貸与艦群に戻る核融合炉搭載屋形船”矢切の渡し”号艦橋(TOP)に戻る

 

 

 

機動戦艦 ナデシコ IF

〜昨日よりも もっと 優しく〜

第4話 B パート

 

By かすい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネルガル所有の月ドックに入ってしまえば、ナデシコははっきり言えば、特定の幾人かを除いて、ある程度の時間の余裕が出来る。

僅か一日ほどではあったにせよ、エリナの言ったエステバリスの新機種、そして地上で木星蜥蜴の襲撃により積み込みきれなかった物資の補充をしてしまえば、後は出航まではっきり言えば、暇でしかなかった。

少なくとも、サセボのドックからこちらまでのデータなどを、ネルガルへとわたさなくてはならなかったが、ルリとオモイカネがいれば呆れるくらいの短時間で終わってしまう。

余裕を持って丸一日としてはいたが、仕事自体は半日もかからなかった。

ある意味、これもクルーの優秀さ故であったのだろう。

 

民間船となってはいても、やはり戦艦なのだ。

 

多くの実験、企業的な機密を抱えるネルガル月ドックにおいて、クルー達にそれ程の自由が与えられていた訳でもなく、結果としては、艦に留まらざるを得なかった。

もしもの場合、すぐさま動き出せるようにとの配慮であったのかもしれない。

遊ぼうと考えていたのか、ぶつぶつと、文句を言っている艦長達の姿があったのは、別のお話。

さらには、新しく積み込まれた購買物資に数多くの女性クルーが群がったのも、別の話なのだろう。

女性には、生活していく上で必要なものが、多くあるらしい。

エリナの言葉だった。

 

困ったものだ。

 

エリナが参戦していなかった事実は、しかし、妙にアキトを不安にさせるが、考えたところで何か対策を練れる訳でもなく、ため息をつくだけしか出来ない自分の無力を、しっかりと感じ取っていた。

火星では、己の無力なぞ思ったこともなかっただけに、新鮮さに胸が弾む。

 

この船は、面白い。

 

そう、思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どんな感じですかね、ウリバタケさん?」

 

ナデシコ、エステバリス格納庫。

アキトは、運び込まれた機体に視線を向けながら、仕様書をにやにやと見ているウリバタケに声をかけた。

黒光りするそれは、禍々しさを醸し出しながらも、何処かに確かな力と言うものを周囲に納得させてしまうくらいの何かが、あった。

アキトがテストしたものとは、また少し形状が変化している。

ネルガルの研究所には、余程働き者が多いのかもしれなかった。

ブラックサレナ。

それが、眼前に佇む人型の名だ。

 

「それにしても、すげーな、こいつは。仕様書見てるだけでも、興奮して仕方がないってのに、目の前にあったんじゃ、いじりたくってたまんねー」

言葉の通り興奮を押さえきれないのか、ウリバタケは肩を震わしている。

歩み寄ったアキトに顔を向けると、何やら眼鏡の奥にある瞳を妖しげに光らせ、にやりと笑った。

怖い。

根っからの技術者として嬉しいのはわかるが、かと言って、あまり近寄りたいとは思えないほど、向こうの世界に飛び出してしまっている。

「アクセサリーの方は、どんな感じなんです?」

アキトは、聞いてみた。

 

かつて自分がテストしたものとは何が違うのかを、例え知識上だけだとしても、知っているのと知っていないとの差は、きっと大きいのだろう。

乗ってみればすぐにでも身体で理解出来るのであろうが、ウリバタケの様子を見ている限り、すぐにはこの機体で遊べそうもない。

まるで、玩具の取り合いのようだった。

 

「アクセサリー?………おぉ、強化装甲パーツのことか?なかなかにすごいな?0Gフレームだけでも、現行では最高の出来だってのに、そこに外付けでパーツをくっ付けることで、さらに高出力になってるぞ?バッテリーもエステのと組み合わせれば、格段に行動範囲が伸びる。ほとんど、単独兵器だな、こいつは」

ウリバタケは、言った。

 

エステバリスは、基本的にナデシコの艦載機だ。エネルギーフィールドから離れてしまえば、行動に異様なまでの制限を受けてしまう。簡単に言えば、すぐ様のようにガス欠になり、敵にやられることになるだろう。

あくまでも、艦を守る役割が第一だった。

しかし、この機体はエステバリスに強化装甲パーツをつけることによって、幾つかの弱点を確実に補ってしまっている。

重量が増えた分以上に出力は上がり、だのに装甲パーツに組み込まれたジェネレーターの燃費はエステか、それ以下。

バッテリーも同様に試作ではあるが、強化装甲パーツ自体に組み込むことによって、外部バッテリーを装着することも必要なく、蓄電容量が格段に増えていた。

防御能力も、向上している。

 

まさに、化け物にも近い。

 

試作品らしいが、十分に実戦に耐えうる。

支援兵器どころか、単体である程度まで戦いつづけることも、可能だった。

 

「しかも、パーツを付け加えることで、多少なりとも変形までするぞ、こいつ」

「ん?」

「所謂、飛行形態ってやつだな。……ゲキガンガーみて〜な、やつだな」

意味が、良くわからない。

ヤマダの影響は、こんなところにまで来てしまっているのだろうか。

 

アキトは、頭が痛くなってくる。

 

「いつ遊べる?」

気を取り直して、ウリバタケに聞いた。

「乗ろうと思えば、すぐにだって乗れら〜な。まぁ、場所が場所だし、サツキミドリに行く時まで我慢してもらわんと駄目だろうがな?」

「まぁ、ネルガルの月ドックで慣らしをする訳にもいかないか…………」

「ネルガルにも、ほか仕事は山ほどあるはずだからな。ここを出ちまえば、こっちの好き勝手やれるんだろうが、今は見ているだけだ。………こいつの機体データをシミュレーターのほうにぶち込んでおくから、しばらくはそっちで遊んでろ、テンカワ?」

ウリバタケは、振り返り、言った。

「わかった。そうしておく」

アキトは答えると、部屋にでも戻るかとウリバタケに片手を挙げて挨拶を済まし、歩き出した。

しかし、その背に声が届く。

 

「そう言や〜〜〜、エリナがお前を探し回ってたぞ?」

 

(もう、戻ってきたのか、エリーのやつ?)

確か、報告があるとかで、ナデシコからいったん下りていたはずだったのだが、どうやらすでに帰ってきているらしい。

元々、報告自体の量が少ないこともあるのだろうが、急いだのかもしれなかった。

 

今一度、ウリバタケに手を軽く振る。

 

今会えば、何を買わされるのか、たまったものではない。

何処に逃げようか、ぼんやりと考えていた。

 

乾いた笑いしか、出て来なかった。

 

哀愁を背に歩みさるアキトに、格納庫にいた整備員達の誰もが、泣きたくなった。

ふたりの関係は理解しきれないものの、アキトが振り回されている事実に、何も変わりはない。

何処かで、自分達自身に姿を重ねてしまっているのだろうか。

己らが生きてきた中で、積み重ねた女性との歴史を、振り返ってしまう。

 

程度の差こそあれ、わがままであると言う点において、誰もが同じだったのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

―――合掌。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はて?………何処いっちゃったんだろう、アキト君?」

 

エリナはナデシコ内の幾つかのブロックを歩き、アキトの姿がないことを確かめると、今度はアキトの部屋に向かって歩きながら、呟いた。

すれ違ってしまったか、それともただ単に、運が悪いだけなのか。

アキトの方が逃げ回っているなどと、心の片隅にも浮かべることはなかった。

 

思った以上にネルガルへの報告も早く終わり、多少なりとも時間の余裕が出来たので、ネルガルの会長であるアカツキからの伝言を伝えようとしているだけなのだが、どうやら、アキトの方はそうは考えていないらしい。

ウリバタケの言葉がなければ、何処かで会うことも出来たのだろうが、逃げることを決意した少年は、例えエリナと言えども、そうそう簡単には捕まえることは難しかった。

こういうところは、しっかりと獣だ。

 

ブリッジへ赴き、ルリにでも調べてもらえば何とかなるのだろうが、さすがにそれはしたくない。

人様の仕事を邪魔してしまうくらいなら、自分で歩き回った方がまだマシと言うものだ。

エリナらしい考え方だった。

しかし、そうは思ってみたとしても、足が疲れることに変わりはなく、時間だけが過ぎ去っていくのが、悔しい。

伝言とは言っても、挨拶程度でしかないのだから、それ程急ぐ必要もなかったのだが、用事を後に回すのは、気分の問題上したくはなかった。

 

だから、歩く。

 

(健康サンダルでも、買おうかしら?)

訳のわからないことを、思ったりもしている。

これだけ歩くのなら、ヒールの靴を履いているよりかは、身体には良いのかもしれない。

あのぶつぶつが気持ちいいのよね、と真面目な顔をして考え込んでいた。

 

ふ、と気がつく。

自分は、一体何を考えているのだろう。

 

「アキト君がいないのが悪いのよね、結局」

 

エリナは、唇を少しだけ尖らせ、ぶ〜たれた。

可愛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、こりゃすげ〜〜〜!!」

 

ヤマダは格納庫にあったブラックサレナを見つけると、信じられないくらいの勢いでウリバタケに迫った。

乗せろ乗せろ、と喚くようにして詰め寄る。

あまりの五月蝿さに、辟易してしまいそうになるが、乗せれば壊されるのは目に見えている上、今はアキトにも言ったように動かす訳にはいかなかった。

 

「あほう。こいつはお前のじゃね〜〜。テンカワのだっ!」

ウリバタケは、叫ぶようにして言い、ヤマダの侵攻を食い止めようとする。

他の作業員は、すでに苦笑したまま、仕事を再開していた。

「テンカワの?何でだっ!エースは俺だろう!?優秀なやつが乗るのが当たり前だっ!」

「ほんとにうるさいやつだな。こいつはネルガルがテンカワ用にって、持ち運んできたやつなんだよ。あいつがテストしていた機体の同型だ。あいつ以外にゃ、乗せるなって言ってきてんだよ!?どうしても乗りたけりゃ、テンカワに聞いて来いっ!」

言い切った。

 

アキトが乗ることを許すとは思えないし、何よりもこのうるさいのがいなくなってくれるのならば、アキトに判断を任せてしまった方が、マシだった。

 

「テンカワが良いと言えば、乗れるんだな?」

「あぁ。あいつが良いって言えば、な?」

 

ウリバタケの言葉を受けると、すぐさま身体を翻し、格納庫から走り出す。

雄叫びを上げながら、ゲキガンだのなんだの言っているところを見ると、興奮を押さえきれないらしい。

 

許せ。

ウリバタケは、人知れずアキトへの謝罪を口にした。

まぁ、聞こえているとは思えないが、気分の問題だろう。

一度、口にしてしまえばすっきりしたのか、すぐにヤマダのことを思考の内から除外し、スパナ片手にサレナの方へと歩いていった。

 

ある意味、鬼のような男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホウメイさん。アキト見ませんでしたか?」

 

ユリカは、食堂の中を軽き見渡し、アキトの姿がないことを確認すると、カウンター越しに厨房のホウメイへと声をかけて聞いた。

辺りには特有の匂いが漂い、鼻を擽るが、今は食欲よりも少年のほうが先だとでも思っているのかもしれない。

指を咥えてアシスタントの女の子達が運び出す定食に視線をやりながら、駄目よユリカ、アキトと一緒に食べるんだから、などとぶつぶつ独り言を言っている。

引いてしまいそうな、怪しさだ。

 

「テンカワかい?そういやさっき来たけど、すぐにどっか言ったみたいだねえ?…………あんた達、テンカワ何処に行ったか、知ってるかい?」

後ろを向き、厨房に動き回る女の子らに、聞いてみる。

「さぁ?ポットと湯のみを持ってっちゃったみたいですけど、何処に行ったのかまでは、しらないですう」

確かにあれは、アキトだったはずだ。

常にラーメンを頼む少年が、何もオーダーすることなく、お湯の入ったポットにきゅうす、湯飲みを貸してくれと言い、幾つかの菓子を買いこんでいたので、覚えてしまっていた。

不思議だったのを、記憶している。

つい先程のことだった。

 

「でも、ここにはもう、来たんですね?」

ユリカは、ため息をついて、言った。

「あぁ、それは間違いないよ。十分くらい前かね?」

「そうですか。何処行っちゃったんだろう?………いいえ、泣いては駄目よ、ユリカ。これは苦難を乗り越えて俺の元へ来いという、アキトの心」

「はん?」

訳がわからない。

ホウメイは、ユリカの言葉に眉を寄せた。

 

「ええ、待っていてアキト。今すぐにあなたの元へっ!!」

 

食堂を一気に駆け抜け、廊下へと。

良くヒールであれだけ走れるものだ。

 

「災難だね、テンカワも…………」

 

まさに、言葉どおりの意味でしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テンカワさん、何してるんですそんな所で?」

 

ルリは、きょとんとしながら首を傾げ、膝を抱えて座り込んでいるアキトに声をかけた。

 

確かに少女の疑問は、正しかった。

相転移エンジンのあるブロック。アキトは、そのすぐ傍にあるオモイカネの端末近くにあった、ほんの僅かなスペースに、身体を滑り込ませるようにしている。

言ってみれば、猫が狭い場所に隠れているかのよう。

ブリッジでオモイカネを相手に時間を潰していたルリが、誰かがいることをオモイカネに教えられ、調べてみれば、コミュニケのウインドウに映し出された、アキトの理解しがたい姿だった。

身体がぎりぎり入るだけの隙間しかなく、そこに膝を立て、座り込んでいるのは、確かに訳がわからない。

ましてや、何処から持ってきたのか、床にはお茶のきゅうすと湯のみ。さらには茶請け用なのか、菓子までもが置いてあった。

 

「ん?ルリちゃんか。ちょっとね」

説明にも、なっていない。

薄暗い中、ずずっとお茶を啜っていた。

「はぁ……………」

頷いてはみたものの、ルリにはどうすれば良いのか、何も思い浮かばない。

さらに混乱してしまうだけ。

頭の中で、?マークが幾つも飛び交っていた。

「一人になれる場所が、なくってね?」

アキトが、妖精の様子に苦笑し、言った。

「一人にですか?」

「そう。部屋にいようが食堂にいようが、格納庫にいようが、ヤマダがゲキガンガーを見せようと探しにくるし、エリナもいる。どういう訳か、艦長まで良く来るようになっているし…………」

「なるほど」

ルリは、得心する。

落ち着ける時間と場所がない、と言うことなのだろう。

アキトの周囲の状況を思い、少しだけ笑ってしまいそうになった。

 

ましてや、律儀に相手にしているから、皆もアキトを探してしまうのかもしれない。

 

「何か、エリーが俺を探してるみたいだしね。隠れてたほうがのんびり出来る」

本気で言っているのか、ため息までついていた。

「エリナさんですか?………ちょっと待ってください。………………テンカワさんの部屋にいるみたいですけど?」

ルリは、オモイカネにエリナの場所を調べさせると、アキトに伝える。

楽しそうな感じがするのは、気のせいなのだろうか。

「ヤマダは?」

「………え〜と、格納庫の方に移動しています。ついでにユリカさんは、食堂の方に」

しっかりと、行動をつかまれいるようだ。

展望室なども、その内チェックしにいくはずだ。

「………………はぁ。居場所がないぞ?」

がっくり、と肩を落とした。

 

ルリが、くすくすと含み笑う。

あまりの子供のようなアキトの仕種に、微笑ましさを思ってしまっていた。

十一歳の少女でしかない自分ですら、こんな風に感じてしまう。

エリナにしてみれば、ルリが感じる以上に、さらに何かをしてしまいたくなるのだろう。

少しだけ、気持ちがわかる。

 

「ミナトさんのお部屋は、いかれないんですか?」

ルリは、二つに結った髪を揺らしながら、聞いた。

すこし、いじわるだったかな、と心に流すが、楽しいのだから仕方がない。

「…………いかない」

アキトは、苦虫を噛み潰したかのような表情をした。

「?」

「エリー…………」

一言の呟きと、引くつかせた頬。

「怒られちゃうんですか?」

言外に意味を理解すると、口元を緩ませた。

 

恐らく、もうしばらくは、アキトは隠れていることになる。

 

「はは……………。何で、怒るかねエリーのやつは」

「大変ですね?」

「大変なんだよ」

 

ずずっ。

茶を、口に含む。

 

ルリは、笑みを消すことなく、アキトとの会話に時間を費やしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキトは何処〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 

「テンカワ、何処だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!俺をあの機体に乗せろ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

いつものナデシコだったのかもしれない。

ついでに。

 

「アキト君…………。良い度胸ね?」

 

いつまで経っても戻ってこないアキトに、エリナの呟きは届かなかった。

 

 

 

 

 

「平和って言えば、平和よね〜〜〜〜?」

「そうですね?」

 

誰の言葉だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

かすいです。

 

何だか、妙になってきている気がするのは、かすいの気のせいなのでしょうか?

困ったことに、幾人かが暴走し始めているような………。

ううっ、アキトがボケていく。

何がいけないんだ。どうしてこうなってしまうんだっ!!

 

うけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけっ!!

 

あ、かすいの方が壊れてしまう。

 

感想メール、待っています。

送ってやって下さい。

 

では、またの機会に。

 

 

 



艦長からのひとこと。

はい、かすいさんの投稿です。

うーむ。
なんだかアキトがとっぽい兄ちゃんになってきましたね(笑)
エンジンルームの隅っこで小さくなっているところを想像して微笑ましくなりました。
これでワンカップ酒でも飲んでりゃ、飲んだくれ親父のできあがり(爆)

さあ、幸せなんだか不幸せなんだかよくわからないアキトが見たかったらメールだ!(爆)


貸与艦群に戻る核融合炉搭載屋形船”矢切の渡し”号艦橋(TOP)に戻る