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「………こんな所にいた………。まったく、もう」

 

エリナは艦内を歩き回り、やっとのことで目的の少年を探し出すと、誰に言うでもなく呟いた。小さく、口元に微笑が浮かんでいる。

呆れてはいるのだろうが、穏やかな心はふとした弾みで仕種となって、外へと零れ出る。

想いとは、そんなものだ。

起こさないように、足音を忍ばせるのも、その表れか。

 

実際、変わらず攻撃に揺れる艦内において、そのような気遣いは必要ないとも思うのだが、そこはそれ、人の考え方それぞれと言ったところだろう。

 

ミナトと操舵を交代し、入れ違うかのように探していた。ミナトの部屋にいた少年は、こんな場所にいた。

まさか覗いていたとはミナトに言う訳にもいかず、アキトが部屋から出た後、何処に行くと言っていたのか、聞くことも出来なかった。

お陰で、十分なエクササイズになったはずだが、妙に損をした気分になるのは、エリナの気のせいだろうか。

こちらは歩いて歩いて、さらに歩いて探し出したと言うのに、探し人の方はあの姿だ。

 

風が肌に触れるのが、わかる。

 

展望室には、二人だけしかいない。

芝生を模された床に、さらには室内を囲むように巨大なスクリーンが自然の景色を投影している。広がるのは青い空であり、緑の山々であった。時間帯によって、景色は朝から昼へ、そして夕日までをも眺めることが出来る、人工の風景。

今は恐らく、昼なのだろう。暖かい光が、降り注いでいるかのようだった。

思わず、アキトの行動にも納得がいってしまう。

いくら作られた空間とは言え、これだけの陽気を感じることが可能であるのなら、不思議はなかった。

 

エリナは、静かにアキトの傍へ歩み寄ると、転がって自分の右腕を枕代わりにしながら寝入っている少年の顔を覗き込んだ。

すやすや、と子供のように。

現状を考えれば、何をしているのかと怒りたくもなるが、何処かで認めてしまう自分が、どういう訳か、そこにはいた。エリナにしてみても、首を傾げてしまう。自身の行動が理解出来ないなど、これまでの人生を振り返ってみても、そうはあるまい。

だからこそ、か。

そんな己自身を、楽しく思ってしまう。

 

エリナは、くすっ、と笑みを浮かべると、足を崩して座った。とは言え、着ているものはネルガルより支給されている制服だ。胡座をかくようなことが出来るはずもなく、結果的に、正座を崩した形になる。所謂、女座りと言われるものだった。

そのままアキトの頭に触れ、よいしょ、と少しだけ持ち上げると、枕代わりをしていた腕の場所を移動させ、その場に自分の片方の太ももを滑り込ませる。

見ればわかる。

膝枕、だ。

足を崩して座っているせいか、エリナの重心が僅かにずれるが、片腕をつっかえ棒のようにして、床で支える。

傍目には、ピクニックにでも来たカップルにしか感じられなかった。

それだけエリナの行動に、違和感がなかったのかもしれない。

もそもそ、とアキトが動いた。

突然、変わった感触に驚いているのだろう。

しかし、ほんの少しの間だけ、顔を太ももに押し付けるようにすると、何かに納得したのか、それとも安心でもしたのか、そのままむにゃむにゃと、再び眠りに入ってしまった。

 

エリナが、残った手の指先で、アキトの髪をすくように流す。

子供を労わるような仕種に、母性と呼ばれる優しさを見てしまうのは、気のせいだろうか。

自分でも、理解していないのかもしれない。

ただ、展望室にそよぐ風だけが、全てを知るかのようだった。

 

余程、気に入ったらしい。

エリナはアキトを撫で続け、何が楽しいのか、くすくす、含み笑いまでしていた。

普段のエリナを知るものが見れば、ある意味、不気味さを感じてしまうかもしれないくらいだ。それとも、可愛い、と思ってしまうのだろうか。

幼い仕種に、不思議だけを見る。

 

アキトが、小さく身体を振るわせた。

 

「…………ん?起こしちゃった?」

 

エリナは、すいていた手を止め、アキトの顔を覗き込みながら、言った。

前髪が惹かれるように、アキトに向かって揺れている。

 

少年は、微かに唸ると、眼を何度かしばつかせた。

視界の中に入ってくる、ひとりの見知った女性の名を、口にした。

意識がまだはっきりしないのか、ぼんやりと視線を向ける。とても近い距離にエリナの顔があった。

別段、驚くこともない。

自室で目が覚めれば、もっと傍にいることもあるのだから。

 

「エリー?」

「そうよ。私以外に、アキト君に膝枕しようなんて子が何処にいるの?」

本気で言っているのだろうか。口調からはからかっている様にも感じられ、真意まで読み取ることは出来そうもない。それは、アキトにしても同様だった。

「……………ん〜〜〜」

まだ寝ぼけているのか、しっかりと考え込んでしまっている。

本気でボケている。

「ほんとに考えるんじゃないのっ!」

ぺしっ。

小気味良い音が、響いた。

エリナがアキトの額を、軽く叩いたのだ。

「………痛いぞ」

「まったく………。第三次防衛ラインもすぐだって言うのに、こんなところで眠ってるなんて。探すのに苦労したわよ?」

アキトの苦情も何処へやら、エリナは思い出させるように言う。

事実、ヤマダはエステバリスに乗り込んで、軍の動きを待っていることだろう。

いまひとりのエステバリスのパイロットが、こんな場所で惰眠を貪っているのは、どういう訳か。

「………第三次………。デルフィニウムだろ?エステの一機もあれば事足りるだろう?………ましてや、本気で奪いに来ている訳じゃない。意地で攻撃してきているんなら、俺まで出る必要はない。ヤマダからも邪魔するな、って言われたし」

「邪魔って?」

「何でも、“俺の本当の力を見せてやる”だそうだ。………だから、寝てた」

「あのね………………」

呆れてしまうのは、当たり前だ。

誰がそんな言葉に合わせて、出撃するか否かを決めると言うのだろう。

「第一、忘れたか?俺は出る必要があれば、自分の判断で出るし、必要ないと思えば誰が何を言ったところで出ないよ。アカツキとも、そう契約しているだろ?」

「それはそうだけど…………。今は出る必要がない?」

エリナは、小さく首を傾げると、アキトを覗き込んだまま、聞いた。

 

十分に眼は覚めているはずなのに、互いに今の場所から動こうとはしない。

アキトは下からエリナを見上げているし、エリナは膝枕をしたまま、意識することなく話している。

 

「ヤマダはあれで、十分にエースをはれるだけの実力はあるよ。問題はその力の使い方で、それを理解するには、今回くらいのはちょうど良いさ」

アキトは、苦笑しながら、答えた。

この短期間の間で、ヤマダの性格は嫌と言うほどに理解している。いや、理解させられたと言った方が、正解なのかもしれない。

あれだけアニメを見せられれば、しないほうがおかしいのだろう。

現実は、アニメほどには上手くいかないことを知るには、確かに自分が出ないほうが良かった。少なくとも、自身の行動結果がどのように跳ね返ってくるのか、身をもって知ることになる。

それで死んだとて、別段かまわない。

酷いようだが、この先、アニメと同じ行動を取られて巻き込まれるくらいなら、現実を知って多少考え方を変えてもらうか、いなくなってもらった方がマシと言うものだ。

他者の尻拭いのために戦うことなど、アキトには受け入れることが出来なかった。

 

「それはそうかもしれないけど…………」

「それに、エステのパイロットとは言っても、俺は所詮、テストパイロットあがりだ。火星でもそれ程乗っていた訳じゃないしな?肉弾戦ならまだしも、餅は餅屋に、だ」

「エステはまだ、それ程軍にもまわってないし、IFSで動かすんだから、実戦経験の多いアキト君の方が、上手く扱えるんじゃないの?」

「そうでもない」

アキトは、言った。

テストパイロットとして、エステに乗り続けて来た経験からのだった。

「どうして?」

「エステバリスがいくら良い機体とは言え、あれじゃ俺の半分も出せないから。ヤマダみたいに自分の100%をそのまま発揮できるやつの方が、向いてるよ」

 

IFSにより、イメージ通りに動かせるとは言っても、問題はアキトのイメージの方にある。

エステバリスの問題でもある。

アキトが自身の持つ能力に合わせて動かそうとしても、エステの方がついて来れなくなってくるのだ。

結果、己の持つ力も、エステバリスの持つ能力も、全てを使えぬまま終わってしまう。

バランスが取れていない、と言っても良いのだろう。

こればかりは、いくら調整したところで、どうにもならないのだから。

 

「何だか、怠けているだけのような気がするんだけど?」

苦笑。

アキトの言葉は尤もらしく聞こえるが、節々に見え隠れするのは、無駄な体力は使いたくないと言う、強固なる意志だった。

こんなところで強固になってどうなる、と思わないでもないが、これがアキトなのだ。

エリナは、笑うしかなかった。

 

「そうか?」

「そうよ」

 

エリナは、アキトの額辺りに指先を触れさせると、そのままゆっくりと前髪をかきあげてやる。

 

とても、自然に。

 

のんびりと、風だけが漂うようだ。

 

「……………ところで、ね?」

エリナがアキトの頬に手をやり、くいっ、アキトの顔を自分の方へと向けさせた。

「ん?」

 

 

 

 

 

………ミナトの部屋で、何してたの?

 

 

 

 

 

アキトは、後に語る。

エリナの微笑が般若のそれに見えた、と。

 

しかし、このふたり。

 

今尚、防衛ラインを突破しきっていない現実を、すでに忘れているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦艦 ナデシコ IF

〜昨日よりも もっと 優しく〜

4話 A パート

 

By かすい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幾多の問題が浮き彫りになったとは言え、デルフィニウム部隊による第三次、ミサイルによる第二次、そして、バリアによる第一次防衛ラインを突破したナデシコは、そのまま針路を進めるのかと思いきや、いきなり月へと向かって動き始めた。

 

結果だけ言ってしまえばあまりにも簡単だが、エステで出撃したヤマダが武器も持たずにデルフィニウムと交戦したことや、第一次のラインであるバリアを抜けるのと同時に、負荷により、バリアを支える核融合炉がオーバーヒートを起こしてしまったりなど、無茶苦茶になってしまっている。

恐らくは、ネルガルの方が何かしらのカウンターを打つのだろうが、誰も気にすることなく今にいたっているのが、ナデシコらしいと言えば、ナデシコらしい。

 

クルーが呑気なのか、それとも図太いのか。

プロスペクターとて、意図してこのような人材を集めた訳ではないのだろうが、一癖もふた癖もある人物と言うのは、根本的に通じるところがあるのかもしれない。

 

スカウトされたのではない、二人にしても、同様だった。

ちなみに、展望室で何があったのか、アキトは誰にも語ろうとはしない。

聞くものがいないのだから、当たり前なのだろうが、真実はエリナのみが知る。

 

呆れてくれて、かまわない。

 

「月での最終チェックと物資の補給の後、サツキミドリの方に寄ってパイロットの補充をするのよ」

 

いつもの如く、アキトの部屋でくつろいでいるエリナは、ベットでころころ転がりながら、何故月に行くのか、と口にしたアキトに答えた。

いったい、何をしているのか、疑問に思う。

エリナ自身もあまり考えていないのか、右へ左へ転がるままだ。

まさに、幼児。

人には見せられない姿だ。

 

「だったら、サツキミドリの方で補充もすれば良いだろうに?」

尤もな質問だろう。

その方が、時間もかからない上に、わざわざ月に行く必要もなくなる。

しかし。

「会長の方から連絡があったのよ。アキト君用のアクセサリーをとりあえず用意したってね?ストックは二台分しかないけど、時間がなくてサツキミドリまで持っていけなかったのよ」

エリナは、言った。

「だから、月か?」

「そう。時間がなかったから、今工場のラインに乗ってる0Gに、会長が合わせてくれたらしいわ?」

転がるのを止めると、うんしょ、とベットに座りなおして、床に胡座をかいているアキトに笑いかけた。

「少しはマシになるってことか?」

「そっ。言ってみれば、アキト君のためだけに月のドックに寄るようなものよ。文句は言わない」

「ん?」

アキトは、眉を寄せる。

エリナの言葉に、含みを感じたようだった。

「だって、補充自体はサツキミドリでも出来るのよ?ただ、黒百合がないだけ。会長が気を利かせてくれたのよ」

「気を、ねぇ〜〜?」

アキトは、苦笑した。

 

アカツキがそれだけで動くほどに甘い人物ではないことは、すでにわかっている。少しでも無事に火星まで行き、帰って来られる確率を上げようとしているのだろう。

何を言ったところで、ナデシコは民間人が操っている。優秀とは言え、戦うことには慣れてはいない。保険のようなものなのかもしれなかった。

 

クルーに対し、どのような説明をしたのかは知らないが、アキトはネルガルの目的が、火星にいるであろう人々の救出ではなく、あくまでも研究所員を地球へ連れ出すことにあることを理解している。

それ以外は、おまけにしか過ぎないのだ。

企業としてのネルガルに利益となるからこその行動であり、慈善のためではない。

だからこその、苦笑だった。

 

「どんな理由にせよ、生き残れる可能性は高い方が良いわよ?状況をどれだけ把握して、動くことが出来るのか。それを忘れなければ、良いの」

エリナは、微笑する。

アキトの思考を性格に、理解しているからこそだろう。

 

「まぁ、そりゃそうだ」

「でしょ?」

 

割り切ってしまえば、好意として素直に受け入れることが出来る。

結局のところ、考え方次第で、世界は広がっていく。

それだけのことだった。

 

「月、か………………」

アキトには、初めての場所となる。

多少の知識はあるものの、どのような場所であるのか、実感できないのもまた、事実であろう。

火星ほどでないにせよ、月も木星蜥蜴の攻撃を受けているとも言う。

地球よりかは、アキトにとって、過ごし易いのかもしれない。

「そっ。………購買の方にもたくさん補充出来るし、何買ってもらおうかしら?」

エリナ。

別な意味で、楽しみにしているらしかった。

にまにま、と天井へ視線を向けながら、奇妙な笑みを浮かべている。

 

思わず、アキトは後ず去った。

 

「何を考えてる、エリー?」

 

聞きたくない。

聞くんじゃない。

そう、思いながらも、つい口から出てしまう。

未だに何故なのか、理解出来ない。

泣いても良いだろうか。

 

「靴はこないだ買ってもらったし。う〜〜ん、どうしよう?制服ばかりじゃ、飽きちゃうしね。ここは服でも………………」

 

 

 

 

 

エリナの微笑み。

誰にも、最早、止められない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

かすいです。

 

はぁ、なんじゃらほい?アキトとエリナさん以外、今回誰も出てないぞ?

………困ったな。これでお話が進んでいれば良いんでしょうけど、あまりに…………(泣)

まぁ、良いか。(おいこら)

しかも、いつの間にやら、防衛ラインを越えてしまっているし。

いや、深く考えるのは、止めましょう。

身体に悪いです、ほんと。

 

感想、その他(?)たくさん、待ってます。

送ってやってください。

 

では、またの機会に。

 

 

 



艦長からのひとこと。

はい、かすいさんの投稿です。

ホントにいつの間にか地球を脱出していましたね。
しかし・・・いい雰囲気ですなぁ。
恋人同士にしか見えないよ、お二人さん(笑)


さあ、続きがとっとと見たいんだったらメールだ!(爆)


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