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機動戦艦 ナデシコ IF
〜昨日よりも もっと 優しく〜
第三話 E パート
By かすい
「まったく、テンカワのやつ何処行きやがったんだ?」
何度となく訪れた部屋の中で、ヤマダは苦虫を噛み潰したかのような表情で、ひとり寂しく呟いた。
鍵もかかっておらず、入り込んだのは良いが、暗い中、佇んでいる。未だアキトは、戻ってきてはいないようだった。
第三次防衛ラインも近いと言うのに、何処で何をしているのだろうか。
パイロットとしての、自覚に欠けている。
正論ではあるのだろうが、ヤマダの目的を思えば、どちらがより自覚に欠けているのかは、良い勝負なのかもしれない。
「わざわざ、俺の方から来てやっているってのに!」
ヤマダが、言った。
口調は強いが、何処となく侘びしい。
それも、そのはずだ。
悲しいかな、両手に抱える、ゲキガンガーのディスクの山よ。果てはアキトが基本的にビデオなど見ないせいか、ウリバタケに製作してもらったデッキ本体まで室内に運び込んで設置していた。
明かりも落ちたアキトの部屋にいたところで、取り残されたような感覚がひしひしと肌に突き刺さる。
何故、いない。
いくら呼び出しても、アキトはヤマダの部屋にこないのだ。
ならば、こちらから出向くしかあるまい。
ましてや、これはヤマダにとって、ゲキガンガーの正義を知らしめると言う、至高の使命だった。
アキトに今まで見せてきたのは、全39話の内、まだまだ序盤の話でしかない。これからが、感涙に咽び泣く、感動の嵐となる予定なのだ。これを見せずして、如何にしてゲキガンガーを語れよう。
仲間を庇い死んでいく、ゲキガンのパイロットであるジョー。
泣き叫ぶ友。
友情のアタック。
思い出しただけで、眼が潤んできそうになっている。
見せなくては、早く、見せてしまわなければ。
確固たる決意が、ヤマダを突き進ませていた。
少年は、しかし、いない。
空虚だけが、漂う。
「うぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーー、何処だテンカワ〜〜〜〜〜!!貴様は、真の正義を知らんのだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
持ち運んでいたゲキガンガーのディスクを、床の上にどさりと置くと、再びアキトを求めて走り出していた。風が巻き起こり、艦の中で別段必要としないのではないのか、とも思えるカーテンが、強く舞い上がった。
真の正義。
アキトにしてみれば、余計なお世話だ、と一言、返したままで終わるのだろう。
ヤマダは、未だ、気が付いてはいなかった。
獣と己とが、心を潜ませる場所が違いすぎることを。
エリナだけが、心に傷を知る。
しかし、それすらも、僅かでしかないのかもしれない。
「それじゃ、アキト君のこと教えてくれる?」
ミナトは、頬に手の甲を当て、テーブルに肩肘をつくと、覗き込むようにしてアキトに言った。
コーヒーカップからは、緩やかに鼻を擽る香りが漂っている。
のんびりしたものだった。まさか、エリナ達に見られているなど、まるで考えてはいないのだろう。
ごく自然に、微笑を浮かべている。
「俺のこと…………。テンカワ アキト。もうすぐ十九になる。火星出身。エステバリスのテストパイロットを経て、ナデシコ、エステの搭乗員として登録される、と。それ以外に、何を言えば良いのか、よくわからないが…………」
アキトは、頭を掻きながら、言う。
当たり前の話なのかもしれない。少年にとっては、どのような生活を送ってきたのだとしても、自身にしてみれば、何の変哲もない日常でしかないのだから。
何も、理解していない訳では、決して、ない。
火星と地球の日常の差は、嫌と言うほどにわかっている。
だが、ミナトの言葉を考えれば、自分のことを語らねばならぬのだろう。
齢十九しか数えていない己を、どう話して聞かせれば良いと言うのか。
わかるはずも、なかった。
アキトは、ため息をついた後、コーヒーを啜った。
「そう?もっといろいろあると思うんだけどな?……………例えば〜〜、エリナとのこととか?」
「エリー?」
ぽかん、と口を開ける。
呆けていた。
「そっ。どうやって知り合ったのか、とか。どんな関係なのか、とか?」
ミナトは、からかっているのかもしれない。くすくす、笑みを零していた。
ブリッジでは、エリナ達が聞き逃さないように、ウインドウの位置を争っていることを、二人は知らない。
「エリー、ですか?会ったのは一年くらい前ですかね?………ネルガルの本社に行ったときに世話になったのが、最初で………。関係と言っても、仕事上での付き合いとしか?」
しかし、ミナトの遊び心は、アキトには届かなかったらしい。
生真面目に聞かれたことに答えようとしているのが、良くわかった。
嘘のないように、わかりやすいように。
どのようにミナトに聞こえるのかまではわからないが、出来るだけ理解しやすいように話をしようとしている少年は、何処までも獣と呼ぶには、程遠い。
ミナトは、苦笑した。
さらに、ユリカの喜びの雄叫びが、ブリッジに轟いていたことを気が付くことは、なかった。
エリナの方と言えば、頬を膨らませて拗ねている。
「そういう話じゃないんだけど〜〜〜」
「違う?」
アキトは、眉を寄せ、聞き返した。
「…………本気よね〜〜?それじゃ、火星のお話してくれるかな?ほら、ナデシコって火星に行くのに、火星のこと何も知らないみたいなもんじゃない?アキト君、前は火星にいたんでしょう?」
「一年程前までは、ですけど」
「うんうん、かまわないわよ……………って、一年前!?」
驚きの声を、上げてしまう。
多少、気だるそうに座り込んでいたミナトの肩が、拍子に跳ね、豊かな胸が大きく揺れた。
すぐさま、アキトの言った言葉の意味を、考える。
一年前。
アキトは、そう言った。
十四年も前に戦争が始まったことを思えば、少年は十三年もの間、戦乱の中で生きてきたことになる。プロスペクターが火星について話したことが、脳裏に浮かんできた。
驚愕に、心が震えた。
「はぁ、一年前ですが。その直後に行く当てもなかったもんで、ネルガルの所に行ったんですから」
何をミナトは、驚いているのだろうか。
アキトにしてみれば、その程度のことでしかないのかもしれない。
何度も言うが、アキトはテストパイロットとして、施設内にある程度、押し込められていた。これはネルガルからの重圧によるものではなく、あくまでもアキト自身が情報の流出を恐れると言う、エリナの説明に納得したからの行動だ。
しかし、その分、地球の日常に疎くなってしまっている感は、否めなかった。
地球が持つ火星のイメージなど、考えたこともない。
ミナトが、どうして驚きの表情を見せているのか、逆に理解することが出来なかった。
「……………一年」
対して、ミナトの方はミナトの方で、考え込んでしまっていた。
つい先日、プロスの話があるまで、火星には最早、誰も生きるものがおらず、木星蜥蜴に占拠されていると信じていた。
トビウメのこともあり、うやむやになってしまってはいたが、未だに信じきれない部分が何処かにあったのも、事実だろう。
二十二年、そう教えられてきたのだ。
はいそうですか、と簡単に認識を変えるのも、無理なことだった。
しかし。
アキトは、いたと言う。
あの火星に。
確かに、あの時ブリッジで、エリナが口にした火星の確証。
テンカワ アキト。
軍の者ですら軽がると屈服させ、尚、トビウメへと攻撃を仕掛けるほどの闘争本能が、心に浮かんだ。
自分は踏み込んではならない場所へ、足を進めてしまったのかもしれない。
ミナトは、思った。
「どうかしました?」
アキトは、表情から微笑みを消してしまったミナトに、声をかけた。
「えっ……………、何?」
勢い良く、顔を上げる。
「いや、どうかしましたかって?」
「ううん、何でもないわよ。それで、火星ってどんなところだったの?」
ミナトは、無理矢理、口元にかすかな笑みを浮かべると、先を促すように、言った。
理由は、良くわからなかった。
地球に住んできた自分の持つ火星のイメージを、アキトに話そうとはまるで、思わなかった。この少年は、現実にしか生きてはいない。想像を言ったところで、何になると言うのだろう。
ただ、だとしても、知りたい。
ミナトは、何故か思った。
自分の知らぬ世界に、生きてきたものがいる。
「どんな………ですか。まぁ、俺にとっては別段、日常でしかなかったことばかりなんですけど、それでも良いんですか?」
「ええ。アキト君の日常が知りたいのかな?」
己を、何処かで聞いてはいけないと考えてしまう自分を、奮い立たせているのかもしれない。雰囲気を和らげるかのように、微笑んだ。
「はぁ……………。戦争が始まったのが、十四年前だってのは、大丈夫ですよね?ま、その後しばらくは、軍が交戦したりしていたらしいんですけど、結局いなくなったでしょう?実際、そこからが問題だったらしいです」
「………らしい?」
「あぁ、その頃、俺もまだ子供でしたから、ちゃんと覚えていないんですよ。いろいろ話は後から聞きましたけど。それは良いとして。…………補給もない、援軍もない、残された人の多くは暴徒化したみたいです。食料の奪い合いや、襲ってくる蜥蜴の無人兵器相手に結構、暴れたらしいですよ?」
「…………………うん」
ミナトは、静かに聞き入り、頷いた。
何処か、子供のように。
地球側では、最早、火星に生き残るものなしとして、止む無く軍を引いたと言われている。
暴徒のことなど、知りもしなかった。
アキトの言葉に、どうしてか、疑いを抱くことはなかった。
「ネルガルが独自に航路を維持して、補給やらしてくれていなかったら、それこそもう、火星に残ってるのなんていなかったんでしょうけど、ある程度、定期的に来てくれてましたから、何とか生き残ってきた、と」
「補給って、食料とか?」
「まぁ、それがメインでしたけど、医療品とか武器とかもね?ネルガル見たいな所にすれば、火星は良い実験場だったんじゃないんですかね?何しろ、実戦でテストしているようなもんですし、出来るだけデータは残して次の補給の時に渡してくれ、って言ってましたから」
「そんな…………。船が行けるくらいだったら、どうして救助しなかったの!?」
声を荒げ、ミナトは言った。
補給をすれば良い、と言うものでもなかろう。助けることが出来るのなら、どうして助けようとしなかったのか。
胸に、怒りが湧いた。
「全員乗れないんですから、仕方ない。多少はつれて帰ってくれたはずなんですけどね?その後、どうなったかまでは、俺も知りませんし」
アキトは、軽く受け流す。
昔の話でしかない。今、何を言ったところで、変わるものではないのだろう。
事実を、語るのみだ。
実際、地表まで降りてきた船自体が、数少ない。どう、収容しろと言うのだろうか。
ネルガルとて、戦いながら火星に辿り着いてる。
火星にいた者達の思う一点も、ここであったのかもしれない。
例え、そのような理由があり利用されていたのだとしても、唯一、自分達に援助を続けてきたネルガルにこれ以上、何を言えようか。
「………………そう」
ミナトは、声を落とした。
「問題は、食料にしても医療関係にしても、火星の全員に行き渡るほどはもって来れないほうでしたよ?」
「え?」
「頭が切れちゃったやつらが随分出てね?殺して奪うようなのが、どんどん増えた。まぁ、一般的には、盗賊って呼んでまとめてましたけど。こいつらが、また…………」
アキトは、苦笑すると、口元を歪ませる。
思い出したのか、僅かに視線が鋭く、部屋の片隅を射抜いた。
僅かに、纏う風が変わる。
獣を呼び寄せるかのように、小さく息を吸い出していた。
くくっ。
含み笑う。
「アキト君は、どうしてたの?」
ミナト。
恐る恐る、言葉を挟んだ。
少し、上目遣いにアキトの覗き込む表情の幼さよ。怒られると思いながらも、聞かずにはいられない、幼子のような仕種だった。
常に、大人としての風を身に纏うミナトにしては、珍しかった。
「俺ですか?…………最初は奪う方でしたね………。ある時期からは守る方に。随分とあいつらとは、殺り合った」
拳を握り締め、薄く笑った。
奪う。
少年の言葉の裏に、どれほどの闇が潜むと言うのだろう。
何人たりとて、火星に生きたもの以外、頷ける誰かは何処にもいない。
戦いのみの、歴史だった。
「あいつら?」
耳に入った言葉に、ミナトは呟く。
アキトがはじめて口にした、火星全体ではなく、アキトの知る特定の相手達であった。
「ん、あぁ。盗賊のやつらです。そいつらの前に、火星の話を続けないとね?理解しきれないから、きっと。…………戦争前も始まった当初もそうでしたけど、火星って異様に研究所が多かったんです。理由は知りませんけどね?ネルガルのもあって、このナデシコの基本設計もそこで作られて、送られてきたらしいです。ま、だからネルガルが火星に航路を維持しようとしていたんでしょうけど、ネルガルだけの研究所があった訳じゃなくて、それこそ理解しきれないくらい、訳のわからないものも多かったみたいです」
アキトは、一息つけると、コーヒーを飲んだ。
ミナトは、動かない。
動けないのかもしれない。
「うん」
小さく、呟いただけだ。
見るものが見れば、ミナトの持つ雰囲気とのギャップに、心奪われずにはいれないだろう。
可愛らしいという表現が、良くあった。
ただ、アキトは気が付かない。
「最初の頃は、別に良かったんですけど、軍の方がいなくなって、何人かの研究所の所員が切れたらしくってね………………」
静かに、再び話し出した。
「切れた?」
もう、鸚鵡返しに聞き返す以外、何もミナトは、話せなかった。
「そう。………人間を実験体に使うようになっちまって。取り締まるのがいないんだから、やりたい放題ですよ。結局は、蜥蜴の攻撃が怖かったんでしょうけど。自分を守る力がほしかったんじゃないですか?随分といろんなことを試したみたいですよ?………遺伝子を弄くってみたり、ISFとはまた違ったナノマシンの開発。薬物による能力向上。ほとんどが、逃げ切れなかった子供だったらしいですけど」
「そんな、人体実験じゃないの…………」
「そうですよ?」
アキトが、のんびりと返した。
その程度のことでしかないらしい。
大人であるよりかは子供の方が、適応力が高かったためではあるのだろうが、結局は、力で自由にすることが出来たのが、子供であっただけのことかもしれない。
アキトは、そう考えている。
力がなくては、生きていくことは適わない。
それが、火星だ。
何を今更、異を唱えることが出来ようか。
「…………そんなのって」
「これがまた、面白い話でね。人体実験をしたのは良いが、ほとんどがある程度成功した実験体に逆に殺されて………。笑うでしょ?蜥蜴の攻撃から生き残るために研究した成果が、自分達を殺したんだから。初めて聞いた時には、腹を抱えて笑いましたよ、俺は」
心底、おかしそうだった。ミナトの動揺に、少年が理解を示すことはない。困惑していることすら、考えられないのだから、尤もなことだった。
何処までも、笑い話ではなく、火星に生きるもの以外が、どう考えるのかなど心の片隅に浮かべることもなかった。
微笑が、見える。
徐々に、アキトが醸し出していた雰囲気が、消え去っていく。
狂気。
まさに、言葉のままに。
穏やかな風は、鋭さを増していた。
「……………………アキト君」
背筋が、寒くなった。
ミナトは、理解するしかなかった。
怖い。
「いや、まあ、その話は良いとして、それからそいつら、どうしたと思います?」
「え?…………そいつらって?」
「ん?実験体だったやつら」
「…………さぁ。火星で皆で戦った?」
「ちょっと、惜しい。ほとんどの生き残りが盗賊の方にまわってね?一年前の時には、五人くらいしか残ってなかったが、もう少し、減ってるかもしれないな」
「減ってる?」
「実験体ってのは、軒並み寿命が短かったやつの方が多くてね。やりあって死んでるのかもしれないけど、そう簡単には殺しても死なないし。最低、盗賊のトップにいた二人位は生き残ってるとは思うんだけど」
「…………………………」
ミナトは、押し黙った。
一体、自分に何が言えよう。
淡々と、いや、ゲームかのように命を口にするアキトに、火星の意味を教えられる。
怖い。
心の底から、思った。
エリナは、何故、この少年の傍にいることが出来るのだろう。
何を持って、己を吹き荒れる風に向かって、立てることが可能なのか。
わからなかった。
「多分、あいつとあいつか…………。“Muddy Eye”(濁った瞳)と“Bloody Snow White”(血塗れの白雪)。こいつらは、確実に残ってるだろうな…………。なぁ、そうだろう?北辰………、ラピス?………ははっ、楽しみだ」
何処までも、愉悦を含んだ笑いだった。
(いや、違うか?………北辰は実験体ではないって話だったな?じゃ、ラピスだけか?)
何度か、戦った相手の顔を思い浮かべる。
その名の通り、赤く淀んだ眼を持つ男と、淡く長い髪をなびかせ、心を奪われるくらいに白く美しい少女。
誰もがその瞳に、恐怖した。
誰もがその姿に、魅了された。
そして、名を恐れた。
己に限りなく近い、二人。
思い起こせば、長い付き合いだった。
嘲笑が、舞う。
「アキト、君?」
ミナトは、今一度、恐怖の二文字を心に奮わせる。
やはり、触れるべきではなかったのかもしれない、と。
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かすいです。
何だか、妙なお話です。
一体、かすいは何を書きたいと思っているのでしょうか?
(人様に聞いて、どうするんだろう、この男は……………)
しかも、お話が進まない。
まぁ、短いだけなんでしょうが。
感想メール、お待ちしておりますです。
車が雪に埋まって出せないの………。何の楽しみもない…………。
遊びにも行けやしない。
この寒い中、徒歩だし……………。
風邪ひきそう。
では、またの機会に。
艦長からのひとこと。
はい、かすいさんの投稿です。
ホントはこれ、私が仕事に行く前に届いていたのですが・・・
私の気力体力が尽きていたためにUPできませんでした。
かすいさん、ホントに申し訳ない。
それはさておき。
うむむ、北辰とラピスは盗賊仲間(笑)ですか。
これから先どんな展開が待ち受けるか!?
乞うご期待(って俺が言う事じゃねぇな(笑))
さあ、続きがとっとと見たいんだったらメールだ!(爆)