの目の前に、ウインドウが適当な大きさで開かれる。

気を利かせたのだろうか。オモイカネは所在地を教えるのではなく、直接、アキトのいる場所を映し出した。

 

「え?これって、ミナトさんの部屋?」

ルリが、小さく呟いた。見覚えのある室内は、確かにミナトが何度かお茶をご馳走してくれた部屋だった。

何故か、アキトが頭を抱えながら、唸っているのがウインドウに広がっている。

「ミナトさん?」

「ミナトの?」

二人の声が、重なりながらルリに届いた。

 

肌を刺すような感覚に、何か嫌な予感がした。

もしかすれば、自分はとてつもない間違いをしてしまったのかもしれない。

ルリは、生まれて初めて、冷や汗と言うものが額に浮かんでいることに、気が付いた。

「え、は、はい。確か、ミナトさんの部屋だと…………。何度かお邪魔したことありますし…………」

言った。

答えなければ、力ずくでも答えさせられていたのかもしれない。それ程に、ルリを見つめる二人の視線は鋭かった。

「間違いないのっ、ルリちゃん?」

ユリカが、今一度の確認を。

「えぇ、だって、ミナトさんもいるし……………」

あわあわ、だ。最早すでに、アキト以外の人物が同室にいることに、意識も回らなくなっているのだろうか。怖い。ユリカ達には、ミナトの姿までもが、視界の中に入っていない様子。

もう、逃げ場は何処を探しても、見つからないだろう。

 

『……………えっち』

コミュニケから、ミナトの声が聞こえた。

からかうような、優しい声が。

 

何をしているのだろう。気にはなったが、ルリはエリナとユリカから、眼を離すことが出来なかった。逸らせば、襲い掛かってきそうな感じがする。

結構、失礼なことを考えていた。

しかし。

ミナトの一言は、間が悪すぎる。

ちらっ、とスクリーンに視線をやった。

ルリにもわかる、多少の恥じらいと楽しそうなミナトの微笑みが、映し出されていた。

(どうして、そのアングルなの、オモイカネ?)

制服の上を寄せているのだろうが、逆に強調されていく胸元。

しっかりと、ウインドウに収まっている。

 

「さぁて、何をしているのかしらね、アキト君?」

 

エリナの呟きに、ルリは押し黙った。

(私のせいじゃないんです、テンカワさん………………。オモイカネが、オモイカネが……………)

心で、喚いてみたりする。

だからと言って、コンピューターでしかないオモイカネのせいにするのは、どうであろうか。まだまだ、人の機敏を理解出来るほど、オモイカネも成長してはいまい。

何処までも、善意でしてくれたのだ。

ルリにも、わかっている。

しかし、少女の座る席の隣と背中から襲い掛かってきそうな気迫に、何が言えよう。思わず、自分のせいではないと、思いたくもなる。

神に許しをこうとは、このことだった。

苦悩する妖精など、誰も見たことはない。

 

可愛かった。

 

 

 

 

 

ジュンだけが、寂しそうにため息をついていることに、誰も気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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かすいです。

 

う〜ん、短い。やっぱり前のパートと合わせて書いたほうが

良かったのかもしれない。

思わず、そんなことを考えてしまいます。

まぁ、次からはいつもどおりの長さになるとは思いますが、Cと今回のD

あわせていつもの量に近いから…………………。

それでも、短いのかな?

…………あまり、考えるのは止しましょう。

 

それにしても、エリナさんの想い、アキトの想い。

良くわからんな、この二人……………………。

 

人を好きになるって、なんなんでしょうね?(おぉ、結構恥ずかしいぞ、かすいっ!!)

 

感想、お待ちしております。

どんどん、送ってやってください。

 

では、またの機会に。

 

 

 



艦長からのひとこと。

はい、かすいさんの投稿です。

アキト、男だったね(笑)
年相応のムラムラするものがあるか(爆)

でも、エリナさん怒らすと後が怖いよ?(笑)


さあ、続きがとっとと見たいんだったらメールだ!(爆)


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